### エピローグ:夜明け前の旋律
### エピローグ:夜明け前の旋律
時計塔の広場に、冷たい風が吹き抜けていく。
街を覆っていた結晶の雨は止み、夜空にはようやく本物の星が見え始めていた。
シノの手は、僕の手の中で少しずつ薄くなっている。
彼女が消えていく。その事実だけが、僕の理性を真っ白に染め上げていた。
「レイ、泣かないで」
彼女は僕の頬を、粒子になりかけた指先で優しく拭う。
「これは終わりじゃない。……この街の人たちの心の中に、私たちが紡いだ音楽が残るなら、それは私が消えたことにはならないから」
僕は、彼女の手を強く握り返すことしかできない。
街を覆っていた重苦しい結晶は消えた。けれど、僕の心の中には、彼女を失うという、一生消えない結晶が刻まれてしまった。
「続きを、歌おう」
彼女はそう言って、僕の端末を指差す。
まだ、戦いは終わっていない。管理官たちの組織はまだ息を潜めている。そして、この街の結晶の根源――『沈黙の核』は、まだ深層に眠っているはずだ。
「……ああ、歌おう。何度だって」
僕はキーボードに手を置く。
モニターには、次に奏でるべき旋律の波形が浮かび上がっていた。
空が白み始める。
僕とシノの物語は、ここからが本当の始まりだ。この世界から全ての「声なき痛み」を消し去るまで、僕たちは終わることのない夜を駆け抜けていく。
遠くで、管理官たちの靴音が聞こえる。
それでも僕たちは、互いの存在を確かめ合うように、再び音を重ね始めた。
この音楽が終わるまで、僕たちは、どこまでも。
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