73話
この物語には自己解釈やオリジナル設定が含まれています。
オリジナルの妖怪が登場することもあります。
素人がただ思い付きで書いている物語なので最後まで温かい目で読んでいただければと思います。
陽葵は帰る途中、少し複雑な気持ちだった。
尾火と白焔は師弟同士で尾火は弟子を信じて自分の仕事を任せて、白焔は鍛冶をできなくなった師匠を支えていた。
志乃と自分も師弟なのに志乃は自分に何の連絡もくれず、会おうとせず距離を置こうとしている。
そして今回、約束を破って迷惑をかけて初めて怒鳴られた。
そして志乃は黒根と自分の知らない話で盛り上がって余計に遠い存在に感じてしまった。
本当に私は志乃の傍にいていいのだろうか、志乃に会って何がしたいのだろうか、そんなこと前は考えすらしなかった。
最初は追いつこうと頑張っていたが時間が経つたびに追いつくことは無理だと悟り、自分は自分の道を行こうと思った。
だけどそれはもっと志乃と離れる選択だった。
それでも警察官になる夢を打ち明けた時、志乃は少し安心したような顔をした気がした。
初めから自分とずっと一緒にいる事は無いとは思っていたがその時自分が邪魔だったのではないかと思ってしまった。
それからは勉強しろと言われるたびに自分を遠ざけようとしているように思えて仕方がない。
そして突っ走ってしまった結果がこれだ。
しばらくは勉強に集中しよう、もう迷惑を掛けて嫌われないように。
ハラミ「なあ、大丈夫か?」
陽葵「うん。帰ったら高い缶詰出すね。」
ハラミ「それもだがいつもの元気はどこ行ったんだ?多少の失敗は笑い飛ばしていたじゃないか。」
陽葵「私、浜名瀬さんに嫌われたかな?」
ハラミ「嫌いなら送るなんて言わないし、あいつは自分含めた人の気持ちに鈍感だ。知っているだろ。」
陽葵「そうだけど、もう少し私を見てほしい。」
ハラミ「それなら警察官になって見てもらえばいいだろ。そうすればあいつも無視できない。」
陽葵「大学卒業してからだから4年以上掛かるよ。」
ハラミ「留年したらもっとかかるな。」
陽葵「そしたら高卒でも警察学校行くもん。」
ハラミ「それであいつと会えるか?あいつは高校を中退したから大学にはいけない。あいつができなかった事をして見返してやろうぜ。」
陽葵「それもそうだね。浜名瀬さんに高校を中退した事を後悔させよう。」
ハラミ「その粋だ。」
陽葵「そうと決まればこのままジョギングしてから帰ろうかな。」
ハラミ「は!?俺は先に帰るぞ。」
陽葵「いいじゃん付き合ってよ。暗くなったら1人じゃ危ないんだから。」
ハラミ「なら帰ればいいだろ。」
陽葵「ちょっとだけだからさ。お腹空かせて帰った方が缶詰美味しいよ。」
ハラミ「仕方ないな。」
一方、妖ノ郷にある樹霧之介の家では志乃が黒根と話しながら樹霧之介達の帰りを待っていた。
志乃「遅いな。少し見に行こうか?」
黒根「危なくなれば紐声環に連絡が来るじゃろう。」
志乃「それもそうか。」
黒根「信じて待とうじゃないか。」
志乃「ああ。」
黒根「それはそうとお主、短刀が無くて大丈夫か?」
志乃「大丈夫とは?別に無くても戦えるぞ。」
黒根「お主今は霊力が少なくて札で止めを刺せんから短刀を使っておるんじゃないのか?」
志乃「解呪が進んである程度は威力が戻った。急所に直接叩き込めれば十分に倒せる。」
黒根「それでも難しいものはいるじゃろ。」
志乃「その時はその時だ。1週間後に取りに行くからそれまでは何とかするよ。」
黒根「そうか。」
樹霧之介「ただいま。」
黒根「おお、おかえり。」
志乃「おかえり。」
樹霧之介「志乃さん、帰っていたんですね。」
志乃「ああ。そっちはどうだった?」
樹霧之介「今回は少し外見に特徴のある妖怪でした。」
志乃「どんな?」
