53 エリオットの脱走
不定期投稿です。
宜しくお願いします。
「アーレン、幽閉塔から第1王子が脱走したって本当?」
脱獄した聖女の捜索と、幽閉塔に居るはずの第1王子の失踪についての協議が行われている最中、王妃であるマリアが執務室に駆け込んできた。
アーレンは他の者に指示を出すと、話をすべくマリアに向き直る。
「マリア、協議中に駆け込んで来るな。君は王妃だろう?もっと落ち着くように。」
「落ち着けないわ。お義兄様が、第1王子が脱走したんでしょう?あなた以前、お義兄様はグレイスに執着していて、もし塔から解放されることになったら、グレイスを差し出すしかないって言っていたじゃない。グレイスには素敵な夫がいるのよ。邪魔されたら、またグレイスが不幸になるわ。」
「·····まぁ、そうなんだが、いついなくなったか、何処に行ったか調べている最中だ。」
「監視が居たんでしょう?食事も出している、着替えも渡しているんだから、世話役に聞けば分かるでしょう?·····彼等も手を貸しているのね。」
「いついなくなったかを確認しているのは、どうやら脱走と言うよりも、度々幽閉塔から抜け出しているというのが正しいようだからだ。部屋の中を見たよ。ただメイドが整えているだけではなくて、生活している気配があった。」
「どうやって抜け出していたの?監視役が協力していたということよね?」
「そもそもあの塔には魔法がかかっていて、収監された者は外に出られないようになっている。その上、魔法が使えないし、塔から出られないよう、拘束魔道具が付けられている。それは私、若しくは特定の王族以外解除出来ない仕組みになっている。」
「王族で手を貸した人がいるんじゃないの?」
「まさか·····そうなのか?」
そこまで話すと、アーレンの顔色が悪くなる。
「心当たりがあるんでしょう?誰なの?」
アーレンは険しい顔になる。
「考えられるのはアリエスタ伯母上だ。まさか本気で手を貸したのか?」
「え?アリエスタ様?·····でも確かにあり得るのかしら?でも手を貸したことが明るみになったら、アリエスタ様と言えど処刑されるんじゃないの?」
「そうだ。許されない。」
「失礼します。幽閉塔で働いていた者達の尋問が終わりました。」
エリオットの世話役と監視役として幽閉塔に配属されていた者達は、王城内の牢獄に集められ、尋問が行われていた。
「ルドルフの自白の魔法は効いたのか?」
「はい、問題なく。」
「それで結果は?」
「はい、申し上げます。一番近くで世話をしていた侍女のエルマの話によると、幽閉されて間も無く、第1王子殿下は度々塔を留守にするようになったと。暫くすると、何もなかったかのようにお戻りになっていたそうです。」
「何だって?どうしてそんなことが出来る?誰が手を貸した?」
「あの侍女は把握していないようですが、幽閉されてから殿下に直接面会した事があるのは、前国王陛下と王姉であられるアリエスタ·ロドファン前公爵夫人のお二方だそうです。」
「何という事か······。前国王陛下はすでに亡くなっている。急ぎアリエスタ伯母上に連絡を取れ。子息と共に王宮に来るように伝えろ。」
「承知しました。」
「度々勝手に塔から出ていたという事は、今回もたまたま留守にしているだけで、そのうち戻って来られるということ?」
「それはないだろう。塔から出ていた事が知れたら、即処刑だ。もう戻っては来ないだろう。」
「塔から出て、何をしているのかしら?そんなに頻繁に出ていたなら、グレイスの様子を見に行くことなんて、もうとっくにしているでしょう?」
「·····。」
「アーレン?」
「マリア·····グレイスの眷属となった魔族が言っていただろ?誰かに呼ばれたから目覚めたと。」
「まさか······。」
「それが兄上の仕業でない事を願うよ。」
「どうして魔族を目覚めさせたのでしょうか?」
それまで黙って聞いていた、宰相であるスタンダール侯爵が問い掛ける。
「恨んでいるんだよ。」
「誰を?私達を?」
「どうやって魔族が地中で眠っている事を知ったか知らないが、兄上が魔族を目覚めさせてしようとしている事は一つ。」
「何?」
「世界の破滅だよ。」
◇◇◇
「フェアノーレで幽閉されていた、エリオット·ロスタリウス·フェアノーレ第1王子が脱走したそうだ。」
急ぎ知らせるべく転送して来たリーヴァがグレイスにそう告げる。
「脱走した?」
グレイスの顔色が一気に悪くなる。
「いつです?」
「グレイス、大丈夫?顔色が······。」
顔色の悪いグレイスを気遣い、ロシェルが声をかける。
「フェアノーレ側も今調べている所らしい。どうやら度々抜け出していた形跡があると。一体フェアノーレの警備はどうなってるんだ!」
リーヴァは怒りを現す。
「リーヴァ、今何と言いました?度々抜け出していたですって?」
