第4話:有栖川麗司の授業
【場面】
私立清風女子高等学校
【登場人物】
主人公……宮本宗助
教師……有栖川麗司
生徒……北村芽衣〈メイ〉
生徒……栗原由衣〈ユイ〉
生徒……津崎聖子〈ショーコ〉
生徒……渡会遥香〈ハルカ〉
教師……広瀬美咲
教頭……迫田武弘
校長……浜口敏行
【その他】
「」は声に出したセリフ、()は心の声です。
ト書き1つ=1コマを想定して書いていますが、必要に応じて分割してください。コマ割りや間の取り方は製作者様の判断にお任せします。
ト書き1
夜、麗司の自宅アパートの書斎。麗司が革張りの一人掛けソファに座り、教育関係の本を読んでいる。書棚には大量の本が収められている。
ト書き2
本に目を落とす麗司のバストアップ。
麗司
(清風女子高校……)
ト書き3
麗司の回想。生徒たちが一斉に横を向いた場面を描写。
麗司
(俺がこれまで指導してきたのは、平均以上の学力の生徒だけ)
ト書き4
麗司の回想。生徒たちが教室を出ていった場面を描写。
麗司
(以前のやり方は通用しない)
ト書き5
麗司の顔のアップ。
麗司
(修正が必要だ)
ト書き6
翌朝。一時間目の授業は数学。麗司が三年三組の教壇に立つ。
ト書き7
生徒たち、ひそひそと話す。
生徒
「何で来てるのよ……」
ト書き8
教室の前、麗司から離れて立つ宗助、額に汗を浮かべて考える。
宗助
(どうなるんだ……)
ト書き9
宗助の回想開始。今朝、麗司とともに校長室に呼び出され、話したことを思い出す。浜口は机に座り、宗助と麗司がその前に並んで立っている。
宗助
「副担任……ですか?」
浜口
「うむ」
ト書き10
浜口視点。宗助と麗司を描写。
浜口
「本来は有栖川君を担任、宮本君を副担任にするつもりだったんだが……本人がどうしてもと言うのでね」
ト書き11
宗助、麗司に視線を向ける。麗司は変わらず前を向いている。
浜口
「もう一つ」
ト書き12
浜口、机の上で手を組んで話す。
浜口
「有栖川君には三年三組の五教科全てを担当してもらおうと思っていたが、社会科は君にお願いしたいらしい」
ト書き13
宗助、浜口に尋ねる。麗司が前を向いたまま答える。
宗助
「け、けど! 僕の授業は駄目だって――」
麗司
「もちろん、俺がサポートする」
ト書き14
麗司、宗助に不敵な笑みを向ける。
麗司
「それが副担任の仕事だからな」
ト書き15
回想終了。宗助視点で生徒たちを描写。全員、不信感を滲ませた目で麗司を見ている。
宗助
(昨日の件で、生徒たちの好感度はゼロ……)
ト書き16
麗司、教壇に両手をつく。
宗助
(有栖川麗司……この状況で、どう動く?)
ト書き17
麗司、にこやかな笑顔で生徒たちに話しかける。
麗司
「みんな、数学は嫌いか?」
ト書き18
動揺する生徒たち、ざわざわと騒ぎ始める。
宗助
(な……)
ト書き19
メイ、頬杖をついて答える。
メイ
「嫌いに決まってんじゃん」
ト書き20
麗司、メイに笑顔を向ける。
麗司
「北村か。正直だな」
ト書き21
麗司、生徒たちに話しかける。
麗司
「他にも、数学が嫌いな者がいたら手を上げてくれ」
ト書き22
生徒全員が手を上げる。
麗司
「なるほど。みんな嫌いか」
ト書き23
麗司、宗助に笑顔を向ける。
麗司
「宮本先生は?」
宗助
「えっ?」
ト書き24
麗司の顔のアップ。笑顔を浮かべている。
麗司
「高校生だった頃のことだよ。覚えているだろう?」
ト書き25
生徒たちの視線が宗助に集まる。宗助、冷や汗を浮かべる。
宗助
「え……えっと……」
ト書き26
宗助、観念して白状する。
宗助
「はい……嫌いでした」
ト書き27
生徒たち、どっと笑う。
ト書き28
麗司、生徒たちに目を向け、話しかける。
麗司
「宮本先生まで嫌いだと言うなら仕方ない。今日は教科書を使わずに勉強しよう」
ト書き29
ユイ、不安げな表情で尋ねる。
ユイ
「教科書を使わないで、どうやって勉強するの?」
ト書き30
麗司、ユイに笑顔を向ける。
麗司
「栗原。いい質問だ」
ト書き31
教壇に両手をついて話す麗司の背中から、生徒たちを描写。
麗司