樹霧之介「服を着た二本足の鹿の体に馬のような頭で片目、片耳に一本の角が生えていました。」
真琴「その目も飛び出していて気持ち悪かったわ。」
焔「あと、腕がいっぱい生えてたよな。」
志乃「腕が生えていたのか。」
黒根「それが無ければ馬鹿だと思ったんじゃが。」
風見「それからそいつ倒したらこれが出てきたんだ。」
風見は胡桃大の赤黒い真珠のような玉を出す。
志乃「なら馬鹿がその玉を呑んで腕が増えたのか?」
黒根「そうかもしれんの。」
樹霧之介「その腕で連続で攻撃してくるので厄介でした。」
雫「それでこの玉持って来て良かったの?」
志乃「玉だけだったら何もできないだろ。」
焔「だけど俺、そいつをずっと見ていると口に入れたいって思ってしまうんだ。」
雫「そういうことは早く言いなさい!」
志乃「それなら精神攻撃をある程度防いでくれるお守りがあるから全員に渡しておく。」
雫「助かるわ。」
志乃は9号に竹筒から人数分のお守りを出して渡す。
志乃「それとその玉は私が処分するから次も見つけたら持って来てくれ。」
風見「それならこれ渡しておくな。」
志乃「私からは風見にこれも渡しておく。」
志乃は風見から玉を受け取ると9号に1つの巾着袋も持って来てもらい、それを風見に渡す。
風見「これは?」
志乃「鎮封布で作った巾着だ。この中に入れておけば簡単な封印状態になるから比較的安全に運べると思う。だから玉を見つけれる風見が持っていてくれないか?」
風見「任せろ!」
樹霧之介「それで志乃さんの方は何かあったんですか?河童さん待っていたらいきなり走り出したじゃないですか。」
志乃「河童の奴が私と間違えて陽葵を連れて行っていたみたいで、行った先で水熊を起こしていたんだ。」
樹霧之介「水熊、確か植物系の妖怪ですよね。」
志乃「知っていたか。」
樹霧之介「はい。植物系の妖怪はある程度父さんから聞いています。大水を起こすとか聞きましたが大丈夫でした?」
志乃「長年封印されていて弱っていたからな。」
黒根「それなのにこいつは短刀を折ったんじゃ。」
志乃「うるさい。1週間後に取りに行くんだからいいだろ。」
黒根「それまであまり戦うなよ。」
志乃「無くても戦える。」
黒根「それにお主は時間が解決するとは言ったが陽葵とはもう少し話した方が良い。」
志乃「、、分かってる。」
黒根「お主の短刀が戻って来るまでそっちと向き合ったらどうだ?」
真琴「何かあったの?」
黒根「これはこいつの問題じゃ。真琴は手出しするなよ。」
真琴「分かったわ。」
志乃「もういいだろ。私は帰る。」
黒根「ちゃんと向き合えよ。」
志乃「分かってる。」
全員解散し、それぞれ帰って行った。
数日後、志乃は山姥と山に籠って修行していた。
山姥「この数日集中できてないようだが何かあったのか?」
志乃「別に。」
山姥「お前は隠そうとしていても分かりやすいんだ。話せ。」
志乃「私が教えてた奴と少し喧嘩しただけだ。」
山姥「それは人間か?」
志乃「ああ。」
山姥「お前が修行を始めた事と関係はあるか?」
志乃「別に、あいつが勝手をして私が少し叱っただけだ。」
山姥「それだけか?」
志乃「叱る時、少し感情的にはなった。」
山姥「お前、呪いを封印した時感情が薄くなったと言ってなかったか?」
志乃「ああ。だけど少しずつ戻っている気がする。」
山姥「良い事じゃないか。今日はもういいから少しそのお前の弟子と話をしてきたらどうだ?」
志乃「話す事は無い。」
山姥「天気の話でも何でもいい。行って来い。」
志乃「ちょ。」
志乃は半ば強引に山姥に妖ノ郷に戻され、そのまま突っ立っているわけにもいかず志乃は渋々学校前まで行く事にする。
2号で姿を消して待っていたが部活が終わる時間になっても陽葵は出てこなかったので不思議に思い陽葵の家に行く事にした。
