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闇の聖女は愛を囁く  作者: 藍沢ユメ
61/93

61 聖女の処刑

不定期投稿です。

宜しくお願いします。

「罪人フィーネ·ノーラ、ここに汝の罪状を読み上げる!!」


前回とは異なり、今回のフィーネ達の処刑は、公開処刑となった。

未だフィーネを聖女と信奉してやまない平民や貴族達がその場を訪れ、処刑場は未だかつてない混雑を見せた。

フィーネがその場に姿を現しす前は同情と恩情を願う声が上がっていたが、処刑人が罪状を読み上げ始めると、徐々にその声は小さくなっていった。


「1つ、当時専属護衛だった聖騎士2名に、グレイス·タンドゥーラ公爵令嬢の襲撃を指示し、従者、騎士等11名を殺害した罪。」


「だってしょうがないでしょう?折角ダリウスをあの女から奪えたのに。生きていたら、いつまた奪い返されるか分からないから。漸く手に入れた幸せを失いたくなかったの。だから幼馴染みのあの2人とルクスト子爵にお願いしたの。私はこれからも皆の為に治癒魔法を使い続けなきゃいけないのに、不安な気持ちを抱えて過ごすなんて嫌だった。皆、私の力が必要なんでしょう?私に協力してくれてもいいじゃない!」


聖女とは思えない言い分に、皆唖然とする。

処刑人はフィーネの言葉を受け、不快な表情をするも、更に続ける。


「1つ、アーレン国王陛下に不適切な魔法をかけ、殺害しようとした罪。」


会場がざわつく。


「あれは殺そうと思ってしたんじゃないわ!私の力が貴重なものだと証明する為にやったの。だって前に王様に魔法かけたら、逆に具合が悪くなったなんて言い掛かりをつけられたから。その場で王様を治せば、直ぐに疑いが晴れるでしょう?でも本当に悪くなるなんて思わなかったの!自分の本当の力を知らなかったの!」


会場は静まりかえる。

何処かで「まさかあの人が具合が悪くなったのは····」と呟いた人の声が聞こえた。


「1つ、脱獄した罪。」


「当たり前でしょう?処刑されるって言われたら逃げたくなるわ。私はダリウスが助けに来てくれるって思っていたから落ち着いて待っていられたけど、神官長は騒いでうるさかったわ。結局、以前私が助けた事がある人が助けに来てくれて、脱獄させてくれたわ。でも逃げる途中、あの人、殺されて·····可哀想だったわ。」


この時になると、もう誰もフィーネに哀れみの目を向ける人は殆どいなくなっていた。


「·····1つ、魔族に手を貸し、ダリウス·ノーラ公爵を殺害しようとした罪。」


そう言う処刑人の後ろからダリウスが姿を現す。

皆はダリウスの左腕が失くなっている事に動揺し、ざわつき始める。


「あぁ、ダリウス!ごめんなさいっ!ダリウスを傷つけるつもりはなかったの!その腕も直ぐに元通りに治してあげるから!」

「不要だ。元々古竜との戦いで失っていたものだ。お前からこれ以上恩を受けるつもりはない。」

「そんな······あのね、ゼフはね、魔族だけど私を愛してくれたの。言葉は通じなくても愛情を示してくれたわ。」

「魔族の愛情など·····あんな状況で信じたのか·····。」

「魔族だって愛情はあるわ。だってあんなに優しく私を抱いてくれたもの。だから、夫にすることにしたの。」

「フィーネ、まさかあの魔族と身体の関係を持ったのか?」


ダリウスは言葉を失う。


「ゼフは私の言うことなら聞いてくれたわ。あの時だけ、ちょっと興奮して····ううん、多分嫉妬したのよ。あの後、ちゃんと話せば、理解してくれたと思うの。そうしたら3人仲良く暮らせたのに·····。首を刎ねる何て····酷いっ·····。」


