第三十六話 領主
「それはそうとカズトよ。あの時の恐ろしい地響きと爆風は何が起きたのだ?」
「ああ、あれですか。あれは粉塵爆発を起こしたんですよ」
「ほう?」
俺はファティマにアルミニウム粉と爆発について説明をした。
アルミニウム粉は、可燃物であること。しかも、水と接触しただけでも発火するということ。
そしてアルミニウム粉が空中にばら撒かれた状態でアルミニウム粉に着火すると、その火源は隣の粉から隣の粉へと瞬く間に広がっていき、それは次第に大きなエネルギーとなって粉塵爆発へと成長すること。
その他にも、水と触れた際に発生する水素により水素爆発を起こす危険もあること。
このアルミニウム粉は建築の材料としても多用されている。しかし、アルミニウム粉による爆発事故や火災事故なども発生しており、身近でありながらも危険な材料であったのだ。
カズトはその知識を活かし、今回の作戦を立案したのであった。
「ふむ。……いまいちよくわからんな」
「まあ、アルミニウム粉は燃えるということと、絶対に水には触れさせないと言うことを覚えておいていただければ」
「──うむ。気を付けよう」
「それはそうと、カズト。お前は一週間ほど安静にしろと医者からのお達しがあった。毎日見舞いに来てやるから、ちゃんと家に居るのだぞ?」
「あ! 私も毎日来るんだから!!」
なぜこの二人は争っているのであろうか?
疑問に思いながらも、俺は二人の好意に甘えることにした。
二人は約束通り毎日見舞いに来てくれた。忙しい合間を縫って時間を割いてくれたのだ。二人には頭が上がらない。
しかも、何やらファティマは領主代行として当面の領地運営を任されたらしい。
幸か不幸か、前領主カンデデの養子に入っていたことが彼女をその地位へと押し上げた。領民にとっては望ましい結果であろう。
しかしながら、領主代行となったファティマは非常に忙しそうにしている。
俺の見舞いへ来るにしても、従者を引き連れて訪れ、落ち着く間もなくすぐさま他の要件で呼び出されていくことも少なくなかった。
前領主はこんなにも忙しそうに見えなかったが……。もしかするとファティマは前領主の体制を全て変革しようとしているのかもしれない。
この時の俺は暢気にもそんなことを考えていた。
--------
そして一週間後。
ようやく俺も外出が出来るようになった。
体も万全とまではいかないものの、ある程度自由に動かすこともできる。
なまった体のリハビリもしなくてはな、と思いながら体のストレッチをしていると、我が家の扉がノックされる音がした。
「カズト様、いらっしゃいますか?」
様?? などと思いながらも俺は返事をし、その扉を開けた。
「はい、どなたでしょうか?」
すると扉の先には片膝を付き、かしこまった男性の姿があった。
「申し遅れました。私、ルッカと申します。以前に一度お目通りいただいておりましたが、改めましてお見知りおきを」
ルッカ……? 俺は一瞬考えたのち、ある答えにいきつく。
前領主の側近であった聡明そうな男だ。
しかしなぜそんな男がいまさら我が家に? 俺は警戒心を露わにしながらルッカに尋ねた。
「前領主の側近の方でしたね。それで俺に何の用でしょうか?」
「はい。現在はファティマ様の元で仕えさせていただいております。──本日はカズト様に領主の館までお越しいただきたく、お迎えにあがりました」
「……え? いますぐですか??」
「いえ、カズト様のご都合がつくまでここでお待ちいたします」
よくみると、ルッカの後ろには数人の従者とともにその傍には御輿も置かれ、家の前の通りを半ば占拠してしまっていた。
……これはさすがに迷惑だな。
そう思った俺は、ルッカに「すぐに準備します」と伝え、そそくさと準備を整えた。
「お待たせしました」
ルッカは先ほどの宣言通り、片膝を付いたままの体制で俺の戻りを待っていた。
「それではこちらの御輿にお乗りください」
「はい!? 御輿に?? いやいやいや、それはルッカさんのものでしょう??」
この時俺は、御輿にはルッカが乗るものであるとばかり考えていた。
「いえ、これはカズト様をお迎えするための御輿です。さあ、どうぞ」
「……いえ、歩きましょう。体もなまってしまっているので、運動もしたいですし」
「……そうですか。カズト様がそうおっしゃるのであれば」
ルッカは少し残念そうな表情を浮かべていたが、俺にはあんな目立つ乗り物に乗る気概などなかった。
--------
久しぶりに体を動かした俺は、少しばてながらも領主の館へとたどり着いた。
「それではこちらへどうぞ」
ルッカの案内により館の中へと進んでいく。
通されたのは以前、カンデデと相対した客間であった。
片膝を付き、かしこまりながらルッカはこう言った。
「失礼いたします。カズト様をお連れしました」
「うむ。入れ」
その言葉を受け、ルッカは引き戸を開ける。
そして客間の中にはファティマが待機していたのだった。
「よくきたのう。まあまずはそこへ座れ」
ファティマに促されるまま、俺は客間へと入り、用意された椅子へと腰掛けた。
「今日はどうされたんです? 突然のことで少し驚きました」
「--いやな、一つお願い。というか、これはもう避けられぬことなのだが……お主が次の領主になれ」
「…………へ???」
こうして俺は訳も分からぬまま、面倒な役を押し付けられたのであった。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
これにて第一章が完結となります!
面白かったなー、続きが気になるなーと思っていただけたなら、『ブックマーク』や『評価』をしていただけると嬉しいです!
第二章も引き続き応援のほどよろしくお願いします!