陽葵の家に着くと陽葵の母親である美和が出迎えてくれ、不安そうな顔をしていたが志乃を見た途端安心したような顔をする。
美和「浜名瀬さん。良かった。」
志乃「何かあったのか?」
美和「分かってきたわけじゃないんですか?」
志乃「いや、少し陽葵と話そうと思って来ただけだ。」
美和「そうなの。陽葵は浜名瀬さんが学校辞めたって騒いでたからその事でしょうか?」
志乃「まあ、そんなところだ。それで陽葵はいるのか?」
美和「それが一昨日から行方不明なんです。」
志乃「どういう事だ?」
美和「土曜日の夜帰って来てから勉強を頑張っていたんですが、一昨日の夜に部屋に行ったらいなくなってました。ハラミも一緒にいなくなっていて、靴は無かったので自分から出て行ったんだとは思いますがあれから帰って来なくて。」
志乃「部屋を見てもいいか?」
美和「はい。お願いします。」
志乃は2階にある陽葵の部屋に行くと微かだがハラミ以外の妖気が残っていたので竹筒から5号を出すとその妖気を辿ってもらう。
それは外に続いていて志乃は5号を追って行くとそこは小学校だった。
だが小学校には入らず、裏の方にいくと今は使われていない旧校舎があり、窓の一部の鍵が開いていたので5号はそこに入って行った。
3号に灯りを出してもらい志乃も旧校舎に入り廊下を進むと、途中でハラミが倒れているのを見つけて慌てて駆け寄るが寝ているようでいびきを掻いていた。
ハラミを調べると陽葵の部屋に残っていた妖気とは別の妖気を感じたので妖怪は2体以上いることが分かる。
志乃「めんどくさい事になったな。」
志乃はハラミを抱いて保健室のドアを開ける。
???「誰だ?」
首の長い着物を着たおじさんの妖怪が入って来た志乃を警戒する。
志乃「火間虫入道。そいつをどうするつもりだ。」
部屋にあるベッドの上で陽葵が寝ている。
火間虫入道「何だ。こいつの知り合いか?」
志乃「嫌がらせの度が過ぎるぞ。」
???「嫌がらせ?こいつは現実が嫌になった可哀そうな子だと言っていなかったか?」
火間虫入道「枕返しの旦那。ち、違うんです。それはこいつの妄言ですって。おい、女。俺が嫌がらせでこいつを眠らせたなんて証拠は無いだろ。」
志乃「お前は夜なべしている人間の灯りを消して邪魔をしている奴だろ。自分が怠けていたからって他の人を巻き込もうとするな。」
火間虫入道「心を入れ替えたかもしれないだろ。」
志乃「こいつの親から最近夜も勉強を頑張っていたと聞いている。」
枕返し「どういう事だ。火間虫入道。」
火間虫入道「へ、へへ。だがもう遅い。もう夢の中に入ったんだ。こいつは一生寝る事しかできないんだ。」
そう言って火間虫入道は窓から逃げようと走り出すが志乃は結界符を持った管狐を4体出し、火間虫入道の目の前に結界を張ると火間虫入道はそこにぶつかった。
火間虫入道「何だこれ。」
志乃は結界にぶつかって転んだ火間虫入道を追い詰める。
火間虫入道「お、落ち付けよ。俺がいなくなったってあいつが起きるわけじゃないぞ。」
志乃「知ってはいるが人に危害を加える奴を放ってはおけない。」
火間虫入道「ま、待て!」
志乃は問答無用で呪滅符を張り攻撃すると火間虫入道は白い煙となって消えていった。
それから志乃は陽葵の寝ているベッドへ移動し、ずっと抱いていたハラミを陽葵と同じベッドへ寝かせる。
志乃「おい。枕返し。」
枕返し「騙されたとはいえお前の知り合いに危害を加えたんだ。罰は受けよう。」
志乃「私はこいつを連れ帰りたい。私も眠らせろ。」
枕返し「は?俺の術は魂を体から離して夢の世界に閉じ込める。戻れなければお前も死ぬぞ。」
志乃「こいつが眠って2日経っている。時間が無いんだ。」
魂が体から離れて3日経つと体と魂の繋がりが無くなってしまい、繋がりが無くなると体は死んでしまうのだ。
