### 第五章:境界線上のデュエット
### 第五章:境界線上のデュエット
警告音が街中に響き渡る中、僕はモニターを閉じた。
回線越しの共鳴では、もうこの増殖する結晶の壁は壊せない。僕は、シノが待つ場所――結晶の雨が最も激しく降り注ぐ、廃墟となった時計塔の広場へと走った。
息を切らして辿り着いたそこには、灰色の結晶の粒子が渦を巻いていた。
そしてその中心に、彼女はいた。
シノは、まるで結晶の一部のように佇んでいた。
僕たちが画面越しにだけ共有してきた、あの声の主。初めて見る彼女は、あまりに儚く、けれどその瞳には、世界の崩壊を恐れない強い光が宿っていた。
「……レイ」
彼女が僕の名を呼ぶ。
モニター越しではない、震える空気を通じて届いたその声に、僕は胸が締め付けられるのを感じた。
「歌ってくれ、シノ。僕がここにある全ての音を、君に捧げる」
僕は持ち込んだモバイル端末を時計塔の音響増幅器に繋いだ。
物理的な空間が、僕たちの音楽で塗り替えられる。
シノが深く息を吸い込み、歌い始めた。
その瞬間、時計塔を覆っていた結晶が激しく揺れ、極彩色の光を放ち始めた。彼女の声が空気を震わせ、僕が打ち込んだ旋律が地響きとなって結晶の壁を砕いていく。
二人の音が重なった場所から、物理的な境界線が溶けていくのが見えた。
「会えた……!」
僕の声も、彼女の声も、音楽の中に溶けていく。
ノイズに支配されていたこの街に、初めて純粋な「響き」が生まれた。二人のデュエットが、管理官たちの静寂を粉々に砕いていく。
世界が、僕たちを再構築しようとしていた。
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