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浜名瀬志乃の学び舎日誌  作者: 火乃香


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81/92

74話

この物語には自己解釈やオリジナル設定が含まれています。

オリジナルの妖怪が登場することもあります。

素人がただ思い付きで書いている物語なので最後まで温かい目で読んでいただければと思います。

夢の中に現れた惣領。

志乃(しの)は何とかして陽葵(ひまり)とハラミだけでも現実世界に戻そうとするが子供の姿に引っ張られて力が出ない。

そして惣領は誰一人返すつもりはないらしい。

志乃(しの)「私に用があるのであれば他は関係ないだろ。」

惣領「ふん、確かに用は主1人にある。だが使えるものを使わぬ道理などない。」

そう言って惣領は手を伸ばし志乃(しの)の腕を掴むと、力の加減など一切なくそのまま頭上へと押し上げる。

陽葵(ひまり)浜名瀬(はまなせ)さん!」

志乃(しの)「お前らは動くな!」

惣領「お前にやらせる事がある。事が終わるまでは誰も返すことは叶わぬ。」

陽葵(ひまり)浜名瀬(はまなせ)さんに何をさせるの。」

惣領「お前が施したこの封印を解いてもらおうか。」

志乃(しの)「やっぱりそれが目的か。」

惣領「折角印を施したというのに役立たん。一時は声も届いたが結局お前の心を折るには足りなんだ。」

陽葵(ひまり)「それはどういう事?」

志乃(しの)「聞くな!」

惣領「ほう、こやつに我が目的を語ってみせればお前など容易く折れるのではないか?」

それを聞いて志乃(しの)は惣領を睨みつける。

惣領「だがお前の心を確実に折るのであれば、こやつを現実世界で見つけ出し、お前の眼前で嬲る方が良いか。」

志乃(しの)「そんな事させると思っているのか?」

そんな事を言っていると惣領の後ろに浜辺に来た時に見つけた2つの白い煙のようなものが立っていた。

それは最初に見た時よりも人の形に近づいており、くねくねとした動きは今はない。

惣領はそれに気がつき後ろを向く。

惣領「やはりお前ら、こやつの内に残っていたか。」

???「離れなさい。その子はお前のものではありません。」

そう女性の声が響くと惣領は志乃(しの)の腕を放し、尻もちを着く志乃(しの)陽葵(ひまり)が駆け寄ろうとするがそれを志乃(しの)は手で静止させる。

その間に2つの煙は徐々に人の形に近づくと女性と男性の姿に変わるがその顔は靄が掛かったように見ることはできない。

惣領「今は亡き者に何が為せるというのだ。」

女性「確かに出来る事は少ないかもしれません。それでも出来る事はあります。」

そう言って女性が惣領に掌を押し付けると惣領は女性が触れた場所から消えていく。

惣領「ふん。お前らがいかに出張ろうとも結果は変わらぬ。こやつはお前らとは違い、もはや我の元からは逃れられぬ。何故ならこやつにはもう死という逃げ道がないのだからな。」

