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闇の聖女は愛を囁く  作者: 藍沢ユメ
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54 レオン·ラルスの死

不定期投稿です。

宜しくお願いします。

国内有数の名家の1つであるラルス伯爵の孫で、騎士団に所属している俺、レオン·ラルスは、フェアノーレ王国の西にある領主の依頼で、魔獣の討伐を行っている最中に、腕をやられ失ってしまった。


三男という立場もあり、騎士団で腕を磨き、その身を立てようとしていた中での悲劇。

家族共々嘆いた日もあったが、古竜との戦いで、手だけでなく片足も失った勇者が、義手義足で騎士として復活した話を聞き、自身も奮い立った。

そして義手を装着し、騎士団で訓練を重ねていた時、聖女フィーネの騎士団訪問により、幸運にも彼女の治療を受ける事が出来た。


あの時の感動は忘れられない。


聖女が祈り始めた途端、聖女の魔力が体内を巡り始め、やがて身体から力が涌き出る様に手が再生した。


嬉しくて泣くなんて、初めてだったかもしれない。

俺は聖女に心から感謝した。

そして彼女の魔法で、自分と同じ様な者達を救って欲しいと思った。


そして、同じく聖女の力により手足を再生した勇者であるダリウス·ノーラ卿が聖女フィーネを傍で支える為に、妻であるグレイス様と離婚した話を聞いた時、正直俺は聖女様が幸せになるから、いい事だと思った。


