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闇の聖女は愛を囁く  作者: 藍沢ユメ
70/93

70 再会 ~ロシェルの想い~

不定期投稿です。

お待ち下さっている皆様、有難うございます。

「帝国の父なる太陽、リーヴァ·ローハッタ·ルダリスタン皇帝陛下にグレイス·ヴァーバルがご挨拶申し上げます。」


グレイスは最上の礼の姿勢をとる。

会場にいる皆が息をのむ。


「ヴァーバル公爵、無事帰還したこと嬉しく思う。」


玉座に座るリーヴァも感慨深い表情を見せ、立ち上がり、グレイスの元に近づく。

そしてグレイスの手を取り、その指先に口付けた。


「お帰り、グレイス。」

「陛下······お言葉、痛み入ります。」


「ふぅ····このまま場所を移し、ゆっくり話したい所だが、そうはいかないみたいだ。分かっていると思うけど、ロシェルが限界なんだよ。もう、2人下がって構わないから、とにかくロシェルを頼むよ。感情が爆発するだろうからね。」


昔からのいたずらっぽい表情で、グレイスに小声でリーヴァはそう告げた。


「ご期待に添えるかどうか。」


「·····グレイス、手紙にも書いたが、グレイスの考えは尊重したいと思っている。しかしその考えが最適かどうか、2人で話し合って決めて欲しい。」

「陛下·····。」


挨拶を終えた後、グレイスに人が群がらないように、リーヴァは直ぐ様ロシェルに目配せをし、呼び寄せた。

ロシェルのふわりとした香りを感じる。


「グレイス·····。」


ロシェルの呼び掛けに、グレイスも漸くその視線を向ける。


「ロシェル·····。」


8年ぶりの再会。

ロシェルの髪は伸び、背も高く、少し大人びた印象を見せる。

エルフの血を引くロシェルは、これからおそらく殆ど歳を取らないだろう。

それは古竜の血を取り込んだグレイスにも言える事だが。

美しさには磨きがかかり、気持ちが高まっているせいか、ロシェルの聖属性の白い魔力が漏れ、身体が光を帯びているように見える。


その美しい紫水晶の瞳は潤んでいた。


ああ、ロシェル·····。


エリオットと人生を共にすることを心に決め、身体も許した。

その時点でグレイスは、ロシェルを手放さねばならない存在だと考えていた。

それはエリオットが亡くなっている今でもそうで、ロシェルが変わらずグレイスに愛情を向けてきても、どう受けとめればいいのか、ロシェルと離れることを納得してもらえるか、ずっと考えていた。

