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LightningS ~僕はほんの少し魔法が使える・第三部~  作者: 白洲詠人
遠雷 ~The End of "LightningS"~
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2 スティーブ

『カメラ』の改良が進み、シャッターを切る一瞬で撮れる様になると、スティーブ工房長は事ある毎に、工房内を『カメラ』に納めてまわった。


図面を描いている研究者を、『カメラ』を作っている工員を、そんな何気ない日常を、スティーブは忙しいはずの仕事の合間に撮って回った。


(売り物のはずのカメラとフィルムを、何故自分で消費してるのか…)


だが、工房の廊下に時折貼り出されたそれの周りに、休憩中の工員が集まって談笑している姿が度々見られた。


ある日、スティーブはとうとう、仕事中のウララにも『カメラ』を向けてきた。


「な…何ですか、工房長、恥ずかしい………」


「あー、いいから、そのままそのまま…」


「前から申し上げようと思っていたのですが、これは、商品の無駄遣いでは無いんですか!?」


「いいからいいから。」


撮られたSSは、『お父さんにでも送ってあげるといいよ。』と言って、手渡された。しょうがないので言われた通り手紙を添えて『迷ひ家の村』の父親へ送ると、すぐにナイン父さんから返事が来た。


『手紙くれて嬉しいよ。SS送ってくれて嬉しいよ。元気そうでよかったよ。今度いつこっちに帰れるんだ!?』


そういう内容の事がつらつらと書かれていた。あの筆無精の父さんが…それに、父さんはその前半生の不遇さから、滅多に笑わない人だったが、この手紙の中の父さんは、間違いなく喜んでいる。あの父さんを、笑顔にしたというのか…


『本当に不思議な人………』


そして、ウララの当初の心配をよそに、SSと『カメラ』は、徐々にではあるが人々に受け入れられて行った。最初は冒険者に、そして、一般人の間にも、様々な記念日に街のスタジオでSSを撮る習慣が根付き始めた。『カメラ』は、街中のスタジオは、そしてスティーブは、街中の人々を笑顔にした。


『すごい人………』


     ※     ※     ※


冒険者としてのスティーブ工房長は、4人のメンバーとパーティーを組んでいた。エルフとヒューマンの男性と、ハーフエルフと、ドワーフの女性。『迷ひ家の村』に来た時にも、彼等には会っている気がしたが、微かな違和感もまた、ウララは感じていた。


ある日、『カメラ』の開発がある程度進み、『ここから先は現在の技術者に任せていいだろう』と言う事になり、パーティーは解散される事となった。

スティーブはその解散パーティーのために夕方から冒険者ギルドへ行き、ウララは工房に残って仕事をしていた。

辺りがすっかり暗くなる頃、仕事を終えて帰宅するウララが冒険者ギルドの前を通った時、


「ああっ、嬢ちゃん、ちょうど良かった。」


ギルドの『酒場』から声が上がった。スティーブのパーティーメンバーで、『スカーフェース』という通り名の粗暴な男。


「どうかしましたか!?」


ウララが『酒場』に入ると、そこにはスティーブがテーブルに突っ伏していた。


「済まねぇ。飲めねぇとは聞いてたが、ここまで酒に弱ぇなんて…最後だからって、無理矢理飲ませちまった。

俺たちの『ツァウベラウト』を貸すから、あんた、連れてってくれねぇか!?」


『酒場』の中では、普段鎧を着ているエルフの男と、ハーフエルフの女弓兵と、ローブのドワーフの女性もあわてふためいていた。


「は…はい…」


スカーが表で『アイテムストレージ』から『ツァウベラウト』を出し、肩を担いでスティーブを助手席に乗せようとする。その時…


「あ~~~~~~~っ、お前らぁぁぁぁぁぁぁ~~~!!!」


不意にスティーブが、呂律の回らない舌で叫び、焦点の合わない目の前を指差す。その先にいたのは………深紅の鎧に身を包み、両耳が隠れるまで髪を伸ばした男性と、白いローブの少女。