フィーネは魔族が首を刎ねられた時の事を思い出したのか、涙を流す。


「グレイスがいち早く魔族の身体を拘束してくれなかったら、俺は斬られていた。拘束してくれたから、グレイスの騎士が首を刎ねる事が出来たんだ。」

「何ですって?グレイス·····あの女なの?また私の邪魔をしたの?」

「邪魔?グレイスがいなければ俺は斬られていた。」

「だからって殺さなくてもいいじゃない!うわぁぁぁ····。」


フィーネは大粒の涙を流しながら地に伏し泣いた。

どんな状況だったか知らない者達も、ダリウスとのやり取りから、フィーネが魔族の男に心を寄せていた事を理解した様だった。

罪状を読み上げていた処刑人も呆れた表情をしていた。

そして最早誰もフィーネに救済に声を上げる者はいなかった。


「フィーネ·····何故神はお前に力を与えたのだろうな·····。」


ダリウスが思わずそう呟く。


「グレイス·····あの女がこの世にいなければ、私はもっと幸せになれたのに。·····そう言えばあの人は?玉座に座っていたあの人は?あの人があんな提案しなければ、ゼフは死ななかったかもしれないわ。あの魔族を従えていた人·····名前は何だったかしら?確か·····エ···。」



スパン·······



斬ったにしてはあまりにも軽い音だった。

血が吹き出すことなく、滑るように落ちたフィーネの首は、未だ斬られた事を理解していないような表情をしていた。

ダリウスが横に薙いだ剣は、まるで線を引くような美しい剣筋だった。

フィーネの首はその場に落ち、その後ゆっくり身体が倒れた。


突然ダリウスの手によって行われた処刑を、観衆は息を飲んで見つめていた。


「これにて聖女フィーネの処刑を終了する!」


処刑人が声高らかに終了を告げる。


人々は始めとは異なり、すっかり鳴りを潜め、フィーネの死を特に悲嘆することなく、静かに会場を去っていった。


他の処刑人達がフィーネの遺体を布に収め、火葬する為、荷馬車に乗せ運んで行った。

ダリウスはそれを見届けた後、その場を後にした。



◇◇◇



ダリウスはその後、報告の為王城に上がり、王に謁見を申し出た。

そして通された王の執務室では、補佐官達が慌ただしく出入りしていた。

アーレンは手を止めることなく執務を続けている。


「報告か?」

「はい。」

「報告なら必要ない。私も見ていたからな。」

「な·····陛下もお越しになられていたのですか?」

「ああ、あの聖女の最期だ。グレイスの代わりに見届ける必要があると思ってね。観衆に紛れて見ていたよ。」

「そうでしたか·····。」


アーレンはおそらく平民に身をやつして、僅かな護衛と共に来ていたのだろう。


「しかし、酷い言い分だった。おまけに魔族と身体の関係を持つとは。お陰で聖女の崇高なイメージは見事に粉砕していたな。これで処刑に異を唱える者はいなくなるだろう。それから、お前が首を直ぐに刎ねたのは、フィーネが兄上の名前を口にしようとしていたからか?」

「·····はい。確かに魔族を目覚めさせ、先導しているのはエリオット様なのですが、あの場でそれをフィーネの口から公にするのが(はばから)れ。」

「いい判断だ。ルダリスタン側に知られた事はやむを得ないが、他の国々に知られる訳にはいかない。」

「はい······。陛下、グレイスはどうなるのでしょうか。あの時と同じように、やはりエリオット様と自死の道を選ぶのでしょうか?」

「兄上次第だろう。しかし、魔族と血の契約をするとは·····。あの兄上が幽閉塔で終わるつもりなどない事など、兄上を知っている人間ならば、容易に想像出来たはずなのに、迂闊だった。逆にもっと早く恩赦を適用し、塔から釈放するべきだった。そして国の政治に関わりを持たせていれば、魔族に手を出す事など無かっただろうに。」


アーレンの表情は後悔を滲ませていた。


「ああ、それから魔族討伐隊隊長のフィールド卿から連絡が入った。お前がこちらに帰国している間に、フェアノーレ王国の騎士達とルダリスタン帝国の騎士達は、一旦ルノールの王都へ向かったそうだ。そこで、数体の魔族が王都を襲撃していたそうだが、それらが中級や下級だった事もあり、無事討伐出来たそうだ。グレイスの夫で聖属性の魔力持ちのロシェルも大人しく討伐に協力していたそうだ。」