けじめを着けねばならないという想いから、この建国祭に顔を出したものの、実際ロシェルを目の当たりにし、心は動揺した。


「ロシェル、長い間連絡出来なくてごめんなさい。こうして迎えてくれたこと、感謝します。」


そう言ってグレイスは微笑むが、その表情を見て、ロシェルは少し苦しげな表情を見せた。

しかし一旦目を閉じ、心を落ち着かせると、グレイスに近づき、そのまま抱き締めた。


「グレイス、会いたかった。·····お帰りなさい。」


掠れた声でそう言い、抱き締める力を強めた。


「ただいま、ロシェル·····。」


ロシェルの温もりを感じたグレイスは、優しくロシェルを抱き締め返した。


その様子を黙って見ていた者達から、拍手が沸き上がる。


「光の聖者と闇の聖女が揃われたぞ!」


誰かが興奮して言い放つ。

それに同調する様に、歓声と喝采が起き、2人を包み込んだ。


「グレイス、私達に用意された宮へ行こう。ここじゃ·····自分を出せない。話を色々聞きたいし、愛したい。お願い······。」


ロシェルは切ない声色でグレイスにそう囁く。


「ふふ·····そうね。そうしましょう。さぁ離れてロシェル、私は着いたばかりで汚れているの。あなたを汚してしまうわ。」


宥めるようにグレイスがそう言うと、ロシェルは大人しく離れ、皆が見守る中、グレイスをエスコートし、退出した。




「さぁ、ロシェルはグレイスを説得出来るかな?」


2人の背中を見送ったリーヴァは、人知れずそう呟いた。



◇◇◇


共に浴室に入り、身を清めるのを手伝うと言うロシェルを宥め、グレイスは侍女達に囲まれながら身支度を整えていた。

グレイスのあまりの美しさに緊張する者、大陸で屈指の実力を持つ魔導師の公爵のお世話をするとあって、侍女達も表には出さないが感激しているのが分かる。

用意されていたルームドレスに身を包み、久しぶりに貴族らしい扱いを受けたグレイスは、そっと窓の外から空を眺める。

部屋には2人分の軽食が用意されていた。


今はとても喉を通りそうになかった。

グレイスは柄にもなく緊張している自分に気づく。

そうしていると、侍女達の退出と入れ替わるようにして、ロシェルが入室してきた。


ロシェルも身を清めて来たのだろう。

いつもの少し癖のある金髪は、しっとりとした光沢を放っていた。

ロシェルはグレイスの姿を見とめると、少しほっとした表情を見せた。

そして足早にグレイスの元へ近寄ってきた。


「また居なくなっていたらどうしようかと不安だった。」

「ふふ···。」


ロシェルはそう言うと、グレイスの手を取り、ソファーへと(いざな)った。


ソファーに腰を下ろすと、ロシェルは何も言わずグレイスを引き寄せ、その肩に顔を埋めた。


「グレイスの匂いだ。グレイスがここにいる。······今日は眠れそうもないよ。」


甘えるロシェルの背をグレイスは優しく撫でる。


「連絡をしなくてごめんなさい。心配をかけたことは申し訳なく思っているわ。」


「エリオット様は、海を越えて転移したんでしょう?そうリーヴァ様から聞いたよ。」

「そうね·····。」

「会えない間は寂しくて苦しかったけど、連絡がないのは理由があっての事だと思ってる。もしかしたら話すのは辛い事かもしれないけど、そういった辛さや苦しみも、少しでもいいから僕も共有したいんだ。グレイスのペースでいいから、エリオット様に連れ去られてからどうしていたか教えて欲しい。」


ロシェルは顔を上げ、懇願するようにグレイスを見つめる。

グレイスはロシェルの真剣な眼差しを見て、ゆっくりとロシェル達と別れた後起こった出来事について話し出した。






「結局エリオット様は魔属を道連れにする為に、命を絶ったと·····。」

「ええ·····。あの方が魔族が地中で眠っている事実を知って、この先、魔族が一斉に目覚め、世界が混乱するのを懸念して、血の契約で縛る事を思いつかれたの。しかし、強力な魔力を有する魔族と複数の血の契約を結ぶのは人間には難しい。だから魔王城の跡地に行き、魔王の魔力の痕跡をたどり、未だ残っている魔王の魔力を取り込まれた。エリオット様の思惑通り、一部の魔族を支配でき、それが功績として認められれば、幽閉を解かれ、王族として復権する事が出来ると·····私の事が無ければ、例え約束されていた恩赦を反故にされた事に対する怒りをお持ちでも、エリオット様が一時道を外れるようなことはなかったはずだわ。それほど、最期に共に過ごした時のエリオット様はご立派だったわ。」


「·····グレイスの事って、グレイスを手に入れる事?」


「·····アーレンの側妃にならず、ダリウスの妻にもならず、ルダリスタンへ行くこともなく·····ひたすらエリオット様の幽閉が解かれる事を願い、待っていれば、エリオット様が魔族の力を使い、世界を掌握しようとは思われなかったかもしれないわ。少なくとも、魔族による犠牲者は、多くは出なかったはず。」


「·····だからグレイスは責任を感じて、エリオット様が壊した多くのものに対する贖罪の為に奉仕活動を8年も?それもエリオット様の名で?」


「あの方は本来、国を治めるに相応しい能力と力の持ち主だった。結局、自身を犠牲にして世界を救っているわ。名を、エリオット様の存在を後世に残したかった。」


「·····グレイス、それでも、1度でも道を踏み外したのはエリオット様だ。グレイスのせいじゃない。グレイスが背負う必要もない。グレイスが自己を犠牲する必要もない。」


「分かっているわ。でも、このままロシェル、あなたの元へ戻り、ぬくぬくと幸せに暮らすなんて私には出来ないと思うの。それに·····。」


グレイスはロシェルを真っ直ぐに見つめる。


「エリオット様に連れ去られ、それまでのエリオット様を知った時、私はエリオット様とこの先共に犯した罪を償っていこうと決心したの。エリオット様の元で生きる決心をしたわ。そして求められるがまま身体を許した。·····あなたを裏切ったのよ。それは簡単に許されるものではないわ。」


