68 グレイスの行方
不定期投稿です。
大変遅くなり申し訳ありません。
宜しくお願いします。
『エリオット様が笑顔をお見せになるのは、グレイス様だけなのですよ。』
『そうなのですか?』
『はい。エリオット様は王太子になられるべく、日々厳しい教育を受けておられます。その内の一つが、相手に考えを読まれない事、感情を表に出さない事でございます。』
『気持ちを表に出してはいけないのですか?』
『はい。感情を読み取られる事で、国の弱さに繋がることもあるからです。これは紳士、淑女誰もが、貴族として身に付けなければならないものでもあります。』
『そうなのですか·····。』
『ただ、お心を許せる相手にだけは心からの笑顔をお見せになられて下さい。そして絆を深められます様に。』
『心を許せる相手?』
『エリオット様にとっては、それがグレイス様なのです。グレイス様に対しては、ご信頼されている上、この上ない癒しでもあるのです。どうかお互いに癒し支えられるご関係になられる事を、切に願っております。』
そう言ったのは、エリオットの乳母である子爵夫人だった。
きっと母親である王妃、カリファよりもエリオットが信頼を寄せていた人間であり、彼女こそエリオットを癒す存在だった。
体調を崩し、王宮を辞する際、彼女がグレイスに託した想いでもあった。
そしてエリオット様と私が、国王、王妃として共に並び立つ日を楽しみにしながら、亡くなったという。
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「愛しいグレイス·····漸く君の幸せを素直に願えるよ。」
「エリオット様、いけません!」
「·····愛しているよ、グレイス······。幸せに······。」
伸ばした互いの手は触れ合うことはなく、エリオットの身体は灰となり霧散した。
同時に魔族の絶叫を聞いた気がする。
しかしそんな光景さえも、グレイスの意識に、何一つ入ってくる事はなかった。
エリオットがいた場所を茫然と見つめる。
受け入れられない現実に感情が困惑する。
エリオット様を倒さねばならないと思った。
エリオット様と共に逝くことを心に決めた。
エリオット様と共に生きる道を探すことを誓った。
エリオット様に愛していると伝えた。
「あなたは、幽閉されようが、敵になろうが、いつでも私と逝くことを望んでいたはずでしたのに······。あなたと離れての私の幸せなど望まれたことはなかったでしょう?なのに·····。」
グレイスの目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
「跡形もなく消えてしまうなんて·····。私は今まで一度もあなたの死を望んだことなどありません。」
視界が涙で曇る。
涙は止めどなくグレイスの頬を伝わり、地を濡らした。
1部崩壊した屋敷の地面に踞るグレイスの静かな嗚咽が、朝の空気に溶けて消えていった。
◇◇◇
「ヴィルド·ローハッタ·ルダリスタン皇帝の退位により、新たにリーヴァ·ローハッタ·ルダリスタン皇太子を、第15代皇帝とする。神よ、帝国の新たな太陽に祝福を、ルダリスタン帝国の更なる繁栄を!」
新たに就任した大神官の宣言により、リーヴァはその日ルダリスタン帝国の皇帝になった。
式典後、各国の代表とルダリスタン帝国内の貴族が
集められ、パーティーが開催された。
貴族が次々とリーヴァに順に挨拶していく中、一際視線を集めたのはある一団だった。
「ロシェル·ヴァーバルが皇帝陛下に就任のお祝いを申し上げます。」
スラリと高い身長に程よい体躯。
少し癖のある金髪は胸の辺りまでと長く、ハーフアップにした髪型は美しい顔立ちを更に引き立てていた。
「ロシェル来たか。国内の土地の浄化を進めてくれていると報告を受けている。その働きに感謝する。」
「いえ、魔獣により汚された土地の浄化は、私がお役に立てる仕事だと思っています。」
「あれから7年か·····。どうだ、まだヴァーバル公爵の爵位を引き継ぐ決心はつかないか?」
「·····はい。私はグレイスが帰ってくると信じているので。 」
「領主代行のままがいいと?」
「はい。私の地位はグレイスの夫というだけで十分です。」
「そうか。だが周りは、貴重な聖属性の魔力持ちな上、今までの功績もあるそなたを、公爵に叙爵するよう声を上げている。それを無視する訳にはいかない。そこで、神殿と離した上で、そなたに『聖者』の称号を与えようと思う。」
「『聖者』·····。」
「ロシェルに相応しい称号だと思うが?まあ、こう言うと嫌がるかもしれないが、『聖女』と同じで、公爵位と同等の意味を持つ。そういった地位になれば、簡単に手出しは出来なくなるからな。私の目が届かない所でも、自分でその身を守れるだろう。大人しく受け取って欲しい。」
