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浜名瀬志乃の学び舎日誌  作者: 火乃香


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79/92

72話

この物語には自己解釈やオリジナル設定が含まれています。

オリジナルの妖怪が登場することもあります。

素人がただ思い付きで書いている物語なので最後まで温かい目で読んでいただければと思います。

志乃(しの)陽葵(ひまり)大河童(おおがっぱ)は土手に並んで座って話し合っていた。

ただ陽葵(ひまり)は体育座りして顔を見られないように膝に埋めて泣いてそれをハラミが慰めている。

大河童(おおがっぱ)「それで、こいつの事なんだがよ。怖い目に遭っているんだ。師匠ならまずは慰めてもいいんじゃないか?」

志乃(しの)「こいつは何度も怖い目に遭っているのに私の言う事を聞かないんだ。」

大河童(おおがっぱ)「それはこいつも悪いが、怒鳴らなくてもいいだろ。」

志乃(しの)「だが今回はもう少し遅ければ本当に死んでいた。」

大河童(おおがっぱ)「それは、、何もできなかった俺も悪かった。」

志乃(しの)「はあ。まあ、お前の言う通りだ。私も少し頭に血が上っていた。」

大河童(おおがっぱ)「落ち着いたようで良かったぜ。おめえに睨みつけられた時、背筋が凍ったからな。」

志乃(しの)「お前は何で陽葵(ひまり)を連れてきたんだ?陽葵(ひまり)は否定しなかったのか?」

大河童(おおがっぱ)「今思えば何か言っていた気もするな。聞いてなかったけどな。ガハハ。」

志乃(しの)「笑いごとで済まない可能性もあったんだぞ。」

大河童(おおがっぱ)「ハ、ハハ、、それで、あいつは何だったんだ?壺の蓋が開いたら急に出てきたぞ。」

志乃(しの)「あいつは水熊(みずくま)。木の妖怪で他の動物の皮を被ってそいつになりすまして生きている。」

大河童(おおがっぱ)「なら他にも潜んでいる可能性があるのか?」

志乃(しの)「珍しい妖怪だ。他にはいないだろ。」

大河童(おおがっぱ)「だがなんでこんな所に封印されていたんだ?」

志乃(しの)「昔この川は大水を出していなかったか?」

大河童(おおがっぱ)「それなら昔長老に聞いた事があるぞ。穏やかな川なのに時折原因不明の大水が襲ってきたってさ。」

志乃(しの)「その原因が水熊(みずくま)で誰かが封印してそれが解けないように地面に埋めたんだろう。」

大河童(おおがっぱ)「それが最近続いた大雨で出てきたってわけか。」

志乃(しの)「弱っていたおかげで今回は流される事は無かったがな。」

大河童(おおがっぱ)「今回は?おめえ、もしかして前にも戦った事あるんか?」

志乃(しの)「あるぞ。その時は大水が起こって逃げられそうになった。」

大河童(おおがっぱ)「そうか、何度もあんな奴と対峙しているなんて人は見かけによらないんだな。」

志乃(しの)「お前はあいつを退治する為に陽葵(ひまり)をここに連れてきたんだろ?」

大河童(おおがっぱ)「壺を見てもらうだけだと思っていたんだ。」

志乃(しの)「大体はそれだけで済まないぞ。」

大河童(おおがっぱ)「今回の事でよく分かった。それで少し思ったんだがあいつ、俺だけは襲ってこなかったな。」

陽葵(ひまり)「そう言えば、体を乗っ取るって言うなら体が一番大きい河童(かっぱ)さんを狙うよね。」

志乃(しの)水熊(みずくま)は背中から体の中に入るからな。背中に甲羅のある河童(かっぱ)は避けたんだろ。」

陽葵(ひまり)「背中から、、」

陽葵(ひまり)は自分の背中を撫でて怪我をしたところを確かめる。

志乃(しの)「そう言えばお前は怪我していたんだったな。見せてみろ。」

陽葵(ひまり)「え、うん。」

志乃(しの)陽葵(ひまり)の後ろへ回り4号から受け取った傷薬を背中に塗っていく。

陽葵(ひまり)「くすぐったい。」

志乃(しの)「痛くは無いのか?」

陽葵(ひまり)浜名瀬(はまなせ)さんに落とされた時のお尻の方が痛かった。」

志乃(しの)「自業自得だ。」

陽葵(ひまり)「いやいや、いきなり落とすのは違うよ。」

志乃(しの)「約束を破った罰だ。」

陽葵(ひまり)「罰受けたんなら怒鳴らなくても良かったんじゃないの?私、びっくりしたんだよ。浜名瀬(はまなせ)さんが声荒げる事何てあまりなかったから。、、まあ、それだけ危なかったって事だよね。」

