72 ルノール王国の王女 ②
不定期投稿です。
宜しくお願いします。
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「グレイス!」
「ロシェル。お務めご苦労様。今終わったの?」
「うん。建国祭に人が集まっていたこともあってね。人数は多かったよ。それから聖属性の魔法では治せない病もあったから、後でリーヴァ様経由でグレイスに治療の依頼があると思う。」
「そう、分かったわ。」
「グレイス、神殿まで迎えに来てくれていたんでしょう?ビルマン卿から聞いたよ、有難う。あと、ルノールの王女と鉢合わせしなくて良かった。しつこいんだあの王女。」
「みたいね。困ったことになるのなら、私が王女と話すから。」
「有難う。それからヴァーバルの騎士の入宮の申請をしてくれたんだね。ドイナーやモラン達をここまで連れてくる事が出来たよ。会ってやって。皆、グレイスに会いたくてしょうがない様だから。」
「申請が遅くなって申し訳なかったわ。私も皆に会いたいわ。」
皇城内の宮殿には、皇帝の許可がない限り自領や自国の騎士は入れることが出来ない。
基本皇城の騎士が代わりに護衛を行う。
それ故ドイナーやモラン達は、皇城内にある宿舎で待機させられていた。
そして彼らが入る為の申請は領主が行わなければならない。
その為グレイスは、今朝方リーヴァにグレイス達が滞在している宮殿に自領の騎士を入れるための申請を行っていた。
「ドイナー、モラン·····それに皆、久しぶりね。私が不在の間、ヴァーバルを守ってくれて有難う。」
階下にロシェルと共に降りてきたグレイスを見て、皆一斉に膝をつき、最上の礼の姿勢をとる。
先程会えなかったドイナーとモランは喜びの為か、一際身体に力が入っているのが分かった。
「グレイス様、ご無事で何よりです。」
モランが笑みを見せながらそう応える。
「グレイス様をお守りできず申し訳ございませんでした。」
ドイナーは顔を伏せたまま、グレイスにそう応える。
8年もの歳月のせいか、2人は以前にも増して、大人の貫禄を感じた。
「2人とも苦労をかけましたね。それにドイナー、あの時は皆最善を尽くして戦っていたわ。誰一人落ち度などない。あなた達の戦いぶりが、皆を救ったのだと胸を張りなさい。」
「はっ·····。」
「私も戦っていた魔族が消失した後、思い悩みながら旅をし、海の向こうの大陸に居たということもあるけれど、戻ってくるまで8年もかかってしまったわ。この世界にはナルージアのように人間に友好的な魔族ばかりがいるわけではない。そして魔獣や魔族の死体から発せられる瘴気に苦しめられている場所も沢山ある。これからもどうか平和の為に力を尽くして欲しい。」
「はっ。」
グレイスは皆と再会し、止まっていた歯車が再び動きだしたような感覚にとらわれていた。
そんな皆が再会の喜びの余韻に浸っている所、一人の侍従が宮殿に入ってきた。
「お取り込みのところ失礼します。只今ルノール王国第3王女ルネア·ルノール殿下からヴァーバル公爵様へお手紙をお預かり致しております。」
「ルネア王女から?」
あからさまに不快な反応をしたのはロシェルだった。
おそらくお茶のお誘いだろう。
「はい。ルネア王女殿下からは、届けたその場で公爵様に手紙を確認して頂き、返事を頂いてくるよう仰せつかっております。」
そう言われたグレイスは、言われたようにその場で手紙を確認する。
内容はやはりお茶のお誘いだった。
「グレイス·····。」
ロシェルが心配そうにグレイスに呼び掛ける。
「グレイスが行くことはない。僕が行って皇城から早々にルノール王国へ帰国するように促すから。」
「相手は王族よ。余程の理由がない限り、簡単に追い出す様な真似なんて出来ないわ。それに陛下から話は聞いているの。王女が何を望んでいるか知っているわ。今断っても会うまでお誘いが来続けるだけだから、早目に済ませましょう。····王女殿下には直ぐに伺うとお伝えして。」
「承知しました。」
そう言うと侍従は恭しく礼をし、出ていった。
「僕も行こう。」
「王女からは私一人で来るように書かれていたわ。従いましょう。大丈夫よ、あなたを王女の好き勝手にはさせないから。護衛はドイナーだけで構わないわ。ドイナー、いいわね?」
「はっ。」
ドイナーは勢い良く立ち上がると、直ぐ様、グレイスの護衛についた。
そんなドイナーを見て、グレイスはそっと微笑んだ。
◇◇◇
「ルネア様、ヴァーバル公爵は昨日ルダリスタン帝国に8年振りにお戻りになられたのですよ。昨日の今日でお呼びだてするなど、些か強引では?」
「お元気そうだったのでしょう?皇城内のこちらに来てもらう位、大したことではないじゃない。」
「ルネア様はヴァーバル公爵の事を分かっておられませんね。そもそもルダリスタン帝国の公爵位にある方々は、我らのように帝国の属国である国の王族と同じ地位とみなされています。それに魔導師としても大陸指折りの人物。公爵が本気になれば国をも滅ぼせるとまで言われています。更に言うならば、闇の属性の魔力の持ち主で、闇の魔力を使い、今まで治癒魔法では出来なかった、重い病の治療も可能にされた偉大なお方です。今や闇の聖女とまで言われているのですよ。1国の王女が手紙ひとつで日を置かず、軽々しくお呼びだてするなど、他国から身の程を弁えていないと思われてしまいます。」
