38 ナルージア
不定期投稿です。
宜しくお願いします。
何処もここも死体だらけで血だらけで、屋外だというのに生温くこもった血の匂い。
あーつまらねぇな。
いつも俺達魔族を見下すエルフは何処にいった?
魔王様を手伝え?
何で俺が?
俺と戦えって言ったのにあいつは逃げたからな。
あー面白くねぇ。
あの魔法でも使うか。
暫く寝て起きたら世界もそれなりに変わっているだろう。
じゃあお休みー!
俺が目覚めた時、魔王、お前が生きていたら、倒しにいってやる。
せいぜい人間を殺して遊んでろ。
◇
◇
◇
『·····起きろ·····起きろ·····起きろ·····』
何だよ、うるせぇな。
『·····起きろ·····起きろ·····起きて全てを破壊しろ·····。』
全てを破壊?
何が起こった?
目覚めてみれば、魔族の気配はほとんどしない。
あれっ?魔王の奴はどうした?
奴の気配が全くしない。
遭遇する人間を食べながら、たどり着いた大きな屋敷。
おそらくこの辺りを治めている領主のものだろう。
あれ?ここも人間か?
人間が滅びるどころか、魔族が滅びてないか?
まあ、俺が生きているから滅びはしていないが。
捕まえた人間から、喰らう前に話を聞く。
何だって?大昔に魔王は倒された?
ということは人間が世界を支配しているのか?
バカだなぁ、あの魔王、人間に負けたのか?
しかし、多くの魔族を葬るとは、人間も馬鹿にできないな。
だが、皆平和ボケしている。
俺はまだろくな魔力を回復した訳でもないのに、対抗できる奴がまるで見当たらない。
そうやって、魔力を持っている奴を探しては喰べた。
ふぅ·····大分回復したかな。
ああ、寝過ぎたな。
誰が俺を起こしたか分からないが、こんな世界、俺が本気になれば、あっという間に破壊できる。
あの頃よりも、もっとつまらない世界になってしまったな。
さぁどうしようか·····。
取り敢えず人間の治める国全て破壊しよう。
それからまた考えればいいか。
そう思っていた矢先。
その日現れた人間の軍隊。
魔力持ちが多くいるようなのに、何でここまで来るまで気付かなかった?
ああ、認識阻害の魔法を使っていたか。
面白い、少し頭がキレて骨のある奴がいそうだな。
こうして戦闘が始まった。
結果·····魔力を身体に纏わせ斬りかかる者が2人。俺に斬撃を次々と繰り出す。なかなかの速さと魔力を乗せた剣の重み。
そして魔法で俺を拘束する黒い仮面を着けた黒いローブの魔導師·····声を聞くに、女なのか?
マジで?!
長く生きた魔導師の様に緻密に計算し展開された魔法陣。
おまけにこの魔導師、竜の魔力が混じっている。
この女本来の魔力と竜の魔力が混じり合って1つになっている。
強力で解除出来ない。
すげぇ·····強いな。····いや、感動している場合じゃない····くそッ···って俺死ぬのか?それは嫌だ!
ちょっとちょっとちょっと待てぇぇぇぇ!