志乃(しの)「お前は軽い気持ちで妖ノ郷(あやかしのさと)に来たのかもしれないけどな。」

陽葵(ひまり)「、、うん。ごめんなさい。だけど、浜名瀬(はまなせ)さんがいなくなって、寂しくて、、」

志乃(しの)「どちらにしろ大学へ行けば別々だったんだ。それが少し早まっただけだろ。」

陽葵(ひまり)「心の準備も無しにいきなりいなくなるなんて思わなかったもん。」

志乃(しの)「いつまでも一緒というわけにはいかない。」

陽葵(ひまり)「そうだけど、いれる時はいたいよ。浜名瀬(はまなせ)さんにとって短い時間かもしれないけど、私にとっては貴重な時間なんだよ。」

志乃(しの)「そうだ。私はお前達と同じ時間を生きる事ができない。」

陽葵(ひまり)「同じ時間を生きれないのは浜名瀬(はまなせ)さんがそう生きようとしないからだよ。浜名瀬(はまなせ)さんは他の人より他の人と生きれるんだからその分楽しい事だってあるはずだよ。なんでそれを避けようとするの?」

志乃(しの)は傷薬が塗り終わったので陽葵(ひまり)から手を離し傷薬を片付ける。

志乃(しの)「、、終わったぞ。」

陽葵(ひまり)「ねえ、どうなのさ。」

志乃(しの)「いいだろ。私の勝手だ。」

陽葵(ひまり)「なら私も勝手にする。」

志乃(しの)「それで今回死にかけたんだろ!」

陽葵(ひまり)「う。」

志乃(しの)「まあいい。ほら。」

志乃(しの)は12号が拾って来た数珠に使った主玉を補充して陽葵(ひまり)に渡した。

陽葵(ひまり)「あ、ありがとう、、それで浜名瀬(はまなせ)さんの短刀、折れてたけど直るの?」

志乃(しの)「こいつを打った鍛冶師が今どうしているのか分からないから他の奴を探さないとな。」

大河童(おおがっぱ)「それなら知り合いに鍛冶師がいるんだ。今回の詫びと礼に紹介させてくれ。」

志乃(しの)「なら頼む。こいつが無いと少し不便なんだ。」

大河童(おおがっぱ)「おう!任せろ。」

陽葵(ひまり)「えっと。私は?」

志乃(しの)「帰れ。」

大河童(おおがっぱ)「そう言うなって。そいつお前といたいんだろ。だったらしばらくはいいじゃねえか。」

志乃(しの)陽葵(ひまり)の泣き腫らした顔を見て考える。

今回の事件は自分の監督責任でもあるからこのまま帰すのには罪悪感があった。

志乃(しの)「仕方ない。帰ったら勉強しろよ。」

陽葵(ひまり)「うん。」

大河童(おおがっぱ)「そうと決まったら行くぞ。途中で温泉もあるから寄るか?」

陽葵(ひまり)が一番酷いが、さっきの戦闘で全員泥だらけになっていた。

陽葵(ひまり)「濡れて気持ち悪かったから入りたい!」

ハラミ「俺は入らなくていいからな。」

大河童(おおがっぱ)「あそこの湯は怪我にも効くんだ、気持ちいいぞ。」

大河童(おおがっぱ)は距離を取ろうとしたハラミを捕まえる。

ハラミ「放せ。俺は怪我してない。」

大河童(おおがっぱ)「こっちだ。付いて来い。」

ハラミ「おい、無視するな!」

ハラミはしばらく暴れていたが無駄だと悟り、途中から静かになっていた。

