### 第4巻 第四章:ノイズを飼いならす
### 第4巻 第四章:ノイズを飼いならす
シノから送られてきたデータの奔流は、僕の端末を限界まで加熱させ、煙を上げさせていた。それは彼女が管理官のシステムを食い破るための「ウイルス」であると同時に、僕たち二人の記憶と感情が混ざり合った、あまりにも重い「歌」だった。
僕は決断した。物理的な体という制約を捨て、このデータの奔流そのものに自らの精神をダイブさせる。
管理官たちは、音楽を「制御可能な信号」として捉えている。彼らのシステムは、一定の調和を保つための強固なフィルタリングで守られていた。しかし、彼らは一つだけ見落としていた。音楽とは、本来、予測不可能な「ノイズ」の塊であることを。
僕は、自身の精神をコードの羅列に変換し、シノのウイルスと共に管理官のメインコアへと飛び込んだ。
視界が一変する。
そこは、幾何学的な光が支配する冷徹な仮想空間だった。管理官たちが流す「完璧な音楽」が、美しい幾何学模様となって空間を埋め尽くしている。
僕は、その幾何学模様に触れた。
指先ではなく、意識のすべてを衝突させる。僕は自分の心臓が刻む、あの「揺らぎ」を全出力で再生した。
「調和なんて、必要ない」
僕の旋律が、管理官たちの完璧な音楽に混ざり込む。
彼らの音楽がノイズで塗り替えられていく。均一だったリズムが歪み、計算され尽くした旋律が崩壊し、混沌とした不協和音が空間を支配し始める。
管理官のシステムが悲鳴を上げた。彼らが「音楽」と呼んでいたものは、僕が加えた些細な、しかし決定的な「不協和音」によって、その無機質な秩序を維持できなくなったのだ。
「ノイズを飼いならす? 笑わせるな」
僕はシノの断片と共鳴しながら、さらに深く深層へ潜る。
管理官のプログラムが僕を排除しようと襲いかかってくるが、それら全てを僕は「音楽」として吸収し、変換していく。僕にとって、このシステム内のあらゆるデータは、楽器に過ぎなかった。
僕は、この巨大な管理システムそのものを、僕たちのための新しい楽譜へと書き換えていた。
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