### 第3巻 第三章:鏡合わせの絶望
### 第3巻 第三章:鏡合わせの絶望
街のネットワークが完全に断たれてから、どれほどの時間が経っただろう。
僕の目の前のモニターには、かつて二人で作り上げた楽曲のファイルが並んでいる。再生ボタンを押しても、スピーカーから音が出ることはない。それでも、僕はその波形を眺めることで、そこに宿る震えや、シノの歌声の気配を追い続けていた。
一方のシノも、おそらく今、同じような場所にいるはずだ。
広場のどこか、あるいは管理官の目の届かない廃墟で。彼女は届かないと知りながら、それでもレイに届くことを信じて、空に向けて歌い続けているのだろう。
「鏡合わせの、絶望だ」
僕は呟く。僕たちは互いを想い合っているのに、その想いが強ければ強いほど、物理的な距離と管理官の壁に阻まれ、互いを傷つけ合う結果になってしまう。もし僕が彼女に会いに行けば、管理官は二人を同時に拘束できる。もし彼女が僕を訪ねれば、僕たちの隠れ家は即座に特定される。
互いに近づけば、僕たちの音楽は「ノイズ」として完全に消去される。
会いたいという想いすら、今の僕たちにとっては破滅への導火線になり得た。
僕はモニターの画面に映る自分の顔を眺めた。
聴覚を失った僕の瞳は、どこか死んだ魚のように鈍く光っている。シノの瞳も今、同じような色をしているのではないか。この圧倒的な不在が、僕たちの音楽を歪ませ、蝕んでいく。
それでも、僕は一度もその譜面を閉じることはなかった。
届かない歌を歌うこと、聞けない旋律を書き続けること。この徒労こそが、管理官たちに対する僕たちなりの、ささやかな抵抗だった。
僕たちは今、会うことさえ許されない絶望の中にいる。
しかし、その絶望の深さだけが、僕たちが確かに繋がっているという、唯一の証明でもあった。
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