対決!クロトVSミスト&ラビィ10
間に合った!(間に合ってない)
「よしよし、この調子なら勝ちは確定だな」
「流石は主!」
何度ともなく俺を褒め称えるユキムラに照れながら頬を掻く。褒められるって慣れないよなぁ。
残り時間は一時間を切っているしこのまま行けば普通にタイムアップだ。
色々と見て回ったあとにあいつ等の顔を拝んでやるとしよう。モニターと念話を応用すればちょいちょいのちょいだからな。
俺はダンジョンマスター、このダンジョンが有る限り俺は無敵である。弱点と言えばコアを破壊されるか俺が直接殺られるかダンジョンが破壊されるかだけである。意外と多いな!
まぁどれも難易度は高いし簡単には行かないだろうな。コアは見つけるまでが大変だし俺はそもそもマスタールームから出るつもりはない。そしてダンジョンの破壊なんてもっての他だろう、漫画じゃあるまいし。
夢を信じる訳じゃないが、ダンジョンごと破壊されたあの時の夢はまだ鮮明に覚えている。やたらとリアルだったからな、信じはしないが夢だからと蔑ろにもしたくない。嫌な予感がする。
まぁ俺の勘って大体外れるし問題はないな。
「ウノーとサノーには悪いことしたな」
「……これでどちらが上かはっきりされられますな」
「ん? なんか言ったか?」
「いえ、何でもございませんぞ!」
う~む? 気のせいか? ウノーとサノーは十勇士との連戦でかなり消耗しているだろうしここからの巻き返しは何か奥の手でもない限りは難しいだろう。
基本的に十勇士の訓練などはユキムラが率先して行ってはいるが、俺もたまに教えるくらいのことはしている。とはいえ、それは実践的なものじゃなく心構えの様なものだが。
「油断さえなければ大丈夫だろう」
「主の教えも守れぬものは十勇士に必要ないですからな」
「考えが恐ろしい」
なんだよ必要ないって仲間だろ。大切にしてやれよな? お母さんそんな子に育てた覚えはありませんよ!
やれやれ、親の心子知らずとは良く言ったものだ。子はいつの間にか親の手を離れて巣立って行くのか。
まぁそれはそれで良しとしよう。去るもの追わず来るもの拒まず。これがこのダンジョンのモットーだ。
だからと言って俺以外の全員がダンジョンから出ていった暁には俺は1ヶ月は泣いて無人のダンジョンが攻略されて死ぬのを待つだけだろう。ダンジョンコアは自分では壊すことが出来ない。
ぶっちゃけ怪しくはあるんだよな、外部からダンジョンに住まわせている魔物達は自由に外に出られるしユキムラ達だってそうだ。あり得ない話じゃない。
「戦いを求めて出ていきます」なんて十勇士の連中ならあり得そうだしホブゴブリンやオークにコボルト達も愛想つかせば出ていきそうだし。ミスト達もな。
「俺もっと頑張るわ……」
「何の事か某には分かりませぬが、お供しますぞ!」
優しいわ。
とまぁ茶番はその辺にしておき引き続きモニターを眺める。チャンネルはリビちゃんとアトスの所だな。なんかスゲェことになってるわ。
サイゾウがリビちゃんを相手に素早く立ち回り、相対するリビちゃんは動きこそ遅いものの持ち前の防御力で攻撃を歯牙にもかけていない。だがウザそうに大剣を振り回しているがそれは避けられていると言う均衡した状態だ。
「サイゾウはもう少し攻撃の威力を上げなければなりませんな!」
なんてユキムラは言ってるが俺はおかしいと思う。十勇士の中でもサイゾウとサスケは暗殺者、斥候向きにスキルを構成しているしその様に育てたつもりであり正面戦闘なんて想定してないんだ。何であんなに好戦的なの?
あと何か叫んでるし、マジでリビちゃんを倒すつもりで突っ込んでいる。素人目から見ても無謀な突撃を繰り返している様にも見える。
「サイゾウはリビちゃんを超えようとしているようですな」
「出来るのか?」
「無理でしょうな、すぐに力がつくなど甘い話ではござらん」
「だろうな」
実力っていうのは沢山の時間をかけて少しずつ上がって行くものだ。何度も挑戦して何度も失敗を重ねて、その集大成が成長や成功と言ったものになる。
知識だろうと実力だろうと積み重ねてきたものが1番強い。世の中は平等ではないのだから、種族的格差があるスライムとリビングアーマーではその差は隔絶している筈だ。
今まで修練で積み重ねてきた力があれどサイゾウではまだ届かないのだろう。今もがむしゃらに動いてはいるがリビちゃんにはまだ余裕があり、少しずつ対応してきている。
「ですが、この戦いは経験になるでしょうな。これならサイゾウも更に力をつけるでしょうな」
種族最底辺であるスライムがリビングアーマーと渡り合えている時点で頭おかしいと思うのだが、そんな実力を持つスライムが増えれば俺の安全も確実なものになるだろう。
ダンジョンも日に日に進化していくし魔物達の実力が上がれば俺の考える最悪にも対応できるかも知れないしな。
「サイゾウには好きにさせよう。こういう刺激も大切だしな」
「そうですな、流石は主」
「ところでサスケの方は……」
何やらどこから取り出したのか大量のクナイを投げまくりアトスと他の魔物達を追い回しているご様子。
俺の見立てではサスケは遠距離攻撃や暗殺などの不意討ちが得意と言う正に俺のイメージぴったりな忍者スライムだ。ただ割りと口が強い。
そんなサスケがクナイを無駄に消費するほど投げまくる理由はない、多分2、3回位で当ててくると思うんだが意図的に外している? 苛めかな?