「やべっ!!嬢ちゃん、そいつ、早く連れてってくれ。」

スカーが短く叫び、それから鎧とローブの男女に向かって、

「お前ら、さっさと中に入れ!!」


男は無表情で、女は困惑した表情で、そそくさとギルド内へ入って行き、ウララはスティーブを乗せた『ツァウベラウト』で、その場を後にした。


     ※     ※     ※


ウララが運転する『ツァウベラウト』の中…


「あいつらはぁ…ライオスとエミリーは…僕のパーティーメンバーだったんだ…」


聞かれてもいないのに、助手席のスティーブは喋り始めた。


「でもライオスは、エミリーの事が好きで…エミリーも多分、あいつの事が好きで…」


そして多分、スティーブ工房長も、エミリーさんの事が好きなのね………


「ライオスはエミリーに言ったんだ…『あいつはお坊っちゃんで、ハーフエルフだ。あいつと一緒になったらお前は絶対苦労する。だから俺を選べ』って…それで、僕の前で、き…キスを………」


「なんですかその人、ひどい!!その女の人も、そう言われるまで全然、自分の意思を示して無かったんですか……!!」

それがウララの本心だった。


「………でもあいつらは、僕の仲間で、大事な友達で、幼馴染みなんだ………」


「………」


「僕が王国で冒険者の修行をしてた時、エミリーのお父さんが死んで、お母さんが病気になって…冒険者になるしかなかった彼女に、ずっと寄り添ってたのが、ライオスだったんだ…


僕はエミリーが一番辛かった時に、そばにいてあげれなかったんだ……嫌われて当然だよ………」


「そんな………!!ご両親の身に不幸が訪れるなんて、誰にも予想出来なかったじゃないですか……」


だがこれで、ウララが感じていた違和感の理由が分かった。最初に『迷ひ家の村』で出会った時、スティーブと一緒にいたのは、スカーと呼ばれるあの男じゃなく、ライオスとエミリーだった。今はっきりと思い出した。そして、あの右端が折られたスクリーンショット(SS)にスティーブと一緒に写っていたのは、あの二人だ。


「父さんだって………」


急に話の方向が変わった。スティーブの父で、ウララの父ナインの、冒険者の師匠にあたる人物、フィリップ。『境の村の奇跡』の英雄…


「父さんは、小っちゃい頃の僕に言ったんだ…『今のお前の姿を、何かに描き留められたらなぁ』って………だから僕、ずっと頑張ってきたのに…」


スティーブは賢い子供だった。だから理解していたのだ。父親の何気ない言葉を………


「それなのに、父さんは僕が冒険者になるのを反対して、僕は家出して、ようやく完成した『カメラ』も、ガラクタ呼ばわりされて、勘当されて………」


「………」


「僕はどうしようもない馬鹿だ………せっかく『カメラ』を作ったのに、それでいっぱいSSを撮りたい人たちも、それを一番見てもらいたい人も、みんな僕の側からいなくなっちゃった………」


全てが繋がった。あの右端を折られたSS、父親と疎遠の工房長、事ある毎にSSを撮って回ってたスティーブ工房長、私のSSを撮り、父親に送るように言ってくれたスティーブさん………


『寂しい人、可哀想な人、不器用な人』………


翌朝、二日酔いで痛む頭を押さえながら、スティーブはウララに、

「昨日は世話かけてごめん。ところで僕、酔っぱらって何か変な事、言わなかった!?」

と訊ねられたが、ウララは、

「いえ、何も………」

と、答えた。


     ※     ※     ※


そしてスティーブさんはライオスと決闘し、ライオスは自首。

スティーブさんはお父様とよりを戻し、

3人で撮った思い出のSSを更に1/3に折り、小型額縁(スタンド)ごと引き出しにしまい、鍵をかけた…


「SSは、こうするための物だったんだ…

辛かった昨日を、過去へ…

幸せだった今日を、永遠の記録し…

明日へ…歩いていける様に………

ハハハ…バカだよなぁ………自分で作っておきながら…気づけよ………

気づけよ………本当にもう………」


スティーブは目の前で組んだ両手を震わせて呻いた。が…


「もうやめて下さい!!」


ウララは大声で叫んだ。


「…あなたはとても優しい人、そして強い人です!!」


それが出来るスティーブはとても強い人、そして優しい人。それを叶えるSSは、『カメラ』は、とても優しい技術……


「だから………もうそんな事、仰らないでください………」


顔をあげたスティーブの虚ろな目が呆然としている。いつの間にか組まれた彼の両手の上から、ウララは自身の両手で握り込んでいるのに気づいた。


「し………失礼しました………!!!」


あわてて両手をほどき、後ろを向くウララ。だが、羞恥で垂れ下がった彼女のエルフ耳は、先端まで赤く染まっていた。


呆然とするスティーブも、彼女に握られていた両手から、不思議な温みが流れ込んでくるのを感じていた。



ライオスとエミリーのSSは、引き出しの中にしまわれた。


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