グレイスがエリオットと転移の魔法でその場から消えた時、大粒の涙を流しながらグレイスの名を呼び、泣き崩れていたロシェルを思い出す。


とても討伐を続けられない様に見えたが、そうか····役目を果たしたか·····。

本来なら、あの男とグレイスには、心穏やかに過ごす未来が待っていただろうに。


「こちらにも魔族が現れたのですか?」


エリオットは各国の王都に魔族を送り込んだと話していた。

ダリウスが帰国した際は、その様な雰囲気はなかった。


「ああ、中級1体と下級が3体が襲撃してきた。中級は確かに手強かったが、こちらは私や、ルダン·タンドゥーラ次期公爵がいるからな。私もそうだが、ルダンも強力な魔導師でもある。それほど大きな被害はなかったよ。」


魔族との戦いに魔法は必須だ。

グレイスもそうだが、フェアノーレにいる長兄のルダンも、ルダリスタンにいる次兄のセディンも世界屈指の魔力持ちだ。

上級魔族が現れたとしても、慌てることはない。


「お前も左腕をまた失ったばかりだし、フィーネの件もある。色々と身の回りを整理する必要があるだろう。暫く休みを取り、屋敷に戻れ。追って連絡する。」

「陛下·····お願いがございます。」

「何だ?」

「フィーネは私の妻という立場にありました。彼女が罪を犯し、処刑されたのに今まで通りという訳にはいきません。領地を返上させて頂きたいと存じます。そして許されるならば、再び陛下の護衛としてお側に置いて頂けないでしょうか?」


ダリウスは深く頭を下げる。

アーレンは書類から目を離し、ダリウスに目を向けると、小さくため息をついた。


「分かった。善処しよう。」

「有難うございます。」


ダリウスはそのまま、王城を後にした。



王都の屋敷に戻る。

使用人達はフィーネの処刑を知ってか、ダリウスの帰りを落ち着かない様子で迎えた。

今はないルクスト家から来た使用人等は、このまま解雇されるのではと不安に思っている様だった。


ダリウスは何か言いたげな使用人を他所に、屋敷のある場所へ向かう。


そこは今は誰も使っていない物置となっていた。

本来なら女主人の部屋となる場所。

元々グレイスが使っていた部屋だったが、離婚後物置として鍵をかけ、ダリウス以外誰も開けられないようにしていた。

当初フィーネは、自分が女主人となるのだからと、部屋の使用をダリウスに求めてきたが、唯一それだけは許さなかった。

そして今日まで、そこはダリウスさえも開けることなく、固く閉ざされていた。


ダリウスは部屋の扉の前に立ち、ペンダントとして首にかけていた鍵を取り出すと、扉を開けた。


薄暗い部屋に入り、カーテンを開ける。

光が差し込み、部屋の様相が明かになる。

部屋の中央には、布がかけられた絵画が1枚置かれていた。

布に手を掛け取り外す。

そこには結婚した当初のグレイスとダリウスが描かれていた。

義手、義足を着けたダリウスが椅子に座り、その肩に手を掛け傍らに立つグレイス。

優しく、美しく微笑むその姿を見た瞬間、ダリウスの目から涙が溢れてきた。


涙を流すとはいつぶりだろうか。


思わずその絵の中のグレイスの頬に触れようと手を伸ばす。


どうして彼女を手放してしまったのだろうか?

心は未だに愛していると脈を打つ。

エリオット様が魔族と戦わせたのも、俺を無惨に傷つけ殺すためだったのだろう。

結局グレイスが魔族を拘束してくれたから殺される事はなかった。

またしても命を助けられた。

もう愛してはくれていないだろうが、そうやって情をかけてくれる。

俺は何一つ返していないというのに。

俺はあの時、フィーネの言動に囚われていたが、本当はそんなものは無視して、エリオット様を討ちに行くべきだった。

グレイスはエリオット様を討つ事は出来ない。

グレイスがロシェルと幸せになる為の障害となるエリオット様を俺が討たねばならなかった。

それぐらいしか俺が出来ることは無かったというのに。


「グレイス、すまない·····あなたがくれた愛情に、何も返せない俺を許してほしい·····。」


ダリウスが生まれて始めて発した嗚咽は、誰の耳に触れることなく消えていった。

数ある作品の中から見つけて、読んで下さり有難うございます。

もし宜しければ、暇潰しに、現在連載中の「貴方のためにできること~ヒロインには負けません~

https://ncode.syosetu.com/n0868hi/

も読んで頂ければと思います。宜しくお願いします

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