惣領はそう言い残し、笑い声と共に消えていった。

女性は志乃(しの)に近づくとしゃがんで顔を覗き込む。

女性「私達のせいであなたにこんな苦しみを与えてしまってごめんなさい。」

志乃(しの)の頭を撫でながらそう言う女性の顔は見えないが悲しそうな顔をしているように思えた。

陽葵(ひまり)「ねえ、この人達ってもしかして。」

志乃(しの)「母上?」

潮埜(しおの)「そうですよ。」

ハラミ「おい、陽葵(ひまり)。もう戻れるんだ。行くぞ。」

陽葵(ひまり)「え?あ、うん。そうだね。」

陽葵(ひまり)は扉を開けてハラミと一緒にそこを潜ると消えていった。

潮埜(しおの)「優しいお友達ですね。ちゃんと大事にしてあげてください。」

志乃(しの)「はい、、」

清景(きよかげ)「堅苦しいな。だが仕方もないか。」

潮埜(しおの)「私達の顔が分からないのもこの子が顔を覚えてないからでしょうしね。」

清景(きよかげ)「そうそう、そんな人間がいきなり親だと目の前に現れてもどうすれば良いか分からないよな。」

潮埜(しおの)「ですが声は聞こえていたようで嬉しいです。こうしてお話しできるんですもの。」

清景(きよかげ)「それでも話せるだけだ。親である私達が解決すべき事をお前に押し付けてしまった。すまない。」

清景(きよかげ)志乃(しの)に向かって深々と頭を下げる。

志乃(しの)「止めてください。悪いのは全てあいつなんです。」

清景(きよかげ)「それでも私達が隠しきれなかったせいでお前は見つかって人生を狂わされた。」

志乃(しの)「父上のせいではありません。」

潮埜(しおの)「私はあなたに色々と教えたい術があったのですが、それも叶いませんね。」

清景(きよかげ)「武士の家に生まれて山伏の術を教えるのか?」

潮埜(しおの)「あら、覚えておけば色々と役に立ちますよ。あの時みたいに。」

志乃(しの)「今は母上の友人の山姥(やまんば)に術を習っています。心配しないでください。」

潮埜(しおの)霧依(きより)に会えたのですね。」

志乃(しの)「はい。母上と父上の事も聞きました。それにその前にも師ができました。父上が思っているものとは違うかもしれませんが刀も使っています。」

清景(きよかげ)「ということは何かと戦っているのか?」

志乃(しの)「はい。この体で苦労はありましたが良き仲間にも恵まれました。」

それから志乃(しの)はこれまであった事を潮埜(しおの)清景(きよかげ)に話した。

夢の中の潮埜(しおの)清景(きよかげ)は自分が知っている情報以上の事は知らず、これが自分の中に残っている潮埜(しおの)の術の一部と自分の記憶から作った幻であることは分かってはいた。

だが自分の事を話す事で墓の無い2人の供養になる気がしたので志乃(しの)は2人が満足するまで話を続ける。

一方、現実世界では陽葵(ひまり)とハラミが無事に目を覚ますと枕返(まくらがえ)しが傍にいた。

枕返(まくらがえ)し「お、起きたか。あいつは上手くやったらしいな。」

ハラミ「お前、まだいたのか!」

陽葵(ひまり)「え?え?どういう事?」

ハラミ「こいつが俺達を眠らせたんだよ。」

枕返(まくらがえ)し「そうだが話を聞いてくれ。俺は騙されていたんだ。」

ハラミ「言い訳にしか聞こえねえな。」

ハラミは枕返(まくらがえ)しに対して威嚇している。

陽葵(ひまり)「待ってよ。本当に危ない妖怪なら浜名瀬(はまなせ)さんが放ったまま眠ったりしないと思うの。」

ハラミ「、、それもそうか。」

枕返(まくらがえ)し「誤解が解けて良かったが、あいつはまだ起きないんだな。何かあったのか?」

陽葵(ひまり)浜名瀬(はまなせ)さんは夢の中で死んだ両親と会ってるよ。」

枕返(まくらがえ)し「そうなのか。ちゃんと戻ってくれば良いんだがな。」

陽葵(ひまり)「どういう事?」

枕返(まくらがえ)し「たまに夢の方が良くて戻らない奴もいるんだ。」

陽葵(ひまり)浜名瀬(はまなせ)さんなら大丈夫でしょ。私は信じてる。」

枕返(まくらがえ)し「そうか。」

それから陽葵(ひまり)志乃(しの)の寝ているベッドを覗き込んでみる。

陽葵(ひまり)浜名瀬(はまなせ)さん、両親と何か話しているのかな?」

ハラミ「話す事なんてあるのかね。」

陽葵(ひまり)「生まれた時からいなかったって言っていたもんね。だけどいいんじゃない?折角会えたんだから言葉なんてなくてもさ。」

ハラミ「そう言えばお前は夢の中で鈴の音に悩まされていたな。その事で父親を憎んだりしたのか?」

陽葵(ひまり)「憎むか。憎むよりも怖かったな。他の人が同じ様に消えたり、自分が消えたら嫌だなって。そっちの方が強かったから憎むことは無かった。」

ハラミ「それでも苦しんだのは確かだろ?」

陽葵(ひまり)「そうだね。小学校の頃なんて私が鈴の音を怖がるって分かったらわざと鈴を持って来る奴もいたよ。だけど我慢して笑顔でいたらそれもなくなった。それからだな何があってもポジティブに考えて笑顔で対応するようになったの。」