間も無く、ルダリスタン帝国へ発ったグレイス様一行が野盗の襲撃に会い、従者や騎士は全員死亡、グレイス様は行方不明という知らせが、フェアノーレ王国中にもたらされた。


そしてその犯人が、聖女フィーネ様の養父であるルクスト子爵の仕業であることが判明し、その後処刑された。


襲撃の理由は、当然フィーネ様絡みだと分かっていても、グレイス様が見つかるまで、聖女様への処分は先延ばしにされていた。


これがきっかけで、フィーネ様を支持していた貴族達は徐々に離れていった。

しかし、聖女様からの恩恵を受けた者達は、我がラルス家も含め、変わらず彼女を支持する立場をとった。


そして月日は流れ、世界各地に魔族が現れ、襲撃を受けるようになる。


魔獣だけでなく、魔族との戦いが繰り広げられる中、多くの者が傷つき、死んでいった。

フィーネ様の力も以前の様には発揮できなくなったらしく、今までの聖女の行いに対する批判も相まって、主な支持層だった下級貴族の支持も、徐々に下がっていった。


そんな時に流れてきた、ルダリスタン帝国での魔族討伐の話。

我々が相手に苦戦している下級の魔族だけではなく、中級、そして上級でさえも、圧倒的な力でねじ伏せているという『銀の仮面の魔導師』。

その『銀の仮面の魔導師』が女性で、且つ行方不明になっているグレイス様だという噂が流れた。


嫌な予感がする。

確かめなければ。


そう考えている矢先、フェアノーレ王国の東部に魔族が数体集まっているという知らせが入る。

その領地は既に壊滅していると言われていた。

アーレン国王陛下は、国内で多発している魔族出現に対応しきれず、ルダリスタン帝国に応援を要請した。

そして、『銀の仮面の魔導師』を総指揮とした、ルダリスタン帝国討伐隊がフェアノーレに来ることになった。

同時期に別の地域で魔族が出現したと報告があったが、俺はそちらには行かず、ルダリスタン帝国討伐隊

が参戦する方へ行くことにした。


そして迎えたルダリスタン帝国討伐隊との合流。

フェアノーレ王国代表はウォーレン·ロドリスだ。

今や勇者に次ぐ剣の実力の持ち主で、かつてのグレイス様と馴染みのある男だ。

俺は少し離れた場所で様子を伺っていたが、やはり噂通り、『銀の仮面の魔導師』は、グレイス·タンドゥーラ様だったようだ。


隊は本来なら、一旦ここで魔族を監視し、南部に行っている討伐隊がその任を終え、こちらと合流した時点で総攻撃を仕掛ける予定だった。

しかし、それを待つことなく、こちらの存在に気付いた魔族に応戦する形で戦闘が始まった。


結果は味方の圧勝。

ルダリスタン側は、先の戦いで、上級魔族を隷属させているようで、それが同じ上級魔族と戦闘を行っている間、残り4体を我々が討伐する事になった。


中級魔族も含め4体も······。


正直激戦を予想した。

しかしその予想に反して、戦闘は呆気なく我々の勝利に終わった。

魔族4体を『銀の仮面の魔導師』であるグレイス様が拘束し、そこを騎士達で斬りかかった。


戦いは勝利を収め、その結果報告も含め、ルダリスタン帝国の討伐隊の一部は、共にフェアノーレの王都へ向かう事になった。


当然総指揮を行ったグレイス様もだ。

グレイス様は、襲撃されて以来、久しぶりに王都の地を踏む。

グレイス様が王都に来るという事は、保留になっているグレイス様襲撃に関して、フィーネ様の関与があったかが明らかになるという事。

襲撃現場にフィーネ様を護衛する立場にある、聖騎士の遺留品があった事は知られている。

それだけでも、神殿とフィーネ様の関与は明らかで、とっくに刑を言い渡されても良かったはずだ。

しかし王家のみならず、グレイス様の生家であるタンドゥーラ家も沈黙していたのは、おそらくグレイス様自身に断罪の機会を与える為。

そしてそれは今回のこのタイミングなのではないだろうか?


