4 エミリー
数日後…
「………以上が、『カメラ』による撮影から現像まで、一通りの手順になります。」
スティーブとウララの目の前には、エルフの貴族たちが居並んでいる。
王国のエルフの貴族たちから、『最近噂のカメラの事を知りたい』と、『ライトニングカンパニー』へとオファーがあった。
1年半前の来訪時に『カメラ』をお買い上げ頂いたおじいさま…伯爵が、向こうで色々パシャパシャ撮って回ったらしい。変化を嫌う彼等にも、少しずつだが変化が訪れていたのだ。
最初は、『営業の誰かを寄越そう』と考えていた。
だが、そこに伯爵から助言が入った。
『エルフの貴族は体面を重んじる』
つまりそれ相応の立場の者が来るべきだ、と。
そこでスティーブ工房長自らが説明に赴く事になった。彼らの変わらぬ高慢さには閉口する。
そして、そこに父さん…フィリップから助言が入った。
『製品を研究、開発、製造する能力と、それを他人に説明するノウハウとは違う』と…その後の出来事が前回のやり取りだ。
そこでスティーブは事前に、説明のための資料を念入りに作成し、想定される質問と、それに対する回答を作成し、じいや昔の冒険者仲間を観衆に何度も練習を行い、アシスタントとしてウララも連れてきた。そこには他にも理由があったけど…
「では、『スクリーンショットを撮られると魂を吸い取られる』というのは…」
「事実無根のデマです。『カメラ』の原理はほとんどが科学由来です。魂は科学の管轄外です。」
「ふむ…その『現像』と言ったか!?そこまで自分でやらなきゃならんのか!?」
「ジルコンファクトリーに輸送を委託して頂ければ、共和国の現像工房でさせていただきます。ただし、往復のお時間と諸経費はいただきますが…他にご質問はございませんか!?…では、実際に『カメラ』を試用していただきます。」
ふう…ようやく、ここまでこぎ着けられた。質問は全て事前の想定通り。口煩い父さんだと思ったが、やはり事前準備しといて正解だった。
それからエルフの貴族達は、部屋中にある物を被写体に、試用品のカメラで撮り始めた。ある者は無造作に、ある者はカメラを1分近く構えた末に…しかしスティーブが驚いたのは、現像してみるとどれも見事な出来映えなのだ。瞬間瞬間に被写体に差し込む光の具合まで緻密に計算し、一番良い一瞬を切り取ったかの様に…芸術に囲まれて育ったが故の審美眼とでも言うのだろうか…
「最後は人物を撮らせてもらおう。君たち、そこに並んで。」
エルフの一人がスティーブとウララを指名する。
「え…」「あ…はい。」
ぎこちなく距離を置いて並ぶスティーブとウララに、
「もっと近づいて。」
エルフの貴族たちはニヤニヤ…いや、ニコニコして2人へレンズを向ける。永遠に若いエルフ。現在の妻君に落ち着く前に、妖精界とやらで何人ものエルフの姫君と浮き名を流した強者どもだ。二人の関係なぞ、とうにお見通しだった。
パシャリ!
当然ながら、2人のSSも良い出来だった。
(思った以上に好意的だったな…やっぱりエルフ達にも変化が訪れたんだろうか…そもそも…
説明会の場所として、ここを指定するくらいだから…)
窓の外に広がるのは、『迷ひ家の村』…ウララの産まれ故郷でもある。彼女にとっては里帰りでもあった。
その後、何名かと購入契約が結ばれ、エルフの貴族たちは村を後にし、スティーブとウララはその夜、ナイン村長夫妻ーウララの両親からささやかな歓迎会を開いてもらい、村長宅で一泊した。
歓迎会には村のハーフエルフ達も大勢参加したが、この村に来ているはずの、『あの2人』とは、とうとう会えなかった。
※ ※ ※
翌朝…
スティーブとは別行動を取ったウララは、村の中を見て回った。
(この3年で色々変わった所があるけど、一番の違いは、やっぱりあれかしら…)
村長宅に隣接して立つ、立派な『養生所』。そういう名目の宿泊施設。イナ母さんの治癒魔法を受けに来た、エルフの貴族にお泊まりいただくための…
昨日、説明会をしたのもこの建物だ。お陰で窓の外から眺める養生所の前は、『ジルコンファクトリー』製ツァウベラウトの展示会の様だった。中にはツァウベラッドも混じっていた…あれを乗り回しているお貴族様もいるのだ。
養生所と村長宅との間には、渡り廊下が作られていた。これでイナ夫人は、雨の日でも濡れずに養生所へ行ける。
「今日もよろしくお願いします、イナ先生。」
渡り廊下の村長宅側のドアが開き、そこからイナ夫人とともに、白衣を着たヒューマンの女性が歩いてきた。
エミリーだ。
「…」
「………」
向こうもウララに気づき、目が合う。
※ ※ ※
1年半前…
ウララは冒険者ギルドを訪れ、そこにいたスティーブに、ライオスから呼び出しがあった事を告げた。結局それが、2人の決闘に繋がったのだが、エミリーもその場にいて、ウララの話を聞いてしまった。
ライオスとスティーブはただならぬ事をしようとしているに違いない。分かってはいたが…
エミリーはスティーブが去った後をずっと見つめ………結局、何も出来ずに、俯いてギルドへと入っていこうとした。そこへ…
「冒険者とは、塔の上で、王子様の助けを待つお姫様の事を言うのですか!!」
ウララの言葉が、エミリーの背中に刺さった。
跳ねるように顔をあげると、エミリーはツカツカとウララの前へと歩み、
パシン!
ウララの頬を平手打ちし、ウララはそれを受け止め、
またエミリーはツカツカと、どこかへ歩き去った。
あんな失礼な女に聞くまでもない。ライオスとスティーブの事は自分が一番よく知っている。2人が何かするなら、場所はあそこに決まっている………
※ ※ ※
エミリーは渡り廊下の途中で、ウララはその外で、目が合い、
エミリーはウララに一礼し、
ウララは礼を返した。
そこへ…
「大変だ!誰かー、誰かーーーーっ!!」
「村長さんを呼んでこーーーい!!」




