69 グレイスの帰還
不定期投稿で申し訳ありません。
宜しくお願いします。
「で、ナルージアも行方不明とはどういう事ですか?陛下は転移魔法等、数多くの魔法に長けた魔導師ではありませんか?何故、連絡が断たれるような事になるんです?」
ある日のルダリスタン帝国、リーヴァの執務室。
帝都近くの神殿で奉仕活動を行ったロシェルは、帝都からの呼び出しで、皇城に足を運んでいた。
「落ち着けロシェル。今日は君の功績を称える場を設ける為に呼んだんだ。非難を受け付ける場ではないんだが·····。」
「では褒美として私にもグレイスを探しに行く時間を下さい。ナルージアでも身動き出来ない何かが起こっているのかもしれません。助けを求めているかもしれないじゃないですか?」
「·····ロシェル、今、ルノール王国で話題になっている話を知っているか?」
「ルノール王国ですか?いえ·····。」
「約1年程前だ。大陸の東、エルディア王国にある神殿に1人の魔導師が現れた。」
「魔導師·····。」
「黒ずくめで男か女かも分からない。付き従う侍従は、海を越えた大陸の出身で、片言の帝国語を話すそうだ。」
「それは·····」
「病気も怪我も、身分に関わらず、心付けだけもらいながら治療を行っているらしい。名を『エリオット』と名乗っている事から、聖者エリオットと勝手に皆そう呼んでいるらしい。」
「エリオットって?まさか?」
「いや、フェアノーレ王国の元第1王子のエリオットではない。魔族消失は奴が命を絶ったからだ。」
「別人なんですね。·····はっきり言って下さい。グレイスがエリオット様の名を名乗り、奉仕活動を行っていると思っていいんですね?」
「·····結論が早いな。」
「私にその話をするという事は、ルノール王国に行ってきて確かめていいという事ですよね?」
「待て待て待て待て。ロシェル·····お前はグレイスの事となると、人が変わったように饒舌になるな。落ち着け。その場はこちらで用意する。1ヶ月後の建国祭で、聖者ロシェルの功績を讃える場を設ける。その際、多くの聖職者から感謝の言葉を贈られるだろう。その聖職者達はこちらが招待する。その中に彼の者も招待しよう。そこで自分の目で確かめるがいい。」
「来てくれるでしょうか?」
「······ロシェル、お前はエルフの血を継いでいる。そしてグレイスは古竜の血をその身に取り込んだ。お前がほとんど年を取らない様に、グレイスもまたそういう身体になってしまった。お前とグレイスは我々とは違い、共に長い時を生きることになるだろう。愛おしさから片時も離れたくない気持ちは分かる。だが、グレイスはその前にやらなければならない事が出来たのだろう。焦るな。君達の時間は長い。」
「·····はい。」
ロシェルはそう返事をすると、謁見の間から退出した。
それを見届けた後、リーヴァは深いため息をつく。
「いくらなんでも報告が遅いだろう?ロシェルじゃなくても心配したぞ。」
『いやいや、グレイスを見つけた時は直ぐに連絡したよね?こっちも忙しかったからさ。それにしても流石だな、リーヴァは。完璧に気配を消していたのによく分かったな。』
そう言って、どこからか不意に姿を現したのはナルージアだった。
海を越えてグレイスを探しに行って以来、実際に対面で報告に上がったのは、旅立った日以来だった。
それから1年が過ぎようとした時、エルディア王国とルノール王国での魔導師の話を耳にした頃、突然ナルージアから連絡が入ったのだった。
「グレイスは帰ってきたんだな?」
『ああ、複雑な想いを抱えているようだけど、いつものカッコいいグレイスのままだ。』
「そうか·····それにしてもお前はやけに生き生きしているな。」
『それはそうだろう?毎日グレイスと共に寝起きしているんだ。頑張ったら魔力供給してくれるし。今ならどんな敵と戦っても、負ける気がしないな。』
「チッ。」
妙に肌艶のいいナルージアを見て、リーヴァは思わず舌打ちする。
「それでグレイスは来そうか?」
『ああ、大丈夫だ。まあ、ロシェルとどう向き合うかは俺は分からないが。』
「おい·····。」
『エリオットと魔族と·····俺達が見ていない所で、壮絶な闘いが行われていたようだ。エリオットの最期をグレイスは1人で見届けた。かなり衝撃的だったみたいだからな。それを誰に支えられるでもなく1人で立ち直ったらしい。人間は俺達魔族みたいに短絡的じゃないし、同族の死に対して無関心じゃないだろ?ああ、悔しいよな。その時傍に居れば、グレイスの心を完全に掴んだかもしれないのに。』
「相変わらず、不謹慎な奴だな、ナルージアは。それで、グレイスは今、どんな様子なんだ?」
『エリオットの名を語って、人々の治療を行ってるよ。』
