55 旅立つ前に
不定期投稿です。
宜しくお願いします。
誤字報告有難うございます。
「ミジェル、そうよ。上手に出来ているわ。いい?この魔力の流れを覚えていてね。」
グレイスはヴァーバル領に戻ってから、早速ミジェルに、身体に溜まっている魔力を動かす練習を始めさせた。
まだ5歳と幼いながらも、必死に学ぼうとする姿勢はとても好感が持てた。
グレイスはミジェルの両手を取り、自身の魔力をミジェルに流して、感覚を掴ませる練習を繰り返した。
「魔力が身体の中に溜まってしまうと、熱を出したり、胸が苦しくなって死んでしまう人もいるのよ。酷い状態になると、魔力暴走を起こして、周りの人や物を壊してしまうから、体調が悪い時は必ず言ってね。」
魔力が体内に溜まり過ぎない様に身体の中を巡らせ、放出する術を覚えさせねばならない。
身体が成長し、魔力を保有する器が大きくなると、体調を崩すこともなくなる。
グレイスに褒められて、ミジェルは嬉しそうに笑顔を見せる。
フェアノーレ王国から、共についてきた女性神官のカレンは、グレイスとミジェルの様子を見て、涙を浮かべていた。
当初は神殿の間者だと思われていたカレンも、日頃のミジェルに対する態度を見ていると、本気で心配して付いて来たのだと理解した。
ずっと罪悪感に苛まれていたのだろう。
グレイスはカレンをミジェルの専属侍女にした。
あれから2ヶ月。
エリオットはあのまま幽閉塔に戻ることはなかったと、フェアノーレから知らせがあった。
何処で何をしているのか。
今までの魔族の出現がエリオットによるものだったとして、絶滅したと言われていた魔族が、どうやって地中に眠りについている事を知ったのか?
魔族を起こし、世界を混乱させようとしているのは何故なのか?
グレイスはエリオットが脱走したという事さえ、信じられない思いでいた。
そして時を同じくしての聖女の脱走。
こちらも未だ行方が分からないままだった。
貴族の中では最大の支持者だったラルス伯爵家のレオンの不審死。
聖女フィーネを脱獄させたのは、レオン·ラルスで間違いないようだったが、その彼が殺された理由が分からない。
そして、何故元神官長も同じ様に殺されたのか?
エリオットの脱走と関係があるのだろうか?
エリオットはグレイスに会いに来るだろうか?
リーヴァの言う通り彼は世界の破滅を望んでいるのだろうか?
◇
「ロシェル·····。」
ロシェルはヴァーバル領の屋敷の地下に展開されている魔法陣の中央に胡座をくみ、目を閉じ座っていた。
魔法陣はロシェルの魔力で満たされていて、白く輝いている。
「グレイス。ミジェルの練習は終わったの?」
「ええ。幼いのにとても物覚えがいいの。ここに来てから食事をちゃんと取れる様になったからか、血色も良くなって、体調もいいみたいなの。本当に良かったわ。」
「グレイスが引き取らなかったら、どうなっていただろうね。」
「母親であるフィーネも父親であるダリウスも孤児院で育ったのだから、知らない祖先に黒髪がいても何らおかしくはないのに。瞳の色は持って生まれた魔力が関係していると言われているし、隠して育てることなど無意味だわ。」
「ミジェルが言ってたよ、毎日が幸せだと。」
「そう····それなら良かったわ。あの子の傷ついた心が癒されているなら。」
「うん·····。」
グレイスと話しながらも、ロシェルはその場所に座ったままで、魔法陣に魔力を送り続ける。
「·····ロシェル、また結界を広げたの?」
ロシェルはフェアノーレ王国から戻り、エリオットが脱走したことを知ってから、ヴァーバル領の屋敷を中心に、聖属性の魔力による結界を張り始めた。魔獣や魔族は勿論のこと、特定の魔力を持つ者以外はその結界から弾かれ、入ることが出来ないというものだった。
「あなたの身体に負担がかかってしまうわ。このままでは身体を壊してしまう。もう充分よ。」
「僕が落ち着かないんだ。そうさせて。」
グレイスはそんなロシェルを暫く見ていたが、やがてその魔法陣の中に踏み入り、ロシェルの傍で跪いた。
そして徐にロシェルの両頬に手を伸ばし、口付けた。
「っっ·····。」
