71 ルノール王国の王女 ①
不定期投稿です。
お待ち下さっている皆様、有難うございます。
「挨拶が遅くなってしまってごめんなさい。」
「いや、私の予想じゃ明日だったから、随分早い方だよ。よくロシェルが解放したね。」
グレイスがルダリスタン帝国に帰還し、ロシェル達と再会した翌日の昼過ぎ、グレイスは皇帝となったリーヴァの執務室を訪れていた。
真っ黒なローブは脱ぎ、公爵に相応しく、薄いグレーのドレスに身を包んだグレイスは美しい。
リーヴァは眩しそうな表情でグレイスを迎えた。
「ロシェルも今日の午後には予定があったみたいなの。神殿にて『祝福の儀』という名の奉仕活動を行うらしいわ。」
「あーあれか、神殿と聖者は友好関係だということをアピールしたいという。」
「神殿側は何としてもロシェルを取り込みたいのでしょうね。リーヴァには後ろ楯となってもらい、随分助けられていると聞いたわ。」
「まあ、目の届く範囲なら大丈夫だと思うが、遠征に行った時なんかが大変らしいよ。既成事実を作ろうと寝所に毎夜女が送り込まれるらしいから。ヴァーバルの護衛は夜通し気を張っていないといけないらしい。」
「·····そう。」
「この8年間よく耐えたと思う。」
「·····そうなのね。皆に感謝しないといけないわ。」
エリオットの死後、思い悩みながら奉仕活動を各地で行い、漸く海を渡り帰り着いたグレイスだったが、グレイスを待つ者達が苦労していたことを知り、胸が痛くなった。
「それでグレイスは8年間どうしていたの?」
「そうね、まず報告から。」
グレイスはリーヴァに8年前、エリオットに連れ去られた後の事から話し出した。
「デアボルタ王国か·····。東の端のエルディア王国にも、年に2回しか寄港しない国だ。海を越えて、まさかあんな所まで転移したとは。エリオットの魔導師としての実力は凄まじかったんだな。まともに対峙していたら、勝てたか分からない。それにしてもエリオットの最期をグレイスは1人で見届けたんだね。」
「ええ。エリオット様らしい最期だったわ。」
「どんな術式にも隙はある。そう上手く魔術だけで魔族を制御する事は出来ないだろう。ナルージアから話は聞いたとは思うけど、今後魔族の覚醒が続いた場合、ナルージアのように人間と共存を望む者には契約を持ちかけることにした。そしてゆくゆくはナルージアを王として、魔族の国を作ってもいいと思っている。それはグレイスも望んでいた事だろう?」
「ええ。彼等は人間に隷属するようなことは望まないわ。本当の共存を目指すなら、ある程度の自由を与えるべきよ。そして意味のない殺戮は魔族同士で裁くべきだわ。」
「そうだね。上手くいくといいが。」
「成功させないと、以前の様に、制御出来ない、多くの無差別な殺戮が繰り返されるわ。私の命のある限り、それは見守っていくつもりよ。」
「·····そうだね。グレイス、私は先に逝ってしまうだろうけど、後の事頼んだよ。」
「ふふ、まだそれを言うのは早いわ。私はあなたとあなたが守りたいものもずっと守っていくから。」
グレイスの微笑みを見ると、リーヴァは立ち上がり傍に寄り、グレイスを抱き締めた。
「リーヴァ·····。」
「グレイスが生きていて本当に良かった。·····帰ってきてくれて有難う。」
少し声を詰まらせ話すリーヴァの背中を、グレイスは優しく撫でる。
「有難うリーヴァ、ロシェルを守ってくれて。私を待っていてくれて。·····すっかり大人になって、立派な皇帝になったあなたを誇りに思うわ。」
グレイスもそう言い、抱き締め返す。
「うん·····グレイスからのその言葉が一番聞きたかった。」
リーヴァがまだ幼い頃、母親を亡くし、タンドゥーラ家に預けられてから、グレイスはリーヴァを実の弟の様にして接してきた。