「手出しされなくなる····。」
グレイスが行方不明になっている為、今まで高位貴族がロシェルを取り込もうとすりより、縁談を大量に持ち込んでいた。爵位を肩に半ば脅しのようなものもあった。リーヴァが後ろ楯となっている為、その都度縁談を断り、ロシェルを守っていた。
「『聖者』の称号を得る事で、自分の身を守れるようになるならば、お言葉に甘えて、その称号を頂こうと思います。」
「正しい判断だ。早速この場でお披露目としよう。」
リーヴァはそう言うと、玉座から立ち上がり、皆に宣言する。
「この場を借りて皆に報告したい事がある。ここにいるロシェル·ヴァーバルに日頃の功績を讃え、『聖者』の称号を与える事とする。これは『聖女』と同様に、公爵と同じ爵位である。これはこのルダリスタン帝国だけでなく、各国でも同様だ。皆、周知するように。」
「「「はっ。」」」
会場にいた全ての者達が、それに呼応する。
「聖者ロシェル様、万歳!」
「「聖者ロシェル様、万歳!」」
誰が言い始めたか、その掛け声で、会場はロシェルを讃える声で1つになっていった。
ロシェルはそれに眩しいばかりの笑みで応える。
そんなロシェルのあまりの美しさに当てられて、倒れる夫人や令嬢が続出したのは言うまでもない。
◇
パーティーはその後も続いたが、途中リーヴァが話があるからと、ロシェルを別室に誘った。
「お話とは、グレイスの事ですか?」
「ああ。」
「!!·····何か情報が?」
「ああ、海を隔てた国の話なんだが、その国を船で行き来する商人が興味深い話をしていてね。」
「海の向こう?そんな所に?」
「ああ、彼の国では、なんでも数年前から強力な闇属性の魔力を持つ魔導師が現れ、主に教会などで治療行為を行っているらしい。」
「闇属性の魔力で治療を行うなら·····。」
「闇属性の魔法が、病気の治療に有効だと証明したのは確かにグレイスだ。ただ、海の向こうで誰かが同じようにその治療法を発見したとしてもおかしくはない。だが、やはりそれはグレイスなのではないかと思う。」
「海の向こうの地まで転移したという事ですか?それほど強大な魔力を持っていたと?」
「魔王の何かを取り込んでいると、ナルージアも話していたしな。それに転移の魔法は元々フェアノーレ王国で生み出されたものだ。私も母がフェアノーレの出だから、転移魔法が得意だしね。魔王から力を得たなら、尚更エリオットがグレイスを連れて転移していたとしてもおかしくはない。」
「·····エリオット様が死んで、グレイスはその地に残されたと?」
「今まで散々探しても見付からなかったんだ。海の向こうに居たと聞く方が納得出来る話だ。」
「·····そうですね。·····では、そこに行けばいいんですね?」
ロシェルはそう言って立ち上がる。
「いや、待て待て。その商人の話だと、その魔導師の付き人が、この地に向かう便について質問してきたそうだ。今向かえば入れ違いになるかもしれない。」
「ですが、ただ待つというのは·····待ちきれません!」
「まあ、そうなるな。そこでナルージアにこの話をした。早速旅立ったよ。」
「ナルージアが?そう言えばドイナーと何か話してた·····グレイスの事だったなんて。」
「君に話せば、今日の式典に来なくなるだろう?それに勢いで行ってしまいそうだからな。ロシェル、君は動かず、ここでグレイスを迎える必要がある。待っている人間が必要なんだ。」
「·····もどかしいな。」
「情報が確実になれば、迎えに行けばいい。必ず声を掛けるから、心配するな。」
「·····はい。それにしても、グレイスは7年もの間、直ぐに帰らず、何をしているんだろう?私に会いたくないのでしょうか·····。」
「·····エリオットが死んで、グレイスの中に何かやらねばならない使命のようなものが生まれたんだろう。グレイスは自分の幸せを後回しにする人間だ。そこは分かってやれ。グレイスの幸せは、ロシェル、お前の元に帰る事だ。お前もそう思うから、離婚しなかったのだろう?」
「はい·····。」
「グレイスが帰ってきたら、今度こそ幸せにして欲しい。」
「はい。勿論です。」
そう応えたロシェルの表情は柔らかだった。
◇◇◇
顔色は青白く、頬はこけ、目は落ち窪み、呼吸も絶え絶えな少女が、父親に抱えられ部屋に入る。
それ程広くない部屋には、天窓が1つあるばかりで、そこから差し込む光が、床を1ヵ所明るく照らしている。
その奥で椅子に座る1人の黒ずくめの魔導師。
フードを深く被り、その顔は見てとれない。
袖から覗く透き通る様に白く美しい手を見て、女性なのかと推測する。
「どうぞ奥へ。」
入口に控えていた中年の男が、親子に入るように促す。
