対決!クロトVSミスト&ラビィ6
思いっきり予約するのを忘れていた。
「どうやらもう来ない様ですね」
「……次は負けない」
58階層終盤にはアンデットの二人組が周囲を警戒しつつ順調に進んでいた。
56層では思わぬ襲撃にあい、パーティーを分断された二人ではあったがその奇襲をなんとか凌ぐことに成功し分断された他の魔物に
追い付く為、その足取りは早かった。
先行したパーティーが至るところにある罠を解除したのか思っていたよりもスムーズに進んでいる。
「この調子ならすぐに合流出来るでしょう」
「また……狙われたら?」
「そうすぐに追撃が来るとは思いませんが、奇襲はされないよう気を付けますよ」
スライムの攻撃性の恐ろしいところはその隠密性だ。
不定形な肉体を持つがゆえにその姿を捕らえることは難しいのだ。
ただ十勇士は何かと目立ちたがりな者が多く、奇襲を得意とする者はそれほどいないのが幸いだった。
襲いかかってきたサイゾウとサスケの今後の行動が気にはなるものの、あまり時間は残されていない。
そもそもこの戦いは敵を倒すのではなく、どこかにあるダミーのコアを見つけることが勝利条件なのだ。
「どうやら勝たせるつもりは無いんでしょうね」
「……アイツ、性格悪い」
「同感です」
どこかでこの戦いを眺めているであろう黒髪の少年に悪態をつき、ウノーとサノーは走り去っていく。
◇◇◇
「ラビィ、1つ聞きたいのさ」
「何?」
「こんな作戦立てたっけ?」
「全然」
56階層に設置された簡易テントにて、モニターを眺めている2人は話し合っている。
画面の向こうでは自軍の魔物達がパーティーに別れて役割ごとに階層の調査を進めたりしていた。
こんなものは予定には存在しない。
少なくともミストの中ではそうであり、疑問に思ったからラビィにも質問をした。
返ってきた答えは自身と同じだった。
「そもそも僕は全員で攻撃に行くことを提案したと思うのさ」
「だよね、クロトを力業でギャフンって言わせたかったから」
「それなのに何で分かれてるのさ」
「それは今さらだよね」
ミストとラビィが下らない話に花を咲かせている間に画面の向こうの魔物達はチームを組んで順繰りに捜索などをしており、気がつけばミストの預かり知らない事になっていたのだ。
司令官とはいったい。
「て言うか念話使えないしさ~、これ絶対クロト分かっててやってるよ」
「ホントにイヤらしい奴なのさ」
ダンジョンマスターから譲渡された権限は2つ。念話とモニターだ。
モニターは階層の様子を任意で見ることが可能であり、念話はダンジョン内にいる配下へと声を届けることが出来る権限だ。
そして念話が1番のくせ者だった。
配下へと声を届けることが出来る権限である念話とはダンジョンの支配下に置かれて居なければその声を届かせることは叶わない。
使い勝手は悪い能力だ。
ダンジョン支配下の対象となるものは召喚された魔物などが該当する。
このダンジョンにおいて大半は支配下ではない魔物ばかりであり、念話が届く魔物はスライムとリビングアーマーのみであった。
「一時的に支配下には置けないのさ?」
「うーん、その権限は私に譲渡されてないよ。あ、十勇士先取りしたのはこれの為か!」
やられた事に気がついたラビィは憤慨し手元に置いてあるスナック菓子の袋をあける。
一流のチップス好きは箸など邪道、素手で食べるのだ。
「僕にもくれなのさ」
「えー、じゃあチョコレート頂戴」
「はい」
一流のお菓子スキーは好みを分け与える心を持つ。
互いのお菓子を等価交換し、新たなる高みへと上り詰めるのが一流なのである。
「むしゃむしゃ、それにしてもクロトの考えていることがよく分からないのさ」
「それはいつもの事じゃん」
「確かに。結構秘密とか持ってそうなんだけどなぁ、クロトは何がしたいんだろうね」
「それは今考えても仕方ないよ。ただ、何もしなかったら今回も負けちゃうよミスト」
「それは確かにそうなのさ」
「あ、ミスト。見て時間がヤバい」
モニターの隅には小さくデジタル式の時計が付いている優しい設計がされている。
そこに表示されているの時間があと僅かだと言う知らせに驚く。
「ウッソ!? いつの間にこんなに時間が経ってるのさ! ラビィ、階層の攻略は!?」
「うーん、アラミス達があと1層って所だね。コアの方は影も形も無いみたい」
