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闇の聖女は愛を囁く  作者: 藍沢ユメ
60/93

60 別れ

不定期投稿です。

宜しくお願いします。

「ダリウスー!!ゼフやめてー!!」


フィーネの叫ぶ声が謁見の間に響き渡る。


魔族はフィーネの言うことを聞くはずもなく、その制止を無視し、剣を振り下ろす。


キーン·····


金属音が響き、魔族の剣が弾かれる。


ドイナーがロシェルの展開する防御壁から出て、魔族の剣を受けていた。

更によく見ると、既に魔族の身体は黒い蔦のようなもので身体を拘束されていた。


グレイスの闇の魔法だった。


「ドイナー!」


グレイスが声をかけると、ドイナーは拘束されている魔族の首を斬った。

ゼフと呼ばれていた魔族の首が、フィーネの方へ転がっていく。


「きやあああああっ!!」


フィーネが恐怖のあまり絶叫する。


それを壁際で見ていた魔族が10体程、一斉にダリウスとドイナー目掛けて向かってくる。


「ナルージア!」


グレイスの呼び掛けに応えて、ナルージアも防御壁から飛び出し、魔族に応戦する。


「ロシェル、ダリウスまで防御壁を延ばして!モラン、ロシェルの援護を!」


グレイスはそう指示を出しながら、闇の魔法を展開し、魔族達を拘束していく。


いつの間にかフィールド卿も防御壁を出て、魔族に応戦していた。

魔族はロシェルがドイナーの元へ防御壁を張るのを邪魔するように、ロシェルとダリウス両方に攻撃を仕掛ける。


グレイスは目の前にある、エリオットが展開している防御壁にそっと触れる。

そして詠唱を始めるとグレイスが触れている箇所に魔法陣が浮かび上がる。

それが輝き出すと同時に防御壁は一気に霧散した。

それを確認すると、次にグレイスは自身の掌に傷をつけ、血が滴るそのままに、床に手をつき詠唱を始めた。

すると直ぐに漆黒の巨大な魔法陣が床に現れた。


『アグリス。』

【ああ】


グレイスが体内にいる古竜のアグリスを呼び出すと、魔法陣から触手のようなものが魔族目掛けて一斉に延びていく。

そして下級魔族から次々に魔法陣に引きずり込んでいく。

引きずり込まれた魔族は、身体が漆黒に変色していき、やがて苦しみながら灰と化していった。


上級魔族2体を相手にしていたナルージアは、グレイスの援護もあって、徐々に魔族を追い詰め、最後は2体共首を()ねた。


ドイナーやフィールド卿は傷を負ったものの、ロシェルの聖属性の治癒魔法により大事には至らなかった。


ダリウスは魔族に襲いかかられるも、聖属性魔法の防御壁に守られ、殺されることはなかった。

そして斬り落とされた左腕の傷口は、腕は再生出来なかったが、ロシェルの魔法により止血され、治癒が施された。

しかし、失った血の量が多いため、その顔色は悪い。


グレイスは離れた位置からそれを見ていた。

やがて漆黒の魔法陣が消えた所で、グレイスは力尽き、その場に倒れ込んだ。

しかしその身体は、床に打ち付けられる事なく、エリオットによって抱き抱えられた。


「グレイス!」


ロシェルが叫び、こちらに駆け寄ろうとするが、グレイスが手を上げ、それを制した。


「グレイス、すまなかった。君の性格を考えたら、悠長に見物なんてするはずがない。彼等に手を貸すのは当たり前だったことを失念していたよ。」

「·····エリオット様。」


エリオットはグレイスに優しく微笑みかける。


「さぁ、でもどうしようか?このまま彼等が大人しく戻るはずはないからね。グレイスは心を痛めるかもしれないが、ここで皆、葬ってしまおう。ああ、それから他の魔族は、このルノール王国も含め、近接する国々の王都に攻撃を仕掛けに行った。どこも応戦するのに忙しくなるだろうから、私に討伐隊を差し向ける事は、暫く出来ないだろう。」


「エリオット様、お止め下さい!」


フィールド卿が叫ぶ。


「ワルス·フィールド、久しぶりだな。随分出世したものだ。」

「エリオット様、このような事はもうお止め下さい。あなた様は国を愛し、正しく導く為に、努力しておられたではないですか?」

「ハハハ、いつの事を言っているんだ?愚かな者達のせいで生涯幽閉の憂き目にあった私が、どうして国を愛することなど出来る?」

「っっ····それは····。」


エリオットはそれだけ言うと、片手を上げる。

魔法を発動させる気配を感じたグレイスは、エリオットの手を咄嗟に掴んだ。


「グレイス·····。」

「エリオット様、私はあの聖女をここで殺したくはないのです。フェアノーレに戻り、皆の前で罪状を明らかにし、処刑されることを望んでいます。」

「グレイスはここにいる者達を無事国に返せと?そうか····それでも、その後彼等は追って来るだろう?私を殺しに。グレイスは私があの世に逝く事を望んでいるのか?」

「エリオット様·····あなたが望むなら、私は共に

逝きましょう。」


「グレイス·····そうだった。君は昔から私にそう言ってくれていたね。グレイスだけだよ、私の身を案じ、心に寄り添ってくれるのは。ああ、幸せな気分だ。早く2人きりになりたいよ。」