「俺が即興で問題を出すから、みんな、解いてみてくれ」
ト書き32
生徒たち、真剣な目で麗司を見る。
麗司
「それじゃ、一問目――」
ト書き33
麗司、黒板に『2×7=』と書いて、生徒たちに目を向ける。
麗司
「みんな、これ解けるか?」
ト書き34
生徒たち、どっと笑う。
生徒たち
「当たり前じゃん!」
ト書き35
麗司、宗助に目を向ける。
麗司
「宮本先生は?」
宗助
「そ、それくらいなら……」
ト書き36
麗司、生徒たちに目を向ける。
麗司
「そうだ。宮本先生と勝負してみないか?」
ト書き37
メイ、笑いながら答える。
メイ
「ウチらが先生に勝てるわけないって!」
ト書き38
麗司、にやりと笑う。
麗司
「分からんぞ」
ト書き39
麗司、生徒たち全員に話しかける。
麗司
「宮本先生が間違えた問題を、お前たちの誰か一人でも正解できたら、お前たちの勝ち」
ト書き40
麗司、宗助に目を向ける。
麗司
「逆に、お前たち全員が間違えた問題を宮本先生が正解できたら、お前たちの負けだ」
ト書き41
麗司、生徒たちに笑顔を向ける。
麗司
「どうだ? やってみないか?」
ト書き42
生徒たち、大きな声で返事をする。
生徒たち
「やるやる!」
「先生! ウチらが勝ったら、全員にマッサージしてね!」
ト書き43
宗助、冷や汗を浮かべて答える。
宗助
「わ……分かった。手加減しないぞ」
ト書き44
麗司、黒板をバンと叩く。
麗司
「決まりだな! みんな、頑張れよ!」
ト書き45
宗助視点。次々と問題を出していく麗司を描写。
宗助
(この人……凄い)
ト書き46
宗助視点。真剣に計算をする生徒たちを描写。
宗助
(勉強嫌いのこいつらが、夢中になって解いている)
ト書き47
小さく震える宗助。
宗助
(これが……有栖川麗司の授業!)
ト書き48
麗司、黒板をバンと叩き、宗助に話しかける。
麗司
「宮本先生! では、この問題の答えを言ってみてくれ!」
ト書き49
宗助、計算用紙を片手に持ち、自信に満ちた表情で答える。
宗助
「っと……48です」
ト書き50
麗司、にやにやしながら生徒たちに目を向け、話しかける。
麗司
「みんな、35問目にしてチャンス到来だぞ!」
宗助
「えっ? 間違ってました?」
ト書き51
麗司視点で生徒たちを描写。生徒たち、ざわざわと騒ぎ出す。
麗司
「誰か一人でも正解できたら、お前たちの勝ちだ!」
ト書き52
メイとユイ、大声で叫ぶ。
メイ
「先生! 12でしょ?」
ユイ
「78だって!」
麗司
「違う!」
ト書き53
生徒たちが口々に間違った答えを言う中、ショーコが小さく手を上げる。
※セリフはなく、『35?』『違うって』などといった書き込みのみ
ト書き54
麗司、にやりと笑う。
麗司
「津崎……分かったのか?」
ト書き55
ショーコ、目を伏せて小さな声で答える。
ショーコ
「マイナス48です……」
ト書き56
静まり返る教室。麗司がにいっと笑う。
ト書き57
麗司、生徒たちに言う。
麗司
「正解だ! やったな!」
ト書き58
教室が歓喜に包まれる。
ト書き59
ショーコの両隣の女子が、ショーコの肩に手を乗せて話す。ショーコは照れくさそうに下を向く。
女子1
「ショーコ! 凄いじゃん!」
女子2
「これでウチらの勝ち――」
麗司
「まだだ」
ト書き60
麗司、時計を指す。
麗司
「あと十分。俺は問題を出し続ける」
ト書き61
麗司、生徒たちに話しかける。
麗司
「残り時間で宮本先生が勝てば、一勝一敗。引き分けだ」
ト書き62
麗司、宗助に顔を向ける。
麗司
「宮本先生、いいですね?」
宗助
「わ……分かりました!」
ト書き63
麗司が問題を出し続け、宗助、生徒たちが答える。
※時間経過
ト書き64
麗司、ルートが入った複雑な計算式を黒板に書き、バンと叩く。
麗司
「最終問題! 落とさなければお前たちの勝ちだ!」
ト書き65
麗司の視線の先。宗助が必死に計算をしている。
麗司
「宮本先生! 答えは出たかな?」
ト書き66
宗助、顔を上げて麗司に言う。
宗助
「できました!」
ト書き67
麗司、宗助の答えを確認する。
宗助