見ると男の喉元には、大きな傷痕があった。
父親は緊張のあまり息をのむ。
促されるまま中に入ると、魔導師から少し離れた位置にある椅子に座るように言われる。
男は小さく頷き、娘を抱えたまま椅子に座る。
「今日はどうしましたか?」
魔導師から話し掛けられる。
若い女の声だ。
そしてその魔導師が、真っ黒な仮面をつけている事に気付く。
その見た目に緊張と恐怖まで加わり、男は身体が震え始める。
娘はじっと魔導師を見つめている。
「ご覧の通りでございます。始めは腹部の痛みを訴えていましたが、今は食べ物は受け付けず、漸く食べても直ぐに吐いてしまいます。何でも人に譲ってしまうような、とても優しい子なんです。どうかもう一度、元気を取り戻してやって下さい。お礼は·····これを。我が家に金になりそうな物はこれしか無くて。」
そう言って男は小さな石の付いたペンダントを取り出す。
傍に控える従者らしき男はそれを受け取る。
「分かりました。診てみましょう。」
魔導師はそう言って、膝に少女を乗せるように指示する。
男は恐る恐る魔導師に近づき、その膝に少女を乗せる。
意外にも、怖がるかと思っていた少女は、難なくその膝におさまった。
「では少し光るけれど、心配せずに静かにしていてね。」
魔導師はそう優しく少女に話し掛ける。
思いの外柔らかい声に少女も安心したかのように、小さく頷く。
魔導師は詠唱を始める。
その瞬間、椅子の真下に銀色の魔法陣が浮かび上がる。
魔導師が詠唱を続けると、魔法陣の銀色の光の中に、輝く黒い粒子が混じり始め、それは銀色の光の中で踊るように動いている。
次第にその光は魔導師と少女を包み込んだ。
それを見ていた男は、恐怖よりも美しさに目を奪われる。
やがて光は収まり、2人の姿がはっきりしてきた。
そして娘の顔を見た男は、声を失った。
青白かった娘の顔は、血色が良くなったのか、頬にほんのり赤みが差していた。
何より表情が柔らかい。
「ララ·····。」
男は何とか言葉を発し、呼び掛ける。
娘は声に反応し、父親の方を振り向き笑顔を見せた。
「!!」
「父さん!痛くないの。気持ち悪いのも消えちゃった。とても気分がいいの。嬉しい·····。」
娘はそう言って笑顔のまま涙を流した。
「ああ、ララ·····。」
男は歓喜のまま手を広げる。
娘は魔導師の膝から降りると、父親である男の胸に飛び込んだ。
「有難うございます、有難うございます。」
男は涙を流しながら感謝の言葉を伝える。
「身体の中にある病巣を取り除きました。ゆっくり消化のいいものから食事を増やしていって下さいね。」
「分かりました。」
「·····魔導師様、名前を教えて下さい。お礼に、毎日魔導師様の幸せを神様にお祈りします。」
少女が目を輝かせながら気持ちを伝える。
「·····私の名前はエリオット。」
「エリオット?男の人の名前みたい。」
「エリオット様ですか·····。あなた様がこの地にご滞在されている間、多くの者達を救って下さいました。私達は感謝の意を込めて、エリオット様のお名前を語り継いで参ります。」
「·····有難う。」
仮面で表情は分からないが、雰囲気で、魔導師が微笑んでいるのが分かった。
親子は何度も感謝の言葉を言いながら、帰っていった。
「これで今日の患者は終わりました。」
「そう、分かったわ。今日もお疲れ様。では片付けをして宿に戻りましょうか?受付のスワンにもそう伝えて。」
「かしこまりました。」
魔導師達は部屋を片付け、帰る準備を始めた。
とその時、廊下の奥がにわかに騒がしくなった。
「お伺いして参りますので、こちらでお待ち下さい!」
メイドのスワンの声が聞こえる。
スワンは振り切られたのだろう、足音が大きくなり、扉が荒々しく開けられた。
従者のエルボが魔導師を守ろうと、前に立ちはだかる。
『見ーつけた。』
浅黒い肌に金色の短髪。
神秘的な深紅の瞳を持った長身の男性。
挑戦的なイタズラっぽい笑みを浮かべ現れたその人物に、魔導師はゆっくり向き直る。
「ナルージア·····。」
名を呼ばれたナルージアは嬉しそうな笑みを見せ、魔導師に近づき、徐にその仮面を取った。
『グレイス、久しぶり。探したよ。』
ナルージアはグレイスを強く抱き締め、その肩に顔を埋める。
『あー、会いたかったー。まさか海を越えて居るなんてね。迎えに来た。さあ、帰ろうぜ。』
そう言ってナルージアは、グレイスが今まで見たことのない、優しい笑みを見せた。
数ある作品の中から見つけて、読んで下さり有難うございます。
もし宜しければ、暇潰しに、現在連載中の「貴方のためにできること~ヒロインには負けません~
https://ncode.syosetu.com/n0868hi/
も読んで頂ければと思います。宜しくお願いします。