「そんな大袈裟な。こうでもして約束を取り付けないと、公爵はロシェル様を連れて、直ぐヴァーバル領に帰ってしまうのではないの?」
「ですが·····印象は悪くなるでしょうな。」
「公爵の私に対する評価なんて気にしないわ。」
神殿に行き、強引にロシェルの傍で見守ろうとしたが、ロシェルの身辺には警護の為近づく事が出来ず、実質神殿を追い出される形となった。
歳の離れた末の妹として甘やかされて育ったルネアが、ルノール王国の首を締める事にならないか心配する侍従達だった。
「ヴァーバル公爵様がお出でになられました。」
ほどなくして、そう知らせが入る。
「そうお通しして。」
こういうのは初めが肝心なのよ。
変に諂う必要はないわ。
私の方が立場が上だという事を示して、こちらの要求をのんでもらわないと。
ルネアはゆったりと座り、グレイスを待つ。
その時、奥にいる侍従達が、見えてはいないが、緊張感に包まれたのが分かった。
ルネアは息をのみ、思わず崩していた姿勢を正し構える。
テラスに用意された茶席にグレイスは現れた。
薄いグレーの色の落ち着いたドレスを身に纏い、輝く銀髪は後ろでまとめられ、銀細工で飾られていた。
透き通る様に白い肌に、水気を帯びた様な美しい水色の瞳。
薄く色付かせた口唇は、男性ならきっと奪いたくなる程に魅力的だった。
ロシェルに負けず劣らずの美しいグレイスに、ルネアも言葉を失っていた。
「ルノール王国第3王女殿下にグレイス·ヴァーバルがご挨拶申し上げます。本日ご招待下さり、有難うございます。」
グレイスはそう言い、美しい礼をする。
すると、ルネアも思わず挨拶のため、勢い良く立ち上がっていた。
「ご、ごきげんよう、ヴァーバル公爵。」
何とか動揺を隠しルネアが言葉を発すると、グレイスは花が開くように微笑んだ。
「ルネア王女殿下、お初にお目にかかります。お噂通り、とてもお美しくていらっしゃいますね。」
「あ、有難う、公爵。」
こ、これがヴァーバル公爵?
ロシェル様に負けない位、美しい方じゃないの····。
ロシェル様が公爵にぞっこんだで、妻にしたいと強く望んだという話は本当だったのね。
こんな方じゃ、容姿では勝てないじゃない。
「ルネア様、公爵様にお座り頂いては?」
グレイスを見て固まっているルネアに、侍従がそっと話しかける。
「そうね、失礼しました。どうぞお座りになって。」
「有難うございます。」
グレイスはルネアが座るのを見届けてから席に着いた。
それからメイドが出したお茶を2人で嗜むが、ルネアはその間、一言も言葉を発せずにいた。
しばらく沈黙が続く。
だ、駄目よ·····。
何て言ったらいいのかしら。
向かいに座るグレイスの圧倒的な存在感を前に、ルネアは頭の中が真っ白になりかけていた。
呼吸を整え、頭の中を整理する。
ロシェルの傍に居るためには、何としても公爵に承諾してもらわねばならない。
「今日お呼びしましたのは、他でもなく、ロシェル様のことです。公爵はロシェル様との間に子供を設けるおつもりがあるのですか?」
随分、明け透けな質問だった。
しかしルネアには言葉を選んでいる余裕はなかった。
「私達は夫婦ですから。」
グレイスは一言だけそう言うと、ゆっくりと紅茶を嗜む。
「ロシェル様の聖属性の魔力は、今確認出来ている国の中で唯一のものですわ。世界は、魔獣や新たに現れた魔族の死体から発せられる瘴気による汚染に苦しんでいます。ロシェル様は隔世遺伝とは言え、貴重な能力の持ち主。この世界には最早なくてはならない存在ですわ。そしてその能力を受け継ぐ子をなさねばなりません。これは世界の総意です。その役割を私も担いたいと思います。」
「·····。」
グレイスは黙ってルネアの話を聞いている。
「はっきり申し上げます。私をロシェル様の妻にして下さい。必ず立派なお子を産んでみせますわ。」
「今の状況ですと、ロシェルの妻というよりは愛人という立場になります。1国の王女にそのような扱いは出来ません。」
「そうですわね。でも噂では元々公爵はロシェル様に爵位をお譲りになる予定だったとか。そうであるなら、実際ロシェル様に爵位を譲り、公爵となれば、ロシェル様が何人妻を娶ろうと皆平等の立場となるでしょう?」
「ロシェルにハーレムでも作れと仰せですか?」
「ハーレムだなんて。でもそうなるのかしら?ロシェル様もその方がいいのではなくて?あなたもお忙しいでしょうから、私が奥向きはまとめてみせますわ。」
「ロシェルは傍に置く人間をとても大事にします。ハーレムなど、彼は望まないでしよう。」
「そうかしら?公爵の前だからそういう態度をとっているのかもしれないわ。ロシェル様の好みの者を集めれば、より多くの子が生まれるでしょう。」
王女はいい案だとばかりに、少し気持ちが高揚した様子でグレイスに話す。
「それに聞いた話によると、ロシェル様は公爵の元に来るまで、どこかの貴族が囲った男娼だったとか。色んな女性を抱くこと位、何でもないのではなくて?」
王女がそこまで言った直後、突然部屋の空気が変わった。
な、何?