「ど……どうでしょうか?」
ト書き68
麗司、にやりと笑って振り返る。
麗司
「みんな! 宮本先生は正解だぞ!」
ト書き69
生徒たち、ざわつき始める。
麗司
「正解者がいなければ宮本先生の勝ち! 勝負は引き分けだ!」
ト書き70
ショーコの隣に座る女子、ショーコの肩に手を乗せて尋ねる。
女子1
「ショーコ! 何とかならないの?」
ト書き71
ショーコ、申し訳なさそうに答える。
ショーコ
「ル……ルートの計算のやり方、忘れちゃった……」
ト書き72
メイが頭を抱え、ユイが肩を落とす。その背後で一本の手が上がる。
メイ
「どうしよう! あんなの分からないよ!」
ユイ
「でも、ショーコができないんじゃ、誰も――」
ト書き73
生徒たちの目が、手を上げた生徒、ハルカに集まる。
ト書き74
麗司、腕を組み、にやりと笑う。
麗司
「ほう。渡会か」
ト書き75
麗司、黒板を指差す。
麗司
「では、前に来て書いてみてくれ」
ト書き76
ハルカ、眉をひそめる。
ハルカ
「ここで答えるだけじゃ、駄目ですか?」
麗司
「当たり前だ。勝利の瞬間は劇的じゃないとな」
ト書き77
麗司、宗助に目を向ける。
麗司
「宮本先生に見せてやれ」
ト書き78
教室中が静まり返る中、ハルカが溜息をついて立ち上がる。
ト書き79
生徒たちの目が集まる中、黒板の前に進み出る無表情のハルカを横から描写。
ト書き80
ハルカ、チョークを握る。
ト書き81
黒板に計算過程を書いていくハルカを後ろから描写。
ト書き82
ハルカ、振り返って麗司に問う。
ハルカ
「合ってますか?」
ト書き83
麗司、ハルカに笑顔を向ける。
ト書き84
麗司、振り返って宗助に言う。
麗司
「宮本先生。残念だが、今日の昼休みは諦めてくれ」
ト書き85
麗司、振り返って生徒たちに言う。
麗司
「お前ら、好きなだけ宮本先生をこき使っていいぞ」
ト書き86
生徒たち、きょとんとした顔で宗助を見る。
生徒たち
「それじゃ――」
ト書き87
一瞬の間を置いて、教室が歓喜に包まれる。
ト書き88
宗助視点。喜び合う生徒たちの中を、無表情のハルカが自分の席へ戻っていく。
宗助
(渡会……)
ト書き89
宗助視点。席に座ったハルカ、手に顎を乗せ、窓の外をぼんやりと眺める。
宗助
(お前、どうして……)
ト書き90
廊下。窓の隙間から、浜口と迫田が顔を覗かせ、教室内の様子を見ている。
迫田
「校長。これは――」
浜口
「うむ。想像以上だね」
ト書き91
夕方の清風女子高の校舎を描写。
ト書き92
放課後の職員室。宗助の隣に座る麗司、宗助に話しかける。
麗司
「宮本先生。疲れたかい?」
ト書き93
宗助、うんざりとした目で麗司を見る。
宗助
「あ、当たり前ですよ! 三十人もマッサージしたら、筋肉痛で――」
麗司
「渡会はいたかな?」
ト書き94
宗助、目を伏せて答える。
宗助
「い、いえ。あいつは、昼休みはどこかに行ってました……」
ト書き95
麗司、くくっと笑う。
ト書き96
麗司、宗助から視線を外し、前を向く。
麗司
「渡会遥香。父は財務省に勤務する国家公務員。母は国立大学教授。姉は東京大学法学部に籍を置く……絵に描いたようなエリート一家の娘だ」
ト書き97
麗司、宗助に目を向ける。
麗司
「そしてあの子も、県下ナンバーワンの私立中、明峰中出身」
ト書き98
麗司、宗助に顔をぐぐっと寄せる。
麗司
「そんな子が、なぜ清風にいるのか……疑問に思ってるね?」
ト書き99
宗助、俯いて頷く。
ト書き100
麗司、頭の後ろで手を組み、背もたれに体を預ける。
麗司
「何にせよ……彼女の抱えている闇に踏み込むつもりなら、覚悟が必要だ」
ト書き101
麗司、にいっと笑う。
麗司
「中途半端な気持ちでは、手を出さない方がいい」
ト書き102
宗助、引き締まった顔で、無言で麗司の顔を見つめる。
ト書き103
並んで座る二人の元に、教頭の迫田がやってくる。
迫田
「おお、丁度いい。二人揃ってるね」
ト書き104
麗司が振り返る。
麗司
「丁度いいとは?」
ト書き105
迫田、笑顔で答える。
迫田
「校長が呼んでるんだよ」




