これはエンディング?
どういう顔をすればいいのかわからない。
周囲の面白がる視線もアレだが、この後創とどういう会話をすれば正解なのだろうか。
初めて会った日というと、最初の会議の日だろう。その時にすでに喜んでいた?
あの日は道でぶつかる転校生的展開は回避し、会議の最後にドアを開けるときに眼鏡を吹っ飛ばし、形状記憶眼鏡であることを告白されただけだ。
しかし廻の言っていることが正しいとすると――。
「……美夜さん」
「はい」
思わず姿勢を正す。
「まずはその、廻が迷惑かけた。すまない」
「ああ、はい。代わりに全部奢ってもらうことになってます」
「ぜひ好きなだけ食べてくれ。高い飲み物も頼んでいいから」
カフェでアルコールも売ってたとは思うが、この状態で飲む気にはなれない。果汁100%ジュースとかあるだろうか。
しかしそうか、これから食事か。何食わぬ顔で食事して解散は可能だろうか。
美夜も廻のように走って帰りたいが、それをすると創が可哀想すぎる。何も聞いてませんというフリで乗り切ろう。社会人で培ったアルカイックスマイルを思い出せ……乙女ゲームの主人公って実は全部気づいている小悪魔なのでは?
「反対側のカフェを予約しているんです。19時からなので、もう少し時間があるんですよ。でもどうしましょうか、ちょっと早いですけどそろそろ」
「美夜さん」
言葉を遮るように呼びかけられ、美夜は大人しく口を噤んだ。
創は、眉尻を下げて美夜を見ていた。
「あの愚兄は、どこまで喋ったんだ?」
「どこまで、と言っても」
「『浮かれてた』の詳細まで、あいつは言ってしまった? ……美夜さんが困るようなことを言った?」
それとも、と。
「恥ずかしがってくれるなら、オレにチャンス残ってる?」
暗いから見えていないと良いと思っていたが、美夜の顔の赤さには気づかれていたようだ。
……いや、美夜もビックリしている。予想外の方向から好意を告げられた訳だが、イケメンの好意は美夜でも嬉しかったらしい。第三者からの申告だと疑念しか浮かばないはずなのだけど。
「……えっと、ですね」
「うん」
「廻さんが言うには、その。最初の会議の時から……ということだったんですけど」
「そう」
「そっ……!? い、いえ、その場合ですね、ぶつかった記憶しかないので正直あの、好かれる理由が不明というか、むしろまさかエム」
「そっちじゃないから安心してほしい」
「安心した」
混乱しすぎてうっかり妙な口調になってしまう。
「……こんな風に言っても、美夜さんは信じてくれないかもしれない。君の元彼が、君を傷つけた時に居合わせただろう。きっとあのことで、恋愛事に不信感だってあるんじゃないかって。だから、もっとゆっくり進めたいと思っていたんだ」
ところが廻のせいで台無しになった訳か。
「美夜さん、昼間に男と眼鏡屋にいただろう」
「え?」
「あの時、オレと廻で買い物をしていて……たまたま見たんだ」
気軽な姿(シャツにジーパン)で、よほど気の許せる相手なのかとショックを受けた、らしい。
実際のところ近所への買い物途中で強制連行されていたわけだが、そんなこと二人にはわからなかっただろう。
その後のことはあまり覚えていないが、気づいたらスマホの電源が落ちていて、電源を入れたら美夜からのメッセージが入っていて仰天した。廻が余計なことをしたと気づいて慌てて追いかけてきたそうだ。
「昼間の彼は、美夜さんの、その」
「知り合いですけどほぼ初対面くらいの人ですよ……えっと、眼鏡に引き合わされたというか何というか」
恋人では無いと言えば、創はほっと息を吐いた。
「オレより廻のほうが、オレのこと詳しいんじゃないかって思う時があるよ。……あいつは多分、オレが限界なのに先に気づいたんだろうな」
何に、と聞く前に。
創が、美夜の手を掴んだ。
「美夜さん、信じてほしい」
――結局美夜は、回避したいとか、此処は現実だとか、何度も思っていてもゲームの感覚が抜けていなかったらしい。
いつの間にか生まれ変わっていたにもかかわらず、割と動じていなかったのは前世の年齢の為ではなかったのだ。
何かあっても、設定を知っているから対処出来ると考えていた。
ゲームなら創の告白は、夕暮れ時の海が見える公園。
ハッピーエンドなら。
【いつも頑張れる君が好きだ。これからは、オレの隣にいてほしい。眼鏡がなくても見失わないよう、ずっと】
トゥルーエンドなら。
【眼鏡に誓うよ――君を見失ったりしない。決して】
そんな台詞を言う。
――しかし現実だった。ゲームなどではない。
だって、創は今。
「オレは、君が思っているよりずっと前から、君のことが好きだよ」
ゲームとは違う言葉で、美夜に告白していた。
……それにパニックになって「ふぁい……」と間抜けな返事をしてしまう美夜も美夜である。
了承ととった創が、ぱっと顔を輝かせ、勢いよく美夜を抱きしめた。
――ついでに周囲で息をひそめて見守っていた人々が小さく拍手をしてきたので、美夜はそのまま顔を彼の肩口に埋めて隠すのであった。……今更過ぎるが。
もうちょっと続くんじゃよ?




