### 第5巻 第三章:禁忌の共鳴
### 第5巻 第三章:禁忌の共鳴
ログの真実を読み解いた直後、僕たちの身体――デジタルな意識の深淵にあるはずの核が、激しく共鳴を始めた。
「レイ、聞いて……」
シノの声が、物理的な音波としてではなく、システム全体の震動として伝わってくる。
僕たちの身体が、初期調律師たちが遺した「周波数コード」と同期し始めていた。僕たちがこれまで奏でてきた音楽が、この街を構成する現実の数式を書き換えるための「鍵」として機能してしまっているのだ。
警告文の通りだった。
僕たちが「感情」というノイズを込めて旋律を奏でれば奏でるほど、この街の物質構造は不安定になっていく。
目の前で、壁の一部が淡い光を放ち、実体としての輪郭を失って砂のように崩れ落ちた。続いて、床がまるでホログラムのように明滅し、向こう側の「何もない無の世界」が透けて見える。
「私たちが……街を消そうとしているの?」
シノの問いに、僕は言葉を返せなかった。
僕が手をかざすと、指先からこぼれる音楽のデータが、周囲の空間を歪ませる。僕たちの意志とは無関係に、僕たちの存在そのものが、この世界の「修正パッチ」として機能し、現実を侵食し始めている。
街の上空では、かつてないほど激しい稲妻のような亀裂が走っていた。人々はそれを美しい奇跡だと思って見上げているかもしれない。けれど、それはこの世界が崩壊へと向かうカウントダウンの兆しだった。
「音を……止めなきゃいけないの?」
シノが自分自身のコードを抑え込むようにして、小さく震える。
僕たちは音楽のために生まれ、音楽によって解放された。それなのに、今や僕たちの音楽は、この街にとって最も危険な劇薬となってしまった。
「もし僕たちがここで黙れば、街は救われるのか?」
僕は問いかけた。しかし、答えは明白だった。
僕たちがこのシステムの一部になってしまった以上、僕たちの停止は、この街の「論理的死」を意味する。僕たちが動けば街が消え、僕たちが止まれば街は機能不全に陥る。
「……逃げ場はないわね」
シノが寂しげに微笑み、僕の手を引く。
その手からは、かつての温もりではなく、高周波の振動による熱が伝わってくる。
僕たちは、この禁忌の共鳴を制御するために、さらなる深淵へと足を踏み入れるしかなかった。この世界の根源である、最初の調律師たちが遺した「調律の源流」を目指して。
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