73 陰謀の影 ①
不定期投稿です。
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「ドイナー、私が不在の間、本当に苦労をかけたみたいね。ロシェルを守ってくれて有難う。」
ルネア王女の滞在する宮殿から戻る馬車の中で、グレイスはドイナーにそう話しかけた。
馬車に乗り込んでから、黙って外の景色を見ているグレイスの顔を静かに見つめていたドイナーは、これまでを思い出すように軽く息を吐いた。
「ロシェルの事は心得ておりますのでご安心下さい。」
「有難う。ロシェルを公爵位にしても、煩わしさからは解放されそうにないわね。」
「ご不在の間、皇帝陛下がお守り下さいましたが、やはりグレイス様がお傍におられるのが一番です。」
「そうね·····。」
「グレイス様。」
「なあに?」
「8年間思い悩まれていた事は、解決したのですか?」
グレイスは一瞬言葉を失う。
「·····まだ分からないわ。」
「そうですか····。·····グレイス様、お願いがあります。」
そう言うドイナーに視線を向けると、そこには真剣な表情で、真っ直ぐにグレイスを見つめるドイナーがいた。
「何かしら?」
「もし、また旅立たれることがあるなら、その時は私を連れて行って下さい。私はグレイス様に忠誠を誓った騎士です。傍に居ることをお許し下さい。」
「ドイナー·····。」
「それから、また血の契約を私に·····お願いします。」
最後は悲痛な面持ちで頭を下げ、ドイナーはグレイスに願った。
沈黙が流れる。
ドイナーのグレイスに対する特別な想いは、タッカを思い出させた。
「私は貴方を死なせたくはないの。私が戦場で倒れたなら、その身体をヴァーバルに連れて帰ってくれるのは、貴方でしょう?」
「グレイス様·····ですが·····。」
ドイナーのグレイスに対するただならぬ忠誠心。
それはドイナーを支えているものの一つなのだろう。
あの時は血の契約を解除出来る余裕があったが、危機に陥った時、果たして同じように解除出来るかは分からない。
だが血の契約の紋は、命を握るだけではなく、その紋を通じて契約者に魔力を送ることも出来る。
そう考えると、この紋を使い、グレイスの魔力を送ることで戦いを有利に進めることが出来るのだが。
だがやはり術者の死が作用すると思うと、安易には血の契約は結ばない方がいい。
「新しく考えた魔法陣があるのだけど·····。」
グレイスはこの8年間研究し、作った魔法陣があった。
「今までは魔石に魔力を込めたものを渡していたでしょう?それだとその魔力が使われれば、魔石はただの石になってしまう。そうではなく、魔石に刻み、身につけてもらおうかと思っている魔法陣があるの。それを身に付けていると、その魔法陣を使ってその者がいる場所や、念話をすることが出来る上、魔力を送る事が出来るわ。魔法陣を通じて魔力を送り続ければ、魔石の魔力が尽きることはない。だけどその魔法陣から魔力を受け取る特別な技術が必要になるわ。まあ、ドイナーなら直ぐに会得出来ると思うけど。 だから私は血の契約紋ではなく、それを受け取って欲しいわ。」
「·····承知しました。」
ドイナーはどこか納得していない様子だったが、それ以上は何も言わなかった。
エリオットが一部の魔族を葬って以降も、魔族は各地に現れ、魔獣の活動は活発化していた。
大規模な討伐隊が送り出される程ではなかったが、未だ戦いは続いていた。
グレイスが不在だった時は、ロシェルによる土地の浄化が主だった。
戦闘については、ナルージアがリーヴァから呼び出され、帝国の騎士団と共に行っていた。
グレイスが戻ったとなれば、再び国外の大規模遠征に参加もあり得る。
ドイナーを伴って戦いに行く場面は、これからも続くだろう。
「魔族との共存の実現は、まだまだ難しそうね。」
「はい。」
昨日リーヴァに話を聞くと、圧倒的な力で倒さない限り、魔族が人間に付き従う事はないとの事だった。
様々な問題が山積していたが、取りあえず予定通り、グレイス達はヴァーバル領へと戻っていったのだった。
◇◇◇
「グレイスは無事ヴァーバル領へ出発したか?」
「はい、予定通り。しかし宜しかったのですか?各国から公爵に面会の依頼があったのでは?」