そしてしばらく歩くと遠くの方から湯気が上がっているのが見える。

大河童(おおがっぱ)「着いたぞ。ここだ。」

そこは岩場の中の天然温泉だった。

陽葵(ひまり)「あれ?仕切りや脱衣所は?」

大河童(おおがっぱ)「あん?そんな物無いぞ。ここに来るのは俺らみたいな妖怪や野生動物くらいだからな。」

陽葵(ひまり)「え。河童(かっぱ)さんも入るんだよね?」

大河童(おおがっぱ)「もちろんだ。裸の付き合いと行こうや。」

陽葵(ひまり)「いや、河童(かっぱ)さんは裸みたいなものじゃん。」

大河童(おおがっぱ)「だけどあいつは入るつもりみたいだぞ。」

大河童(おおがっぱ)の指差す先を見ると志乃(しの)が服を脱ごうとしている。

陽葵(ひまり)は慌てて志乃(しの)の所に走って行くと服を押さえた。

陽葵(ひまり)「ちょちょちょ。浜名瀬(はまなせ)さん!?」

志乃(しの)「どうした?入るんだろ?」

陽葵(ひまり)「駄目だよこんなところで裸になるなんて。」

志乃(しの)「別に誰もいないだろ。」

陽葵(ひまり)河童(かっぱ)さんがいるよ!」

志乃(しの)「いつも裸みたいな奴がいてもな。あっちも気にしてないと思うぞ。」

陽葵(ひまり)「私が気にするの。」

志乃(しの)「分かった。裸でなければいいんだろ。」

志乃(しの)が竹筒に合図すると9号が麻でできたノースリーブのワンピースのような物を2着持って来た。

陽葵(ひまり)「何これ?」

志乃(しの)「湯浴み着だ。昔はこれを使ってよく黒丸(くろまる)と一緒に水浴びをしていた。」

陽葵(ひまり)「そう言えば修学旅行で樹霧之介(きりのすけ)のお父さんと水浴びしてたって言ってたような。」

志乃(しの)「裸は黒丸(くろまる)にも止められたからな。これならいいだろ。」

陽葵(ひまり)「うん、まあ、、」

大河童(おおがっぱ)「話はまとまったか?俺らは先に入っているぞ。」

大河童(おおがっぱ)は足音を殺してその場を離れようとしているハラミの首元を掴む。

ハラミ「放せ。俺は入らないからな。」

暴れるハラミを連れて大河童(おおがっぱ)が温泉の方へ行くとザパンと大きな音とハラミの悲鳴が聞こえる。

志乃(しの)「着替えるか。」

陽葵(ひまり)「うん。」

陽葵(ひまり)が岩陰に行こうとした時、志乃(しの)はそのまま着替えようとしたので一緒に岩陰に連れて行って着替える。

陽葵(ひまり)浜名瀬(はまなせ)さんは何でそんなに羞恥心が無いの?」

志乃(しの)「いや、見てる奴いないだろ。」

陽葵(ひまり)「それでも駄目。」

志乃(しの)「まあいい。乾かさないといけないから先に服を洗う。先に行っていてくれ。」

陽葵(ひまり)「私をこの格好で河童(かっぱ)さんと2人にしないでよ。」

志乃(しの)「ハラミもいるだろ。」

陽葵(ひまり)「邪魔しないから。」

志乃(しの)「分かった。」

志乃(しの)陽葵(ひまり)を連れて近くの川で泥だらけの服を洗い、9号に紐を持って来てもらうとそれに服を掛け、木の枝に結び付けて10号の風を3号の炎で温め温風を作り、服を乾かす。