枕返し「そうだが、そこまでしてこいつを助ける理由はあるのか?」
志乃「助けるのに理由がいるのか?」
枕返し「、、そうだな。俺が間違っていた。」
志乃「それに私は不死だ。心配するな。」
枕返し「ありがとう。そんな嘘をついてまで俺の罪悪感を軽くしてくれるんだな。」
志乃「、、まあいい。始めてくれ。」
志乃は自分と陽葵の手の甲、ハラミのお腹に還路印を書いてから空いているベッドに横たわる。
枕返し「ちゃんと戻って来いよ。」
枕返しが志乃の枕に触ると志乃は眠りにつき、枕返しが枕を返すと志乃は夢を見始める。
そこは志乃が育った海辺で、志乃は子供になって魚を干していた。
志乃「ここからか。」
志乃は手を止めて歩き出す。
道に出てしばらく歩くと周りの景色が変わって白い空間に御馳走が山積みになっていて中央の方に向かうとその中でハラミが寝っ転がりながら御馳走を食べていた。
志乃「おい。」
ハラミ「おん?」
志乃「ここが夢の世界だって事は分かっているな?」
志乃に言われてハラミは少し考え、思い出す。
ハラミ「、、あ。そうか、俺。勉強中に急に外に出て行った陽葵を追いかけて学校に入ったら眠くなって、、」
志乃「気づけばいい。陽葵を探しに行くぞ。」
ハラミ「行くのは良いが、、」
ハラミは夢だと気づいて志乃の方に来たのはいいが名残惜しそうに御馳走の山を見つめる。
志乃「もう2日経っている。お前も危ないんだからさっさと行くぞ。」
ハラミ「マジか。」
ハラミは志乃の横に付き、一緒に歩いて行くとコンクリートの道に出て、そこを進むと保育園に着いた。
中に入るとお遊戯会の練習をしていて、それぞれ楽器を持ってタイミングよく鳴らしていた。
その中に陽葵がいなかったので、志乃は他の所を探していると、少し離れた部屋で陽葵の声が聞こえたので窓から見てみる。
そこでは陽葵が先生に抱きしめられて背中をさすられていた。
陽葵「消えちゃう。消えちゃうの。」
先生「はいはい。大丈夫だよ。先生はここにいるからね。」
志乃はお遊戯会に使われている楽器の中に鈴があった事を思い出す。
陽葵の父親が鈴の音と共に消えた事で鈴の音が怖いのだろう。
ただ陽葵は泣いて「消えちゃう」や「パパ」としか言っていないので先生は何で陽葵がパニックになっているのか分かってはなさそうだ。
そこに美和が駆けつけて陽葵を抱き上げ、宥めると先生に説明をしている。
志乃もその部屋に入ろうとドアを開けるとそこは外になっていて目の前には小学校があった。
まだ新校舎はまだ無くて旧校舎では子供達が授業を受けている。
学校に入るとハンドベルの音が響いていた。
ハンドベルの音を頼りに音楽室へ行くと1年生だろうか、ハンドベルの練習をしていてその中にも陽葵もいる。
だが顔色は悪く、集中できてないようで間違えてばかりだ。
間違えるたびにからかわれているが作り笑いをして謝っている。
やせ我慢しているのは見て分かるが周りはあまり気にしてい無さそうだ。
それはいつも考え無しに突っ走っている陽葵とは考えられない姿だった。
志乃が音楽室に入ると先生や生徒が志乃に注目し、先生が志乃の目の前まで来てしゃがんで優しく話しかける。
先生「君、どこから来たのかな?見たところまだここにくる年齢じゃないよね。」
志乃「ん?そう言えばこの姿で来たのか。」
先生「あとここに動物連れて来ちゃだめだよ。」
ハラミ「俺の事見えてんのか。」
志乃「夢の中だからな。人も妖怪も関係ない。」
先生「大人の人はいる?それともお兄ちゃんかお姉ちゃんがここにいるのかな?」
志乃「陽葵に用がある。」
先生「陽葵ちゃん?陽葵ちゃんは一人っ子だったはずだけど、、」
志乃は先生の横を通り過ぎて中に入り、陽葵の手を引く。
陽葵「え?誰?私知らないよ。」