ハラミ「いじめる奴ってのはどこにでもいるんだな。」

陽葵(ひまり)「そうだよね。」

陽葵(ひまり)は静かに志乃(しの)の顔に向かって手を伸ばす。

ハラミ「何するんだ?」

陽葵(ひまり)「夢の中で浜名瀬(はまなせ)さんに頬っぺた揉まれたこと思い出したから仕返ししようかなと。」

ハラミ「あの時はお前も悪かっただろ。」

陽葵(ひまり)「無防備に寝てる方が悪いもん。」

ハラミ「後でバレても知らないぞ。」

陽葵(ひまり)志乃(しの)の頬に手を伸ばすと志乃(しの)の顔を見ることになる。

陽葵(ひまり)「あれ?」

ハラミ「どうした?」

陽葵(ひまり)「いや、浜名瀬(はまなせ)さん、ちょっと笑ってるなって。」

ハラミ「笑う事は何回かあっただろ。」

陽葵(ひまり)「ううん。そうじゃなくていつもの笑顔よりもなんて言うか、自然?な感じ。」

ハラミ「なら両親と楽しんでいるんだろ。あまり邪魔するんじゃないぞ。」

陽葵(ひまり)「えいっ!」

陽葵(ひまり)志乃(しの)の頬を掴んで引っ張る。

ハラミ「っておい!何で続けるんだよ。」

陽葵(ひまり)「それはそれ。これはこれ。」

ハラミ「本当に俺は知らないからな。」

陽葵(ひまり)「大丈夫、大丈夫。両親といるって事は夢の中なんでしょ。枕返(まくらがえ)しが術を掛けたのなら魂自体が夢の中にいるんだから分からないって。」

志乃(しの)「ほう、ちゃんと勉強はしているようだな。」

陽葵(ひまり)「え?あ。」

ハラミ「俺、知ーらね。」

志乃(しの)「止めなかったお前も同罪だからな。」

ハラミ「何でだよ!」

陽葵(ひまり)浜名瀬(はまなせ)さん、戻ってたんだね。」

志乃(しの)「魂が他の場所にいても繋がっていれば体に起こった事は分かる。」

陽葵(ひまり)「そうなんだ。へー。」

志乃(しの)「逃げるな。」

志乃(しの)とは逆方向を向いてどこか行こうとした陽葵(ひまり)志乃(しの)は捕まえて両手で陽葵(ひまり)の両頬を引っ張る。

陽葵(ひまり)いひゃい(いたい)。」

ハラミ「それなら途中で呼び戻しちまったんじゃないのか?」

志乃(しの)「そっちは大丈夫だ。」

陽葵(ひまり)ほんひょに(ホントに)?」

志乃(しの)「ああ、あの2人は私の夢の中の人物で話したい事は全て話せたからな。」

ハラミ「お前がそれでいいなら。」

志乃(しの)「それより陽葵(ひまり)、お前の親が心配している。さっさと帰るぞ。」

陽葵(ひまり)「あ、2日経っているんだっけ。」

志乃(しの)「ああ。その分勉強も遅れているだろ。」

ハラミ「だけどこいつ勉強は頑張っているんだぜ。」

志乃(しの)火間虫入道(ひまむしにゅうどう)が出てきているんだ、それは分かる。だがあまり無理せずに寝ろよ。」

ハラミ「その火間虫入道(ひまむしにゅうどう)って何なんだ?」

志乃(しの)「こいつは怠け者だった人間が死んで妖怪になった奴だ。夜なべして仕事する奴がいれば灯りを消したりして邪魔をするんだ。」

ハラミ「嫌な奴だな。」

志乃(しの)「そうだな。だが弱い奴だから陽葵(ひまり)にあげた数珠でも退治できたはずだ。何で使わなかった?」

陽葵(ひまり)「だって、あれ使うと浜名瀬(はまなせ)さんに伝わるんでしょ?浜名瀬(はまなせ)さんの邪魔したくなかったの。」

志乃(しの)「それでより悪い事が起これば意味ないだろ。」

陽葵(ひまり)「ごめんなさい。」

