第三十三話 最後の準備
「騒がせてしまってすまんな。──聞いていたとおり、私は領主の養子だ。クソ虫のことは家族とは思えんがな」
「孤児院の食糧って……?」
「ああ、それも聞いていたとおりだ。孤児院で提供される食事は寄付された食糧で賄われている。やつはそれを分捕って自分の脂肪に変えていたのだ」
「なるほど……」
今日のこの一件で俺は領主の下種さに改めて気付かされた。
そして期せずしてファティマの過去を知ることとなった。
「まあクソ虫のことはもうよい。それよりも今は魔物への対策を優先せねばのう」
「そうですねぇ。それでぇ、カズトさん。次はどうすればぁ?」
「……そうですね。それではお二人にお願いがあります」
まずクウネルには建物の柱に使うような木材と、屋根で使う板材を建物4棟分用意してもらうようお願いをした。
「それくらいの材料であればぁ、街に備蓄しているので足りますねぇ。すぐに用意できますよぉ」
そしてファティマにはクウネルの用意した材料で天井のない華奢な物見櫓を作ってもらうようにお願いをした。イメージとしては高架水槽が近いであろうか。
「物見櫓は街の入り口から500メートルほど離れた場所に、街の城壁に沿うように少しずつ間隔をあけて4基つくってください。そして物見櫓の街に近い側の柱は華奢なものにして下さい」
「ふむ。何やら訳があるのじゃな?」
「はい。その物見櫓はタイミングを見計らって倒壊させます。そのために街側の柱だけを華奢にして倒壊させやすく作っていただきたいのです」
「ほう。何やら面白そうじゃのう」
「それともう一点、櫓の部分には硝子の端材とこれから俺がつくるアルミニウム粉を貯めておいていただきたいです」
「ふむ? 何やらよくわからんが、そのように手配しよう」
ファティマはそう言うとすぐさま配下を呼び出し、指示を伝えた。
材料もクウネルから確保出来たため、早速工事に取り掛かるようだ。
そして俺自身は物見櫓の建設状況の確認をしつつ、採掘してきたアルミニウムを粉末状にする作業を行う。
毎日大量に届くアルミニウムを砕いて、摺って、滑らかな粉末にしていく。
非常に地味であるが、今回の作戦のミソとなる部分であるため手を抜くことなど許されない。
──そうして準備は順調に進み、1週間ほど経過したある日のことであった。
「カズトさん、至急警備隊詰所までお越し下さい!」
我が家まで警備隊員の使いがやってきた。
ついにきたか? 俺はそう思いながら警備隊の詰所へと向かった。
俺が応接室に案内されたころには既にクウネル、ファティマ
そしてヤクマの三人で話が進められていた。
「すみません。遅くなりました」
「いや、突然呼び出してすまない。魔物の侵攻について新たな情報が掴めた」
ヤクマはそう切り出すと、情報の詳細を説明し始めた。
「もう一度最初からからの話になるが、改めて聞いて欲しい。──斥候から寄せられた情報によると、『ゴブリン』『オーク』の連合軍はあと一日程で進軍を開始する見込みであるという。その数は『ゴブリン』6000、『オーク』2000のあわせて8000にのぼる。進軍速度は『オーク』に合わせて非常にゆっくりではあるが、進軍開始から三日後にはミズイガハラまで到達する見込みだ」
「──つまり、四日後が決戦の日になる、と?」
「ああ。そう考えて間違いないだろう」
幸いにも今日の時点で作戦準備の大半は終了しており、あとは会敵直前に最後の仕上げをするのみであった。
「わかりました。こちらもでき得る準備は全て行ったつもりです。あとは皆んなの力を信じるのみです」
俺はそう話しつつも、ある事が気になっていた。
街に被害が及ばないように作戦を立てた訳であるが、当然ながら不測の事態も起こり得る。
そうなると領民へ被害が生じる可能性も十二分にある。
そしてその気がかりが俺の口からついて出た。
「領民は避難したりしないのですか?」
その問いに対しヤクマは渋い顔を浮かべている。
「──それはのう。警備隊の権限では出来んのだ」
ヤクマに代わり、ファティマが答える。
「と言いますと?」
「領民への指示はあくまでもクソ虫の権限なのだ。そして何千といる領民を避難させるとなると、莫大な額の費用がかかるであろう。それを奴が良しとすると思うか? 奴は領民の命よりも自分の懐の方が大切だからな」
「……なるほど」
つまり領民を守るには街には一切被害を出すことは出来ないということだった。
「せめて城壁に近い住民だけでもどこかへ避難できれば……」
「本来であれば領主の館に迎え入れるのが真の領主なのであろうな。しかし、やつがそんなことを許すわけもない。──可能な限り私の屋敷に避難をしてもらうのはどうか?」
「それは良い案だな。城壁沿いの領民には警備隊から話をつけておこう。先日の騒ぎの件もあるから君達が動くよりは幾分か領主の受けも良いだろう」
──こうして俺達はでき得る備えを全て整えたのであった。