集中していたロシェルは一瞬驚くが、口付けを通して送られてくるグレイスの魔力が気持ち良くて、グレイスの腰に手をやり、身体を引き寄せた。
やがて互いに呼吸を忘れる程口付けは深くなり、息が続かなくなったところで2人は顔を離し、強く抱き締めあった。
「·····ロシェル、愛しているわ。私はあなたが少しでも傷つくのが嫌なの。だからお願い、もうこれ以上は·····。」
「グレイス······。僕も失いたくないんだ君を。僕なんかより昔からグレイスの事を知っていて、愛し続けている人間が居たとしても、絶対に渡さない。無理矢理奪おうとするなら、僕はそいつを殺すかもしれない。」
そう言うと、ロシェルは更に抱き締める腕の力を強める。
「拐われたら見つかるまで探す。肉体が滅んでもグレイスを探す。そんな事言うと、気持ち悪いかもしれないけど。」
「ロシェル·····。私の帰る場所はあなたの所よ。心配しないで。」
そう言ってグレイスは優しくロシェルの背を撫でる。
2人はそうやって暫くお互いの体温を確かめ合いながら抱き合っていた。
◇
「グレイス様、失礼します。帝都より手紙が届いております。」
執務室で家令のゾットがグレイスに手紙を差し出す。
送り主は皇帝からだった。
直ぐ様中身を確認する。
「ゾット。」
「はい、グレイス様。」
「帝都から討伐要請が来たわ。いつもの様に第3騎士団と我がヴァーバル兵が中心となって行くことになるわ。場所はフェアノーレ王国の隣、ルノール王国よ。今回も長期間屋敷を空けることになるわ。」
「承知しました。義手や義足の工房は順調に稼働しています。また更にフェアノーレから職人が移り住んで来ております。」
「ノーラ領はどうなっているの?ちゃんと領地運営出来ているのかしら?」
「元ルクスト家の者達が行っておりましたが、ノーラ公爵がお戻りにならない事を理由に、不正が横行しているらしいです。」
「そう·····。残念だわ。新しく来た職人は、ゾットが上手く取り計らってね。」
「承知しました。」
「それからミジェルの事だけど、私が出征している間、ニケにもお願いしているけれど、教育する魔導師を1人ここに残していくから、様子見をお願いするわ。無理はさせず、とにかく魔力暴走を起こさない様にコントロールする為の基礎をしっかり身に付けさせて欲しいの。」
「承知しました。ギルスさんも気に掛けていますから、警備も含め万全を期しますので、どうぞご安心を。」
「·····ゾット、今回のルノール王国の魔族の討伐だけど、もしかしたらエリオット様にお会いするかもしれないわ。」
「グレイス様······。」
「眠っている魔族を起こしているのが本当にエリオット様で、リーヴァが言うように世界の破滅を願っているのなら、私は······おそらくここに帰ってこれないわ。」
「!グレイス様·····。」
「ゾット、私はこのヴァーバル領を虐げられていた赤目と呼ばれる闇の魔力を持つ者達の安住の地にしたいと思っているの。それに闇の魔力は、今まで出来なかった病気の治療に有効だと証明出来たわ。今回の討伐に連れて行かない魔導師達に病気の治療の研究を委ねているから、そちらの管理もお願いするわ。それから、私が帰ってこれなかったら、残されたロシェルやドイナー達は何としても私を探そうとするでしょう。きっとこの領地のことまで気が回らないわ。あなたは領主代理として、これまで通り、このヴァーバルを守って欲しいの。皆の帰る場所はここだから、お願いね。」
「·····ここはグレイス様が帰られる場所でもあります。私の生の続く限り、グレイス様に代わりこの地を守って参りますので、どうぞご安心下さい。」
ゾットはそう言うと1歩下がり、グレイスに深々頭を下げる。
「グレイス様をいつまでもお待ち申し上げております。」
「ゾット、有難う。」
このやり取りの5日後、グレイス達は帝都へ向かい出発したのだった。
数ある作品の中から見つけて、読んで下さり有難うございます。
もし宜しければ、暇潰しに、現在連載中の「貴方のためにできること~ヒロインには負けません~
https://ncode.syosetu.com/n0868hi/
も読んで頂ければと思います。宜しくお願いします。