「ああ、だが戻ったばかりだ。日を改めるように言っておいた。」
長年リーヴァの補佐官を勤めるロスは、淡々と執務を続けるリーヴァに、心配の眼差しを送る。
「報告では、何やらルノール王国のルネア王女が頻繁に各国の要人と会っているそうです。」
「ルノール国内において、あの王女の力はさほどではない。しかし王族だ。帝国を出た後も監視を続けろ。」
「承知しました。それから·····」
「まだ何かあるのか?」
「はい。ルノール王国内の話ですが、ヴァーバル公爵様に対して、良からぬ感情を持った組織があるそうです。」
「良からぬ感情?」
「はい。8年前、ルノール王国の古城で魔族と戦闘が行われた際、魔族を操っていたのが、フェアノーレ王国の元王太子殿下であったとの話が広がっておりますが·····。」
「ある魔導士が、とそれが誰なのかは、はっきりとさせていなかったが、エリオットだった事を公にもしなければ秘匿もしない事にしている。その魔導士がいち早く魔族の存在に気付き、対処しようとした所、逆に身体を乗っ取られたという事になっているはずだ。それが何故グレイスに良からぬ感情を抱く事になるのか?」
「はい、その王太子殿下を操っていたのは魔族ではなく、ヴァーバル公爵だという噂です。」
「グレイスはそれまで各地で魔族を討伐していたのは周知の事実。何故そんな話になる?」
「ヴァーバル公爵様が元王太子殿下の婚約者だからです。元王太子殿下に連れ去られ、姿を消された事から、そのような噂がたっているのだと。」
「魔族を魔導士が····エリオットが自ら命を絶つことで魔族を倒したという美談はどうなる?」
「それが·····グレイス様が魔族を操り、フェアノーレ王国に復讐をしようとしたと。その際、正気を取り戻した元王太子殿下がそれを防ぐ為に、自死されたという話になっています。」
「·····グレイスに喧嘩を売るという事は、タンドゥーラ公爵家を、ルダリスタン帝国を敵に回すことになることを分かっていない人間はいないと思うが?」
「どうやらルダリスタン帝国内にも、ヴァーバル公爵を抑えようとする輩がいるようで、その者達と繋がっているようです。」
「グレイスを陥れて何をしようとしている?」
「·····おそらくロシェル様との繋がりを得たいのでしょう。皆、聖属性の魔力を持った子が欲しいのです。ロシェル様を公爵にし、側室としてそれぞれが押す令嬢を迎えさせようと。」
「結局それに繋がるのか。ロシェルがはっきりと拒否している事を伝えているはずだが?」
「はい。·····それからもう一つ。これに関係するかは分かりませんが。」
「何だ?」
「ルノール王国内で魔族が捕獲されたとか。」
「各国との協議で、万が一捕獲した場合は情報を公にする事にしているはずだが?」
「はい。つい先程ルノール王国に潜入させている者から連絡があったばかりなので、今後、王国側から発表があるかもしれませんが。」
「ルノール王国が捕獲する位だから、高位魔族ではないだろうが、何か特別な能力を持っているのか?」
「報告によると精神系の魔法を使うそうです。」
「精神系か·····。下級魔族の魔法なら、魔力が強いグレイスやロシェルには効かないとは思うが·····。ヴァーバル領に戻ってほどなくしてから、グレイスはフェアノーレ王国へ行く予定がある。隣国のルノール王国からの接触に気を付けるように手紙を送っておいてくれ。」
「承知しました。」
「ナルージアはグレイスと共に戻ったのか?」
「はい。」
「ナルージアにその魔族について調べるよう伝えてくれ。」
「承知しました。」
魔族を捕獲か·····。
腕のいい魔導士がいるのか?
剣術だけでは拘束を維持は出来ないだろう。
グレイスが戻ったとして、心穏やかな日々は、まだおくれそうにないな。
リーヴァはルノール王国からの報告書に目を通しながら、深いため息をついた。
数ある作品の中から見つけて、読んで下さり有難うございます。
もし宜しければ、暇潰しに、「貴方のためにできること~ヒロインには負けません~」
https://ncode.syosetu.com/n0868hi/
も読んで頂ければと思います。宜しくお願いします。