「これはアトス達への訓練でしょうな」
「確かにギリギリを狙っているようにも見える」
「彼らは某達と同じように訓練してはおりますがまだまだですからな」
それはそうだろう、何てったってアトス達には体力の限界と言うものがある。それに対しスライムには体力と言う概念はなく、睡眠も食事も不要なので無尽蔵に動ける生き物だ。プラナリアの上位種みたいなもんだな。
スライムはその無尽蔵さ故に365日24時間無休で訓練が可能であり、最大でも12時間位しか動けない普通の生き物達とは訳が違うのだ。同じ条件を強要するのがおかしいのだ。
アトスよ、俺は君の苦労をちゃんと分かっているよ……だからといって俺がどうこうするつもりは無いけどね。戦闘訓練に関しては俺はもうユキムラに託した、ノータッチだ。うちは管轄外なので他を当たってください。お役所仕事万歳。
「アトスにはこのまま時間いっぱい頑張って貰おう」
そもそも今は敵同士なので情けはいらなかった。俺はちょっかいを出すためにサスケにもう少し厳しくするようにこっそり伝えた。攻撃は激しくなって悲鳴が響いてうるさいのでチャンネルを変えた。
「さて、ミスト達はどんな顔してるかな~?」
「きっと悔しがってますぞ!」
くくく、楽しみでしかたねぇぜ。
場所は56階層にある簡易テント、その中には大量のお菓子の食べ終えた山があった。あいつら……食い過ぎだろ!
つーかどこにいるんだ……あ、居た。お菓子の山の裏に設置されたパイプ椅子に座っている。因みに俺はゲーミングチェアって奴だ、使ってみたかったんだよな。全然疲れねぇの。
『あわわ、どうするミスト!?』
『むむむ……』
何やら考え込んでいる様子だ、くくく、ここから状況を打開することなど不可能! 何故なら勝負が始まる前からその策は潰してあるからなァ、ははははは!
『あわわ、リビちゃんが! ……負ける心配は無さそうだね。十勇士も対したことないなぁ』
こいつッ! 俺が見ているのに気がついているのか!? 煽ってきやがった。いや、察しの悪いラビィの事だ強力な部下が出来て気分が大きくなっているだけだろう。
「ほう、某の部下をバカにするとはラビィ殿も大きくなられましたな」
どうしよう、怒っているのが隣にいたわ。ラビィは続けた。
『このままだとウノーもサノーも負けちゃうよ! 試合にも勝負にも負けちゃいそうだね』
『むむむ……』
『それってさ、私とクロトとミストの配下じゃミストが1番弱いよね、やったー!』
む、ラビィよお前さん味方をそんなに弄り倒してどうするつもりだ?
『まぁ、リビちゃんはリビングアーマーだし強いよね。うん、仕方ない』
ラビィはにっこりと笑ってミストの肩に手を置いた。
『ミストも対したことないね』
その言葉が引き金となったのか、ミストが座ってるパイプ椅子を破壊して立ち上がる。ラビィを睨みながら。
『ふーん、じゃあ僕らの力を見せて上げるのさ』
怒りを越え、逆に冷静な声音で話すミストに背筋が凍る。モニター越しでもヤバイと思ったのだ、目の前のラビィは気絶してるかもしれない。
『み、ミストが参加するのはダメだよ?』
『良く良く考えてみたら、僕のストレスを発散させるのになんで僕が出たらダメなのさ』
ま、不味い! 感づかれた!
『何かこの戦い仕組まれてる気がするしさ、何しても対策されるしストレス溜まりくりなのさ』
え、嘘だろ?
『全部滅茶苦茶にしてくるのさ!』
俺の作戦が脳内で無慈悲に、そして無惨にガラスが割れるような音を立てて破壊されていく。
唖然として動けていない俺を待ってくれるほど状況は優しくはない。
しっかりと均された地面を踏みしめて拠点代わりとなっていた簡易テントを容易く破壊して見せたミストは突風と共に階層を突き進んでいく。
『うわぁ、まさかこんなに本気になるなんて思わなかった……』
破壊された簡易テントからラビィが埃まみれになりながら這い出てきて呟いた。
そして辺りをキョロキョロとなにかを探すように見渡すと、モニター越しに俺と目が合う。モニターは覗いている側からしか見えないのだが、その時のラビィは探り当てていた。
『ふっふっふ、クロト、たまにはやり返すね?』
紅髪の少女は不敵に笑った。
いつも誤字報告ありがとうございます。
こんな作者ですがよろしくです




