倦怠期のカップルのそれ
間に合ったか!?
ラビィに連れられやって来ました村エリア。
今俺が居るのは村エリアの中でも一際大きな2階建て木造建築の前だ、スッゴく帰りたいな!
「なんだよあれ、負のオーラが滲み出てんぞ」
「ミストが不機嫌だとああなるよね」
やはり見た目は子供でも中身が腐ったアンデットだからだろうか、障気的な紫色の毒々しいオーラがまだ家のなかにすら入っていないのにも関わらず見える。この世界じゃなきゃきっとお目にかかれないだろうな、面倒事の臭いがプンプンだ。
おまけに暴れまわったのか所々に破壊跡があった、テロリストでももう少し配慮すると思う。
「ここはラビィの成長のため、ラビィに任せる。信じてるぜ相棒!」
「ちょっと! 私に押し付けようとしてるでしょ、そのくらい分かるからね!」
くそ、馬鹿力め! 貴様のどこにそんな力がっ!?
どちらが先に地獄の扉を開けるか押し問答をしていると、扉の方が呼んでもないのに開き出す。
「お待ちしてましたよクロト様、ラビィ様」
おっと、冥府からの使者が扉からやって来てしまった。使者と言うより死者だな上手いこと言ったな、百点だ。
扉から出てきたのはいつも仏頂面なイケメンなアンデット、左分け髪型のサノー君だ。今日は気味が悪いほどに清々しい笑顔を浮かべているじゃありませんか。
あと隣に何も喋らないいつものウノー君も一緒である。声を聞いた記憶があまりないです。
「下手人はラビィだ。俺はまだ死ぬには若い」
「私も人生……ダンジョン生をもっと謳歌したいなぁ」
「ははは、ラビィ面白いこと言うなぁ。あ、そうだ二人でダンジョンの様子でも見に行かないか? 冒険者がやって来ている気がするぜ」
「そうだねクロト。冒険者が来たんじゃ仕方ないもんねー、アハハ」
ラビィを生け贄に捧げるつもりだったがここはやむを得ない、共闘だ。
何としてでも地獄から抜け出さなければなるまい。
「おやおや、それを言われたならミスト様はかなり早くお亡くなりになられているのですよ、寂しい思いをさせるのは配下として見過ごせません。是非ともお二人もこちら側へ」
それって死ねといっている様なもんじゃね?
俺達よりも圧倒的な速度と怪力を誇るサノーは見えはするが体を動かす暇は無いほどの速度で俺とラビィを捕まえる。
華奢にも見えるその体つきとは裏腹に腕力はやはり魔物なんだなと認識を改めてつつも俺は嫌な汗を垂れ流す。
「嫌だぁぁぁぁ! まだ死にたくないぃぃぃぃ!?」
「助けてぇぇぇぇぇ!!」
◇◇◇
俺とラビィのゴミの様な身体能力での全力抵抗も虚しく、速攻でミストの元と言う名の地獄へと連れ去られる。
「いい加減観念してください、毎度の事でしょう」
「いやぁ、そうなんだけど。これは馴れないって」
「こうなったミストって本当に面倒だよね、DP以外に価値がなくなるもんね」
「ラビィ、そう思ってても口にするものじゃあ無い。事実が1番人を傷付けるんだ、これは魔物も同じだと俺は思っている」
「クロト様、1番失礼なのは貴方です」
いやいや、ミストの良いところだってちゃんと理解しているつもりだぞ何せ親友だからな。
例えばホラ……えーと、その、そうそう! 見た目だけは愛嬌あるところとかな!
「あれ、ミストに良いところなんてあるか?」
ワガママだし負けず嫌いだし五月蝿いしすぐ怒るしお菓子は食べたら散らかしっぱなしだしゲームで負けると泣きじゃくるし、かと言って手加減して負けるとそれはそれでキレるし……おや? ミストの存在価値が下がっていくぞ?
「クロトー、思ってることはミストに言っちゃダメだからね?」
「あの短気に堂々と言ったら本気で殺されるから言うわけないだろ?」
「そろそろ自分達の足で歩きませんか?」
このやり取り、玄関から今までの間俺とラビィはサノーとウノーに引きずられたまま会話を続けていた。だって楽なんだもの。
「着きましたよ、あとはお願いしますね」
「おいおい、マスターをほったらかしで危険な魔物の巣に放り込む気か? 自慢じゃないが秒殺されるぞ?」
「そうなれば配下としてこき使って差し上げますよ」
「死ぬに死ねない」
相変わらず俺に冷たい奴だ、このツンデレめ! いつ俺にデレるんだオイ!