「·····。」


ロシェルは少し驚いて見せるも、グレイスから視線を外さない。

グレイスは目を閉じ、気持ちを落ち着かせる。


言わなければ·····。


「ロシェル、あなたを次期ヴァーバル公爵に指名します。そして私と離婚しましょう。聖者という称号に、更に公爵位が加われば、もう誰もあなたに手出しは出来ないわ。公爵として、領主としての責任を負うことになるけれど、ヴァーバルには私に対してもそうだった様に、あなたを支えてくれる者達が沢山いるわ。私に縛られず、そのうちきっと現れる心から愛する人と結婚なさい。」


グレイスはロシェルの顔を見れなかった。

見たらきっと涙が溢れてくる。

ロシェルの反応を待つが、ロシェルは直ぐに応えない。


ロシェルもまさか私がエリオット様と人生を共にする事を選択したとは、思っていなかったでしょうね。

きっと失望し、悲しい想いをさせてしまったわ。


暫く沈黙が続いた。

するとロシェルはそっとグレイスの首元に手を伸ばし、グレイスが首に掛けているペンダントを取り出した。

そのペンダントには魔石でも何でもない白っぽい石と黒っぽい石がそれぞれ付いたペンダントヘッドがあった。


「グレイス、これ、この白っぽい石は元は僕がグレイスに渡してあった魔石だよね。おかしいと思ってたんだ。さすがに海の向こうの大陸に転移していたなら分からないけれど、この大陸に戻って来ていたなら、何かしら感じたはずなんだ。それぐらい何度も魔力を濃縮して、更に重ねるイメージで、とても時間をかけて魔石に僕の魔力を込めたんだ。それに耐え得るだけの魔石を探すのも苦労したぐらい。その魔石がこんな状態になっているだなんて。·····グレイス、死に直面したんだね。」


「·····ええ。」


「グレイス·····エリオット様はグレイスの言うようにそんなきれいな想いを抱いていたんじゃないと思うよ。グレイスに対する執着は、エリオット様と僕は似ている気がするんだ。もしそうなら、エリオット様の心はグレイスに対する愛情と他に対する嫉妬と怒りと憎しみと羨望でぐちゃぐちゃだったと思う。リーヴァ様と話してたんだ。魔族はエリオット様に忠誠を誓ったり、納得して血の契約を結んだ訳じゃない。無理矢理結ばされたものなら、術の隙をついて、解除しようとしてくるはずだと。一番有効なのは、エリオット様の弱みを握り、血の契約を解除させようとしてくること。全てを失っていたエリオット様の唯一の弱点があるとすれば、それはきっとグレイスになるだろうと。」


「·····。」


「魔族はきっとグレイスを狙ったんじゃない?それに気づいたグレイスは、エリオット様の足枷にならない為に、魔族に捕らわれる前に命を断とうとした·····違う?」


ロシェルの声はどこまでも落ち着いていた。


「僕の渡した魔石は、その時、グレイスの命を救うために魔力を放出した。普通なら魔力の残滓ぐらいは残るはずだけど、こんな燃え尽きたような状態になるなんて、余程深い、深刻な傷だったんだと思う。そしてそんなグレイスを見て、エリオット様は漸く自ら命を絶ち、魔族を道連れにする事を決めた·····違う?」


まるで見てきたかのような口振りに、グレイスは何も言い返すことが出来なかった。


「自分の死よりも、目の前で愛する人が命を絶つことの方が耐えられない。そしてエリオット様が自死した事で、血の契約が発動し、魔族が道連れになり、灰と化したんだよね?きっとあの時だと思うけど、魔族が灰になる前に数体皇都に現れたんだ。狂ったように結界の外から攻撃を仕掛けてきたけど、それが突然苦しみだし、ついには灰になって死んでいったのを見たよ。そして後から聞いた話だと、その時一緒にいたナルージアが、魔族が現れたと報告がくる前に、グレイスがナルージアにかけていた血の契約紋が一瞬焼け着くように熱くなったと。きっとその時、グレイスが死にかけていたんだね。そしてエリオット様の遺体の跡に残されていたのが、この黒っぽい石なんでしょう?普通強大な魔力を持った人間は、魔族と同じ様に、遺体にその人の魔力が宿った魔石が残る。でも血の契約に激しい反発をしていた魔族を複数御するには、エリオット様も力を使い果たさねばならなかった。だから本来残るはずの魔石は、こんな姿に。」