この場は3号と10号に任せて2人は温泉の方へ行くと諦めて湯船に浮いているハラミと気持ちよさそうに浸かっている大河童(おおがっぱ)がいた。

2人はハラミの念力でお湯を掛けてもらい軽く汚れを落としてから温泉に入る。

陽葵(ひまり)「少し熱いけど気持ちいいね。」

大河童(おおがっぱ)「そうだろう。」

志乃(しの)陽葵(ひまり)の背中を見ていてその視線に陽葵(ひまり)が気が付く。

陽葵(ひまり)浜名瀬(はまなせ)さん何かあった?」

志乃(しの)「いや、沁みたりしてないか?」

陽葵(ひまり)「うん、大丈夫。」

志乃(しの)「上がったらもう一度薬を塗るぞ。」

陽葵(ひまり)「うん。」

ハラミ「俺のおかげでそれで済んだんだからな。約束忘れるなよ。」

陽葵(ひまり)「分かってるよ。高めの猫缶開けてあげるから。」

ハラミ「忘れるなよ。」

陽葵(ひまり)「しつこい。」

???「おや?先客かい?」

大河童(おおがっぱ)「おお、尾火(おび)の旦那。久しぶりだな。」

そこにいたのは片目の老いた妖狐が二本足で立っていた。

尾火(おび)河童(かっぱ)の坊主も相変わらずだな。」

大河童(おおがっぱ)「今、あんたの弟子の所に行こうと思ってたところでさ。」

尾火(おび)「鍋でも壊れたのか?」

大河童(おおがっぱ)「いや、そこの人間が俺らの川を妖怪から守るために戦ってくれてな。その時にこいつの短刀が折れちまったんだよ。」

尾火(おび)志乃(しの)達の方を見て驚いている。

尾火(おび)「お前、もしかして破魔凪(はまなぎ)か?」

志乃(しの)「久しぶりだな。」

陽葵(ひまり)「え。誰?知り合い?」

志乃(しの)「あの短刀の製作者だ。」

陽葵(ひまり)「ええー!」

大河童(おおがっぱ)「ガハハ!そんな偶然あるんだな。うん?ちょっと待て。尾火(おび)の旦那が引退したのは100年以上前だったよな?」

尾火(おび)「こいつの短刀を打ったのは230年程前だったか。初めは信じてなかったが本当に不老不死だったんだな。」

大河童(おおがっぱ)「不老不死?本当にそんな人間がいたんだな。」

尾火(おび)「その短刀少し見せてくれないか?」

志乃(しの)「今か?」

尾火(おび)「湯気があれど刀の状態は分かる。」

志乃(しの)「分かった。」

志乃(しの)は9号から短刀を受け取ると尾火(おび)に渡す。

尾火(おび)「これは、予想以上にポッキリいったな。」

志乃(しの)「すまないな。こいつには何度も助けられているが少し使い方が荒かった。」

尾火(おび)「いやいや、手入れも隅々まで行き届いていて大事にされている事はよく分かる。腰をやってしまって直せないのが残念だ。」

志乃(しの)「お前の弟子は直せるんだろ?」

尾火(おび)「そうだがこれは打ち直さないと無理だな。」

志乃(しの)「直らないと少し困るな。」

尾火(おび)「あの打刀と脇差はどうした?」

志乃(しの)「まあ、そっちを使っても良いが短刀の方が使いやすいんだ。」

尾火(おび)「折角赤鍛(あかがね)が打った一振なのにもったいないな。」

大河童(おおがっぱ)赤鍛(あかがね)って鬼鋼流(きこうりゅう)の始祖だったか?」

尾火(おび)「そうだ。赤鍛(あかがね)は鬼との混血だと言われて人間から忌避されていたがその腕は確かで誰も来ない山奥に籠っては認めたものにしかその腕を振るわなかったがある日から技術を残したいと弟子を取るようになった人物だ。わしの3代前の師匠がその機会に弟子入りしてな、、」

大河童(おおがっぱ)「こうなったら長い。のぼせる前に上がるぞ。」

志乃(しの)「年を取ると誰でも長話を話すようになるのか。」

大河童(おおがっぱ)「昔の旦那は違ったのか?」

志乃(しの)「私の知っているこいつは無口で人と喋るくらいなら火を見ているような奴だった。」

大河童(おおがっぱ)「はあ、今じゃ考えれねえな。」

尾火(おび)「槌を振るえなくなってから他の奴と交流する事だけが楽しみになったんだ。少しくらい付き合ってくれてもいいだろ。」

大河童(おおがっぱ)「聞こえてたか。」

尾火(おび)「お前はこれまでどうしていたんだ?教えてくれよ。」

志乃(しの)「昔は聞こうともしなかったじゃないか。」

尾火(おび)「年寄りの道楽だと思ってさ。」

志乃(しの)「私はお前より生きているんだが。」

尾火(おび)「細かい事は気にするな。」

それからしばらく会話をしていると陽葵(ひまり)がのぼせてきたので、志乃(しの)は9号にタオルを持って来てもらい、陽葵(ひまり)の背中に薬を塗ってから陽葵(ひまり)と共に着替えると大河童(おおがっぱ)達と共に鍛冶場に向かう。

