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闇の聖女は愛を囁く  作者: 藍沢ユメ
74/93

74 フェアノーレ王国へ

不定期投稿です。

また誤字報告有難うございます。

これからも宜しくお願いします。

部屋の壁際に置かれた全身を写す鏡の前で、少女は身なりを確認する。

胸まで伸びたくせのない黒髪。

平凡な容姿にあって、深紅の瞳が印象的だ。

今日は自分が持っている服の中でも、特にお気に入りの白いリボンのついた水色のワンピースを着ている。


「カレンさん、私はあの人に似てるかしら?」


少女の様子を少し離れた所で見ていた世話係の女性に聞いてみる。


「正直に答えて。お願い。」


「·····面差しは似てますが、雰囲気等は異なります。大丈夫ですよ。」


「·····私を見て、お義母様は嫌な気持ちにならない?あの人を思い出して、私の事を嫌ったりしない?」

「ミジェル·····。公爵様があなたを引き取って、共に過ごされた期間は短いですが、私が見る限り、公爵様はあなたと過ごす時間を大切にされていたと思いますよ。あなたがこれから生きていく力を、しっかり身につけさせようとしていたと思います。フィーネとあなたを混同させることはないですから、安心なさい。」


グレイスが消息を断ってから8年。

フィーネの子ミジェルは、13歳になっていた。

フェアノーレ王国からミジェルのお世話係としてついてきていた神官のカレンは、ずっと傍でその成長を見守ってきた。

グレイスに心を許していたミジェルは、グレイスが行方不明と知らされた時、暫く泣いて過ごしていたが、ニケやモランをはじめとするグレイスに近しい者達が、闇属性の魔法を教えると共に、心の支えになるようにと、気を配ってくれていた。

