姫ではなく封印した魔王扱い
付き合った後、少し経った日の話。
成実(高校時代の友人)視点。
「――眼鏡の彼氏が出来たの?」
最近なんとか確保出来るようになった、世間の休日と同じシフト休。
高校時代の友人である美夜と定期的にランチをするようになって、八度目くらいのこと。
美夜から恋人が出来たことを報告された。
「うん……もしかしたらこの頻度ではランチ出来ないかもしれない」
「そりゃそうね! りょーかい、美夜も遠慮なく断っていいから!」
美夜は誘ったら高確率で来てくれるので月一以上の頻度になっていたが、彼氏持ちなら話は別である。「オレと友人どっちが大事なの」の元にはなりたくない。……いや、美夜ならありえるのよ。さっぱりした子だから男のほうが不安になるらしい。
「しっかし、眼鏡かー。美夜大丈夫? 眼鏡の修理費で生活費困窮してない?」
眼鏡を壊すのが再発したと言われたのは夏の初め頃だったはずだ。
美夜は律儀なので、彼氏の眼鏡を壊したら弁償しているのだろう。
「眼鏡の会社に入ってたのが幸いしてそれほどお金はかかってないんだよ……あと『予備あるから大丈夫』って言われてあんまり弁償させてもらえない」
「おお、彼氏太っ腹」
「今度眼鏡引換券を大量に渡しておこうと思う」
「真面目か」
そこは大人しく甘えとけ! と言ったが美夜はハハハと笑うだけである。相変わらず甘え下手だ。
「……というか。最近思うんだけどさ」
「うん?」
何やら美夜が深刻そうな顔をするので、こちらも姿勢を正して耳を傾けた。
が。
「私、なんか眼鏡に関してだけ妙な何かが働いている気がするんだよね……」
そんなことを言われ――脱力した。
「何をいまさら」
「え?」
「美夜は『眼鏡に関してだけは悪感情を絶対持たれない』チート持ちでしょ」
****
美夜の話を聞いたのは、高校に入学して二か月ほど経った頃だ。
――ウチのクラス、すごい破壊神がいるのよ。
部活で仲良くなった同級生から聞いた他クラスの破壊神。
眼鏡をかけた子が彼女に近づくと、確率三割で眼鏡が壊れる。完全な事故で。
なお四割で壊れないが何かしらの被害に遭う。ちなみにその同級生も一度眼鏡を曲げたらしい。
驚いたのは、その話を全くの世間話としてされたこと。悪意も何もなく、ただの話題のひとつ。
普通、そういうのって何かしらの悪口になるものではないのか?
壊れた眼鏡は全て弁償されたというが、それでもおかしくないか?
……などと考えていたのは進級するまでだったのだが。二年になって美夜と同じクラスになったらその辺の違和感が全て吹っ飛んだ。
「美夜! そっちはダメ! そっちには眼鏡の生徒会長が! こっち……もダメだ将棋部部長が!? 守護者! 守護者は何人いる!? 囲めっ今すぐ!!」
まあ、何というか、アレだ。
高校生のノリって、たまにおかしいよねという話だ。
――え、話が飛びすぎてついていけない?
だってとてもおかしな話なのである。
美夜の破壊ぶりが異常すぎて、「眼鏡破壊が阻止出来ないなら周囲をnot眼鏡で固めればいいんじゃね?」となり、裸眼とコンタクト使用者が「守護者」を名乗り、美夜を常に取り囲んでいたのだ。
この布陣のおかげで眼鏡の被害は最小限となり、美夜と守護者たちは大変仲良くなった。他クラスどころか他学年の理解も得られ、高校に平和がおとずれたのである。めでたし、めでたし。
これが何の障害もなく、遂行されたのである。クラスどころか学校全体の感覚が麻痺していたとしか思えない。
成実は高校時代を思い出す度、確信していた。
美夜は、絶対にチート持ちだ、と。
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「あれだけ悪感情持たれなかったら、ひょっとして守護者いなかったら【いっけなーい、移動教室間に合わなーい】からの廊下で眼鏡の男子と激突してラブコメが始まってたかもと思ってる」
「…………」
「え、どしたの美夜。なんで遠くを見るの?」
ちなみに、かつて「守護者」だった子たちとは今も飲み会をしているというのは美夜には秘密だ。奢ると言い出しかねないので。
いつの間にか学園ラブコメを回避していた美夜であった。
まあ創との出会いは回避できなかったんですけどね。




