3 僕から、この子へ。
それから1年半後、フィリップ邸リビング…
「ところでスティーブ…」
「ん…!?」
ある込み入った仕事に関する話のために父親から呼び出され、久しぶりに実家へ戻ったスティーブだったが、その話が終わり、二人で飲んでいた。
「ウララさん、だったっけ!?あの娘、いつ家に連れて来るんだ!?」
「ぶーーーーーーっ!!」
スティーブは思わず口に含んでいた物を吹き出した。
ちなみにフィリップもスティーブも飲酒の習慣は無い。従ってグラスの中身は果実水…ジュースだ。
「と…突然何言い出すの、父さん!!」
ゲホゲホと咳き込むスティーブ。
「だってお前、あの娘とは、そういう関係なんだろ!?私は全部お見通しだ。」
「何で知ってるの!?父さん本当に、ちゃんと仕事してるの!?」
スティーブへの勘当はとうに解けた。だが彼は自立する道を選んだ。それはウララの事も理由の一つだ。
ウララは…ともすればエミリーやライオスの事を思い出しては塞ぎがちになるスティーブに、実に辛抱強く寄り添ってくれた。互いへの感情は、既に同情と感謝ではない何かに変わっていた。
「しかし、お前が、あのナインの娘となぁ…母さんもあの娘に料理を仕込みたいと言っとる。」
あの肉か…
「で…どうなんだ!?」
「………」
両耳を下げて押し黙るスティーブ…
「お前…もしかして、未だにエミリーさんの事を引きずってるのか!?」
「それは無い!」
スティーブはぴしゃりと否定した。
「だったら何故…!?」
「ウララもエミリーの事を知ってるんだ。」
「………」
「だから、僕が何を言っても、ウララは『自分はエミリーの代わりだ』と思われるに違いない。」
スティーブは恐かった。段々とエミリーへの気持ちが薄れて行く事に…
「だがいつまでもこのままでいい訳も無いだろう。それじゃウララさんが可哀想だ。」
「そうは言うけどさ…それじゃあ、父さんは母さんに、何て言ってプロポーズしたの!?」
「え………!?いや……だが……その……」
これまで見たことも無いくらい狼狽するフィリップ。
「………どうしても、聞きたいか!?」
本当は何気ない質問だったが、父親の態度に却って興味が湧いてきた。スティーブは首を縦に振った。
「………そうか…なら、しょうがないな……」
本当は話したいの、父さん!?
"一緒に……共和国の、あの家で、暮らさないか!?"
「…なんか普通……。」
「そりゃないだろ!?ま、まぁ、確かにあの時は、母さんに断られた。種族の違いを理由に。」
「え!?それじゃあ、父さんはどうやって母さんと結婚出来たの!?」
「そのぉ………」
"おねがい、ふぃりっぷ……あなたの、わたしへの、さいごのまほうを……ちょうだい……!!"
「……母さんの方からアプローチされての、授かり婚……。」
「ごめん、何の参考にもならなかった。」
ていうか、授かり婚カップルが3組も出ているこの物語世界の男どもは、まともな求婚が出来んのか!?
※ ※ ※
スティーブが去った後のリビングで、フィリップはまだ飲み続けていた(ジュースを)。
「考えてみれば…」
フィリップはグラスの中身 (ぶどうジュース)をあおる。
「男にとって、好いた女に『僕のお嫁さんになって下さい』と言うという事は、
魔王を倒して勇者になる事と同じくらい、勇気の要る行為なのかもしれんな…」
グラスの底に残った液体 (ジュース)をクルクルと回す。
「結局これは、一人一人が答えを出さなきゃならん問題だ。
スティーブよ…お前はどうする…!?」
グラスの残りを飲み干し、ボトルから新たに(ジュースを)注ごうとしたが、思い止まる。これ以上 (ジュースを)飲んだら、明日に響く(夜中にトイレに起きて寝不足になる)。
「…ノンアルコールでやると、どうにも締まらんな………」
※ ※ ※
一方、久しぶりに実家の自分の部屋へ戻ったスティーブは、本棚から一冊の絵本を取り出した。
子供向けに書かれた、『境の村の英雄』。
その、最後のページ…
『フィリップとモリガンは、産まれた国や種族の事もあり、一度は引き裂かれました。
でも、二人の愛が奇跡を産んだのです。
二人は街の教会で結婚式を挙げ、
家族たちに囲まれて、今でも街で暮らしています。』
パタン…スティーブは絵本を閉じ、
「薄々、もしかしたらと思ってはいたけど…」
頭を抱えた。
「あれ、やっぱりそういう意味だったのか~~~…」
『二人の愛が奇跡を産んだ(物理的に)』




