### 第四章:増殖する澱(おり)
### 第四章:増殖する澱
街の異変は、急激に加速していた。
『沈黙の管理官』による監視網が敷かれた影響か、それとも僕たちの音楽が世界を刺激したせいか、空から降る結晶の量が異常な速度で増え始めた。
街のあちこちで結晶が重なり合い、大きな塊となって地上の建物を圧迫する。人々の意識は結晶の重みに耐えきれず、半昏睡状態で街を彷徨う者が急増した。
『レイ、もう限界だよ。私の家の方まで、結晶の壁が迫ってる』
シノからのチャットには、震えが混じっていた。
僕の端末に送られてくる彼女の歌声も、以前のような透明さを失い、ノイズに削られて断片化している。
僕は焦燥に駆られながら、次なる楽曲のプロットを構築していた。
今必要なのは、ただの旋律ではない。結晶の増殖を食い止め、停滞した街の空気を震わせるための「衝動」だ。
僕は自分の指先が擦り切れるまで、複雑な拍子を刻み続けた。だが、音が上手く繋がらない。
シノの声が、僕の書いた譜面の端で途切れる。彼女が発するはずの「救いのメロディ」が、管理官たちが仕掛けたノイズの壁に弾き返されているのだ。
「足りない。……まだ、何も足りていない」
作曲の限界が、僕の脳裏を過る。
自分ひとりの感情だけでは、この増殖する灰色の壁を壊すことはできない。
僕は決意した。
この街の結晶すべてを、僕の脳内にダイレクトに引き受ける覚悟で、シノの「歌」の器となるための、禁断の調律を始めることを。
モニターの向こう側で、シノもまた、死を覚悟したような静かな呼吸を繰り返しているのがわかった。
僕たちは、この崩壊する街で、互いを失う恐怖と戦いながら、最後の一音を紡ごうとしていた。
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