第11話 ソーシャルハッキング
「それで、次のステップってのはどうすりゃいいんだ?」
「その前に訊きたいんだが、俺達を奴隷にしようとした人身売買組織は、上の組織の子飼いだよな?」
「そうだな」
「実入りの良い仕事斡旋の掲示板運営もそうだな」
「噂だが、そうだ」
「元締め! うちに隠してたの!? タイト、殺しちゃってもいい?」
「マイラ、待て。落ち着け。これからの作戦にはこいつらが必要なんだ」
「おい、テメェが何を考えてるか知らねぇが、上の組織に喧嘩売ったらマジでヤバいことになるぞ」
「そこは判らないようにやるさ。まずは繋がりのある上の組織の奴に誕生日や記念日、家族の誕生日などを訊き出せ。本人には訊くなよ。こう言うんだ。元商人の奴がマフィアに入って、上得意様への付け届けの贈り物は商売の基本と言ったってな」
「ほう、それなら。子供の誕生日、結婚記念日、親の命日まで、何でも訊けるってわけか」
「うち、解っちゃったんだよね! その日付が合言葉の数字なんだってば!」
これをソーシャルハッキングという。
コンピュータウィルスだけがハッキングではない。
誕生日などをパスワードにする危険性がこれだ。
この世界にそういう犯罪が少なくて助かった。
「確かにそれなら、口止めも簡単だな。サプライズだから、本人に訊かれたことは内緒にしとけって言えばいい」
「口止めは期待してないが、やっておけば発覚の危険性が減るから、やっとけ」
「しばらくは上納金が要るぜ」
「魔道具を売り捌けば問題ないはずだ」
俺は魔道具を贈り物として持って行くことにした。
その魔道具には魔力波長を記憶する機能がついている。
簡単なハッキングというのはシンプルなもので、だからと言って効果がないとは言えない。
「こいつの頭はどうなってやがる! マイラ、上玉を捕まえたじゃねえか!」
「へへん、うちのダーリン、マジで超すごいんだから!」
「マイラ、すまねぇ。掲示板がヤバいって情報を伝えなかったのは俺のミスだ。それに、救出に行かなかったのも、すまねぇ」
「今回はダーリンに免じて許してあげるけど、次やったらマジでぶっ飛ばすから!」
上位組織の誰かひとりの魔法ネットにアクセス成功が第一段階だ。
次に、そいつに成りすまして、俺が入れない掲示板で情報を集める。
情報が集まったら、偽情報などを流して、裏切り者を匂わせ、内部抗争に発展させる。
俺は、記録した魔力波長のデータは記録した本人しかアクセスできないだろうと考えた。
まだ確かめてはいないが、やってみることにした。
#include <stdio.h>
#include <stdlib.h>
void main(void)
{
system("dir"); //ディレクトリの中身表示
}
結果はずらずらと『.c』の今まで作ったソースファイルと、魔力波長のバイナリファイル。
そして、まだ不明なファイルが表示された。
AIは神へ日本のパソコンのOS知識を与えたらしい。
魔法システムは魔法生物みたいで、まだ解析してないが、見慣れた仕様なら問題ない。
判ったかのは俺のディレクトリ名が『カニキクカ』ってことだ。
他人のディレクトリ名までは知らんが、簡単に解決だ。
さっきのプログラムを魔道具にして各自に実行して貰えば良い。
マイラにやってもらったら、マイラのディレクトリ名は『モンスチ』。
魔力波長を記憶する魔道具をマイラに使ってもらった。
魔力波長が記憶されたバイナリファイルがマイラのディレクトリの中にできた。
メインの中身をこれにする。
system("cd c:\user\モンスチ"); //マイラのディレクトリに移動
system("certutil -dump output.bin"); //ファイルの中身を表示
実行するとファイルの中身が見えた。
続いて、メインの中身をこれに。
system("cd c:\user\モンスチ");
system("del output.bin"); //ファイルを消す。
エラーだな。
他人のファイルへの書き込みは権限がないらしい。
まあ、良い。
読み込みさえできれば、当分は問題はない。
次に問題なのはdirを実行させると表示されて相手にばれるってことだ。
それはこうすれば解決だ。
fclose(stdout); // 標準出力を閉じる
system("dir > c:\user\カニキクカ\sample0001.txt"); //ディレクトリの中身を俺のディレクトリ内でファイル化
情報は気づかれずに俺に送られる。
ファイル名を魔道具毎に変更することは必要になる。
それとどの番号の魔道具を誰に送ったのかの管理も重要だ。
「俺は魔法についてはあんまり詳しくねぇが、タイト様は神様の生まれ変わりかなんかかよ」
「元締め、やめろよ。そんなこと言ってる場合じゃない。俺はただ少し賢いだけだ。凄いって言うなら、マイラだろ。あの戦闘力、まるで殺し屋並みだと思うぞ」
「えへへ、ダーリンに褒められたんだよ~!」
「マイラ、てめぇ、全然褒められてねぇぞ」
「マジそうなの」
「マイラが凄いのは俺も認めてるぜ。捕まった時、幹部から助けろって意見が出なかったのは、マイラが最近、手に余ってたからだろうな。もちろん、今なら3人掛かりでやれるが、犠牲は出るかもしれねぇな」
「ふーん、マジで?」
マイラの戦闘力は標準的な子供のそれではないようだと感じた。
ジャンルは異なるが、戦闘力でついていける俺もまた異質らしい。
この状況には気を付けないといけない。
「じゃあ、手分けして、記念日とかの日付をリサーチしようぜ」
「おう、分かってる」
これでひとつ前に進んだ。
次は魔法システムへの賄賂だな。