志乃「お前、鈴の音苦手だろ。こんな所にいなくていい。外に出るぞ。」
陽葵「何で知ってるの?」
陽葵は不思議そうな顔をしながらも志乃に手を引かれて付いて行く。
先生も生徒も何も言わずただそれを眺めているだけだった。
誰もいない教室に入ると志乃は陽葵に質問する。
志乃「お前、苦手なら苦手と言えばいいだろ。」
ハラミ「そうだそうだ。そんな性格じゃないだろ。お前。」
陽葵「そしたらまたお母さんに迷惑かけちゃうよ。お父さんがいなくなってからお仕事頑張っているのに邪魔はできないもん。」
今の陽葵が志乃に異様に懐くのはこの時期に親に甘えることができなかったからずっと頼れる人を探していたのかもしれない。
そうは思ったがいつまでも一緒にいる事はできない。
志乃「そうか。だがあまり我慢しすぎるなよ。」
陽葵「大丈夫だよ。ありがとうね。」
これからの事を考えると突き放した方が良いのだろう。
このままでも連れて行けば夢から覚ます事は可能だ。
それでも志乃は少し考えてから大人の姿に戻り陽葵を抱きしめた。
陽葵「え?」
志乃「私はお前がいつも笑顔でいるからそれに甘えてお前の気持ちをあまり考えていなかった。それからいつも素直に要求を伝えてくるから本当にしてほしい事なんて考えた事も無かった。ごめん。」
陽葵「、、浜名瀬さん?」
志乃「それでも私はやらないといけない事があるんだ。だから距離を置きたかった。」
陽葵「何かあるとは思っていたよ。浜名瀬さんが何も言わないのも私を巻き込みたくないからでしょ。」
志乃「分かっているなら何で来るんだ。」
陽葵「今動かないと浜名瀬さんがもっと遠くに行く気がしたの。だけど邪魔をしたくないからもう行かない。勉強に集中する。」
志乃「すまないな。」
陽葵「ううん。私こそごめん。私の事、嫌いになってないよね?」
志乃「面倒だと思う事はあるが嫌いになった事は無い。」
陽葵「、、勉強しろとか危ないからって帰らせようとするけど本当の理由は教えてくれないんだよね?」
志乃「悪いな。」
陽葵「ううん。私が手伝える事はないんだよね。」
志乃「そうだな。お前は自分の事だけ考えてくれ。」
陽葵「うん。それで浜名瀬さんが安心できるなら。」
志乃「ありがとう。」
それから無言の時間が続いて、志乃が陽葵から離れようとするが陽葵は志乃を掴んで放さないので志乃は陽葵が満足するまで動かない事にした。
陽葵「もっとぎゅってして。」
志乃は更に陽葵を抱き寄せる。
陽葵「頭撫でて。」
志乃は黙って陽葵の頭を撫でる。
陽葵「優しい言葉が欲しいな。」
志乃「、、調子に乗るな。」
志乃は陽葵の頬を引っ張る。
陽葵「ひひゃい。」
志乃「やっぱり子供の頬はやわらかいな。」
志乃は続けて陽葵の両頬を揉んでみる。
陽葵「やめへよ。自分で子供になってすればいいじゃん。」
志乃「自分と他人とでは違う。」
陽葵「ていうか私も元の大きさに戻りたい。どうすればいいの?」
志乃「ここは夢の中だ。自分の思った通りの姿になれる。」
陽葵「うーん。想像してもなれないよ。」
志乃「まあ、ここはお前の小学生の頃の記憶からできている夢の中だ。それに姿が引っ張られているんだろう。外に出れば嫌でも元に戻れる。」
ハラミ「そうだ。外では2日経っているんだろ早く出ようぜ。」
陽葵「ハラミもいたんだ。」
ハラミ「何だそれは。フラフラと外に出るお前を心配して追って来たんだぞ。」
陽葵「ごめんごめん。ありがとう。」
志乃「学校の廊下で寝ていたがな。」
陽葵「そうなの?」
ハラミ「わざわざ言わなくてもいいだろ。」
志乃「まあいい。行くぞ。」
陽葵「どこから出れるの?」
志乃「夢がどこから始まったか分かるか?」
陽葵「、、ごめん。よく覚えてない。」
ハラミ「俺もご馳走追いかけて走り回ったから場所は覚えてない。」