志乃(しの)「それと前にあげたお守りは持っているのか?」

陽葵(ひまり)「あ、あの精神系の術を防いでくれるやつ?」

志乃(しの)「ああ、火間虫入道(ひまむしにゅうどう)の術に掛かっていたみたいだから変だなと思ってな。」

陽葵(ひまり)「えっと、水熊(みずくま)に襲われた時に落としたみたいで、、」

志乃(しの)「何故言わないんだ。と、言いたいところだがあの時じゃ言い難いか。」

陽葵(ひまり)「ごめんなさい。」

志乃(しの)「いい、これを持っておけ。今度は無くすなよ。」

志乃(しの)は9号に新しいお守りを持って来てもらい陽葵(ひまり)渡す。

陽葵(ひまり)「うん。ありがとう。」

志乃(しの)陽葵(ひまり)を家まで送るために一緒に歩いて行く。

陽葵(ひまり)「ねえ、浜名瀬(はまなせ)さん。」

志乃(しの)「何だ?」

陽葵(ひまり)浜名瀬(はまなせ)さんの夢に出てきたあのおじさんって本当に浜名瀬(はまなせ)さんの大叔父なの?」

志乃(しの)「、、そうだな。」

陽葵(ひまり)「何でそんな人が浜名瀬(はまなせ)の両親を殺すの?親戚でしょ?」

志乃(しの)「私利私欲だ。私もそこまで詳しい訳じゃないからそれ以上は言えない。」

陽葵(ひまり)「そんな人が浜名瀬(はまなせ)さんの親戚にいるなんて信じられない。」

志乃(しの)「お前の親戚は明るい奴が多いからな。」

陽葵(ひまり)「うん。それでそのおじさんは何をしようとしているの?」

志乃(しの)「これは私の問題だ。今日の事は忘れてお前は勉強に集中しろ。」

陽葵(ひまり)「あ、うん、、」

それから無言で歩いて陽葵(ひまり)の家に着くと、美和(みわ)晴臣(はるおみ)が出迎えて陽葵(ひまり)を抱き寄せている。

その様子を見て志乃(しの)は引き止められる前に屋敷へ戻るために妖ノ郷(あやかしのさと)に入るとそこで山姥(やまんば)と出会った。

山姥(やまんば)「お、仲直りはできたか?」

志乃(しの)「ああ。ありがとう。」

山姥(やまんば)「良かった。友は大事にしろよ。」

志乃(しの)「ああ。」

山姥(やまんば)の話を志乃(しの)は生返事で返す。

山姥(やまんば)「心ここに在らずといった感じだな。」

志乃(しの)「あ、いや、、大丈夫だ。」

山姥(やまんば)「隠し事はあまりしないでくれ。」

志乃(しの)「隠し事ってわけじゃない。陽葵(ひまり)枕返(まくらがえ)しに夢の世界に閉じ込められてそれを助けに行ったんだ。あの玉は出てこなかったよ。」

山姥(やまんば)「もしかしてそこで何かあったのか?」

志乃(しの)「そこで惣領と両親に会った。本物ではなかったけどな。」

山姥(やまんば)「なるほど。少し中を見てもいいか?」

志乃(しの)「、、ああ。」

山姥(やまんば)志乃(しの)の額に手を当ててみてみる。

山姥(やまんば)「封印が安定しているな。」

志乃(しの)「夢の中で母上が封印してくれたからな。」

山姥(やまんば)「そうか。」

志乃(しの)「もう遅いし私は休むよ。」

山姥(やまんば)「ああ。おやすみ。」

志乃(しの)「おやすみ。」

志乃(しの)は屋敷にある自分の部屋に布団を敷いて寝転がり考える。

印の封印が続いている限り陽葵(ひまり)の事が本体に伝わる事はないし、陽葵(ひまり)も子供の姿だったのでもし伝わったとしても名前も呼んでいないから探すのには苦労するだろう。

