1 ウララ
スティーブは1/3にした『スクリーンショット』を小型額縁に入れなおし…
しばし見つめた上で、
それをデスクの一番上の引き出しにしまい、
ガチャンと、鍵をかけた。
※ ※ ※
「よろしいのですか…!?スティーブさん…」
傍らでそれを見ていたスティーブの秘書…ハーフエルフのウララは訊ねた。
「いいんだ……もっと早くに、こうすべきだったんだ…」
スティーブの瞳からは、今しも涙が零れ落ちそうだった。
「SSは、こうするための物だったんだ…
辛かった昨日を、過去へ…
幸せだった今日を、永遠に記録し…
明日へ…歩いていける様に………」
「………」
「ハハハ…バカだよなぁ………自分で作っておきながら…気づけよ………
気づけよ………本当にもう………」
※ ※ ※
『何だか冴えない人』
それがナインとイナの娘、ウララの、スティーブへの第一印象だった。
初めて出会ったのはもう3年も前、彼女の故郷である『迷ひ家の村』。父親であるナイン村長の、冒険者時代の師匠ー英雄と呼ばれている人物の、息子らしい。
でも、王国で何かヘマをやらかして、その罰で防人としてこの村へ来させられたそうだ。
何だか頼りなくて、冴えない人。父親同士が師弟関係なのだ。幼い頃に会ってた可能性もあるが、さすがに記憶にない。
その1年後、ウララは、村長は弟が継ぐんだろうからと、自身は村を出て働く事を選ぶ。しかも『パイライトカンパニー』への紹介状を書いてやると言う父親の言葉すら拒み…自分が世間知らずだった事を思い知るのは、共和国の街で、ハーフエルフの自分を雇ってくれる者が、誰もいなかった時だった。
結局、新しく出来た『ライトニングカンパニー』なる工房が、工房長秘書を募集していたため、彼女は職を得ることが出来た。その工房長が、あのスティーブだという事は、採用された後で初めて知った。
※ ※ ※
『忙しい人』
周りから教わりながら、秘書の仕事を徐々に覚えて行ったウララの、スティーブへの印象が、これだった。
彼は経営者で、研究者で、そして冒険者でもあった。彼が復元した太古の技術、あるがままの姿をそのまま描き留める魔道具、『カメラ』と、これによって描かれた生き絵、『スクリーンショット』。その更なる研究、開発のために他の工員とともに研究室に籠り、冒険者を従えて遺跡を回っていた。
『突拍子も無い、夢みたいな話を。』
売れるとは思わなかった。
彼はある日、ドワーフの若夫婦の『SS』を撮った。タキシードとドレスを着た男女。
「何だか恥ずかしいだ…」
「動かないでねー、そのまま後10分。」
撮影に時間がかかり、カメラの前で長時間じっとしていなければならないらしい。
脇の方で老婆に抱かれた赤ん坊が、そんな2人を見てキャッキャとはしゃぎ、
「父ちゃんと母ちゃん、綺麗ね。大人しく待ってましょうね。」
老婆が赤ん坊をあやした。
スティーブの幼なじみの、ハロルド。授かり婚で、式を挙げなかったらしい。そして彼は撮影技師で、2人のSSは、これから作られる彼のスタジオに、サンプルとして飾られるらしい。
(こんな物にお客さんが来るのだろうか)
早々に次の就職先を探すなり、村へ帰るなりした方がいいのでは。本気でそうも思ったが、
「綺麗…これが本当におらだか…!?」
「スティーブあんがとな。こりゃ一生の記念になるた。」
出来上がったSSを見て、2人は心底喜んでいた。
「ハハハ…これからはお前が、これを撮っていく事になるんだぞ。」
スティーブは職を失ったハロルドに、新たな仕事を与えたらしい。2人の、いや、その母親と子供を加えた一家に、スティーブは笑顔をもたらしたのだ。
『不思議な人』
ウララはそう思った。と、同時に、彼が何をしたいのかが、何となく分かった様な気がした。
※ ※ ※
工房長が遺跡探索に出掛けた、ウララ1人の工房長室。
スティーブのデスクには、SSを飾る小型額縁が置かれていた。中に入っていたのは、男女とおぼしき2人の人物の、ぼんやりしたSS。左に立っているのはスティーブだろうか。右の椅子に座っている女性は誰だろう…ウララの知る限り、現在彼の周囲に女性の陰は無い。それに、これは何だか不自然に縦に長い。
どうせスティーブは当分帰らない。意を決して小型額縁を開けてみると、案の定それは右側1/3が折られており、広げてみると、そこにはもう一人、男性が立っていた…
(見なかった事にしよう…)
ウララは注意深く、SSを元に戻した。




