62 グレイスの選択
不定期投稿です。
更新遅くなりました。
宜しくお願いします。
「グレイスー!!」
ああ、ロシェル·····。
私の名を呼ぶ、ロシェルの悲痛な叫び声を聞きながら、目の前は真っ白な光に覆われていく。
ロシェルとドイナーとの間に結んでいた血の契約は今しがた解除した。
これで私が死んでも2人を道連れにすることはない。
アグリスは仕方がないにしても、ナルージアは血の契約を解除していいのか分からない。
魔力を取り戻したナルージアは、魔王と呼ばれていた魔族に引けをとらない程強くなっているはず。
果たしてずっと味方で居てくれるかどうかは分からない。
今はまだ解除出来なかった。
『仕方がないな。』と言って見せた笑顔を見ると、胸が痛い。
皆、ごめんなさい。
私を頼りにしてくれている皆を残して姿を消すことを許して欲しい。
私が居なくても、きっと大丈夫だから。
真っ白い光が徐々に収まり、再び視界が戻った時、そこは薄い霧で包まれた静かな場所だった。
「着いたよグレイス。」
エリオットの声が頭上から聞こえた。
「ここは·····。」
「そうだな·····フェアノーレともルダリスタンとも遠く離れた場所、とだけ言っておこうか。私達を探そうとしても、容易に見つけられはしない。」
「そうですか。·····霧に包まれているのでよく分かりませんが、静かな落ち着いた所ですね。」
「そうなんだ。案内するよ、行こう。」
そう言って、エリオットは昔そうしていた様に、グレイスの手を取ると歩き出した。
うっすら霧の立ち込める林を抜けると、視界は開け、さほど大きくはない屋敷が見えてきた。
門を開け敷地に入る。
その慣れた様子から、エリオットが幽閉塔を抜け出した時に使っていた場所なのだろうと推測する。
エリオットとグレイスの気配に気づいたのだろう、屋敷の扉が開き、使用人らしき中年の男が姿を現した。
男は言葉を発することなく無言でエリオットに頭を下げ迎い入れた。
「この男は昔魔獣に襲われている所を助けたんだが、その時喉を切られていて、口が聞けない。」
エリオットがそう言うと、男はそれに同意するようにグレイスに会釈した。
「使用人は数人いるが、皆、村が魔獣に襲われ、かろうじて生き残った者達や、訳ありの者達ばかりだ。ここでの情報が外に漏れることはない。公爵家の屋敷の様に行き届いた世話をする事は出来ないかもしれないが、それは許して欲しい。」
「エリオット様、私は大丈夫です。ルダリスタンに移り住み、リーヴァを屋敷に預かった時に、リーヴァと共に、暫く領内の市井で、身分を隠して生活したことがありますから。身の回りの事は自分で出来ます。」
「そうか、それなら安心だ。」
エリオットはそう言うとグレイスに微笑んで見せた。
昔も、エリオットの微笑みは、グレイスしか見ることが出来ないと言われていた。
王太子として、隙を見せず、常に厳格であったのは、自国を背負う者として必要な事で、非難されるものではなかった。
それを悪い印象に強調していたのは、アーレンの母親であり、側妃であるユリエナだった。
グレイスは当時それが腹立たしかった。
そういったものが重なり起こった悲劇。
それらから解放された今、エリオットには心のままに笑顔を見せて欲しいと思う。
しかし、そう思う反面、今置かれているこの状況、
エリオットが魔族と関わる事になるとは·····。
世界を混乱に陥れようとするとは·····。
エリオットはグレイスにとって倒さねばならない相手となってしまった。
どうしてこんな事になったのだろう·····。
エリオット様はこれからどうするつもりなのだろう。
グレイスが様々な想いを抱えている中、エリオットはグレイスと共に居ることが幸せなのだろう。
その気配は柔らかい。
「ここが私達の部屋だ。」