エリオットが無理矢理結んだ血の契約は、数が多すぎた。

だが、エリオットの思惑通り、魔族を道連れに出来たのは、エリオットの魔導師としての力が成せる技だった。


グレイスはロシェルの話を聞きながら、自分は結局何も出来なかった悔しさを思い出していた。


「グレイスは何も力になれなかったと思っているから、エリオット様の名前で贖罪の旅に出ているの?その行いは、皆を救っている行為だ。褒められるべき事だと思う。だけど、グレイスが危機に瀕して、漸くエリオット様がその決断をしたなら、酷い言い分かもしれないけど、それはある意味グレイスに対するエリオット様の独占欲の一つだと思う。僕もきっとそうするから。自分の死でグレイスを守れるという優越感と、グレイスの心に自分を刻める承認欲求のようなもの。きっとそれらがエリオット様を突き動かしたんだと思う。だから、気にしないで、とは言えないけど、エリオット様の死に囚われないで欲しい。グレイスはグレイスの幸せを求めていいんだから。」


そう言うとロシェルはペンダントから手を離し、代わりにグレイスの両手を自身の手で包み込んだ。


「グレイスは······そもそも貴族令嬢には難しいとは聞いているけど、自分の、自分のためだけの本当の幸せを考えた事がある?エリオット様はグレイスを愛していたから、無理矢理でも婚約者にしようと画策した。アーレン陛下は真実の愛を求めた人だと言われているけど、グレイスと接しているのを見るに、本当はグレイスに傍に居て欲しいと思っていたと思う。ダリウス卿は、はじめはどう思っていたかは分からないけど、グレイスと結婚して以来、離婚した後も、グレイスの影ばかり追っていると思う。ドイナーもグレイスと血の契約を結びたいと願う程、騎士としての忠誠以上の愛情をグレイスに抱いているよ。リーヴァ様に至っては、ずっとグレイスの事を女性として愛しているよ。皆がグレイスを望んでいる中、僕は成り行きとは言え、グレイスの夫になれた。グレイスにとっては僕を守る手段の1つだったかもしれないけど、以前気持ちを確かめ合ったよね。僕は出会った時から、グレイスに一目惚れし、ずっと愛している。グレイスも僕を愛してると言ってくれた。他の人達からすれば、僕は本当に幸せ者なんだよ。」


「だけど裏切ってしまったわ。」


「グレイスは僕の事はもう愛していない?」


「······。」


「エリオット様との事、気にならないかと言われれば気になる。元婚約者だし、僕が知らないグレイスを知っている。グレイスにとって、良くも悪くも特別な人だと思う。正直嫉妬してる。すごく·····でも嫉妬するだけだ。グレイスを手放す気にはならない。グレイスが僕に対する罪の意識で距離を置くなら、僕はその罪を許す。更に言えば、悪いと思うなら、もう離れないで欲しい。」


「ロシェル······。」


ロシェルの表情は真剣だった。

誤魔化したり、いい加減な気持ちで突き放す事は出来ないと悟る。


「グレイスを幸せにしたい。皆、そう思っているよ。」


ロシェルはグレイスの頬に手を伸ばし優しく撫でる。

グレイスはロシェルから目が離せない。


「僕を愛しているなら、また受け入れて欲しい。そうじゃないなら突き放して。」


ロシェルはそう言うと、グレイスを抱え上げ、寝室へと向かった。


ベッドに優しく置かれ、ロシェルはグレイスに覆い被さる。


「上書きしていい?」


吐息がかかる距離で、ロシェルはそうグレイスに囁く。


私は幸せになっていいのだろうか·····。

このままロシェルに甘やかされて、心を(ゆだ)ねていいのだろうか·····。


「僕達の生は長い。グレイスが贖罪の旅に出たいなら共に行く。ゆっくりでいいから、グレイスの心を開いて。」


そう言って、ロシェルは優しくグレイスに口付ける。

 そしてロシェルの熱がゆっくりとグレイスを包み込んでいく。

久しぶりに感じる体温に、グレイスは安らぎを感じていた。


そうしてやがて2人は互いを求め合い、夜の帳が下りる中、融け合っていったのだった。



数ある作品の中から見つけて、読んで下さり有難うございます。

もし宜しければ、暇潰しに、「貴方のためにできること~ヒロインには負けません~」

https://ncode.syosetu.com/n0868hi/

も読んで頂ければと思います。宜しくお願いします。

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