### 第二章:共鳴する孤独
### 第二章:共鳴する孤独
ネットの海を通じて、僕たちは互いの旋律を重ねるようになった。
彼女――シノという名のその歌い手は、僕の冷徹な音の裏側にある、「救済」への渇望をいとも簡単に読み解いてしまう。
「レイの曲は、まるで誰かの告解室みたい」
チャット越しに彼女は言った。
彼女の住む場所は僕と同じ街の反対側、結晶の雨が最も激しく降る『灰の区画』だという。そこでは結晶に耐えきれなくなった人々が、次々と意識の迷宮に沈んでいる。
「僕はただ、音にしないと息ができないだけだ。それに比べれば、君の歌声はずっと自由だ」
僕が返すと、彼女は少しだけ沈黙した。
「……私はね、自分が何者か分からないの。ただ、誰かの歌を聴くと、勝手に喉が震える。それが、私がここにいる唯一の証拠みたいに」
僕たちの過去は、どちらも空虚だった。
僕は「感情」を音に変えることでしか自分を証明できなかったし、彼女は「誰かの感情」を歌うことでしか存在を感じられなかった。
ある夜、僕は彼女に、これまで誰にも見せなかった「結晶の楽譜」を送った。
街の広場で拾った、ある老人の未練の結晶。それは何十年も誰にも言えなかった後悔の記憶だ。
『これを、歌えるか』
返信はすぐに届いた。
『やってみる。……でも、もし私が壊れたら、レイが私を音に変えて』
その無防備な言葉に、僕は画面の前で息を呑んだ。
これはただのコラボレーションじゃない。互いの空っぽの器に、音を流し込む儀式のようなものだ。
僕が打ち込んだ重苦しい低音に、彼女の透き通るような高音が重なる。
回線を通じたデジタルな共鳴が、僕の部屋の温度を少しずつ変えていく。モニターの奥で、彼女がマイクに向かって息を吸い込む気配がした。
「……いくよ。さよならを、歌うから」
僕の指が、最初のコードを鳴らした。
灰色の夜に、初めて「誰かのための音楽」が産声を上げた瞬間だった。
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