お義父さんと呼ばれたドイナーも、ミジェルの寂しがる気持ちを紛らわせようと、乗馬を教えたり、遠乗りしたりと、ミジェルに心を砕いていた。

どうやらドイナーは、ミジェルがグレイスを『お義母様』、ドイナーを『お義父さん』と呼んでいる事を気に入っているようだった。


「ミジェル、準備は出来た?先触れが来て、もうすぐグレイス様達がお戻りになるそうよ。お出迎えの準備をしましょう。」


ミジェルの様子を見に来たニケが声をかける。


「はいっ、今行きます!」


ミジェルは興奮した様子で返事をすると、逸る気持ちを抑えながら、階下へ向かった。





帝国の騎士団と同じデザインの漆黒の騎士服は、私兵であっても、ルダリスタン帝国皇帝から強い信頼を寄せられている証であった。

肩には同じ黒の糸でヴァーバル公爵家の紋章が刺繍されている。

そのヴァーバルの騎士団に守られながら到着した馬車の中から、漆黒のローブを身につけた者が2人降りてきた。

2人のローブには騎士とは違い銀の刺繍が施され、胸元にはヴァーバル公爵家の紋章が同じように刺繍されている。

それを見れば、皆、ローブを纏う人物がグレイスとロシェルだと分かった。


消息不明から8年ぶりの帰還。

出迎えにはほとんどの領民が、領館へと続く道に溢れていた。

皆がグレイスの帰還を望んでいたことが伺える。


「グレイス様、お帰りなさいませ。」


家令のゾットが侍従を代表して挨拶をする。

その後ろには侍従長のギルスも控えている。


「ゾット、ギルス、ヴァーバルを守ってくれて有難う。」


2人は感極まっているのか、グレイスの言葉に応える様に、深々と頭を下げる。


そして屋敷で働く侍従達が立ち並ぶ中、グレイスはすっかり大人の女性になったニケの姿を見とめると、嬉しそうに微笑みかける。


「ニケ、ただいま。」


ニケはグレイスにかけられたその一言で、喜びのあまり涙を流す。


「グレイス様っ······お帰りなさいませ。お待ちしておりました。」


グレイスは泣き出すニケに近寄り、優しく頭を撫でる。


「心配をかけましたね。·····それからモランから聞いたわ。2人は結婚したのね、おめでとう。2人が夫婦になって私も嬉しいわ。幸せにね。」

「わ、私から報告したかったのにっ·····グレイス様、有難うございます。」


昔と変わらぬ表情を見せるニケを微笑ましく思いながら、その斜め後ろに立つ、少女に目をやる。

その少女はすでに泣いていた。


「あなたはミジェルね。大きくなって·····。元気にしていましたか?」


話しかけられたミジェルは堪えきれない涙を拭いながら、何度も頷いている。


「ふふ····ミジェル、いらっしゃい。」


グレイスがそう言って手を広げると、ミジェルは躊躇することなく、グレイスの胸に飛び込んだ。


「お、お義母様、お帰りなさいませ。」

「ただいま、ミジェル。可愛く成長しましたね。引き取っておきながら、傍に居られなくてごめんなさい。」


グレイスがそう言って抱き締めると、ミジェルはグレイスの胸に顔を埋めながら、『お義母様に会えて嬉しい』と言い、泣きじゃくっていた。

グレイスはそんなミジェルを宥めながら、幸せを感じていた。


こうしてグレイスの帰還により、ヴァーバル領は歓喜に満ち溢れる事となった。




そしてそれから間も無くのこと。

リーヴァから急ぎ、グレイスにフェアノーレ王国へ行くよう要請があった。


それはフェアノーレ王国国王、アーレンの危篤の知らせだった。




◇◇◇



自分の遊び相手になる令息、令嬢を城に呼ぶと知らせを受けたのは5歳になった頃。

大人ばかりの中で生活していたせいか、自分と同じ年頃の子供の遊び相手が出来ると知って、とても嬉しかった事を覚えている。

そして初めての顔合わせの日。

数人の子供達の中で、一際目立つ少女がいた。

美しい銀髪に水気を帯びたような水色の瞳が印象的だった。

こんなに美しいものを見たことがない、そう思う程、幼いながら他の子供達とはずば抜けた美しさがあった。

グレイス·タンドゥーラ公爵令嬢。

教師から国を支える家門の名を教えられたばかりだった。

その中でも最有力の公爵家。

当時はそれがどれだけかまだ分からなかったが、兎に角王家を、自分を支えてくれる家の子だということが分かった。

グレイスは多くを話すことのない子だったが、自分が楽しかったことや嫌だったことを話すとそれを聞いて微笑んでくれたり、慰めてくれたり、励ましてくれたり、とにかく心に寄り添ってくれる優しい()だと知った。

すぐに大好きになった。

あの娘ともっと仲良くなりたい。

僕のお嫁さんにしたい。

胸をときめかせながらそう思った事を覚えている。

しかしそのうち、兄であるエリオットが集まりに顔を出すようになると、そんな気持ちは打ち砕かれた。

兄上も、グレイスを大好きだということに気づいた。

聞くところによると、それも随分前から。

おかしい、と思った。

兄上にとっては5歳年下なんて、随分幼く見えるだろう。

ただ可愛がっているだけかと思ったが、そうではなかった。

少し怖いと思った。

周りの侍従からは、グレイスにあまり関わらない方がいいと言われた。

グレイスと仲良くなりすぎると、兄上が嫉妬し、兄弟仲が悪くなるからと。

兄上は自分にとっては、怖い存在だったから、皆の言うことを聞くことにした。

悲しかった。

それを母上に吐露したかもしれない。

そのせいだろうか、グレイスが兄上の婚約者に決まった後も、母上はグレイスに接触し続け、あわよくば私の妃にしようとしていたのは。


それが悲劇を招くとも知らずに。


時は流れ、憎しみは蓄積し、兄上の母親である皇后カリファ様が母上を毒殺したことで、私の運命は大きく変わった。

元々の毒を入手した兄上が廃嫡され、私が王太子になった。

私は元々、王家の色を受け継いでいて、見目も良く、愛想も良かったから理想の王子と言われていた。

だが実際政務に携わるようになると、自分の力不足を感じる様になった。

兄上を知っている者達からすれば、兄上の廃嫡は本当に残念そうだった。

父や伯母上もそう思っていることを知っている。

だから逃げたかった。でも逃げられないことは分かっている。

だからせめて自分の傍に置く人間は、自分を偽ることなくさらけ出せて、楽しませてくれる者が欲しかった。

婚約者だったソフィアを捨てるつもりはなかった。

だが結局愛想をつかされたのは私の方だった。

実務を任せるには能力不足の妃を傍に置き、家臣の不信を買った出来損ないの王子。

結局未だ傷心のグレイスに泣きつき側妃になってもらい、何とか王家の面目を保った。

グレイスには申し訳ないが、期間限定とは言え、正直彼女が私の妃になったのは嬉しかった。

王妃に代わり、執務を完璧にこなすグレイスを見ると、自分にもグレイスを王妃に迎える未来もあったのにと思い返すことが多くなった。

結局グレイスはダリウスに降嫁し、悲劇の末、ルダリスタン帝国へ去って行ってしまった。

だがその後も再び私に危機が訪れると現れ、私を救ってくれた。

そして魔族の出現に関与していたのが、兄上であるエリオットの所行だったと報告を受け、更にグレイスが兄上に拐われ再び行方不明になった事。

今回の行方不明は野盗に襲われた時とは違う。

あの兄上にだ。

兄上が廃嫡され、幽閉される前にグレイスと心中を図ったことを思い出す。

絶望的だと思った。

ああ、君の人生はどうしてそんなに苦しいものになるんだ?