「……サノーが軽口叩いてるときはデレてる」
俺の耳元で心中を察したのかウノーが告げる、いきなり話しかけてくるから思わずビビった。
ふむふむ、それは良いことを聞いたぞ。
サノーめ、照れ隠しって奴だな。
「ウノー、余計なことを言わないで下さい」
「まぁまぁサノーよ、いつでも悩み事は俺に言うんだぜ?」
「悩み事はミスト様の機嫌です、バカみたいな事言ってないで早くしてください、埋めますよ」
「ウィッス」
目が本気にしか見えないって、あれでデレてるとか絶対嘘だろ。
サノーが怖いので離れることにしよう、このままだと八つ裂きにされそうだ。
ごくり、と乾ききって唾液なんか出てない筈なのに喉を鳴らし体が水分を欲しているのが良く分かる。帰っても良いですかね?
「ラビィ、先に行っても良いぞ」
「え、クロトが行きなよ。私に遠慮しないでさ」
障気の度合いがおかしなくらい濃くなっている扉の前、冷徹な視線を背中に感じ、心のどこかで借金取りに捕まり頭文字Yの組長に会合する前の一般人の様な気持ちになる。
そんな中で俺はラビィに先手を譲ることにしたのだが断られる。
「お前ミストと仲良いだろ? 気軽に行けば喜んでくれるって」
「そう言うクロトも1週間ぶりでしょ? 久しぶりに顔見せた方がミストも喜ぶよ」
む。
「ラビィは1度会って戻ってきたんだし、ミストにちゃんと知らせないと駄目じゃないか?」
「それなら先にクロトが顔を出して後から私が連れてきたよって説明すれば良いと思うよ。急にクロトが出てきたらサプライズみたいになると思うんだー」
なるほど。
「……」
「……」
会話の余地はないな。
「つべこべ言わず先に行けぃ! レディファーストだこの野郎!」
「あっずるい! いつもはそんなことしない癖に! 都合が良すぎだよ! 責任とって最初に行って!」
「はぁぁぁぁん!? 何の責任で地獄に行かないゃならないん!? 生け贄は一人までじゃオラァ!」
話し合いはとうの昔に無駄と分かっていた、相容れない両者に会話という選択肢は既に遥か彼方だ、言葉を放棄した生命体が次に選ぶ行動とは結局力ずくの暴力である。
俺はラビィと掴み会うとお互いを扉の前に押し付け合う、これは聖戦、ジハードなのだ!
「さっきから扉の前で五月蝿いのさ! 入るなら入れ! 寂し過ぎるじゃん!?」
内開きの扉は喧しい声と共に開放され、丁度顔が扉に埋め込まれていた俺は支えのなくなった体を木材で出来た床に強く打ち付ける。
「よう、ミスト。元気そうだな、遊びに来てやったぜ」
「その前に鼻をどうにかするのさ……」
恐らく顔の中心部分に咲き誇った赤い涙の事を言っているのだろう、鉄の味がする。
◇◇◇
鼻血を拭いた俺は落ち着きを取り戻し、ミストの部屋のソファーへと腰かける、隣にはラビィだ。
「んで、何で暴れてたんだ? 無茶苦茶に壊しやがって」
直すの誰だと思ってんだ、族長達だぞ。
決して俺ではない辺り仕事をサボっている感はたっぷりある。
族長達には臨時報酬を出すとしようか、DPならたっぷりある。
「退屈なのさ、クロト言ったよね。僕に退屈はさせないってさ」
過去の約束を蒸し返してくるのは倦怠期に突入したカップルのそれである、誰も幸せにならない上にギスギスしだす。お願いだからそう言うのは止めて差し上げろ。
確かにそんな約束したな、そんな事を思い出しながら若干……いやかなりの冷や汗をかき始める、恐らくこの半年で1番の命の危険かもしれない。
「それがどうなのさ! たまに来る筈の冒険者はこのエリアにも来てくれないし、ましてや数も質も悪い! それなら僕の国に戻った方がまだ増しなのさ!」
どうやらかなり溜め込んでいる様だ、思わず叩いた机がVの字に粉砕された辺りでどんどん水分を奪われる。
まずい、これは非常にまずい事態だ。話を自然な形にそらそう。
「でもユキムラ達との戦いは面白いだろ?」
俺は知っている。日夜ユキムラ並びに十勇士はお前と訓練と言う名の激闘を繰り広げている事を。
俺は知っている。お前はその戦いで凄く楽しそうな戦闘民族を思わせるような笑いを浮かべている事を。
ダンジョンマスターに知らない事などない。ただし、ダンジョン内に限る。
暇潰しにモニターで色々観察してはいるのだが、間違えてホブゴブリンの夫婦が夜の特訓をしている所を見たときは本当にごめんなさい。
後日何も言わずに赤ちゃん専用のベッドをプレゼントしたときは彼らの目は丸くなっていた、覗き見は良くないよな。
「そうなんだよ! ユキムラはどんどん成長してるし武器の扱いもかなり上手くなっていてさ、僕と互角に戦える様になってるのさ!」
満足してんじゃねぇか。
それにしてもユキムラ達って一切進化してないけどそんなに強くなったの? 有り体に言えばユニークモンスターっぽいミストに? 何を目指してんだスライム。
とにかくミストの不満をどうにか取り除くか。
おかしな点があればお願いします!
感想戴けると口許が緩んで更新が早まるかもしれない……




