### 第3巻 第二章:遮断された回線
### 第3巻 第二章:遮断された回線
街の空気は、目に見えないほど鋭く切り裂かれていた。
僕がシノの声を視覚的に解析し、それを音楽へと変換していたその時だった。モニターの隅で、ネットワークの信号が突如として途切れる。接続を試みるための再送パケットを送るが、返ってくるのは虚しいタイムアウトの通知だけだ。
「……通信が、遮断された?」
管理官たちが、ついに街の広域ネットワークをダウンさせたのだ。彼らは音楽が単なる情報の伝達ではなく、人々の心と心を通わせる「意志の共有」であることに気づき始めたのだろう。
僕とシノの間にあった、唯一の架け橋が消失した。
チャット画面はフリーズし、シノの歌声の波形はグレーアウトして動かなくなる。物理的に離れた場所にいる僕たちは、互いの存在を感じる術を奪われた。
漆黒の静寂が、僕を押し潰そうとする。
これまでは、音が聞こえなくても、データが僕たちを繋いでいた。けれど、その回線さえも断ち切られた今、僕は本当の意味で「隔離」されたのだ。
街を見下ろすと、そこには管理官たちの黒い監視ドローンが、まるで羽虫のように群れをなして空を回っている。彼らは音のない世界を強制し、街の人々を再び感情の持たない人形へと戻そうとしていた。
シノは今、どこで何をしているのだろう。
彼女もまた、この断絶された世界で、一人で歌い続けているのだろうか。
僕はキーボードから手を離した。
どれほど精密なプログラムを組んでも、それを届ける先がなければ、音楽はただの計算式に過ぎない。僕たちは今、深い海の底にそれぞれ沈められたような、孤独のどん底に突き落とされている。
この沈黙は、かつての結晶の雨よりも冷たい。
けれど、僕はモニターに映る真っ黒な画面をじっと見つめ続けた。いつかこの暗闇を切り裂いて、再び彼女の歌が届く時を信じて。
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