「エリオットの名を語る意味は?グレイスの奉仕活動をエリオットの功績にしようとでも?」
『そうなんじゃない?そこら辺はグレイスに聞けよ。人間の心理なんて俺に分かるわけないだろう?』
「ああ、そうだな。」
『それにしても、ロシェルの奴を影から見てたが、あいつ、グレイスに会ったら、嬉しすぎて爆発するんじゃないか?』
「爆発って、魔力暴走か?ハハハ、そんなことになったら、俺達は消し飛ぶな。·····まぁ、冗談はその辺りにして、グレイスから伝言は?」
リーヴァがそう言うと、ナルージアは1通の手紙をリーヴァに手渡す。
『グレイスから。じゃあ、式典ってやつの日にちが決まったら知らせろ。グレイスは毎日忙しいからな。早めに言わないと間に合わないぞ。』
「じゃあこれを渡してくれ。建国祭の招待状だ。」
『手際がいいなー。りょうかーい。』
ナルージアはそう言うと、その場から転移魔法を使い消えた。
「あいつ以前教えた転移魔法取得してるじゃないか。それなら間に合わないなんてことないだろう·····。ふぅ····漸くグレイスが帰ってくる。漸く会える。グレイスに会いたいと思っているのはロシェルだけじゃないんだぞ。」
リーヴァはそう言いながら、深いため息をついた。
◇◇◇
ルダリスタン帝国の建国祭。
この大陸の国々はそのほとんどがルダリスタン帝国の属国だ。
大きな争いが無いのは、このルダリスタン帝国歴代皇帝が皆、類いまれなる手腕で強固な政治を行っているからだった。
現在その皇帝のリーヴァは、若いが頭脳明晰で、且つ大陸指折りの強力な力を持った魔導師の1人だ。
そんな若き皇帝の隣には、今やこの大陸で絶大な人気を誇る聖者ロシェルが控えている。
まさに大帝国時代の更なる繁栄を予感させるものだった。
建国祭を祝う言葉に始まり、今だ報告が上がってくる魔族への対処、そして傷ついた民の治療と土地の浄化を献身的に行うロシェルへの称賛の言葉が続く。
式典が終わると会食となり、リーヴァに続きロシェルへの挨拶の列が続いた。
「聖者ロシェル様が掛けられている3連のネックレスの石は全てロシェル様の魔力を込めた魔石だそうです。土地の浄化を行った後、更なる土地の豊穣を願い、あの魔石を地中に埋めるのだとか。そのお陰で、荒れ果てた土地も瞬く間に甦るそうですよ。」
「何と有難い事でしょう。エルフの血を継いでおられるそうだが、長い生の間、我が娘を娶って頂けないだろうか。子を成すことが出来れば、その子が聖属性の魔力を受け継ぐかもしれぬのに。」
「全くその通りですな。しかし、ロシェル様は今だ行方不明のヴァーバル公爵と離婚されていないそうだが。」
「魔族と戦闘中に行方不明になり、その後、突然出現していた魔族の多くが灰となり消えたのは、そのヴァーバル公爵が連れ去られた先で、魔王を倒したことによるとか。公爵はその際に亡くなったと言われていますがな。」
「あれ以来、音沙汰が無いのが何より亡くなった証拠だと聞きましたぞ。」
「それなら尚更、ロシェル様がヴァーバル公爵を継ぎ、新たに妻を娶られるべきだと思いますがな。」
「私もそれに同意します。」
「皇帝陛下に我等が協力して進言致せば、聞き入れて頂けるのではないだろうか。それがルダリスタン帝国の更なる繁栄をもたらすだろう。」
「その通りですな。だが、そう考えているのは他国も同じようで。ほらご覧下さい。魔族襲撃の際、ルノール王国で生き残った王族のお一人、第3王女が来られていますぞ。本当かどうかは分かりませんが、何でもその美しさ故に、魔族も殺すことを躊躇ったとか。ルノール王国の魔族を討伐してくれた感謝を込めて、あの王女をロシェル様に差し出す申し入れをしたそうですよ。」
「うまい言い方ですが、ロシェル様の美しさに比べれば王女の美しさ等霞んでしまうでしょう。ロシェル様にとっては、王女との縁などどうでもいいでしょうな。寧ろ王女がロシェル様に熱をあげているのでしょう。」
そう囁かれているルノール王国第3王女ルネアが、ロシェルへの挨拶の列が途切れたのを狙い近づく。
「聖者ロシェル様、お久しぶりでございます。ルノール王国第3王女ルネア·ルノールでございます。」
波打つ金茶の髪に丸みを帯びたエメラルドグリーンの瞳。
大輪の花の様な華やかさを持つ美しい王女だ。
ロシェルはその声にゆっくり視線を向ける。
「これは王女殿下、ご機嫌麗しく存じます。」
「漸くお会い出来ましたわ。何度面会を申し出てもお返事を頂けないので、直接お願いに上がりましたの。」
「·····申し訳ございません。殆ど各地の浄化で領地を空けておりますので。」
「存じておりますわ。私とロシェル様が縁を持ったのも、ルノール王国での土地の浄化でしたので。休まず浄化と治療の奉仕活動を行っているお姿に感銘を受けております。ですから、私も是非ともロシェル様のお力になりたくて。」