「ああ、世話をしていた侍女の話から間違いないようだ。だからグレイス、今すぐヴァーバルの屋敷に戻り、結界を張って、詳細が分かるまで動かないで欲しい。分かるよね?」
「リーヴァ·····。」
「まさか······。」
目の前に並ぶ、11基の墓標にはそれぞれ摘んだ花が手向けられていた。
グレイスと同じように一面花畑になる魔法をかけ、それぞれに哀悼の意を示すような人物。
「····この花畑の魔法をかけたのは、グレイスではないんだね。」
「····ええ。私ではないわ。」
「この墓所は、グレイスが許す魔力でない限り、入る事は出来ないはずだよね。·····グレイスはここで魔法を使ったのが誰か分かる?」
リーヴァは確信がありながらも、グレイスから決定的な言葉を聞こうとしていた。
「·····分かるわ····おそらく。先程まではここに来れるはずがないと思っていたの。だからこの花畑を見て混乱していたわ。でも、脱走したのなら·····。」
グレイスの瞳が揺れる。
「ここに残る魔力は、何かが混ざっているけれど、エリオット様のものだわ·····。」
「くそっ!」
リーヴァは悔しそうな表情を滲ませる。
「ドイナー、モラン、急ぎ屋敷へ戻れ!厳戒態勢だ!」
いつにないリーヴァの緊張した態度に、皆、若干の戸惑いを見せるが、指示通り動き出す。
「待って、リーヴァ。抜け出していたのが常習化していたのなら、私に対して、それほど警戒する必要はないわ。連れ去るつもりなら、とうの昔にそうしているはずだから。」
「だけど·····。」
「それよりも重要な事があるの。ナルージアや私の身体に宿るアグリスが言うには、この墓所に残っているエリオット様と思われる人物の魔力が、彼等を起こした者の魔力に似ていると。」
「何だって?」
グレイスの言葉を受けて、リーヴァがナルージアに視線を向けると、ナルージアは面白そうに頷いた。
「もし本当に魔族を眠りから覚ましているのがエリオット様なら、その目的の方が重要だわ。あの方は、何をしようとされていると思う?」
「······グレイス、彼がしようとしている事は、おそらく····。」
リーヴァは一瞬、発言を躊躇する。
言葉を飲み込むように一旦目を瞑ると、大きく息を吐き、気持ちを抑えようとしていた。
「グレイス、彼の性格なら、きっと望むものは1つだ。」
周りにいる者達が、リーヴァの声に耳を傾ける。
「世界の破滅だよ。」
「破滅?」
「そうだよ。彼が失ったものを取り戻す為に、魔族に世界を破壊させようとしているんだ。そして壊れた世界で、再び自由を手に入れ、君を迎えるつもりだよ、きっと。」
「そこまでして·····。」
リーヴァの言葉に、珍しくグレイスは動揺を見せた。
そして何かに気付いたかの様に、ロシェルに向き直る。
「ロシェル·····。」
「ああ、今回のフェアノーレへの遠征で、グレイスとロシェルの関係は知れ渡ることになった。グレイスの夫となったロシェルを放っておくとは思えないな。気を付けた方がいい。」
「ロシェル····ごめんなさい。」
「グレイス、何で謝るの?エリオット殿下の話は、グレイスの兄上のルダン様から聞いてる。僕がグレイスの夫になったということで、過去にあった事を話して下さったんだ。その時、グレイスを生涯かけて守ることを約束した。グレイスにとって僕は、足手まといな存在なのかもしれない。でも守られるだけの存在になりたくないんだ。今僕が持っている力を駆使して、グレイスを守るから。」
ロシェルは真剣な眼差しで自分の気持ちを伝える。
グレイスはロシェルの言葉を聞いて、少し驚いた表情を見せた後、それは苦し気なものに変わった。
「·····ロシェル、おそらくあなたは狙われるわ。危険に晒すことになる。あなたが傷つくのは耐えられない。」
「僕は聖属性の魔法を使って、結界を張ることが出来る。自分の身は自分で守れるから心配しないで。それよりも、やっぱりグレイスの方が心配だ。僕がずっと傍にいるからグレイスも離れないで。」
そう言ってロシェルはグレイスの手を強く握りしめた。
「2人とも忘れている事があるよ。」
グレイスとロシェルのやり取りを見ながら、リーヴァがそう告げる。
「忘れている事?」
ロシェルが怪訝な表情を浮かべて尋ねる。
「ダリウスだよ。エリオットの脱走が明らかになり、彼自身が隠れて行動する必要がなくなった今、まず行動を起こすとすれば、グレイスに心の傷を負わせたダリウスを、真っ先に殺しに行くだろう。」
数ある作品の中から見つけて、読んで下さり有難うございます。
もし宜しければ、暇潰しに、現在連載中の「貴方のためにできること~ヒロインには負けません~
https://ncode.syosetu.com/n0868hi/
も読んで頂ければと思います。宜しくお願いします




