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闇の聖女は愛を囁く  作者: 藍沢ユメ
52/93

52 墓所の花畑

不定期投稿です。

宜しくお願いします。

「少し時間をもらえるか?」


フィーネの処刑の前日、グレイスの兄であるルダン次期公爵に声を掛けられる。

丁度グレイスは、ルダリスタン帝国への帰還に際し、スルーガ卿と打ち合わせに行っていた。


「はじめまして、ロシェルと申します。」

「グレイスの兄のルダンだ。以後宜しく頼む。グレイスと君はここに来る途中、婚姻届をリーヴァ殿下の転送の魔法で帝国へ送ったとか?」

「はい、勝手をして申し訳ありません。」

「いや、責めている訳ではないよ。グレイスは今や自身で公爵位を得た人間だ。彼女の選択に反対するつもりはない。どういう経緯で結婚を決めたかは知らないが、互いに納得した上でだろう?とにかくお祝いするよ。」

「有難うございます。グレイスは僕を守る為に婚姻を結んだかもしれませんが、僕は違います。彼女と初めて会った時から好意を抱いています。愛しています。」


そう言う僕をルダン様はグレイスによく似た眼差しで見つめる。


「·····グレイスの事は過去も含め、全て知っているのかな?」

「全て····ではないです。知っているのは、アーレン国王陛下の側妃だった事と、ダリウス·ノーラ公爵と結婚していた事。そして聖女が現れてから離婚し、ルダリスタン帝国へ移住した事。その途中で賊に襲われ、大事な侍従や騎士達を失った事。」

「そうか·····『竜の血の呪い』については?」

「はい、知っています。賊に襲われた事で、体内に宿っていた古竜と融合したと。それにより闇属性の魔力を得て、その古竜とも意志疎通を図っている事も知っています。」

「寿命の事は?」

「知っています。そして僕もエルフの血が濃く出ています。彼女の生に、誰よりも長く寄り添うことが出来ます。」


そこまでロシェルが言うと、ルダンは少し安心したように息を吐いた。


「君はグレイスを守ってくれるだろうか?」

「守る·····はい、勿論です。今は僕の方が守られてばかりですが。」

「·····では、他の者が語ることの出来ない話をしよう。」

「語ることの出来ない?」


僕がそう尋ねると、ルダンは防音の魔法を展開し、少し声を落とし話始める。


「ああ、この王城にある、主に罪を犯した王族が幽閉される塔があることを知っているだろうか?」

「幽閉·····。」

「グレイスが元々この国の第1王子の婚約者だった話は聞いたことがあるかい?」

「はい、アーレン国王陛下の前ですね。イリナ皇女殿下から少しだけ伺ったことがあります。」

「そうか。幽閉塔に入ったら、その方の名前を我々は声に出すことは出来ない。何故なら忘れ去らねばならない存在と位置付けられるからだ。」


忘れなければならない存在·····。


「だから名前は教えられないが、どういう経緯で幽閉されたか、君は知っていた方がいいと思ってね。」

「はい。」


そう言われて身が引き締まる。


「グレイスは他の人間に比べ、多くのものを背負っている。しかし彼女がこの世に生を受けて、最も背負わなければならないのが、幽閉されている第1王子の存在だ。」


そうして語られた第1王子の話は、僕にとって衝撃的なものだった。

グレイスに対する恐ろしい程の執着。


前国王崩御でも恩赦を受けられなかった第1王子。

もしこの先、恩赦で幽閉塔から出てくる事があったら、王子はどうするだろうか?

もし再びグレイスを求めたら····。

僕はグレイスを守れるだろうか?

いや、殺されそうになっても、守らなければならない。

必ず僕が守る。



◇◇◇



「よく寝ているわね。可愛いわ。」


ルダリスタン帝国へ戻り、皇帝陛下に報告を行った後、グレイス達はヴァーバル領へ帰路に着いていた。

その馬車の中、グレイスの膝枕で眠りにつくミジェルを見て、グレイスは思わずそう呟く。


勇者ダリウスと聖女フィーネの子であるミジェルは、未だに、魔族の血を引いている言われ忌避されている赤い瞳を持って生まれた事と、その容姿があまりに似ていない事から、フィーネの不義の子と疑いがかけられ、神殿に閉じ込められて育った。

両親共にミジェルを放置していた為、ミジェルは彼らを信用していなかった。

そこから逃げ出す為に、訪れていたグレイスに助けを求め、グレイスもそれを受け入れ、共にルダリスタン帝国へ行くことになった。

そして赤目の持ち主であるミジェルの、今後起こりうる魔力暴走を防ぐ為にも、グレイスの元で育てられる事になった。


「そう言えば、神殿からミジェルの世話係として、1人女性神官がついて来ているって本当?」


共に馬車に乗るロシェルがグレイスに問いかける。


「ええ、1日1回の食事と、ミジェルの身を清めていたらしいわ。何かに興味を持ったら厄介だからと、極力会話しないように言い付けられていたとか。」

「1日1回の食事か·····。」

「彼女はミジェルに対して罪悪感を持っているらしくて、多少なりとも、ミジェルの事を知っている者として同行を願い出たそうよ。ミジェルも彼女に対しては、悪い感情を持っていないみたい。私はミジェルの傍にずっと居られる訳ではないから、丁度良かったと思っているわ。まぁ、神殿に通じているかもしれないから、監視はつけようと思っているけれど。ミジェルがヴァーバルで笑顔で過ごせる様になってくれたら嬉しいわ。」