そう言って案内された部屋は、白と薄い水色で統一された美しい部屋だった。
「素敵······。とても美しい部屋ですね。」
「君の瞳の色を基調にしたかったんだ。ここで君と多くの時を過ごしたい。」
「エリオット様····有難うございます。」
素直にそう言葉が出た。
それを受け、エリオットも満足している様だった。
湯浴みをするように勧められ、グレイスはそれに従った。
部屋のクローゼットには沢山のドレスをはじめとする衣料が収められていた。
グレイスはその中から1着選び、身支度を整えていると、メイドが部屋に軽食を運んできた。
食べて休んでいるように言われ、言われた通りに食事をし、エリオットが来るのを待つ。
私はエリオット様を倒せるだろうか。
今こうしている間にもロシェル達は魔族と戦っているかもしれない。
こうしてゆっくりはしていられないのに。
エリオット様を倒したら、私も共に逝く覚悟は出来ている。
そう思いながら窓の外を眺めている。
霧はまだ晴れてはおらず、ぼんやりと見える林道のある景色が、まるで現世と隔離されているかのような錯覚をおこす。
グレイスは目を閉じる。
元々魔力不足もあってか、、いつの間にか眠りに落ちていた。
◇
ふと優しく自分を包み込む体温を感じる。
そして懐かしい匂い。
私······。
意識がまだ朦朧とする中、目を開けると、そこにはグレイスを抱き抱えているエリオットの姿があった。
「エリオット様······申し訳ありません。端なくも、眠ってしまいました。どうか下ろして頂いて·····。」
「いや、窓辺に寄り掛かって眠る君も美しかったよ。」
エリオットはそう言うと、グレイスを抱き抱えたまま、ベッドに腰を下ろした。
「逃げたいと思っていた?」
「え?」
唐突な質問に、グレイスは戸惑う。
「はは、そう驚かなくてもいい。分かっているよ、十数年振りに現れて、直ぐに昔と同じような気持ちに戻れるとは思っていない。君と私の時の流れは違っていただろうから。」
エリオットは感触を確かめるように、グレイスの髪を自身の指で髪を解きながら、落ち着いた声でそう話す。
「王太子だった私の婚約者から、アーレンの側妃、勇者になったダリウスの妻となり、更には貴重な聖属性の魔力持ちとの結婚か。どれもグレイス自身が望んだものではなく、貴族だから仕方がないが、請われて
したものばかりだ。これでも私は幽閉されている間、君の幸せを願っていたんだよ。」
「エリオット様·····。」
「グレイスも分かっていると思うが、私は幽閉塔の中で一生終わるつもりなどなかった。陛下をはじめ、他の貴族も私の幽閉には同情的だった。だから前陛下が崩御された際は、恩赦があると思っていた。実は幽閉前に前陛下は私に約束していたんだよ、恩赦の事を。前陛下なりの私への贖罪のつもりだったのだろう。しかし実際、前陛下はその時になって、遺言で私の幽閉を解くのを先延ばしにした。おそらくダリウスが竜討伐の褒賞として、君との婚姻を望んだからだ。もしそんな中、幽閉を解かれた私が君達の元に現れたなら、何をするか分からないと懸念したのだろう。」
「·····私を理由に幽閉が解かれないなど、そんな·····。」
確かに、ダリウスと私の婚姻は、エリオットにとって面白くないものだろう。
だからと言って、エリオットの人生を幽閉塔の中で終わらせるなど、残酷な事だ。
「私はエリオット様にとって障害だったのかもしれません。」
母、前王妃カリファの犯した罪の巻き添えになったエリオット。
将来国を動かすべく、幼い頃から厳しい王太子教育を受け、高い志を持ってその任を全うしようとした彼が、突然その地位を奪われ、幽閉され、本来受ける恩赦も潰された時の絶望感。
もし私がアーレンの側妃になる提案を受けず、更にはダリウスに降嫁することがなかったら、エリオット様は早々に幽閉を解かれていた?
