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第五十一話 調合

「アイリスさんにはお話しておりませんでしたね。俺がミズイガハラの領主です。──と言っても半ば押し付けられたようなもので、何がすごいというわけではないのですが」

「──ええええぇ! 領主様!? そうとは知らずにすみません! 大変失礼なことを……」

 アイリスは慌てる素振りを見せながら俺に謝罪した。


「いいえ、構いませんよ。先ほどもお話した通り、押し付けられた領主ですから。ですので、そんなに肩ひじ張らずに接してください。それで、専属の話はどうですか?」

「はい……お受けしたいのは山々なのですが。──この国は薬師の数が少なく、一人が数多くの街を回ることも少なくありません。僕がミズイガハラに付きっ切りになってしまうと他の街で困っている方をお救い出来なくなってしまうかもしれません。ですので、専属のお話は……」

 アイリスは申し訳なさそうに俯く。


「そうですか。薬師の事情を知らずに行き過ぎた申し出でした。申し訳ありません。──ですが、ミズイガハラを、そしてこの国を守るためにあなたの力が必要なんです。どうか力を貸していただけないでしょうか?」

「え? 国を??」

 そうして俺はアイリスに"ミノタウロス"の件を話した。グリズリーの生息域が変わったのは"ミノタウロス"の影響で、攻め込まれる危険があることを。


「…………」

 アイリスは考え込んだように黙り込んでいる。

 ここで俺は畳みかけるように再度提案した。


「専属と言っても、毎日ミズイガハラにいて欲しいというわけではありません。基本的には今まで通り、アイリスさんの自由にしていただいて構いません。ですが、"ミノタウロス"などの緊急事態の際には集中して力を貸してほしいのです」

「……なるほど。それでよいのでしたら! 是非協力させてください!!」


 こうしてアイリスは俺達の専属薬師となった。

 アイリスは次の予定はないということであったので、このまま一緒にミズイガハラへと戻ることになった。

 荷車一杯の黒褐色の堆肥とともに。


 そして俺達がミズイガハラへたどり着いたころには既に日も暮れ始めていた。

 今からではアイリスの家の確保も難しいため、この日は領主の館の客間へと案内し、本格的な作業は翌日から行うこととしたのであった。


 --------


 翌朝、俺とアイリスは他愛もない雑談をしてあるものの到着を待っていた。


 すると外から俺を呼ぶ声がする。

「カズトさん、ご依頼のものを集めてきましたよぉ」


 そう、俺達が待っていたのはクウネルであった。

 そしてクウネルの声に呼ばれるままに、俺達は館の外へと足を運んだ。

 するとそこには黄色い鉱石と木炭で荷台が一杯になった荷車とクウネルが俺を待ち構えていた。


「これは大変だったでしょう??」

 俺は硫黄を指し、クウネルに尋ねた。


「はいぃ。私があの温泉の匂いが苦手なことを知っていての依頼ですからねぇ……さすがに怒りを覚えましたよぉ」

 そう話すとクウネルの顔はいつになく真剣なものであった。


 俺は苦笑いをしつつ誤魔化してみせる。

「あはは。すみませんでした。──でもどうしてもその黄色い鉱石が必要だったんです。作業は別荘のほうで行いたいと思いますので、このまま乗せていっていただいてもいいですか?」

「わかりましたぁ」


 そして俺達はアイリスを連れ、別荘へと移動して作業を開始した。


 まずは堆肥を鍋に入れて水に溶かし、よくかき混ぜながら弱火で少し煮詰める。その後、時間を置いて堆肥をしっかりと沈殿させ、上澄み液だけを抽出する。

 次に硝子づくりでも用いた草木の灰を堆肥同様に煮詰め、こちらも上澄みだけを抽出する。


 そしてそれらの液体同士を混ぜ合わせ、水分がなくなるまで煮詰めていった。

 すると鍋には白い針状の結晶が現れる。


「おお? これは?」

 興味深そうにアイリスが鍋を覗き込む。

「これは硝石と言って、肥料の一種です。──が、あるものと組み合わせることで"ミノタウロス"を倒す秘策になり得ます。そしてそれをアイリスさんに作っていただきたいのです」


「僕に……?」


 そうして俺はアイリスに硝石と硫黄、そして木炭の調合をお願いした。

 しかし、ここから先は出たとこ勝負だ。調合されたものの効果がどれほどになるかは正直わからない。配分を変えた調合で何度も試して、最適な配合を探していくしかなかった。


 だからこそ、薬師であるアイリスを呼び寄せた。

 薬の調合に慣れたアイリスであれば、最適な配合を必ず見つけ出してくれると信じていたのであった。

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