そう言ってグレイスは眠っているミジェルの頭を優しく撫でる。


「····グレイスは子供が好きなの?」


ロシェルもミジェルの寝顔を覗き込みながら尋ねる。


「そうね····いつかミジェルに兄弟を作ってあげたいわ。」

「僕も、いづれグレイスとの子が欲しい。僕の場合、子供にやきもちを妬くかもしれないけど。」

「ふふ、ロシェルは多分とても可愛がると思うわ。過保護になりそうよ。」

「·····グレイスの子供は僕との子でいいの?」

「?····どういうこと?」

「僕はグレイスの事をとても愛している。何があっても離れない。でもグレイスは聖属性の魔力を持つ僕を狙ってくる奴等から守る為に婚姻を結んだだろう?グレイスが男として望んでいる訳ではないから····ごめん、そんなこと言っちゃいけないね。」

「·····王城で何か言われたの?」


ロシェルは少し苦笑いを浮かべる。


「····ロシェルは私が誰にでも抱かれる女だと思っているの?」

「え?いや······。」


ロシェルの頬が赤く染まる。


「私は公爵の位を持つ者よ。他の者が、あなたの意志に反して婚姻を結ぼうとしてくるなら、力で退けられる。ルダリスタンの皇帝陛下が私達の婚姻を勧めたのは、私の後押しをするため。私を全力で見てくれるあなたに心惹かれないはずがない。私も······あなたと静かに過ごす未来を望んだのよ。·····そうね、私があなたに向ける愛情を伝えきれていなかったのかしら。」


そう言ってグレイスはロシェルの顔を覗き込む。


「今夜は私があなたを寝かせないと思って。」


グレイスにしては珍しく、いたずらっぽい表情を浮かべる。


「グレイス·····ダメだ、嬉しくて泣きそうだ。」


ロシェルは顔を真っ赤にしてグレイスに微笑みかけた。



「グレイスさま、間も無くヴァーバルの墓所に着きます。」


走る馬車の外から、ドイナーがそう報告する。


「予定通りその場所で停めて。私が参ってる間、皆を休ませておいて。」

「承知しました。」


ほどなくして、一行はヴァーバルの墓所に着いた。

まだ眠そうなミジェルを同行しているカレンという名の神官に預け、グレイス達は墓所へ向かう。


そこでグレイスは思わず息を飲んだ。


墓所は一面沢山の花で覆われていた。


「わぁ·····相変わらず綺麗だなぁ。いつもこれを見て、魔法って素敵だと実感するよ。ミジェルも見たら、元気が出るんじゃないかな。やっぱり起こしてこようか?」


ロシェルは花畑を眩しそうに眺めている。


グレイスはいつも墓所に着くと、魔法を展開し、一面を花畑に変えていた。


「·····違うの·····私ではないわ。」

「え?」


グレイスの呟きに、ロシェルはグレイスの表情を伺う。

グレイスは茫然と、その花畑を見つめている。


「グレイス?」


いつもと違う様子に、ロシェルは戸惑う。


『ナルージア。』


グレイスは古語で呼び掛ける。


『何?グレイス。』


いつの間にか傍に来ていたナルージアが応える。


『今ここに残っている魔力の持ち主が、あなたを起こした人かしら?』

『······そうだね。おそらく。』

『アグリス。』

【そのようだな。】


ほとんどの者が分からない古語で、ナルージアやアグリスに話し掛けたという事は、聞かれたくない話なのだろうとロシェルは思い、口を(つぐ)む。


『·····そうか、俺達を起こしたのは、グレイスの知り合いだったか。』


『グレイスの知り合い?』


思わずロシェルは呟く。


『この魔力の持ち主は、もう近くにいない。追うのは難しいだろうな。さぁ、早く屋敷に帰って、詳しい話を聞かせてくれよ、グレイス。』


ナルージアは楽しそうにグレイスに話し掛ける。

グレイスは一点を見つめたまま、何かを考えている。

花の香りを乗せた優しい風が、グレイスの身体を撫でていく。

その様子は、どこか儚く見え、ロシェルの心をざわつかせた。



「グレイス!!」


皆がグレイスのただならない様子を窺っていると、突然魔法陣が現れ、強く光だし、そこにリーヴァが現れた。


「グレイス無事だったか·····。」


リーヴァはグレイスの姿を確認すると、安堵の表情を浮かべた。


「リーヴァ、どうしたの?」


グレイスが問い掛ける。


「急ぎの知らせが、フェアノーレから届いた。」


グレイスの表情に緊張が走る。


「フェアノーレで幽閉されていた、エリオット·ロスタリウス·フェアノーレ第1王子が脱走したそうだ。」



数ある作品の中から見つけて、読んで下さり有難うございます。

もし宜しければ、暇潰しに、現在連載中の「貴方のためにできること~ヒロインには負けません~

https://ncode.syosetu.com/n0868hi/

も読んで頂ければと思います。宜しくお願いします

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