対決!クロトVSミスト&ラビィ7
「おりゃりゃりゃりゃ!」
「甘い」
桃色の弾丸が縦横無尽に駆け回り黒鉄の鎧へと斬撃を走らせる。
しかしそれはたった一振りの衝撃により吹き飛ばされる。
「うひゃあっ!」
体の軽いスライムは素早さこそあれど一撃一撃はそれほど威力が無い。
生身ならば痛手を与えられるものの、相手が悪かった。
「どんな力してるんですか、この化け物!」
「私に言わせればスライム程度の下級存在がここまで成長している方が化け物だと思うがな」
「誰がゴミ種族ですか!」
再びクナイを構え斬りかかるが、その刃は全身鎧に傷一つ負わす事も出来ずにいとも容易くあしらわれる。
だが一方のリビングアーマーも攻めあぐねていた。
「ここまで攻撃が当たらないとは」
戦闘が始まり、互いに攻守を切り替え立ち回る。
スライムよりも種族的にかなり上位にリビちゃんは位置するのだが、思うようには立ち回れていなかった。
実際、そこまで素早くはないと自負しているリビちゃんだが人間からしてみれば普通に早い。
だが何度も身の丈程の大剣を軽々と振り回そうとも、目に痛い桃色のスライムには触れることも叶わない。
そしてそれは相手も、サイゾウも同じであつた。
速度こそ上回ってはいるがその他では全く届いていないと己を不甲斐なく思っていた。
「私はまだまだ弱いですね!」
それでも自分自信を高めるため、格上の相手に全力で挑み糧にすることに決めた。
◇◇◇
「どこが弱いんだアレ」
「余所見とは余裕がありそうだな?」
「やべっ!」
サイゾウとリビちゃんの攻防を遠い目をしながら眺めていたアトスは接近してくる声の存在を見る事なくその場から勢いよく飛んだ。
着地などは二の次であり攻撃を食らわない為だけに全神経を注ぐ。
アトスが飛んだ先に数瞬遅れて十字架のような黒塗りの物体が突き刺さる。手裏剣であった。
突き刺さると同時に地面が少しだけ溶け、薄気味悪い煙を上げていた。
「まだまだ行くぞ!」
「嘘だろ!? 誰かっ、援護!」
叫びながら、見てくれなど関係ないとばかりにアトスは形振り構わず走り、跳躍し転げ回り、防具を犠牲にしてでも回避を選択し続ける。
と言うよりもそれしか選択することが出来ない、そもそも選択の余地などは無かった。
「死んだらどうすんだよ!」
「そこまでだったってだけだろ? 安心しな、旦那の命令通り命までは取らねぇよ。お前次第だけどなっ!」
逃げ続けるアトスへとサスケは攻撃を仕掛け続ける。
「サイゾウは任務そっちのけで自分を高めようとしてるっぽいな……まぁ、時間は稼いでるし見逃すか。ただし」
「俺も好きにやらせて貰おう」と呟いた後、さらに攻撃は加速する。
「うぉぉぉぉ! 死ぬっ! 絶対死ぬ!」
「お前らじゃ効率的な訓練にはなりそうに無いからな、鍛えてやるよ」
アトスを含む残りの魔物も巻き込み、クナイの嵐を叩きつけ、地獄の訓練が開始された。
◇◇◇
「うーん順調順調」
「このまま行くと某達の勝利ですな!」
俺は60層にあるテントでモニターを観ながら伸びをする。
「ユキムラには出番をやれなくてごめんな」
「何を言いますか主! 某は側に居られれば充分ですぞ!」
「ユキムラがそう言うんなら良いんだが」
良いのかそれでと思わないでもない。
モニター画面の中ではリビちゃんとサイゾウの激闘が繰り広げられており、隅にはちらちらと逃げ回るアトスがいる。大変そうだぁ。
「それに今回は皆とは言いませんが十勇士もそれなりに活躍出来てますからな、某はそれで満足ですぞ」
なんて仲間想いのあるスライムなんだろう。
「これで実戦で役に立てぬなら排除もやむなしですからな」
どうやら十勇士の世界はわりと殺伐としているようだ。聞かなかったことにしよう。
ダミーコアの方では暇すぎるのかロクロウ達が談笑している。今回はここに敵が来る予定は無いので退屈させることになるだろう。
でも次の機会には活躍させる約束したしそれで納得してくれたし良いだろう。とりあえず何かお詫びの品を考えておこう。
おかしいな、お詫びの品を毎回考えている気がする。
ロクロウ達は守る事に特化したスキル構成だし仕方ないと言えば仕方ない。
サイゾウとサスケは……なにやら楽しそうだし放っとこう。アトス、強く生きてくれ。
モニターを弄り視点を切り替える。行き先はウノーサノーの所だ。
おお、何やら激しい戦闘を繰り広げているな。俺って何気に他の十勇士の戦いって見るの初めてなんだよな。
スキル構成や武器なんかは俺が出したから頭のなかには入れてはいるが、どういう使い方をするかまでは良く分かってないし、何か新しい発見があるかもな。
ウノーとサノーは御愁傷様だな。個人としてはかなり強いし双子ならではのコンビネーションは目を惹く物があるが分断されてはただの強い魔物だ。
充分に強いが相手は実力が俺もイマイチ把握できていない十勇士だ。それも2人同時に相手をするとなるとかなりキツイだろう。
「イサ達の動きはユキムラ的にはどうなんだ?」
「そうですな、実戦形式はそれなりにやって来ましたが、本格的なものはまだ経験不足ですぞ、微妙に連携がズレております」
「なるほど、やっぱりか」
「流石は主、やはり理解しておられましたか」
俺は神妙に頷く。さっぱり分からない。
微妙なズレなんか俺に分かるわけ無いだろう。引きこもりだぞこの野郎。
「サノー殿もウノー殿もそこを突いて反撃しているようですな、これはまだ訓練が必要そうですな」
「そうか、頑張れよ!」
俺って未だに何でも分かってますよ的なムーブしてるがこれ多分バレてるよな? バレてな無かったらスゴいぞ。
「しかし主の作戦は見事にはまっておられますな」
「まぁただ時間を稼ぐだけだし、誰でも出来ることだろう」
この戦いは半分はミストの鬱憤晴らしで残り半分は実験だし本腰入れてやる必要性は皆無なのである。俺がまともに付き合うと思ったら大間違いなのだ!
この調子ならスムーズに事が済むだろうし作戦は完璧だな、ふっふっふ。
イレギュラーが発生しない限り俺の作戦に不備はない!
タイムアップまで残り1時間。
◇◇◇
「ねぇ、ミスト。時間がヤバイよ!」
「どうするのさどうするのさ!」
「指揮官ミストじゃん!」
モニターに表示されている残りの制限時間に慌てふためく。落ち着きは既になく、忙しなくテントの中を行ったり来たりを繰り返す。
「念話が通じるリビちゃんは足止めされちゃってるし、残り時間が伝えられないよ!」
「お、落ち着くのさ。ボクの優秀なウノーとサノーならきっと分かってるのさ」
「足止めされてるじゃん!」
どこのパーティーを見ても既に交戦しており、コアを探すどころでは無くなっていた。
「クロトめ、遂に動いたのさ」
「多分最初から動いてたんじゃない?」
「むむむ、どうすれば」
じわじわと迫る時間に次第に気持ちが逸っていく。
「むむむ……」