そして何度も命を狙われるリーヴァを見てきて、グレイスの命有る限り、リーヴァを支えていこうと誓ったのだった。
その時の誓いを果たそうと、再び強く思うグレイスだった。
暫くそうしていたが、リーヴァも心を落ち着かせたのだろう、漸くグレイスを離した。
「とにかく1度ヴァーバル領に帰って、皆に顔を見せるといい。皆、待ちわびているから。そしてヴァーバル領を守ってきた事を褒めてあげるといい。」
「そうね。皆には心配と苦労をかけたわ。」
「·····それから、それが落ち着いたらでいいけれど、1度、フェアノーレに行って、アーレンに会って欲しい。」
「そうね。エリオット様の最期を伝える必要があると思っているわ。」
「うん·····。でもそれだけじゃない。実はアーレンがまた病に伏せっていてね。闇属性の魔導師が治療にあたっているが、グレイスほど上手く出来ないらしい。なんとか現状は維持しているそうだが。」
「そう。では出来るだけ早く伺うとするわ。」
「戻ったばかりなのにすまない。」
ルダリスタンに戻る途中、アーレンが退位するかもしれないという噂を耳にしたけれど、病だったからなのね。
おそらく再発したのだろう。
フィーネが魔法で病を増殖させ、アーレンが血を吐いた姿が思い出される。
マリア様はきっと心細い思いをされているわ。
結局、マリアの体内から毒を抜いた後でも、アーレンとの間に子供は出来ていないようだ。
唯一心の支えであるアーレンを失ったら、マリアも身体を壊してしまうかもしれない。
早速手紙を書いて、訪問する事を伝えなければ。
「それからグレイス、ロシェルの事で1つ話しておかねばならない事がある。」
「何かしら?」
「グレイスがいない間、何度もルノール王国からロシェルとの婚姻の打診があってね。グレイスとの婚姻関係は解消していないと伝えてはいるんだが、側室で構わないと言ってきている。要は聖属性の魔力を持つロシェルの子供を産ませるつもりのようだ。当然ロシェルとしてもルダリスタン帝国としても断っているが、ルノールの第3王女は少し頭がおかしいのか、諦める様子がない上、とうとうこの建国祭を機に、王女自ら乗り込んで来ていてね。グレイスがあの時、姿を現す直前まで、ロシェルは王女に言い寄られていたらしい。そしてこれからも、ロシェルが側室として迎えてくれるまで、このルダリスタン帝国に滞在するつもりのようだ。」
「·····そう。兄君である現ルノール国王陛下は、あの方が王太子の頃、何度かお会いした事があるけれど、しっかりとした常識人でいらっしゃったわ。歳の離れた妹君には甘くていらっしゃるのかしら?」
「王女の勝手な暴走らしい。何より見目がいいらしく、自信があるのだろう。まぁ、グレイスの美しさには到底及ばないけど。そういう事だから、グレイスに対して、突っかかってくる可能性があるから、気をつけて。他国の王族だから、扱いが面倒だ。」
「分かったわ。では、これからロシェルを迎えに行こうと思っているの。これで失礼するわ。」
「ああ。今日もロシェルとゆっくり休んだらいいよ。」
リーヴァはそう言ってグレイスを送り出してくれた。
◇
グレイスが皇城内にある神殿に向かうと、そこにはヴァーバルの騎士が数人待機していた。
グレイスの姿を見とめると、皆、一斉に膝をついた。
「皆、久しぶりね。元気にしていたかしら?」
輝く様な銀髪に透明感のある水色の瞳で微笑むと、騎士達は感極まったように皆涙ぐんでいた。
「グレイス様がお戻りになられました事、心から大変嬉しく思っております。」
タンドゥーラ公爵家に居た頃から仕えている老齢の騎士が前に出て、グレイスに挨拶をする。
「ビルマン卿、苦労をかけましたね。これからも宜しくお願いするわ。」
「はっ。この身が力尽きるまで、力を尽くす所存でございます。」
「有難う。あなた達の忠誠に私も応えられるように努力しましょう。それでロシェルはまだ中に?」
