46 謁見の間にて ⑤
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「その者達の刑の執行ですが、勇者ダリウス·ノーラ卿にお願いします。」
謁見の間にグレイスの言葉が響く。
刑の執行·····即ち、首を跳ねるのをダリウス自身に行わせるというもの。
簡潔に言ってしまえば、聖騎士のマルスも神官長も、聖女の警護に携わる上で仕事上の同僚の様なものだ。
良くも悪くも、最早仲間だと言っても過言ではない。
そして聖女フィーネ。
グレイスに向けているものとフィーネに向けているものが同じではないとは言え、どちらもダリウスにとって『愛』だったと言える。
ここ数年、共に行動してきた彼等をダリウス自身の手で命を奪わせるのは、ある意味これ以上ない罰に思えた。
一切の感情を失くしたような冷たい表情のグレイスに対し、ダリウスは目を見開いたまま暫し固まっていた。
謁見の間で繰り広げられる聖女達の断罪。
その中で、ダリウスの立ち位置は微妙だ。
ダリウス自身が罪を犯した訳ではない。
ダリウスを求めたのは聖女。
その能力を失わせない為にグレイスを捨てて、フィーネの傍を選んだ。
選ばざるを得なかった····という風に見えなくもない。
市井を含め、聖女と勇者の恋物語は今も憧れの1つとなっている。
しかし、貴族の中では、聖女に目をつけられ、関係を断れなかったと同情する者達も多くいる。
グレイスの言葉を聞き、マルスや神官長は顔が青ざめ絶望の表情を浮かべているが、フィーネは違った。
「ダリウスが刑を執行するの?」
そう言って、先程まで青ざめていた顔色は、何故か安堵の表情に変わる。
あの顔は、きっとダリウスはフィーネの首を跳ねる事など出来ず、助けてくれるかもしれないと思っているのだろう。
命じられた通り処刑するか、減刑を求めてアーレンに交渉するか、またはフィーネを連れて逃亡するか、色々な選択肢の中で、ダリウスは一体どれを選ぶのだろう。
ダリウスはただグレイスを見つめたまま、フィーネの問い掛けに答えない。
「聖女の娘は退場させた方が宜しいかと存じます。聖女の娘に罪はございません。母親の処刑の話しなど、精神的にあまり宜しくはないかと。」
ラルス伯爵が事の次第を見つめている聖女の娘を案じる。
しかし、ラルス伯爵の言葉を聞き、少女は首を大きく振りながら否定する。
「この人はお母さんじゃない!この人は私に会うと、私の子じゃないって怒るもの。」
少女の言葉に皆のフィーネを見る目が厳しくなる。
「それにあの人も私のお父さんじゃない。このぬいぐるみはくれたけど、全然会いに来てくれないし、他の人と、私が本当の子供なのか聞いてた。」
少女の言葉にダリウスはハッとする。
「もうあの暗い所で、一人ぼっちは嫌ぁ。」
少女は震える声で、大きな目から涙を流す。
そして辺りを見回し始めると、何かを見つけたのか駆け出していった。
連れてきた神官の手を振り切り向かったのは、ドイナーの元だった。
いきなりドイナーの所に向かって来たかと思うと、飛び付くようにして抱きついた。
「な?!」
「お父さんっ·····。」
少女はドイナーの足に抱きつくとしがみついて離れない。
しがみつかれたドイナーは動揺を見せる。
確かにドイナーは髪とその瞳の色は少女と同じだった。
更に体格も、ドイナーとダリウスは顔つきも同じではないが、どことなく2人は似ていた。
「ギャハハハハ、女ノ経験モ無イノニ、父親呼バワリサレルナンテ、ドンナ気分ダ?」
ナルージアが面白がってからかう。
「経験なら腐る程ある!」
普段無口なドイナーはそこはしっかり否定していた。
少女は泣いてドイナーにすがったまま離れない。
グレイスは、アーレンの元を離れ、ゆっくりドイナーと少女の元へ行く。
そして視線を合わせるために、少女の前に膝を着いた。