「·····王女殿下からそのようなお言葉を頂き、光栄です。」
「·····ロシェル様、私の目には、お一人での奉仕活動はお寂しそうに見えますわ。やはり、伴侶となり、お側に居る存在が必要だと思いますの。ロシェル様が他の者達の為に奉仕活動をなさるなら、私がロシェル様のお世話を致しますわ。ですからどうか私を傍にお置き下さいませ。」
「お心遣い有難うございます。ですが、各地を廻るのは、安全な旅だとは限りません。王女殿下の安全も考え、ご遠慮させて頂きます。」
「·····自分で言うのもなんですが、私の容姿を好んで結婚したいと申し出る者は多いのですよ。ですが、私はそんな者達の元には相応しくありません。ロシェル様、私はあなたを癒す花になりたいのです。」
少し目を潤ませ、そうロシェルに訴える王女の姿は、庇護欲を駆られ、儚く、美しく見える。
周りは、ロシェルがどんな返事をするか興味津々だ。
ロシェルは深くため息をつき、王女を突き放す言葉をかけようとした。
「奉仕活動ッテ疲レルノニ、勝手ニ付イテキタ花ノ世話マデシナキャナラナイナンテ、地獄ダネ。」
「きゃっ!」
突然何の気配もなく現れたナルージアに、周囲は驚き、思わず皆後ずさる。
「ソレニアンタハ、言ウホドジャナイヨネ?ロシェルニ美シサヲアピールシテモ無駄ナ気ガスル。」
「あっ、あなたは魔族のお方ですわね。そのような物言い、失礼ですわよ。」
「エー、ルノールの王城デ俺モ戦ッテヤッタノニソノ言イ方。ソレニ妻帯者ヲ口説ク女ノ方ガ失礼デ、下品ダロ?」
「無礼ですわよ!」
「申し訳ございません、王女殿下、私はこれにて失礼します。」
「お待ちになって!まだ私の話を·····。帰らない妻をもう待つ必要はないのではないですか?あなたはもう、別の誰かと幸せになるべきです!」
王女がそうロシェルに言うと、一瞬ロシェルの纏う気配が冷たくなる。
「あっ····。」
「私の幸せは、私自身に決めさせて頂きたい。それに····。」
更に王女を突き放す言葉を言う前に、ロシェルは突然口を噤み、一点を見つめ始めた。
「ロシェル様?」
突然動きを止める様に何も話さなくなったロシェルを王女は訝しむ。
そして王女がロシェルに歩み寄ろうとしたその時、会場の入り口がにわかに騒がしくなった。
ロシェルはその方向に視線を向け、動かない。
やがて人々の視線はそのままに、左右に分かれ道を開ける。
そこに現れたのは黒ずくめのローブを身に纏った人物だった。
ロシェルは今この時まで、その魔力に気づかなかった。
おそらく完璧に気配を消していたのだろう。
供も連れず、顔は漆黒の仮面に覆われている為、男とも女とも区別がつかない。
だが、漆黒の仮面に皆心当たりがあった。
しかし誰もロシェルさえも確信が持てず、唯々その動向を見つめることしか出来ない。
ローブは小綺麗にしているが、それほど上質の物ではない。
その人物はゆっくり皇帝であるリーヴァの元へ歩いていく。
後ろからは警戒してか、騎士が数人監視のため付き従っている。
そしてリーヴァの元へ辿り着くと、ローブの人物は深々と頭を下げた。
「そなたが今エルディア王国とルノール王国で話題になっている魔導師か?招待状を送ったが、無事この建国祭に足を運んでくれた事、感謝する。」
異例とも言える皇帝の言葉に驚くも、続く魔導師の言葉に期待し、皆息をのむ。
黒ずくめの魔導師は、ゆっくりとその仮面に手を掛け外す。
色白の肌が見えるが、深々と被っているフードの為、顔はまだ見えない。
そして魔導師は、ゆっくりとフードを取った。
魔力が溢れ、空気が一瞬清んだ気がした。
フードを取り現れたのは、癖のない美しい銀髪。
透き通る程白い肌に、水気を帯びた水色の瞳。ほんのり色づいた唇が何とも艶かしい。
髪をセットしているでもなく、装飾品を身につけている訳でもない。
ただその身があるだけなのに、あまりの美しさにため息が溢れた。
ロシェルはその姿を見て、雷に打たれた様に動けず、ただひたすら魔導師を見つめる。
そして傍にいる王女に告げる。
「王女殿下、あらためて、先程の王女殿下のご提案はお断りさせて頂きます。······妻が長い旅から戻ったようです。」
「え?妻ですって?」
それはグレイスが行方不明となって、8年ぶりの帰還だった。
数ある作品の中から見つけて、読んで下さり有難うございます。
もし宜しければ、暇潰しに、「貴方のためにできること~ヒロインには負けません~」
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も読んで頂ければと思います。宜しくお願いします。




