第17話 王家の魔法書が盗まれました
キリルの正式名を知ってしまった私は焦る。
しかし当然キリルはそんな私に気付かず屋敷の中に入って行く。
私は動揺しながらもキリルと一緒に屋敷の中に滑り込んだ。
正式名を知っても口に出さなければ問題ないわよね。
それにしてもカシムもキリルも扉を開ける鍵に自分の名前を使うとか不用心過ぎないかな。
辺りに誰もいない時に彼らは自分の名前で鍵を開けるのだろうがもし誰かと一緒の時はどうやって開けるのだろうと思う。
カシムは王宮の自分の部屋の鍵でメイドの掃除もさせないようにしていたから他人を自分の部屋に入れる気がないのだと考えられるがキリルの場合はここは自分の恋人がいる場所のはずだ。
その恋人には自分の名前を教えてあるということだろうか。
それならばキリルはその恋人を本気で好きだという証明だ。
エドが言ってたもんね。
自分の名前を教えるのは好きな相手ぐらいだって。
エドの言葉を思い出すと私は恥ずかしくなる。
だってエドが自分の名前を教えるぐらい私のことが好きだとも言えるからだ。
キリルは屋敷の廊下を歩いていく。
外見は幽霊屋敷に見えたが屋敷の中は明るい。
私はキリルの後を追う。
するとキリルがある部屋に入った。
続けて私もその部屋に入りその場で身体が固まる。
な、なに、この部屋!?
その部屋は壁も天井もキリルの絵を描いた紙が貼ってある。
カシムの部屋がエドの絵の紙で埋め尽くされていたのと同じで今度はその絵がキリルに変わっただけ。
「フフフッ、ただいま、私の恋人たち。やっぱり「キリル」は美しいなあ」
壁の自分の絵に語りかけるキリルはうっとりとした目をしている。
その姿に私はカシムの部屋を見た時と同じくドン引きしてしまう。
ちょっと待って! この自分の絵が恋人なの!?
キリルの好きな相手が自分だってことはキリルはナルシストってこと!?
驚愕の事実に私は唖然となる。
しかしキリルはさらに自分の絵に語りかける。
「やはり君が魔王になるべきだ、キリル。君以上に美しく強い魔族はいないのだから。だから私は必ず王家の魔法書の最後の属性をエドより先に手に入れてやる」
そこで私はハッと我に返る。
なるほど。キリルがナルシストなのはこの際置いておいてキリルは自分が魔王になりたくて王家の魔法書を盗んだのね。
それならキリルが持っている王家の魔法書を確認できればエドにキリルが犯人でこの屋敷に王家の魔法書があるって報告できるわね。
「さて、今日こそ王家の魔法書の中身をみてやるぞ」
キリルは近くの机の引き出しに手をかけて呟く。
「キリルディース・オルグ・ザナック・タファンの鍵よ、開け」
この机の引き出しの鍵も自分の名前だったようだ。
キリルは引き出しを開けると突然叫ぶ。
「王家の魔法書が無い!?」
え? そこに隠してあった王家の魔法書が無いですって!
どこにやっちゃったのよ!
王家の魔法書の実物が確認できなければエドに魔法書が見つかったと報告することができない。
確実な情報を依頼者に渡せなければシャナールとして失格だ。
「無い! 無い! どこにも無い!」
引き出しの中を探すキリルの様子は本当に焦っているように見える。
本当に王家の魔法書が紛失してしまったようだ。
困ったわ。キリルの持っていた王家の魔法書がどこかにいってしまうなんて。
もしかして誰かがキリルから盗んだのかも。
たとえキリルの正式名を鍵にしていても正式名を他に知っている人物がいるのかもしれない。
エドは正式名を口に出すと自分たちはその相手がどこにいても分かるし侮辱されたと殺しにいくなんて怖いことを言っていたが正式名を口に出しても本人に気付かれない方法があるとしたらキリルが持っていた王家の魔法書を盗むことは可能だ。
う~ん、依頼は王家の魔法書がどこにあるかだもんね。
キリルの正式名を知る者が他にいるかエドに会って訊いてみようかな。
私がそんなことを考えている間もキリルは半狂乱になりながらあちこちの引き出しを開けては「無い無い」と叫んでいる。
たとえ分かりにくい言葉を鍵を開けるパスワードにしても屋敷の扉の鍵も机の引き出しの鍵も同じパスワードにしてたら王家の魔法書が盗まれても仕方ないじゃない。
キリルってナルシストの上にお馬鹿さんなのかしら。
でもカシムも実の弟が好きだったりキリルはナルシストだったりやっぱり魔族って変わり者が多いかも。
これなら万引きするエドがまだまともに見えてくるから怖いわ。
私はキリルに気付かれないようにそっと屋敷を抜け出した。




