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第三十五話 決戦②

 それを確認した俺は、警備隊員へ向けて警告を行う。

「総員、盾を構えて物陰に隠れてください!!」


 物見櫓は計画通り、街側へと倒壊していった。


 櫓内に貯められたアルミニウム粉は倒壊と共にあたり一帯へと飛散し、"ゴブリン""オーク"の連合軍は銀色の霧に包まれた。


 そして、アルミニウム粉が穴に貯められた水に接触した。

 直後、アルミニウム粉から火花があがる。その瞬間、銀色の霧がけたたましい音を立てながら爆散した。


 耳をつんざくほどの轟音が俺達を襲った後、城壁をも大きく揺らすほどの爆風による追撃に見舞われる。

 そして"魔物であったもの"や硝子片がものすごい勢いで城壁内へと降り注いでいった。


 それはさながら爆弾でも投下されたのではないかというほどの爆発であった。

 ミズイガハラの城壁にも多数の"魔物であったもの"や硝子片が張り付いていたが、なんとか耐えてくれたようだ。


「耳が聞こえんな……」

 ファティマはそう言いながら城壁の影から顔を出す。

 この時の俺達の耳は爆音による耳鳴りに襲われていた。


「おぉおぉ、これはすごい」

 その視界の先には"ゴブリン""オーク"達が死屍累々として山を成していた。


 物見櫓の付近にいた者ははるか彼方へ吹き飛ばされ、物見櫓から離れた場所では倒れた"ゴブリン""オーク"達の山を築いている。

 それらには硝子片が突き刺さり、硝子の端材が見事に役割を果たしてくれたのであった。


「後方にいた"オーク"の一部はまだ生きておるのう」

 先行していた"ゴブリン"のほとんどと、"オーク"のおおよそ半数は撃退することが出来たが、"オーク"1000体ほどがまだ活動可能な状態にあった。

 しかし、彼らの体にも硝子片が突き刺さり、また爆風の影響によりその動きが大幅に低下しているように見えた。


「ヤクマさん、いけますか?」

 俺は城壁から身を乗り出し、城門前に待機していたヤクマへと声をかけた。


「無論だ。--皆のもの、敵の残りはわずかである! 数の利、地の利は我らにあり! 今が決着の時だ!! ゆくぞ!!」

 ヤクマの檄に合わせ、ミズイガハラの城門がゆっくりと開かれた。


「--突撃っっ!!!」

 その言葉と共に、ヤクマが先陣をきりアイネルを駆った。


「「「「うぉおおおぉぉぉおおお!!!!」」」

 空気を震わせるほどの喊声(かんせい)を上げながら約4000の警備隊員がそれに続く。


 これでほぼ勝敗は決したな……。

 こちらは数で勝り、しかも相手は手負いだ。血のにじむような鍛錬を積んだ警備隊であれば必ず勝利を収めてくれると俺は確信していた。


 ヤクマ達警備隊への信頼からか、俺の警戒心は和らいでいた。


 しかしその瞬間、俺の背側の側腹部に衝撃が走る。

 何かと思い後ろを振り返ると、そこには血のりのついた短刀を手にした領主が立っていた。


「え……?」


 衝撃が走った場所を手で触れてみると、何やら温かいねっとりとした感触がした。

 そして触れた手を目で確認する。

 そこにはびっしりと血のりがついていた。


「--これは……血?」


「ひっ、ひっっ、ひひひひひ!!! お、おまえが、お前が悪いんだ!!!」

 領主はそう言いながら再び俺に突進してくる。

 俺は咄嗟に腕を体の前に構えた。まるで急所を守るかのように。


 直後、金属音と共に俺に鈍い衝撃が走り姿勢を崩した。

 そして領主は短刀がはじかれたかのように手を上げながら、その体をのけ反らせている。


「きさまぁああああ!!!」

 俺の異変に気付いたファティマは怒声とともに、領主へ突撃しそのまま蹴り飛ばした。

 その衝撃により吹き飛ばされた領主は階段から転げ落ちていった。


「ちっ!!」

 ファティマは舌打ちをしつつ、領主を追おうとした。

 しかし、その瞬間俺は膝から崩れ落ちるように倒れ込んだ。


「カズト!! カズト!!」

 ファティマが俺を呼ぶ声だけが俺の頭の中にこだましていた。

 そして次第に俺の意識は薄れていったのだった──。


 --------


「……ん、ううん」

 目を開けると、そこには我が家の天井が広がっていた。


「カズト!!」「カズトくん!!!」

 両脇から女性の声がする。どうやらファティマとレイミのようだ。


「……なんでここに?」

 この時の俺の意識は混濁していた。

 何が起きた? 魔物達はどうなった??

 そう考えていると、何かを察したかファティマが俺に状況を説明してくれた。


 ──その説明によると、どうやら俺は領主に刺され、二日ほど意識を失っていたようだ。

 ファティマが領主を蹴飛ばした直後、領主は奇声を上げながら逃げ出していった。その後、ファティマが警備隊の詰所まで俺を運び、治療を受けさせてくれたそうだ。


 そしてなぜ俺が刺されたのかということだが、領主は俺達が魔物を撃退しつつあることを目の当たりにし、自分の地位に危機感を覚えたらしい。そして領主は首謀者たる俺を亡き者にすることを思い付いたという。


 領主の一撃目は領主が怖気づいたのが幸いしたのか、致命傷には至らない傷であったそうだ。そして二撃目はレイミからもらったお守りの腕輪で弾くことが出来たようだった。


「……なんとなくですが、状況が理解できました。ありがとうございます。でも、なぜ領主の事情まで把握できたんですか?」

「ん? もちろん本人に聞いたからだ」

「え? 本人に?」

「ああ、そうだ」

 俺は恐ろしくなり、それ以上突っ込んだことを聞くのはやめておいた。


「……それで、"ゴブリン"と"オーク"はどうなりましたか?」

「ああ、あの後はヤクマを中心に指揮を執って、ほぼ無被害で撃退に成功した。カズトの作戦で敵戦力をほぼ壊滅させられた効果だな」

「--そうですか……よかった」


「それはそうと、レイミと言ったか? カズトの意識が戻ったことを警備隊に報告してきてくれんか? 私はカズトの看病をしておく故」

「はい?? ファティマさんが行ってきてくださいよ! 警備隊とは懇意の中なんでしょう??」

「--なんだと??」


 なにやら二人の間には大きなわだかまりがあるように思える。

 するとその時、我が家の扉が叩かれた。

「カズトさん、起きてますかぁ?」


 この口調、この声はクウネルであった。


「クウネルか、入るがいい」

 俺に代わり、ファティマが応える。


「おおぉ、カズトさん。目を覚まされたんですねぇ。よかったですぅ」

 クウネルはそう言いながら果物を俺に手渡してきた。おそらくは見舞いの品なのであろう。


「それとぉ、今朝領主が街の東にある川で亡くなっているのが発見されたそうですよぉ」

 クウネルのその言葉により室内に緊張が走った。ある者を除いて。


「ほう。日頃の行いが祟ったのではないかのう」

 そう話すファティマの顔には曇りのない笑顔が浮かべられていたのであった。

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