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もしかしてだけど

「ごめん美夜、待った?」

「平気だよ。まだメニュー見てた」

 日曜日。

 この日、美夜は成実とランチの約束をしていた。

 成実は生け花教室見学後、予定通り入会している。

「やっぱり片付けとかに時間かかるものなんだね、生け花って」

「うーん、そっちじゃないんだなぁ、実は」


 注文したセットが配膳され、少し食べたあたりで成実がため息をついた。

「疲れてる?」

「いや、それがさあ……変な子がいて」

「変な子?」

「私たちが見学した後に入ってきた子なんだけど、よく先生とぶつかるのよ」

 眼鏡に被害が及ぶこともしばしばで、それに他の生徒が不愉快になっているという。

「奥様たちが片付けのときにもうヒソヒソヒソヒソ嫌味を言いまくっててさ……それに巻き込まれたのよ。人を待たせてるからってなんとか出てきたけど」

「それは大変だったね……その子うっかりな子なの?」

「いーや、あれはわざとだね! 天然物を見てきた私の目は誤魔化せないわ」

「天然物て」

「美夜のことに決まってるでしょ。あの子は養殖だわ……最近は養殖魚も美味しいのに値段は天然物のほうが高いのよね」

 話がそれたが、とりあえずその子のせいで教室の空気が悪くなっているらしい。今は日曜に希望休を入れて通っているが、別の曜日に変えるか悩んでいるそうである。

「でもわざとぶつかったって、それであの先生の気を引けると思えないんだけどなぁ」

「そうね、ぶつかって好感度が上がるわ……け……」

「美夜?」

 成実が突然黙った美夜を不思議そうに見ているが、それどころではなかった。


 ぶつかって好感度が上がるわけない。

 だが、ぶつかった後の言動によっては縣の気を引ける。美夜はその方法を知っている。

 もし、その子が知っているとしたら……いやそんな馬鹿な。


 美夜以外にも転生者がいるとか、そんなテンプレだけどおかしな話ある?








 ――と、否定していた美夜だったが、家に帰って考えていると可能性はあるなと思うようになる。

 何しろ、美夜自身が転生者。それが美夜だけの特別だ、などと思うほうが傲慢というものではないだろうか。

 前世でもモブ転生の話が流行った時期があったではないか。集団転生くらい実際起こる……起こるか?


「――まあいいか。私には関係ないし。縣君落としたいなら確かに有効手段だし」


 例え転生者だったとしても、美夜がゲームシナリオ通りに動く気がない以上、他の人がやろうとするのは構わない。社会的にちょっとアレかもしれないが、それは本人の責任だ。縣を落とせば玉の輿だし気にしていないのかもしれない。あの家ならいざとなれば海外に別荘だって建てられる。

 うん、スルーしよう。


 このさっぱりとした思考が、美夜が【ドライカレー】などというハンドルネームを付けられた所以である。ちなみに親友は本名をもじって【繰珠奈(クリシュナ)】。


 余談だが美夜と親友の名前を聞いた瞬間、友人Aが『そしたら私【ラッシー】で』、友人Bが『じゃあ私は【数理屋(スーリヤ)】で』と言った。メガネゲーのエンドクレジットが突然インドになった。いやドライカレーは日本人が作ったらしいが。





******




 ……美夜は悩んでいた。

 眼鏡の破壊回数が二十を越えたから、ではない。パソコン用眼鏡たちよ、君たちの雄姿は忘れない。


 成実と話してからようやく気付いたのだが――転生者らしい何者かの動きが、そこかしこにあるのだ。



 竟次は最近、美夜がいなくても眼鏡が壊されてしまうらしい。赤の他人だし、故意ではないので仕方ないと笑っていた。

 アーサーとはよく連絡をとっているが、休みの日に観光に付き合ってくれる人がいるらしい。よくぶつかって眼鏡が危機にさらされるが死守していると言っていた。

 縣は成実が言っていた子で。



「美夜ちゃん、会社の子にうちの店のPRしてくれたの?」

 そして今日、小料理屋で食べている際に女ケ沢がそんなことを聞いてきた。

「えっ? すみません言ってないです」

「あらそう? 美夜ちゃんに聞いて興味があって、って言ってたんだけど」

 この店ではたまに仕事の愚痴なども聞いてもらっているので、会社の人が居ると気が引けてしまうと思って内緒にしている。美夜の心のオアシスなのだ。

「うーん、入るとこ見られてたんですかね」

「そうかもねぇ。最初の美夜ちゃんみたいにいかにも新人さん、って雰囲気だったから。うち別に一見さんお断りじゃないのにね」

「あー、まぁ小料理屋ってやっぱり最初は戸惑いますよ。私も女ケ沢さんとぶつかってなかったら入らなかったと思います」

「あら、ぶつかって良かったわ」

 そこで女ケ沢が当たり障りのない、その子と話したことを教えてくれたのだが――内容に震えた。


 話題のチョイスが、まごうことなきゲームシナリオだったのだ。


 その話自体はもう個人情報も何もない、どうでもいい話である。天気だとか、最近の街の様子とか。だからこそ女ケ沢も美夜に少し教えてくれたのだが、ゲーム的にはそこで選択肢が発生する、イベントなのである。


 偶然だろうか。いや、それにしては眼鏡に被害が出すぎている。眼鏡で判断するのもどうかと思うが、やはりわざとっぽい。

 しかし、それにしては転生者の数が多すぎる。本当に集団転生だったのか。

 日本酒片手に、美夜は悩む。

「……あれかなぁ、ちょっとミーハーな気持ちかなぁ」

 せっかく転生したんだから、攻略対象は拝んでおきたい! みたいな思考だろうか。フリーゲームだったがそれなりにプレイ人数は居たらしく、攻略サイトも出来ていたのでなくはない。

 それにしては竟次の眼鏡破壊率が異常なのだが。本気で攻略しようとしているならまだしも、ちょっと会いたいくらいの気持ちならやめてあげて欲しい。


 ……転生者の候補のひとりが会社にいるってことだよねそういえば。

 美夜は最近の鉱太を思い出し――いつも一緒に居る新卒の子をついでに思い出した。




 ……あの子、じゃないよね?

不穏な感じもしますが雰囲気だけです。

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― 新着の感想 ―
[一言] あー、出てきましたね〜。 何話か前に、お、なり代わりか?という事象がチラッと匂わせてましたが……まさか、ハーレムルート的な?全員落しちゃおう的な? 誰でもいいから下手な鉄砲数打ちゃ当たる戦法…
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