尾火(おび)「戻ったぞ。」

???「師匠、お帰りなさい。お客さんですか?」

尾火(おび)「ああ。河童(かっぱ)は知っているだろ。それから、わしが昔刀を打った奴と、その弟子。連れてる猫又は弟子の式神だ。」

???「私は尾火(おび)の弟子の白焔(はくえん)といいます。えっと、そちらの方、人間ですよね?師匠が引退したのは100年以上前だったはずでは?」

尾火(おび)「こいつは不老不死で赤鍛(あかがね)とも顔見知りなんだ。」

白焔(はくえん)「は!?そんな人間いるんですか?もしかして師匠、ボケが始まってます?」

尾火(おび)「失礼な!おい、破魔凪(はまなぎ)。あれ見せてやれ。」

志乃(しの)「良いが。今は浜名瀬(はまなせ)志乃(しの)と名乗っている。そっちで呼んでくれ。」

尾火(おび)「分かった。浜名瀬(はまなせ)だな。」

志乃(しの)「ああ。」

志乃(しの)は9号に打刀と脇差を持って来てもらい白焔(はくえん)に渡す。

白焔(はくえん)「これは、確かに本物みたいですが刀を持っているだけでは?」

尾火(おび)「少し分解しても良いか?」

志乃(しの)「良いが、そこまでする事か?」

尾火(おび)「ボケたと言われたんだぞ。俺はボケてないと、こいつにきっちり教えてやる。」

志乃(しの)「お前だって最初は信じなかったじゃないか。」

尾火(おび)「そりゃあ、200年以上前に死んだ奴と顔見知りの人間とか信じられるか。」

志乃(しの)「そういうものだ。」

尾火(おび)「だがお前は(なかご)を見せてくれただろ。」

志乃(しの)「そうしないと打ってもらえそうになかったからな。」

尾火(おび)は刀を分解し(なかご)を見せるとそこには赤鍛(あかがね)の名の裏に為破魔凪(はまなぎ)作と刻んであった。

白焔(はくえん)破魔凪(はまなぎ)ってさっき師匠が呼んでいましたね。」

尾火(おび)「そう、これは堅物と呼ばれていた赤鍛(あかがね)がこいつに打った物だ。」

白焔(はくえん)「なら赤鍛(あかがね)の事、色々知っているんですよね。」

志乃(しの)「ああ。」

白焔(はくえん)「少し聞かせてくれませんか?」

尾火(おび)「まだ疑っているのか?」

白焔(はくえん)「はい、少し。だけど鬼鋼流(きこうりゅう)の始祖の話を聞きたいという気持ちの方が強いです。」

尾火(おび)「まあ、俺も昔はあまり話を聞かなかったからな。改めて聞きたいな。」

志乃(しの)「私は短刀を直してもらいたいんだが。」

尾火(おび)「打ち直しだろ。半年は掛かるんだから少しくらい誤差だ。」

志乃(しの)「半年掛かるのか?」

白焔(はくえん)「普通はそのくらいだ。そんな事も知らないのか?」

志乃(しの)「いや、あいつは1週間でやってくれたから今回もそのくらいだと思っていたんだ。」

尾火(おび)赤鍛(あかがね)ならあり得る話だな。」

志乃(しの)「半年か、、」

尾火(おび)「急ぎなのか?」

志乃(しの)「いや、あれば便利だが無いなら無いで戦いようはある。」

尾火(おび)「打刀はいらないんだったな。」

志乃(しの)「ああ。赤鍛(あかがね)のがあるからこれ以上はいいな。」

尾火(おび)「ちょっと待ってろ。」

尾火(おび)は鍛冶場の奥へ行くと一振の打刀を持って来た。

白焔(はくえん)「それ、師匠が最後に最高の物を作るって言って打ったやつですよね。」

尾火(おび)「これを短刀に加工する。」

白焔(はくえん)「は?何で。」

尾火(おび)「こいつは、この赤鍛(あかがね)の刀を超えたくて打った物だ。だが分かった。俺に赤鍛(あかがね)は超えれない。」

白焔(はくえん)「でも師匠。この刀の出来に満足していたじゃないですか。」

