表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星詠みの調律師(アストラル・チューナー)  作者: じょんどぅ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/18

### 第2巻 第二章:地下の呼び声

### 第2巻 第二章:地下の呼び声


その深夜、街を覆う静寂を切り裂くように、僕の端末が短く震えた。


警告アラートではない。見たこともない形式のデータパケットだ。発信源は、街の最深部――地図上では廃棄されたはずの地下水道区画だった。


僕はモニターの前に座り、その信号を解析しようと試みた。コードの羅列だ。しかし、ただのデータではない。解読していくと、それはかつて僕たちが結晶の雨の中で奏でた旋律の、「対になる音」だった。


『レイ、来て。……ここには、私たちが知るべきことがある』


シノからのメッセージが、画面を埋め尽くす。

彼女からの連絡はいつも短いが、今回はその奥に、抑えきれない焦燥と、誰かに見つけてほしいという震えが混ざっていた。


僕は迷わず、黒いパーカーを羽織った。

深夜のカノンは、墓場のように静まり返っている。僕は街の片隅にある、錆びついたマンホールの蓋に手をかけた。重い鉄の蓋を押し開けると、冷たく湿った空気が顔を撫でる。


地下に降り立つと、そこは闇の底だった。

壁一面には、結晶化しきれなかった「負の記憶」のおりが、黒いカビのようにこびりついている。僕の持つ端末の灯りが、暗闇を微かに照らす。


その奥に、彼女はいた。

シノだ。地下の冷気の中で、彼女の白い肌がぼんやりと発光しているように見える。彼女は、壁にこびりついた澱をじっと見つめていた。


「シノ!」


僕が声をかけると、彼女はゆっくりと振り返った。

彼女の瞳には、かつて見たことのない、深い哀しみの色が宿っていた。


「レイ。聞こえる……? この街の地下で、ずっと泣き続けている『忘れられた声』が」


僕が耳を澄ますと、地下の奥底から、低い地響きのような、人間の泣き声に似た振動が伝わってきた。それは結晶として地上に降ることもできず、誰にも認識されずに溜まり続けた、街の深い悲鳴だった。


僕は足元に転がる澱の欠片に触れる。

指先に、かつて誰かが抱いた激しい絶望が突き刺さった。それは痛みを通り越し、ただひたすらに冷たい空虚だった。


「これが、私たちが『浄化』した結晶の、本当の行き先だったのね」


シノが震える声で呟く。

私たちは、自分たちが救ったと思っていたこの街の、本当の傷跡を前にしていた。地上でどれほど美しい旋律を奏でようと、この地下に溜まり続ける悲鳴が消えない限り、街は本当の意味で救われない。


「帰ろうか、シノ。ここは長居する場所じゃない」


僕は彼女の手を引こうとするが、シノは動かなかった。彼女はその澱を、慈しむように見つめている。


「帰れないわ。レイ、私……この声たちが、どうしてこうなってしまったのか知りたいの。音楽を失った街で、彼らが最後に何を願ったのかを」


彼女の言葉に、僕は反論できなかった。

地下から響く振動は、次第にリズムを帯びていく。それは、僕の知っているどの曲よりも哀しく、そして、抗いがたいほどに美しい調べだった。


僕たちは、暗闇の奥へと足を踏み入れた。

そこには、この街の忘れられた歴史と、僕たちがこれから向き合うべき最大の試練が待ち受けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