問題はハラミだ。

ハラミの名前も呼んではないがハラミの姿は見られているのでそこから陽葵(ひまり)に繋がる可能性がある。

自分についている印の惣領が自分に関係のあるもの達を知り始めている。

今は安定しているが日に日に強くなっているので封印が解けるのも時間の問題だろう。

そして封印が解ければ確実に周りに危害が及ぶ。

これは自分と自分の血筋の問題で周りを巻き込むことはしたくない。

こちらから仕掛ける事も考えてこの日は眠りについた。

それから日が経ち、刀を取りに行く日になったので志乃(しの)尾火(おび)白焔(はくえん)の鍛冶場へ行くために河童(かっぱ)達の川の近くを通ると大河童(おおがっぱ)に声を掛けられる。

大河童(おおがっぱ)「おう、志乃(しの)じゃねえか。短刀を取りに行くのか?」

志乃(しの)「ああ。そろそろだと思ってな。」

その時志乃(しの)はふと、大河童(おおがっぱ)の腰についている物が目に入る。

志乃(しの)「それ、どこにあったんだ?」

大河童(おおがっぱ)「おお、これか?水熊(みずくま)が出たところが荒れていたからな。直していたら見つけたんだ。もしかしてお前の物だったのか?」

志乃(しの)「私が陽葵(ひまり)にあげたものだが新しい物をやったからそれはお前が持っていてくれ。」

大河童(おおがっぱ)「そうだったのか。だが持ち主の分かった物を持っているのもあまり気分のいい物でもないな。一応返すよ。」

大河童(おおがっぱ)は腰からお守りを外して志乃(しの)に渡す。

志乃(しの)「そうか。」

志乃(しの)は渡されたお守りを見て何かに気がつく。

志乃(しの)「これ、一度発動している。なあ、最近いつもと違う事があったり変な物を見たとかないか?」

大河童(おおがっぱ)「変わった事?そういや昨日、赤黒い変な玉が流れてきたな。気味が悪かったもんで誰も触らなかったがな。」

志乃(しの)「その玉はどこへ行ったか分かるか?」

大河童(おおがっぱ)「もう海の方へ流されたんじゃないか?」

志乃(しの)「そうか。」

大河童(おおがっぱ)「なんだ?何かあったのか?」

志乃(しの)「いや、やっぱりこれはお前が持っていてくれ。それとまたその玉を見ても誰も触らないように言っておいてくれ。」

大河童(おおがっぱ)「それなら貰っとくが、あの玉はなんだったんだ?」

志乃(しの)「妖怪を凶暴化させるものとだけ言っておく。」

大河童(おおがっぱ)「そうなのか。河口の方に水虎(すいこ)達がいるんだが大丈夫かね。」

志乃(しの)「なら短刀を取りに行ったら見てみよう。」

大河童(おおがっぱ)「なら俺も一緒に行こう。水虎(すいこ)達とは顔馴染みだからな。」

志乃(しの)「いやいい。1人で行きたい。」

大河童(おおがっぱ)「まあ、比較的大人しい奴らだからお前なら平気か。何かあれば俺の名前を出してくれ。」

志乃(しの)「ああ。ありがとう。」

志乃(しの)は短刀を取りに行くために山を登ると煙が見え、鉄を打つ音が聞こえてくる。

到着し志乃(しの)が扉を開けると白焔(はくえん)が鉄を打っていた。

白焔(はくえん)「あ、ししょー。破魔凪(はまなぎ)さん来ましたよ。」

白焔(はくえん)志乃(しの)に気づき奥に向かって叫ぶと、奥から足をするように歩く足音が聞こえ、しばらくすると尾火(おび)が出てきた。

尾火(おび)「来たか。できているからこっちに来てくれ。」

志乃(しの)尾火(おび)に付いて奥に行くと一振りの短刀が机の上に置いてあり、それを尾火(おび)志乃(しの)に手渡す。

尾火(おび)「確かめてくれ。」

志乃(しの)「ああ。」

刀の外装は前の物と同じような素木でできており、鍔も無い物だった。

志乃(しの)は受け取った刀を一度握ると鯉口を切って刃を少し覗かせすぐに納めた。