尾火(おび)「俺はこれを打つのに1年以上掛かっている。1週間じゃ無理だ。」

志乃(しの)「確かに私はこれを折って打ち直してもらったが初めから作るのとは違うんじゃないのか?」

白焔(はくえん)「打ち直しってのは一度溶かして鉄を鍛える事から始まる。初めから作るのと変わらないんだ。」

志乃(しの)「そうだったのか、そっちには疎くて変な事言った。すまん。」

尾火(おび)「いや、お前さんは悪くない。赤鍛(あかがね)がそれほどの人物だという事だ。」

白焔(はくえん)「一応ここも鬼鋼流(きこうりゅう)なんですよね。その技術はもう無いんですか?」

尾火(おび)「始祖である赤鍛(あかがね)は鬼の血が入っていて力が強く体力もあった。それを俺らは真似できなかったんだ。」

白焔(はくえん)「生まれから違うのであれば仕方ないんでしょうね。」

尾火(おび)「それでも同じような刀は作れる。違っていても良いさ。俺らは俺らができることをすればいい。」

白焔(はくえん)「はい。」

尾火(おび)「俺は外装を作る。お前は短刀に仕上げてくれ。1週間で仕上げるぞ。」

白焔(はくえん)「師匠もやるんですか?」

尾火(おび)「腰は使えんが俺でもまだできる事はある。」

白焔(はくえん)「分かりました。やりましょう!」

志乃(しの)「えっと。そこまでではないんだが、、」

白焔(はくえん)「師匠が腰を痛めてからここまでやる気を出すのは初めてです。破魔凪(はまなぎ)さんありがとうございます。1週間後にまた来てくださいね。」

志乃(しの)「え、あ、うん、、」

尾火(おび)白焔(はくえん)何やってる!準備しろ!」

白焔(はくえん)「はい!」

尾火(おび)白焔(はくえん)は既に志乃(しの)の声は聞こえておらず、作業に没頭し始めた。

大河童(おおがっぱ)「こんな尾火(おび)の旦那、初めて見る。」

志乃(しの)「昔に戻っただけだ。弟子の方も似ているな。」

陽葵(ひまり)「ねえ、浜名瀬(はまなせ)さん。前から思っていたんだけど破魔凪(はまなぎ)って何?」

志乃(しの)「私の昔の通り名だ。今は関係ない、忘れろ。」

陽葵(ひまり)「そう言えば黒歴史なんだっけ?」

志乃(しの)「本気で記憶消す事を考えた方が良いのか?」

陽葵(ひまり)「あ、嘘嘘。もう言わないから。」

志乃(しの)「そうしてくれ。するとしたらお前の霊力を封印してから高校生活の記憶ををまるっと消すか、私を別の人物に置き換えて印象を操作しなくてはいけない。どちらもめんどくさいんだ。」

陽葵(ひまり)「ならやらなきゃいいじゃん。」

志乃(しの)「それはお前次第なんだよ。」

ハラミ「そうなると俺はどうなるんだ?」

志乃(しの)「お前は普通の猫として暮らすか猫の国に戻さないといけなくなるな。陽葵(ひまり)の両親の記憶も操作しないといけないし、めんどくさいな。」

陽葵(ひまり)「いやいや、消す方に考えないで。」

志乃(しの)「次連絡なしに妖ノ郷(あやかしのさと)に入ったら本当に消すからな。」

陽葵(ひまり)「分かったよ。浜名瀬(はまなせ)さんは無理そうだからまこ姉にでも連絡して行こうかな。」

志乃(しの)「この前みたいに話している途中で切ったりするなよ。」

陽葵(ひまり)「あ、はい。ちゃんと最後まで話を聞いて行ってもいいか聞きます。」

志乃(しの)「来るなと言われたら諦めろよ。」

陽葵(ひまり)「う、だけど最後に来ても良いって言われたら?」

志乃(しの)「来るなと一言言われたらすぐに諦めろ。」

陽葵(ひまり)「分かったよ。意地悪。」

志乃(しの)「お前を守るためだ。それに勉強しなくていいのか?大学に落ちるような事があれば合格するまで妖ノ郷(あやかしのさと)に入らせないしあの札も使わせないぞ。」