「私がアーレンの側妃にならず、ダリウスにも降嫁しなかったら、エリオット様は幽閉を解かれていたのですか?」
「どうだろうね····。」
「それに·····私がダリウスの妻にならなければ、聖女フィーネの手の者に襲われる事もなく、ハルやタッカ達も殺されなかった?」
私の選択が身近な人達の人生を狂わせている。
「·····グレイス、昔君はユリエナが死んだ時、その毒を誰が盛ったか突き止めた。私は君に、突き止めなければ病死として扱われていたかもしれないのに、どうして犯人を調べようと思ったか聞いたよね?」
「·····はい。」
「その時君は私にこう答えたんだよ。陛下が調べろと言った時点で、調査が行われる。それを担うのはタンドゥーラ家になるだろう。タンドゥーラ家が調査を行えば、ほぼ確実に真実にたどり着く。もし毒を盛ったのが、私だという事実が出てきて、その情報を先に握られてしまったら、私を助けることが出来なくなるからと。君の生家はあくまでも公正に対処する。君が婚約者だからといって庇われる事はない。それが分かっているから、万が一を考えて、君が先に真実を突き止めようとした。結果、母が関わっていた事が判明したが。そして結局君は私の命を守る為に、真実を私の手で公表するよう提案した。」
「······。」
「だから、あの時、君が取ったギリギリの選択は私の命を繋いだ。そうやって繋いだから、今私はここにいる。······しかし今私が行っている事を考えれば、君があの時私の処刑を回避したのは、間違った行動だったと君は思っているのだろうか?」
「それは·······。」
「私は君を責めている訳ではない。私が言いたいのは、君が今まで取ってきた行動を悔い、思い悩む必要はないという事だ。」
「エリオット様·····。」
「そもそも私が秘密裏に毒を入手し、それを母に利用されなければ良かったし、アーレンが真実の愛など追い求めず、ソフィアと結婚していれば良かった。そうすれば、君はフェアノーレに留まらず、ルダリスタンにその身を置いていただろう。ダリウスも竜の討伐に参加しなければ、勇者の称号を得ることなく、褒賞に君を望む事もなかった。聖女と呼ばれていた女が、グレイスに嫉妬しなければ、襲撃は起きなかった·····君以外の原因を上げればキリがない。」
「······。」
「選択して訪れる未来など、誰も予想出来ないのだから、そういう場面に直面したのなら、その時の最善を尽くせばいい。」
エリオットはそう言うと、グレイスに1本の短剣を差し出した。
「これは?」
「グレイス、生とは、いつも選択を迫られるものだ。そして今、また君にその選択する機会を与えよう。」
「何を·····。」
「この短剣には強力な魔力が込められている。この短剣で刺されたら、私は確実に死ぬだろう。」
「エリオット様·····。」
「君は悩んでいるだろう?私をこのまま生かしていいかどうか。私を殺したいなら、この短剣で刺すがいい。そうしたら、私と血の契約をしている魔族は、共に道連れとなり、死すだろう。既に多少倒されているだろうが、まだ60体ほど血の契約をした魔族はいる。それらが死ねば、再び平和が訪れるだろう。」
エリオットはグレイスの手を取り、その短剣を握らせた。
「君は優しい。ゆっくり心を決めるがいい。ああ、気になっているだろうから教えるが、宣戦布告として王都を襲撃していた魔族はほとんど倒されたようだ。まあ、大した実力はない奴等しか送り込んでいなかったが。そして他の魔族は今、ある場所に集めている。彼等には戦闘を仕掛けてこられない限り、戦う事を禁じている。だからあちらのことは気にしなくていい。」
グレイスはエリオットからその短剣を受けとった。
「いつも持ち歩くがいい。」
そう言ったエリオットの表情は柔らかかった。
そして、グレイスの顎にそっと指をかけ、エリオットの方に顔を向かせるとそのまま優しく口付けた。
「君が決めるその時まで、ここで誰にも邪魔されない静かな時を過ごそう。」
数ある作品の中から見つけて、読んで下さり有難うございます。
もし宜しければ、暇潰しに、現在連載中の「貴方のためにできること~ヒロインには負けません~
https://ncode.syosetu.com/n0868hi/
も読んで頂ければと思います。宜しくお願いします
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