尾火(おび)(こしらえ)は前と同じように竹筒に通りやすいように極力無くしている。」

志乃(しの)「助かる。でも良かったのか?こんなに出来の良い刀を私なんかに合わせてもらって。」

尾火(おび)「使うものもいなかったからな。前の短刀を見ても分かるようにお前さんなら大事に使ってくれるだろう。」

志乃(しの)「そうか。それで代金の方なんだが、、」

尾火(おび)「ああ、いい。いい。持って行ってくれ。」

志乃(しの)「だが前の物よりも出来がいいし、何もないのは流石に悪い。」

尾火(おび)「久しぶりに 作刀(さくとう)に携われたんだ。あんな気持ちになれたのは久しぶりだ。それでもというのであれば赤鍛(あかがね)の話をしてくれないか?」

志乃(しの)「お前、昔は聞こうともしなかったじゃないか。そんなので良いのか?」

尾火(おび)「ああ。弟子と一緒に聞きたい。」

志乃(しの)「だがその弟子は手を離せなさそうに見えたぞ。」

尾火(おび)「この音ならもう少しで手が空くだろう。それまで待ってくれ。」

志乃(しの)「引退はしたが感覚は失ってないんだな。」

尾火(おび)「もちろんだ。腰さえ悪くなってなきゃまだ鉄を打っていた。あたた。」

尾火(おび)は興奮して立ち上がるが腰を押さえてすぐに座り込んだ。

志乃(しの)「それならこれを使ってみてくれ。」

志乃(しの)は4号に大きめの葉っぱの束と壺に入った軟膏を持って来てもらう。

尾火(おび)「何だそれは。」

志乃(しの)鎮骨葉(ちんこつよう)温和膏(おんわこう)だ。また鉄が打てるようにまではならないが痛みを和らげることはできるだろ。」

尾火(おび)「どう使えばいいんだ?」

志乃(しの)「この葉っぱに軟膏を塗って腰に貼り付けるんだ。一度やるから寝てくれ。」

尾火(おび)「こうか?」

尾火(おび)がうつ伏せで寝ると志乃(しの)鎮骨葉(ちんこつよう)温和膏(おんわこう)を塗って尾火(おび)の腰に貼る。

尾火(おび)「おわっ。冷た!、、と思ったが徐々に温かくなってきたな。」

志乃(しの)「あまり動かないならこれで良いが動く時はさらし等で固定してくれ。」

尾火(おび)「なるほど、痛みがマシになった。最近温泉に行くのも辛かったがこれならもうしばらく通えそうだな。」

志乃(しの)「なら良かった。無くなったら妖ノ郷(あやかしのさと)に来てくれ。私がいなくても真琴(まこと)という文車妖妃(ふみぐるまようひ)が作れるはずだ。」

尾火(おび)「そうか、なら無くなれば白焔(はくえん)に行かせよう。これの名前は何だったか?」

志乃(しの)鎮骨葉(ちんこつよう)温和膏(おんわこう)だ。紙はあるか?忘れそうなら書いておこう。」

尾火(おび)「確かその棚にあったはずだ。ちょっと待ってろ。」

そう言って尾火(おび)はさっきよりもスムーズに立ち上がり歩いて紙と筆を持って来る。

志乃(しの)はそれに薬の名前を書いていると鉄を打つ音が聞こえなくなった。

尾火(おび)「休憩に入ったな。そろそろ行こうか。」

志乃(しの)「ああ。」

志乃(しの)は薬の名前を書いた紙を薬の傍に置いて尾火(おび)と共に鍛冶場へ行く。

白焔(はくえん)「あ、どうでした?」

尾火(おび)「気に入ったようだぞ。」

白焔(はくえん)「当たり前です。師匠が丹精込めて打った一振りを短刀にしたんですから。それで師匠、その腰に付けているのなんですか?」

尾火(おび)「こいつに貰った貼薬だ。腰が楽になった。」

白焔(はくえん)「そうだったんですね。」

志乃(しの)「鍛冶はするなよ。あくまでも痛みを緩和するだけの物だ。」

尾火(おび)「分かってる。それより本題に入ろうじゃないか。」

白焔(はくえん)「本題?」

尾火(おび)「前に来た時に赤鍛(あかがね)の話を聞けなかったからな。刀のお代として聞かせてもらおうと思ってな。」