陽葵(ひまり)「えー。」

志乃(しの)「受かればいいだけだろ。」

陽葵(ひまり)「むー。」

ハラミ「何か唸る事しかできなくなったな。」

大河童(おおがっぱ)「仲直りも出来たみたいだな。そろそろ帰るか?」

志乃(しの)「そうするか。」

陽葵(ひまり)「あ、私も何か打ってほしいんだけど頼んだら駄目かな。」

志乃(しの)「必要ない。」

陽葵(ひまり)「護身用にさ。浜名瀬(はまなせ)さんみたいな短刀欲しいよ。」

志乃(しの)「どうやって持ち運ぶんだ?今は銃刀法という物があるんだろ。」

陽葵(ひまり)「それもそうか、せめてハラミが幻覚使えたらな。」

ハラミ「お前が短刀を使って華麗に敵を倒す想像がつかないぞ。」

陽葵(ひまり)「練習すれば私だって。」

志乃(しの)「どちらにしろお前に短刀は向いていない。警察官になるなら警棒を習え。」

陽葵(ひまり)「似たようなものでしょ。」

志乃(しの)「用途が違う。」

陽葵(ひまり)「なら浜名瀬(はまなせ)さんが教えて。」

志乃(しの)「今は私も修行しているから時間が無いんだ。」

陽葵(ひまり)「いつなら良いの?」

志乃(しの)「さあな。」

陽葵(ひまり)「その修行っていつ終わるの?」

志乃(しの)「私も分からないから約束はできない。」

陽葵(ひまり)「むー。」

志乃(しの)「膨れるな。そろそろ日が暮れるんだから帰るぞ。」

陽葵(ひまり)「分かったよ。」

志乃(しの)達は河童(かっぱ)の川で大河童(おおがっぱ)と別れて妖ノ郷(あやかしのさと)に戻った。

樹霧之介(きりのすけ)の家に行くと樹霧之介(きりのすけ)風見(かざみ)が感じた妖気の正体を探りに行っていて、家にいたのは黒根(くろね)だけだった。

黒根(くろね)「帰ったか。」

志乃(しの)「ああ。」

黒根(くろね)「それで何故陽葵(ひまり)もおるんだ?」

陽葵(ひまり)「あ、えっと。えへへ。」

志乃(しの)「こいつまた勝手にここに来ていたみたいでな。河童(かっぱ)が私と間違えて連れて行っていたんだ。」

黒根(くろね)「まあ、志乃(しの)も来る度に叱りはするが対策はせんだからの。」

志乃(しの)「今度翠嶺町(すいれいちょう)の出入り口を山姥にハラミの妖力では通れないようにしてもらおうと思う。」

陽葵(ひまり)「それ決定事項なの!?」

志乃(しの)「言っても聞かないなら仕方ないだろ。」

陽葵(ひまり)「もう連絡せずに来ないって言ったじゃん。」

志乃(しの)「連絡すれば連絡した奴に入れてもらえばいいだろ。」

陽葵(ひまり)「そうだけど、、」

志乃(しの)「今回死にかけたんだから自重しろ。」

陽葵(ひまり)「う。」

黒根(くろね)「何があったんじゃ?」

志乃(しの)水熊(みずくま)が出たんだ。こいつもう少しで皮を取られそうになっていたんだぞ。」

黒根(くろね)「あいつか。大水が厄介だったな。」

志乃(しの)「今回は弱っていたからなかったけどな。」

黒根(くろね)「その割には遅かったの。」

志乃(しの)「短刀を折ってしまってな。河童(かっぱ)の知り合いの鍛冶師の所に行っていたんだ。」

黒根(くろね)「そう言や、前の水熊(みずくま)の時にも刀を折っておったの。」

志乃(しの)「逃げられそうになって判断を誤ったんだ。」

黒根(くろね)「その時の鍛冶師は赤鍛(あかがね)じゃったかの。」

志乃(しの)「その技術を継いだ奴に短刀を打ってもらったと言っただろ。河童(かっぱ)から紹介された鍛冶師がその短刀を打った奴の弟子だった。」

黒根(くろね)「おお、それは偶然じゃの。」

志乃(しの)「本当にな。」

陽葵(ひまり)「あの、私そろそろ帰るね。」

志乃(しの)「なら送るか。」

陽葵(ひまり)「いいよ。ハラミもいるし自分で帰れる。」

志乃(しの)「そうか。」

陽葵(ひまり)はハラミを連れて帰って行った。

黒根(くろね)「何かあったのか?」

志乃(しの)「死にかけていたあいつの気持ちも考えずに怒鳴った。」

黒根(くろね)「約束を守らないあいつも悪いが、お主も軽率だったな。」

志乃(しの)「だけど最後の方は元の調子を戻していると思ったんだけどな。」

黒根(くろね)「あいつはたまに自分の気持ちを隠す事があるからの。そこら辺はお主と似ておる。」

志乃(しの)「隠しきれてない事が多いけどな。」

黒根(くろね)「それでもお主は気づかんことの方が多いじゃろ。」

志乃(しの)「うるさい。」

黒根(くろね)「追わくんて良いのか?」

志乃(しの)「時間が解決してくれるだろ。」

黒根(くろね)「、、そうかのう。」

ここまで読んでいただいてありがとうございます。

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