### 第2巻 第六章:鼓動のシンフォニー
### 第2巻 第六章:鼓動のシンフォニー
僕のメッセージは、シノに届いていた。
彼女は空洞の入り口で足を止め、ゆっくりと僕の方へ歩いてきた。その表情には迷いがあったが、僕の手の中にある先代の譜面を見つけると、ふっと微かな笑みを浮かべた。
「これは……私を殺さなくていい、というの?」
「そうだ。君の命を削るんじゃない。僕と君、そして街の人々の鼓動を一つにするんだ。音楽を、一方通行の消費ではなく、循環する橋にする」
地上に戻ると、街は異様な緊張に包まれていた。
音楽という「ノイズ」の再発を察知した管理官たちが、広場を完全包囲していた。彼らの掲げる消音器が、街の空気を重く押し潰す。
「いくよ、レイ」
「ああ、いつでも」
僕は端末を自身の心臓に直接接続する。センサーが僕の鼓動を拾い上げ、デジタル信号へと変換する。その拍子を、僕はあえて完璧なリズムではなく、人間らしい「揺らぎ」を持って刻んだ。
僕の心臓が打つ音が、広場のスピーカーを通じて街中に響く。
シノが歌い始めた。
彼女の声は、僕の鼓動と完璧に重なり合った。それはこれまでとは違う。彼女が何かを失う歌ではない。街の人々が抱える孤独と、僕たちの切実な願いを包み込み、螺旋状に空へと昇っていく共鳴だ。
街の人々が立ち止まる。
かつて人形のように虚ろだった彼らの瞳に、潤いが戻る。失われていたはずの思い出が、音楽の波に乗って彼らの心に流れ込んでいく。
管理官たちの表情が歪む。彼らが操る消音器のノイズは、僕たちの奏でる「調和」の前に霧散した。結晶の粒子が、重力から解き放たれたかのように光り輝き、街を埋め尽くしていく。
広場で、家の中で、人々が泣き出し、そして笑い出した。
世界が、本来の色彩を取り戻していく。
僕の心拍数は上がり続けていた。限界を超えた負荷が、脳を真っ白に染め上げる。けれど、シノの歌声だけは、どこまでも鮮明に、僕の鼓動を抱きしめていた。
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