公爵の纏うオーラが····。
戸惑う王女を他所に、グレイスは冷たい視線を向ける。
「誰から聞いたか分かりませんが、そのような事を言いふらしている者は、処罰せねばなりませんね。それから王女殿下、男娼や娼婦が自ら快楽を望んで、その職に就いていると思っておられるのですか?」
「それは·····。」
「生きるため、やむを得ない状況の者がほとんどです。その者達の心の傷を抉るようなご発言はお止め下さい。」
そう語るグレイスの静かな怒気に、ルネアはたじろぐ。
「王女殿下がそのようにお考えでは、ロシェルの心を得るのは難しいでしょう。」
「······。」
「ああ、それから、先程王女殿下のご発言の中で、ロシェルの子をなす事はこの世界の総意だと仰いましたね。ご安心下さい。ロシェルはエルフの血が濃く出ています。エルフは3千年の時を生きると言われています。人間の血が入っているロシェルも少なくとも2百年以上は生きるでしょう。」
「そんなに······。」
「そして私はこの身に古竜の血を宿しています。寿命も竜のそれに近いものとなっています。」
そう言うとグレイスは妖艶な笑みを見せる。
そして瞳の色を水色から深紅に変える。
「ひっっ。」
「ですからどうぞご安心下さい。私達の生きる時間は長いのです。慌てずとも子はその間、心の赴くままに。」
そう言ってグレイスは微笑んで見せた。
「っっ····。」
言葉を詰まらせたルネアを見て、グレイスはもう話すことはないと席を立とうとする。
「ま、待って!」
ルネアは声を荒げ、グレイスを呼び止める。
「そうやって、ロシェル様を一人占めするつもりね。8年間も放っておいたくせに·····。私が側室になり、奪われるのが嫌なのでしょう?公爵は狡いわ!」
「ルネア王女殿下!」
さすがに不味いと思ったのか、侍従がルネアに声をかける。
「ルネア王女殿下·····。調べれば分かることですが、私は戦いの最中転移魔法により、海を越えた大陸に飛ばされていたのです。そして戦いが終わった後、帰って来るまで、やらねばならない事がありました。8年間という歳月、私はいい加減な気持ちで生きていた訳ではありません。それに·····」
そう言ってグレイスは、内緒話でもする様に、ルネアに顔を近づける。
「私はロシェルの妻です。一人占めして何が悪いのです?」
それを聞いたルネアは怒りのためか、顔を真っ赤にしてグレイスを睨み付ける。
「これ以上のお話は必要ないようですので、これで失礼致します。」
グレイスはそう言うと、ルネアの滞在する宮殿を後にした。
「ルネア様·····公爵に対してお言葉が過ぎますよ。国家間の問題になりかねません。一応国王陛下に報告させて頂きます。」
ルネアの侍従は神妙な面持ちでそう告げる。
「·····気に入らないわ·····。」
「ルネア様?」
「あんな態度を取られて、ただでは済まないんだから。」
いいわ、あの噂を利用してあげる。
公爵を世界中から嫌われ者にしてやるんだから。
グレイスが去った方を見ながら、ルネアは怒りを募らせていた。
数ある作品の中から見つけて、読んで下さり有難うございます。
もし宜しければ、暇潰しに、「貴方のためにできること~ヒロインには負けません~」
https://ncode.syosetu.com/n0868hi/
も読んで頂ければと思います。宜しくお願いします。