君にはあの美しいエルフの血を引いた新しい夫と幸せになって欲しいのに。


グレイスが行方不明になってから5年後、病が再び私を襲った。

身体は徐々に弱り、折角1度治してもらったにも関わらず、再び死の淵にいる。

私はもう長くないだろう。

私の人生に巻き込んだマリアには申し訳ない。

だが最期の我が儘を言うなら、グレイス、君にもう一度会いたい。

叱って欲しいし、私なりに頑張った所を褒めて欲しい。

子供みたいだな。

それが叶うなら、今でも心の奥底に眠っているこの想いを抱えて、安らかに逝けそうだ。

さすがに無理かな。




「·····レン。」


「アーレン·····。」


「アーレン。」



光の中で呼び掛けられる。

ああ、その声は·····グレイス。

グレイスに呼ばれたなら応えなきゃいけないな。

だってまた叱られる。

身体の中に、血とは違う何かが、一気に巡っていく。

心地よい。

これは知っている·····グレイスの魔力だ。

気持ち良すぎるよ。

独占したくなる。


「アーレン聞こえる?」



「ああ······、その声はグレイス。生きてたんだね?良かった·····。」

「来るのが遅くなってごめんなさい。まさかこんなに悪くなっているなんて。」

「私はこの病に好かれているみたいだね。」

「笑えないわ。アーレン、今私の魔力を感じてる?」

「ああ、あまりにも気持ち良くて、止められたら嫌だから、呼び掛けられても黙っていようかと思ったよ。グレイスは····元気そうだね。」

「あなたは痩せたわ。身体が悪いのに無理したのね。闇属性の魔法での治療は上手くいかなかったのかしら?」

「私ほど重い病は難しいみたいでね。君が育てているルダリスタンの魔導士を呼べば良かったんだろうが·····。」

「アーレン?」

「少し疲れてね。色々先延ばしにしていたせいだ。結局グレイスに迷惑をかけるね。」

「アーレン、私と約束したわよね?マリア様をおいて逝かないって。」

「·····ああ、そうだね。」

「あなたも·····辛いことがあるでしょう。それを乗り越える為にマリア様を傍に置いたとしても、結局は自分だけで乗り越えなければならない苦難もある。それであなたが何度落ちてきても、マリア様も私も後ろで受け止めるから、生きることに決して失望しないで。」

「·····マリアは分かるけど、グレイス、君はいいの?」

「私がリーヴァに忠誠を誓ったことを言っているの?そうね、勿論リーヴァの後ろ楯の1人であることは間違いないわ。でも今私はこうしてあなたの元に駆けつけているでしょう?そういうことよ。」

「グレイス·····。」

「あなたの危機にも駆けつけるから。」

「グレイス·····惚れてしまいそうだ。」

「好きじゃなかったの?」

「そう、好きだよ。マリアも私も君にぞっこんだよ。」

「ふふ····それでどう?気分は。あなたの身体の中にある一番大きな病巣を消失させたわ。でも、未だ·····数ヶ所あるわね。あなたの体力を戻しながら、時間をかけて身体に広がっている病巣を、隅々まで消失させるから。リーヴァからは滞在の許可をもらっているわ。いいわね?」

「ああ、頼むよ。このままここに居ついてもいいから。身体に君の魔力で満たされて気分がいい。今なら魔獣討伐にも行けそうだ。」

「そんなに気分がいいなら良かったわ。取りあえず水分をとりましょう。」


グレイスは私の頭を少し起こし、水を飲ませてくれる。


「このままもう少し魔力を流すから、終わるまで眠っていて。後でスープを持って来させるから。一口でも飲みましょう。マリア様も呼んでくるわね。今、神殿であなたの回復を願い、祈り続けているの。」

「そうか·····。」

「マリア様を悲しませることだけは許さないわよ。」

「分かっている。」


グレイスは私に対しては、言い方が容赦ないな。


そう言ってアーレンは再び目を閉じた。

数ある作品の中から見つけて、読んで下さり有難うございます。

もし宜しければ、暇潰しに、「貴方のためにできること~ヒロインには負けません~」

https://ncode.syosetu.com/n0868hi/

も読んで頂ければと思います。宜しくお願いします。

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