### 第六章:結晶の残り香
### 第六章:結晶の残り香
時計塔を包んだ極彩色の光が収まったあと、そこには静寂だけが残っていた。
しかし、光の中にいたシノの姿は、以前よりも透き通って見えた。
「……シノ?」
僕が駆け寄ろうとすると、彼女は苦しげに微笑んで一歩下がった。
彼女の指先が、結晶の粒子のように微かに崩れ、空中に溶けていくのが見えた。
「ねえ、レイ。やっとわかったよ」
彼女の声は、かつてないほど澄んでいた。
「私は人間じゃないんだ。この街の、人々の『どうしても言葉にできなかった想い』が溜まって、形になったもの。……だから、歌えば歌うほど、私は私の形を保てなくなる」
彼女は自身の消えかけた腕を見つめ、静かに続けた。
私たちが音楽で世界を浄化するたび、彼女の存在は結晶へと還元されていく。街から結晶が消えるとき、彼女もまた完全にこの世界から消滅してしまう運命にあるのだと、彼女は最初から知っていたのだ。
「レイ、私の音楽を聴いてくれてありがとう。ずっと、誰かに見つけてほしかった」
僕は言葉を失った。
僕が彼女に音楽を捧げれば捧げるほど、彼女は死へ近づいていく。だが、彼女が歌うのを止めれば、この街の人々は結晶の記憶に押しつぶされて死ぬ。
シノは僕の手をそっと握った。
触れた手は、氷のように冷たく、けれど確かな体温を感じさせた。
「まだ歌えるよ。……この夜が明けるまで、私たちだけの歌を」
レイとシノの間に流れていた、共依存にも似た音楽的な絆が、残酷な現実を突きつけていた。僕は、彼女を失う恐怖と、世界を救う使命の狭間で、初めて本当の意味で泣いた。
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