「これ、時間切れになるんじゃない?」
「なるねー、階層は広いし5層もあるから。クロト最初からこれを狙ってたんじゃないかな」
「ルール説明の時点で掌だったって事?」
「そういうの得意だからねクロトって」
魔物たちを急かそうにも念話が届かず、届けられるにしてもそれは最後尾にいるリビちゃんにしか伝えられない。
それに加え、重量のあるリビングアーマーでは最前線にまですぐには伝達が難しいかった。
「とりあえずリビちゃんに連絡してリビちゃん達のところから足の早い子を出してもらおう」
「ラビィにしては的確なのさ」
「失敬な、私だってそれなりに考えることが出来るからね!?」
◇◇◇
「畏まりした」
「ん? どうかしたのか?」
「ラビィ様からの命令だ、残り時間は少ない。足の速いものは前のパーティーへ伝達を」
「なるほど、そういうことか」
58階層へと進出していたアトス達はラビィからの念話を受け、逸る気持ちはあるものの落ち着いて伝達をパーティー内にいるコボルトへと任せる。
走り去っていくコボルトを見送りながら進む速度を少しずつ上げていく。
人数が少なくなっていけば自ずと進行スピードも合わせなくても良くなるので、順調に進むことができている。
最初に通ったパーティーのお陰でもあるだろう。
「しかし、どこに隠してるんだかな。こう広いと見つかるとは思えねぇが」
「それが狙いなのだろう、あの男は最初から時間を稼ぐことしか考えていない」
「やっぱりか?」
舞台はダンジョンの5層をまるまる使い広めに設定されており、更には迷宮型と森林型の二種類を使い複雑化されている。
それでいて制限時間もシビアなものだ。
魔物は人間とは違い、その体力も筋力も比較にならないほど高い。
ただの進軍などならば圧倒的な速度で行軍出来るが、ここはダンジョンだ。
如何に魔物だろうと罠にかかれば躓き最悪死にすら至る。魔物はあまり器用ではないのだ。
だがそれを人間は技術や知恵で罠と言うものを突破をしてくる。
これによりダンジョンの進行速度は魔物よりも劣るものの人間は安全に進むことが出来るのだ。
それでも魔物の進行速度は人間と比べてなお早い。
それは強靭な肉体には人間ならば即死する物でもある程度ならば許容できるのだ。
本当に危険ならば本能がそれを知らせる。
魔物の強みは多少の傷では止まらない事だった。
つまりは強行軍も可能であり、アトス達はその進行速度がどんどん上がっていく。
「止まれ」
前方を歩いていたリビちゃんが制止を促す。
慌てて止まったアトス達は何事かと訪ねるがリビちゃんは前方を指さすのみだ。
「あれは!?」
壁に横たわるようにして1匹の魔物が倒れていた。
それは先ほど伝令に走らせたコボルトであり、大きな怪我こそないが意識を失っている様だった。
「大丈夫かっ……っとあぶね!?」
慌てて駆け寄ろうとしたアトスだが、足元に飛来した影に驚きたたらを踏む。
「あー! 惜しかったです!」
「お前遠距離下手だよな」
「ふん、近距離が下手に言われたくないですね!」
「下手じゃねぇよ。性に合わないだけだ」
薄暗い迷宮エリアの中から、更に2つの影が接近してくる。
松明が僅かばかりに設置された長い廊下にその影が姿を表す。
「よぉーし、頑張りますよ」
「俺達の仕事忘れんなよ」
「何でしたっけ?」
「はぁマジかよこいつ」
陽気な桃色と呆れたような声を出す黒色。
2匹のスライムが顔を出す。
「げ、十勇士かよ……」
「私達の陣営にいない時点で分かっていた事だ」
「でも実際にみたら余計にな」
実力が一切振るわない十勇士が2匹現れた事にアトスはひきつった笑みを溢す。
他の魔物も同じだ。
一切の同様がないのはリビちゃんだけであった。
「さて、分かってるとは思うが時間稼ぎさせてもらうぜ?」
「て言うかここでぶっ倒してやりますよ!」
白昼堂々と自分達の目的を話すサイゾウとサスケにアトスは相手の目的に確信がいく。
一方のリビちゃんはただ淡々と武器を構える。
「たかがスライムごときに私が負けるわけないだろう」
殺る気満々だった。
「は?」
「そりゃ心外だな」
こちらも殺る気であった。
両者共に戦意が上がっていき、激突は避けられなかった。
「帰りてぇ」
そんな中、場違いなアトスは泣き言をいった。