エリオットはうっとりした表情でグレイスの頬を撫でた。

そして、再び片手を上げると詠唱を始め、破壊の魔法を発動した。

すると。床が激しく揺れだし、天井は崩れ始めた。


「グレイス!!」


ロシェルは叫びながら、防御壁をフィーネの所まで広げ、その身を確保する。


グレイスは皆が無事防御壁に入った事を確認すると、自身の胸に手を当て、詠唱を始めた。

途端にロシェルの胸が熱くなる。


「グレイス何を·····。」

「ロシェル!」


ドイナーも同じように感じているらしく、ロシェルに呼び掛ける。


「まさか·····。」


ロシェルが衣服を開け、胸を確認すると、グレイスと交わしている血の契約の魔法陣が、身体に浮かび上がっていた。

一度熱を発したそれは、やがて端から剥がれ落ちる様に消失していく。


「グレイス!!」


ロシェルはグレイスがしようとしていることを察知して、激しく呼び掛ける。


「嫌だ!グレイス!行かないで!行っちゃ駄目だ!」

「グレイス様!!」


ドイナーも叫び、訴える。


グレイスは2人の声を聞きながら、優しく微笑んだ。

それからナルージアに視線を移す。


「ナルージア、ごめんなさい。」

『あー、まぁ、仕方ないよね。なるべく生きてよ。』


ナルージアの話す古語を受け、グレイスは申し訳なさそうな笑みを浮かべた。


「お別れだ。」


エリオットがそう言うと、2人の真下に魔法陣が現れ発光し始めた。

やがてその光りはエリオットとグレイスを包み込み、最後に激しい光を発すると、2人の姿は忽然とその場から姿を消した。


「グレイスー!!」


ロシェルが動揺し、魔法が乱れる。


「しっかりしろ、ロシェル!防御壁が崩れるぞ!この場で死にたいのか?!」


モランが叫ぶ。

ロシェルはその言葉を受け、魔法に集中しながら、防御壁を強化し、城の崩壊に耐えた。


凄まじい破壊音が暫く続いた後、漸く静かになった時、目の前に広がっていたのは瓦礫の山だった。


ロシェル達はそこから何とか這い出し、外に出た時は、日は夕刻へと向かっていた。




「ロシェル!!」


遠くでロシェルを呼ぶ声が聞こえる。

見るとそれは待機していたはずのスルーガ卿だった。


「スルーガ卿!」


モランがその声に応える。


スルーガ卿と騎士が数名、ロシェル達の元へ駆けつける。


「これは、一体····。」


破壊された城の一部を見て、スルーガ卿は唖然としている。


「この城に魔族と立て籠っていたのは、フェアノーレ王国の元王太子エリオット様だった。一部魔族との戦闘があり、更にエリオット様が破壊の魔法を使い、建物の一部を崩壊させた。」


フィールド卿が代わりに説明する。


「それで、グレイス様は?」


グレイスの姿が見えないことを不審に思い、スルーガ卿が直ぐ様問い掛ける。


「グレイス様は·····。」


フィールド卿は、言いにくそうに言葉を詰まらせる。


ロシェルは地面に手をつき、うつむいたまま、身体を震わせていた。


「ロシェル·····。」


ロシェルの様子から、ただならぬ事が起きたのが察せられた。


「グレイスが行ってしまった·····僕を残して、あの男と·····。」


ロシェルはそう言い、大粒の涙を流す。


「何だって?!」


それを聞いて、スルーガ卿の顔も青ざめる。


「だが、ロシェルはグレイス様と血の契約をしていなかったか?契約主と繋がっていれば、何処にいるか分かるだろう?」


「解除された·····。」

「何?」

「グレイスは血の契約を解除した。·····これじゃあ、グレイスが何処にいるか分からない·····。」


ロシェルは言葉に悔しさを滲ませる。


「エリオット様と死ぬおつもりなんだ。グレイス様が命を断てば、血の契約を交わしていた私達も道連れになるからな。」


ドイナーも悔しげにそう話す。


「エリオット様は魔族と血の契約をされている。エリオット様と死ねば、魔族も道連れに出来る。グレイス様はそうお考えなのだろう。」


「······何て事だ····。」


「エリオット様とグレイス様は何処かに転移された。我々がここに残っていても仕方がない。取りあえず撤退しよう。エリオット様は残りの魔族をそれぞれの王都に差し向けているはずだ。我々も応援に向かわねばならない。」


フィールド卿が皆に言い聞かせる様に話す。


「ノーラ卿も治癒魔法をかけたとは言え、出血しただろう?顔色が悪い。直ぐに戻って、休んだ方がいいだろう。それから·····」


フィールド卿がそう言い、ダリウスに目をやると、ダリウスは脇に気を失っているフィーネを抱えていた。


「王都が落ち着いたら、今度こそグレイス様の言う通り聖女の刑を公開で執行する。いいな、ダリウス。」


ダリウスは厳しい表情で小さく頷いた。



数ある作品の中から見つけて、読んで下さり有難うございます。

もし宜しければ、暇潰しに、現在連載中の「貴方のためにできること~ヒロインには負けません~

https://ncode.syosetu.com/n0868hi/

も読んで頂ければと思います。宜しくお願いします。

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