第四十四話 鋳型
そう話す国王からは並々ならぬ気迫が感じられる。
──これは適当に答えられないな……。
そう考えた俺は言葉を選びながら答えていった。
「王都は……活気に溢れ、本当に良い街であると思います。隅々まで見させていただいたわけではありませんが、とても力を入れて街づくりをされているのも感じられました──」
「ほう。して、それだけか? お主がミズイガハラを変革したように、この王都にも何か変革できるものはないのか?」
「変革……ですか」
「ああ、それを見込んで領主になることを認めたのじゃ。何か申してみよ」
いつの間にか俺は追い詰められてしまっていた。
そして俺は少し考えるように目を伏せた。
──すると俺の目にはファティマが頭を垂れながらも笑いを押し殺している姿が入ってきた。
そして瞬時に俺は悟る。はめられた……。
しかし、まずはこの場をやり過ごさなくては仕方がない。そのために俺はある提案をした。
「王都の下にある港から、今よりも簡単に荷を運べるようにしてはいかがでしょうか? 王都へ至る最中、少々拝見させていただきましたが、荷の運搬にいささか人手がかかってしまっているかと。そこで、簡単に物を運べるようにし、その分の労働力を他に回すことでより良い街の礎になろうかと存じます」
「ほほう。それは面白いな。──ではお主の申す通り、実践してみよ。王都にいる間、お主には我の従者をつけてやろう。人手や物資が必要であれば、申し付けるがよい」
「はっ。確かに承りました」
「うむ。では下がるがよい。良い結果を期待しているぞ」
こうして国王との謁見は終了した。
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客間へと戻った俺は早速ファティマを問いただした。
「ファティマさん、先ほどの謁見の件ですが何か知っていましたね!?」
「さあ? 何のことかのう??」
「とぼけないでください! 焦ったじゃないですか!」
「まあ結果的に上手くいったのだ。よいではないか」
俺は上手いことファティマにはぐらかされてしまった。
「して、どのように荷を運ぶようにするんだ? あれだけ具体的な話をしたのだから何か策があるのだろう?」
「ええ。グリズリーの時に使った滑車を利用してみようかと。ただ、あのまま使うわけにはいかないので、細工は必要ですが」
そんなことを話していると、客間の外から俺を呼ぶ女性の声がした。
「カズト様。いらっしゃいますでしょうか?」
「はい。なんでしょうか?」
俺は客間の扉を開けると、派手さはないものの、しっかりとした作りの服を纏った女性が立っていた。
その女性は肩まで届く程度の黒髪で、少しキツメのお目付け役と言った雰囲気であった。
「わざわざ申し訳ございません。--申し遅れましたが私、グレースと申します。何かございましたらなんなりとお申し付けくださいませ」
グレースはそう言いながらお腹の前で指を絡めるように手を組みながらお辞儀をした。
「グレースさんですね。よろしくお願いします。--それでは早速なのですが、王都には製鉄場があると聞いています。その鉄を少し頂くことは可能ですか?」
鉄は王都で製鉄されたものを購入し、街では加工のみを行っているとクウネルから教えてもらったことがあったのだ。
「問題ございません。他に何か必要でしょうか?」
「そうですね……。この辺りに砂漠はありますか?」
「はい。王都から西に少し進んだ場所にございます」
「そうですか。それでは砂漠の砂と粘土、それと屋根で使うような平たい木材、あとは人手を数人用意いただけますか?」
「かしこまりました。仰せの通りに」
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そして二日後。
お願いしていた資材が俺の元に全て届けられた。
俺達は早速滑車作りを始めていった。製鉄所の一画を借り受けて、その作業を進める。
グレースに集めてもらった従者達に対して指導するように、まずは自分で作業を行ってみせる。
まず初めに砂漠の砂に少しの粘土と水を加えて、しっかりと混ぜ合わせる。
そうして混ぜ合わせたものは、ある程度水分が抜けるまで天日干ししておく。
次に、平たい木材を使い枠を大量に作っていく。そしてこの枠には先ほどの砂が乾燥したのを見計らって投入していく。
ある程度の厚さになるまで投入したならば、木で作った滑車の試作品をパーツ毎に分解したものの一つを砂の上へと置く。そしてそれが埋もれるように更に砂を投入していく。
パーツがぴったりと埋もれるほど砂を敷き詰めたら、次は埋もれたパーツを周囲の砂を崩さないように引き抜いていく。綺麗に引き抜くことが出来れば、そこにはパーツの形の空洞が残る。要は木のパーツを使って型を取ったということだ。
なおこの時、パーツに凹凸がある場合には下半分と上半分に分けて型を取る必要がある。
そしてこの砂型の上には砂を充填した枠を乗せ、蓋をする。下半分と上半分に分けた場合には、上半分をそのまま乗せる。
蓋には型を取った空洞へと続く穴を開けておく。この穴に溶けた鉄を流し込んでいく。
その後、内部の鉄が冷めるのを待ったのち、枠を持ち上げ、砂を取り除く。
するとそこには型通りの鉄が成型されていた。
しかし、この鉄には部分的にバリが出ていたり、鉄を流し込む穴の部分もそのままの形で成型されるため、余計な部分は丁寧に削り落としていく。
これで一つのパーツが完成だ。
以降は従者達に作業を任せ、全てのパーツでも同じように繰り返し作成していく。
こうして俺達は鉄製の滑車を完成させたのであった。
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