白焔(はくえん)「ああ。」

志乃(しの)「それとは別に金銭を要求してもらっても構わないんだがな。」

尾火(おび)「それを大事にしてくれればいい。腰も楽になったしな。」

白焔(はくえん)「師匠がそういうのであれば俺も別にそれでいいです。」

志乃(しの)「そうか。なら赤鍛(あかがね)の事についてだが、私が最初に会ったのは師匠から貰った刀を折ってしまって師匠から製作者を聞いて行ったんだ。」

尾火(おび)「お前の師匠は人間なのか?赤鍛(あかがね)はあまり人を好かないと聞いていたが。」

志乃(しの)「人間だ。人間にしては変わり者だったがな。それで私も最初は師匠の名前を出しても相手にされなかった。」

尾火(おび)「それなのに名前入りの刀を打って貰えるくらいになったのか。どうやったんだ?」

志乃(しの)「あの時は普通の人間でない事を説明する為に腕を斬り付けた。」

白焔(はくえん)「はあ?お前正気か?というかその話本当か?」

志乃(しの)「ああ。そう言えばまだ試し切りしてなかったな。」

志乃(しの)は短刀を抜いて腕に当てる。

白焔(はくえん)「おいおい。本当にやるのか?」

志乃(しの)「信じてもらうのにはこれが早い。」

そう言って志乃(しの)が腕を斬るがその傷はすぐに治る。

白焔(はくえん)「嘘だろ。」

志乃(しの)「切れ味も上がっているな。前の短刀より力を入れなくても切れる。」

白焔(はくえん)「他にもやっているのか?」

志乃(しの)「お前みたいに信じない奴の方が多いからな。これが手っ取り早い。」

尾火(おび)「それでその後どうなったんだ?」

志乃(しの)「あいつも私と同じく人間でありながら異常な体質のせいで他の人間から忌避されていたからな。それから話を聞いてくれるようになった。あいつも話す事は好きだったみたいであまり人と話さないせいか拙い話し方ではあったが私が行くたびに話をしてくれるようになった。」

尾火(おび)「無口で厳しい人だったと聞いていたから意外だな。何を話していたんだ?」

志乃(しの)「近況報告がほとんどだったな。どんなことがあってどんな客が来たとかな。」

尾火(おび)「ふーん。そうなると何でその時短刀を打ってもらわなかったんだ?最初は気難しいから頼んでも駄目だったと思っていたがその調子だと頼めば打ってもらえただろ。」

志乃(しの)「昔はいらなかったんだ。刀を使う時はでかい妖怪を倒す時くらいだったから。だけど管狐が出てこれない場所に潜入することになったから懐に入る大きさの物がいるようになってお前に打ってもらったんだ。それからも使い勝手が良くて使わせてもらっている。」

尾火(おび)「そうか、大事に使ってくれよ。」

志乃(しの)「もちろんだ。ありがとう。」

白焔(はくえん)「他に何か特別な出来事は無かったのか?」

志乃(しの)「刀自体あれから刃こぼれすらなかったからあまり行かなかったんだよな。たまに思い出しては世間話や刀の手入れを教えてもらっていた。」

白焔(はくえん)「まあ、鍛冶師との関係なんてそんなもんだよな。」

志乃(しの)「特に特別な話が無くて悪いな。」

尾火(おび)「実際に会っている奴の話を聞けただけでいい。」

志乃(しの)「そうか。」

尾火(おび)「ほら、白焔(はくえん)。そろそろ時間だろ。」

白焔(はくえん)「本当だ。」

志乃(しの)「それなら私はそろそろ行く。」

尾火(おび)「ああ。良ければまた来てくれよ。」

志乃(しの)「機会があればな。」

志乃(しの)は鍛冶場から出て山を降りると川に沿って歩き、水虎(すいこ)の住む場所へと向かった。

ここまで読んでいただいてありがとうございます。

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