志乃「なら仕方ない。私の夢から出るか。」
陽葵「浜名瀬さんの夢、、」
志乃「ここで時間を取ってしまったからな。そこまで時間は無いからさっさと出口に向かうぞ。」
陽葵「えー。」
志乃は陽葵の手を握り小学校から出て道に沿って歩くと波の音が聞こえてきて、周りの景色が変わり海辺の近くの道に出た。
陽葵「ここ、浜名瀬さんの故郷の海?」
志乃「育った場所だな。確か家の中に出口があったはずだからそこまで行くぞ。」
陽葵「あれ?浜名瀬さん、今の私よりも小さいよ。どうしたの?」
志乃は自身の夢に入った時に子供の姿になっていた。
志乃「子供の頃に住んでいた場所だから姿もそっちに引っ張られたな。まあいい、行くぞ。」
陽葵「可愛いね。」
志乃「黙って付いて来い。」
陽葵「はーい。」
陽葵は志乃が育った場所を目に焼き付けておこうと周りを見渡しながら進むが目線を感じてそっちの方を見る。
陽葵「ねえ、あれ何?」
陽葵の指差した方向には白い煙のようなものが2つ、木の陰でうねうねしていた。
志乃「夢の世界にはあまり来た事が無いから分からないが現実世界に出れば関係ないだろ。」
陽葵「う、うん。」
陽葵は煙の方を気にしながらも志乃に手を引かれて志乃が住んでいた家の方へ向かうがその途中で声を掛けられる。
???「お主ら、この辺りに住まう童どもか?」
陽葵「え。誰?」
話しかけてきたのは白銀混じりの髪を持つ長身痩躯の男性で、質素な衣をまとってはいるが、背筋を伸ばしたその姿は武士のような威厳を漂わせ、口は笑っているが目は志乃の方を真っすぐに見つめている。
志乃はその顔に見覚えはなかったが声だけは聞いていた。
頭の中に響いた不快な声の主である惣領だ。
ここは夢の中であり、精神の奥深くでもあるため封印されているとはいえ志乃に付けられた印から夢の中に惣領が実体化したのだろう。
志乃「走るぞ!」
陽葵「え?何?何で?」
家の扉を開ければ現実世界だ。
だが志乃が扉に手をかけた瞬間、その男性が開かないように足で扉を押さえてしまった。
惣領「悲しいな。やっと顔を合わせられたというのに。何故逃げようとするのか。」
陽葵「この人誰なの?」
気味の悪い男性にハラミは威嚇をするが志乃はハラミの顔を手で隠し、それを抑える。
志乃「お前らには関係ない。隙を作るから早く行け。」
惣領「そやつは友か。お前もまた、親のように他の者を庇うのか。」
陽葵「浜名瀬さんの両親を知っているの?」
志乃「こいつの話を聞くな。」
陽葵「何で?浜名瀬さんはこの人の事知っているの?」
惣領「我はお前の大叔父であるというのになぜそうも警戒する。」
陽葵「え?」
志乃「お前が私の両親を殺したからだろ!」
陽葵「え!?」
惣領「我は手を下してはおらぬ。あやつらが勝手に崖下へ消えただけのことよ。」
志乃「お前が追い詰めたんだ。」
惣領「我はそこまで口にしてはおらぬ。誰がお前に言うた?」
志乃は陽葵に意識がいかないよう話を続けながら扉に掛けている手に力を入れるが、能力も今の姿に引っ張られているのか、大人の男性が押さえる扉はビクともしない。
惣領「あの場には婆もいたと聞いた。途中で見失ったみたいだが。ふむ、やはりお前の母は隠すことだけは上手いらしい。」
陽葵「浜名瀬さん?」
志乃「お前らだけは逃がす。」
惣領「我が用はただ主1人にある。お前が大人しく従うのであればその後ろの女も猫も、どうでもよい。」
惣領は志乃に指を刺しながらそう言う。
その言葉に志乃は扉から手を離し、惣領の方へ一歩踏み出す。
陽葵「駄目だよ!?」
志乃「これは私の問題だ。お前らは先に行っていろ。」
惣領「殊勝な心掛けだが、誰1人として返すつもりなどないぞ。」
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