フィーネ様が断罪される。


グレイス様襲撃が、フィーネ様の意志の元行われたとなれば、処刑は免れない。


あの力が失われる。

そんな事、あってはならない。


俺は一足先に魔族討伐成功を知らせるべく、数人と王都へ急ぎ向かう。


王都に着き、報告を終えたら、直ぐ様、王城内の牢獄の看守と接触した。

果たしてフィーネ様がここに収監されるか分からないが、備えだけはしておかねばと思った。

幸い看守の内の2人は知り合いで、金で動かす事が出来た。

何があっても、関与は疑われない様にするからと約束し、万が一フィーネ様が収監されたら、刑を執行される前日に鍵を開けておくようお願いする。

収監されなくても、金はそのまま受け取って構わないと言えば喜んで承諾してくれた。

鍵は魔法がかけられている。

複製は出来ない。


そして迎えた討伐隊到着の日。

結局、謁見の間に聖女と聖騎士、神官が乱入した事で、グレイス様襲撃の断罪が始まった。

神殿側はどうしてフィーネ様を止めることが出来なかったのか。

大人しくしていれば、例え刑を言い渡されても、逃げ道を幾つも用意出来ていたのに。


歯がゆい思いをしながらも、街で雇った黒魔導師と共に脱走の手はずを整える。

刑執行前の深夜。

聖女の脱走に手を貸してくれる看守2名に、朝の点検時には居たということで口裏を合わせてもらう。


脱獄は思いの外上手くいった。

共に収監されていた、聖騎士のマルス·スタードと元神官長にも懇願され、連れていくことにした。


「ダリウスは何処?屋敷に戻って身なりを整えたいわ。」


処刑が実際に行われると思っていないのか、牢獄へ連れてこられる時に暴れていたフィーネ様も、今は脱獄が当然の様に落ち着いていた。


ノーラ卿は何も手を貸してくれてはいないんだがな。


少し苦々しい気持ちになりながらも、先を急ぐ。


月明かりの中、城壁に向かう。

個人に対し、限定的に魔法は使えるが、場所によっては建物や地面に、探知の魔法が施されているのでむやみに魔法は発動出来ない。

警備に当たる騎士達の動きは把握している。

慌てず慎重に向かうと、普段は使用していない、城外に出る裏門の1つに辿り着く。

使われていない裏門でも、定刻に騎士2名が点検に廻る。

その隙を狙わなければならない。

更に裏門には魔法が掛けられており、決まった紋章を持つ者しか解除出来ない。

決まった紋章を持つ者·····我がラルス伯爵家がその1つだ。

実家から持ち出した紋章をあしらった指輪を裏門の鍵穴近くにかざすと鍵が解錠された。


大きく息をつく。

この事が公になれば、ラルス家に(るい)が及ぶ。

だがこれは正義だ。

時が経ち、フィーネ様が別の場所で、多くの者を助け実績を上げれば、この脱走もきっと理解されるだろう。


裏門を出る。

ここからは魔法が使えるようになるので、雇った黒魔導師に認識阻害の魔法を掛けてもらいながら移動の痕跡を消し、王都脱出を図る。

草むらを抜けると馬車を待たせてあるので、それに乗り込むだけだ。


「有難う。ところであなたは誰なのかしら?」


フィーネ様が問い掛ける。

覚えていらっしゃらないか、と残念に思いながらも答える。


「レオン·ラルスと申します。共に王都を脱出します。以後お見知りおきを。」


そう言うと、フィーネ様はニッコリと微笑まれた。

無邪気な方だ。


「ラルス伯爵はこの事をご存知なのだろうか?」


黙ってついてきていた聖騎士のマルス·スタードが口を開く。


「いえ、祖父は存じません。」

「そうか····残念だ。」


マルスは明らかに落胆した表情を見せた。

自身のスタード家は何も手を貸してくれていないのを棚にあげての発言に、苛立ちが募る。



それは馬車まであと少しという時だった。



月明かりに雲ではない影が差した。

急ぎ足の中そちらに視線を向けると、宙に真っ黒い人影が浮いていた。


魔族だ!


全身に鳥肌が立つ。

こんな場所で、こんな人数で遭遇したら太刀打ちできるはずがない。


死を覚悟する。


他の皆も立ち止まり、息をのんでいるのが分かった。


「何処へ行く?」


落ち着いた静かな声。

直ぐには答えられなかった。

黒い影から感じる魔力の圧力に押され、膝をつきたくなる。


暗闇に浮かぶ碧眼。


碧眼?


「あ、あ、あなた様は······。」


神官長が声を震わせる。


「あなた様は、エリオット第1王子殿下でございますか?」


エリオット第1王子殿下?


影はその呼び掛けに反応する。


「ほう·····私が分かるのか?」


確か、エリオット第1王子殿下は幽閉塔へ収監されているはず。

敵か·····味方か?


「そこにいるのは聖女などと呼ばれている女だろう?処刑されるのではなかったのか?グレイスを襲撃させた罪があるだろう?」


その声が恐ろしく冷たくて、思わず剣を構えた。


それがいけなかった·····。


刹那、影から複数の触手のような影が何本も伸び、神官長と俺の身体に巻き付いてきた。


「なっ?!」

「うわぁぁ····!」


しまったと思った瞬間逃げる術もなく、そのまま締め上げられ、肉が潰されながら、最後は身体を引き裂かれた。

そして触手のような影が離れていくと同時に、自分の身体も力を失い、その場に倒れ込んだ。


「うぐあ····。」


痛めた内臓から溢れた血を吐きながら、血溜まりに身を沈める。


同じ様に倒れている神官長を視界に捉えながら、徐々に意識が遠退いていく。


何が起こった?

俺はこんな所で死ぬのか?


「ひぃぃっ···あ、あ、あ····」


あまりの恐ろしさにフィーネ様も、マルス·スタードも声を発する事が出来ないようだ。


「折角グレイスの目の前で処刑が行われるというのに、逃げ出すとは。牢に連れ戻したい所だが、私は姿を公に出来ない。······仕方がない、後日私がグレイスの為に処刑の場を整えてやろう。聖女よ、グレイスを守る忠臣を死に追いやった罪は重い。グレイスが喜ぶ最も残酷な処刑を用意してやろう。それまでは生かしてやる。」


「い、嫌····。」


恐怖で真っ青になったフィーネ様が涙に濡れながら、小さく首を振る。


「お、お待ち下さい、エリオット様。聖女フィーネの能力は『増幅』だと聞きました。治癒以外にも使い道があるかもしれません。ですから、まだ命は·····。」


マルス·スタードが土下座しながら、エリオットに進言する。


「······へぇ、その話、詳しく聞こうか。」


ああ、駄目だ。

逃げないと、いづれ殺される。

ああ、何という事か······。


俺は心の中でそう叫びながら、意識は深い暗闇へと墜ちていった······。












数ある作品の中から見つけて、読んで下さり有難うございます。

もし宜しければ、暇潰しに、現在連載中の「貴方のためにできること~ヒロインには負けません~

https://ncode.syosetu.com/n0868hi/

も読んで頂ければと思います。宜しくお願いします

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