「あなたの名前は何と言うの?」
グレイスの問い掛けに、ドイナーの足に顔を埋めていた少女がグレイスの方を振り返る。
そして間近にいるグレイスを見て目を丸くする。
「ミジェル·····。」
「ミジェル?まあ、女神様の名前をもらったのね。」
「名前が無かったから、神官さんが読んでくれた物語からもらった。」
ミジェルは4、5歳とは思えない程しっかり答える。
「ミジェルは頭がいいのね。質問にもちゃんと答えられる。偉いわ。」
グレイスはそう言って微笑み、少女の頭を優しく撫でる。
「帰りたくない·····いい子にするから、連れていって。」
ミジェルは涙を耐えるように、声を震わせながらグレイスに懇願する。
「私達と一緒に来たいの?」
グレイスが尋ねるとミジェルは頭を大きく振るようにして頷く。
「そう·····。」
痩せこけたミジェルが必死に訴えるその姿に、日頃の彼女が置かれていた状況が伺い知れる。
「ミジェルおいで、お願いしてみましょう。」
グレイスがそう言って手を広げると、ミジェルはドイナーの足を離れ、おずおずとグレイスの広げた腕の中に入っていく。
グレイスは優しくミジェルを抱き締めると、その背を優しく撫でた。
ミジェルはグレイスの体温を感じたせいか、再び大きな目から大粒の涙が零れ落ち、グレイスの肩を濡らした。
グレイスはそのまま抱き抱え立ち上がった。
ミジェルはとても軽かった。
抱き抱えられたミジェルは、グレイスにしがみつき、肩にその顔を埋めた。
「お母さん·····お母さん·····。」
ミジェルはそう呟いた。
「ふふ、ドイナーがお父さんで、私がお母さんなの?」
ミジェルは顔を埋めたまま頷く。
それを聞いたドイナーは、うっすら頬を赤らめた気がした。
「ちょっと待って、僕はグレイスの夫なんだ。だから僕がお父さんの方がいいんじゃないかな?」
グレイスの傍に来ていたロシェルが口を挟む。
ミジェルは顔を上げてロシェルを見つめる。
「綺麗な人·····でも何か違う。お父さんじゃない。」
「そんな····。」
ロシェルはミジェルの言葉にガックリ肩を落とす。
「ふふふ、アーレン国王陛下、ミジェルはこのように申しております。この子を見ますに、私達と同じ闇属性の魔力を持っている様です。これからこの魔力を制御する力を身に付けなければならないでしょう。許されるなら、ミジェルをルダリスタンへ連れて行っても宜しいでしょうか?私が責任を持って育てます。」
マリアに支えられながら、ゆったり玉座に座るアーレンに向かい許しを乞う。
「ミジェルの様子を見ると、神殿はその子を監禁か何かしていたのか?それに聖女も勇者も、自身の子ながら関心がない様だ。闇の魔力を有しているなら、ヴァーバル公爵に任せた方がいいだろう。ミジェルよ、この国にはいい思い出はないだろうが、いつか帰ってきて、この国の力になってくれたら嬉しい。」
ミジェルは泣き止み、アーレンをじっと見つめていた。
「勝手なことしないで!私の子を連れて行かないで!」
拘束されているフィーネが、ロシェルの展開している防護幕を内側から叩きながら叫ぶ。
「育てていない人間が何を言う。ノーラ卿そなたもだ。異論は認めない。」
「·····承知しました。」
ダリウスは苦しげに頭を垂れる。
「1つお願いがございます。」
「何だ?」
「全てが片付きましたら、ミジェルの成長を見守る為、私もルダリスタン帝国へ赴く事をお許し願います。」
それはダリウスからの、思いもよらない申し出だった。
数ある作品の中から見つけて、読んで下さり有難うございます。
もし宜しければ、暇潰しに、現在連載中の「貴方のためにできること~ヒロインには負けません~
https://ncode.syosetu.com/n0868hi/
も読んで頂ければと思います。宜しくお願いします。