「はっ。皇城内のこちらの神殿には、昨日建国祭に参列された貴族の中で主に瘴気による治療を希望している者達が集っておられるようです。」
「汚染されている土地がまだ多いということね。」
「左様でございます。」
「ロシェルの護衛はドイナーとモランが付いているのかしら?」
「はい。それから皇城の騎士と聖騎士が守りを固めております。」
「私が入ると邪魔になりそうだから、ここで待つとしましょう。」
「グレイス様がこの様な場所で·····実はロシェル様が神殿に入られましてから程なくして、ルノール王国の王女殿下が入って行かれました。神官から治療を希望か聞かれておられましたが、自分はロシェル様の助手になるからと強引に。ここでは分かりませんでしたが、もしかしたら中で揉めているかもしれません。公爵様と顔を合わせられましたら、強引な要求を持ちかけられる可能性が。ロシェル様のお務めが終わりましたら、速やかにグレイス様の元へお連れしますので、どうぞお部屋にてお待ち下さい。」
「助手?·····。まあいいわ。見ていたあなたがそう言うなら、それに従った方がいいようね。もしロシェルが王女に絡まれていたら、私が至急の用があると呼んでいると伝えて連れ出して。それからヴァーバル領に帰還するのは3日後にします。皇帝陛下が転移の魔法陣を使用する許可を下さったわ。これはできるだけ王女に知られない様に準備するように。」
「承知しました。」
王女様も婚姻を結ぶには年頃だし、ロシェルを追いかけてこのようにふらふらしている場合でもないでしょうに。
それだけロシェルに対して本気で側室になるつもりかしら。
ロシェルが当主でない限り、側室というよりも愛人という立場になるのだけど。
聖者の身分を得たとはいえ、一国の王女を愛人にするのは非常識だ。
ああ、私を公爵の座から下ろし、ロシェルを公爵にするつもりなのね。
·····まあ、ロシェルを公爵にするのは私も望んでいた所だけど、このように利用されるなら、考えないといけないわね。
グレイスはそう考え、一旦離宮に戻った。
それからしばらくると、 神殿の入口が騒がしくなり、扉が開くと中から数人の護衛を引き連れた令嬢が現れた。
「ちゃんと教えて下されば、私もお役に立ちますわ。教授して頂く為、これから毎日ロシェル様の元へお伺いするとお伝えして。」
「ルネア王女殿下、昨日聖者ロシェル様の元にヴァーバル公爵がお戻りになったばかりでございます。無理なご要望はお控え下さい。」
ルネアに付いている侍従がそう進言する。
「8年間も夫の事を放っておいた妻など必要ないのではないかしら?ロシェル様に必要なのは、常に寄り添う存在よ。戻って来たと言っても、公爵は常にお忙しいお方でしょう?子供がいつ出来るか分からないわ。」
「ルネア王女殿下、このような場所で誰が聞いているかも分かりません。お控え下さい。公爵が不在だったのは、魔族に連れ去られていたからでしょう?多くの魔族が突然死んだのは、公爵とフェアノーレ王国の元王太子が戦っていたからだと聞いています。今や英雄扱いの公爵に楯突く様な発言はお止めください。」
王女の侍従は青い顔をしてそう諭すが、王女は納得いっていない様子だった。
「聖属性の魔力の持ち主であるロシェル様の子を作ることは、この世界の総意よ。公爵だけにその役割を任せる必要はないわ。私が必ず子を成してみせる。どんな手を使ってでも。」
美しい顔を歪ませてそう語る王女に、侍従は不穏なものを感じていた。
数ある作品の中から見つけて、読んで下さり有難うございます。
もし宜しければ、暇潰しに、「貴方のためにできること~ヒロインには負けません~」
https://ncode.syosetu.com/n0868hi/
も読んで頂ければと思います。宜しくお願いします。