え?血の契約?ってあれかぁ·····うわぁ、人間のくせにエグい事を。
それに闇の魔法か····。
身体が崩壊していく。
こうなると再生させるのに相当時間がかかる。
くそぅ·····負けだよ、負け。
はぁ······俺を隷属させるんだ。面白い奴ならいいな······。
いい香りがする·····。
『おはよう、起きて。』
『·····誰だ?』
手足を動かそうとするが·····動かないか····。
取り敢えず目を開ける。
目の前には透き通るような水色の瞳。
流れる様な銀色の髪。
美しい·····。
一瞬言葉を失った·····。
身体は銀色の魔力で充ちていて·····いや、何か違う。何かいるな。
『あんた誰?』
そう問い掛ければ、女は手元にあった仮面を見せる。
『え?お前、俺を倒した魔導師?』
『ええ。』
『俺、隸属させられたよな?』
『そうね。』
『ふ~ん····。これからお前の一生、俺は仕える事になるのか?』
『そうね、今のところは。あなたは殺戮が大好きみたいだから、放っておくと人間を喰べてしまうでしょう?』
『·····そうだな。』
『古文書には、「魔族は息をするように嘘をつく」と書いてあったわ。だからごめんなさい、余程の事がない限り、血の契約の魔法は解けないと思っておいて。』
『あんたの考えは概ね正しいな。それじゃあ、あんたが死ぬまで一緒だな。結婚でもするか?』
『ふふ、私を口説いているの?』
『顔は悪くないだろう?それにお前は知らないだろうが、俺はかつての魔王の腹違いの弟だぞ。実力は奴より上だった。奴が俺との戦いを逃げたんだ。』
『そうなのね。聞くことが沢山ありそうね。でもあなたと結婚はしないわ。』
『何で?』
『私には婚約者がいるの。それに今のあなたの状態は分かってる?』
『俺の状態?』
『そう、身体は半分無いから。』
『え?』
そう言われて頭を少し持ち上げ下半身に目をやると、心臓から下と片手が消失していた。
『なんじゃこりゃああああああ!』
そういえば、意識がなくなる前、身体の一部が灰になってたな····。
『私にプロポーズどころじゃないのよ。まず身体を元に戻さなければ。魔族は魔力が回復すると、身体も再生できるのかしら?』
『そうだな·····おい、聞きたいことだ聞いて、後で灰にするなんて事しないよな?』
『魔族ならしそうよね。』
『·····。お前は魔族じゃないよな。こっちはもう隸属してるんだ。そんな事しないでくれよ。お前に協力するからさ。俺が傍にいれば、楽しい人生間違いなしだ。』
『まあ、協力はしてもらうわ。では、時間が勿体ないから始めるわね。』
そう言って女は俺の額に手を置いた。
俺の額が暖かくなる。
そして女の魔力が流れ込んでくる。
うわ·····何だこれ·····気持ちいいな·····。
女の銀色の魔力が俺の身体を巡る。
失われていた身体が徐々に再生していくのが分かる。
この気持ち良さは初めてだ。たまんねぇ····。
どのくらいそうしていただろうか。
女の手が、俺の額から離れていった。
目を開けると俺の身体は元通りになっていた。
凄い魔力量だな。
俺が完全回復していたとしても負けていたかもしれない。
『立てるかしら?』
『ああ。それでどうするんだ?』
『まずはお風呂に入りましょう。それから食事ね。人間を喰べるのではないわよ。人間と同じ食事を取ってもらうわ。それからでも魔力は回復出来るはずよ。』
『·····分かった。それで、あんたの名前は何ていうんだ?』
『私の名前はグレイス。あなたは何と呼ばれているの?』
『ナルージアと呼んでくれ。』
『分かったわ、ナルージア。これから宜しくね。』
そう言って、グレイスは手を差し出した。
ナルージアはその手を握り立ち上がる。
何だか····悪い気はしないな。
こうしてナルージアと人間との生活が始まった。
◇◇◇
「グレイス様。」
「なあにロシェル?」
「あの魔族、グレイス様にずっとついてくるんですか?」
「そうね、私の護衛だもの。」
ナルージアは浅黒い肌に金色の短髪につり上がり気味の目元。
そこから覗く深紅の瞳はどこか挑戦的だ。
頭にある2本の角は魔法で隠した。
元着ていた服はほぼ消失したので、騎士服を着ている。
ナルージアは回復してからというもの、ほぼグレイスと行動を共にしていた。
グレイスには護衛としてドイナーが付いていたが、その代わりをナルージアにさせて、ドイナーをヴァーバルの騎士団長に任じる事にした。
『なぁ、そこのエルフ。お前本当に転生したんじゃないのか?』
『エルフと呼ぶのは止めて下さい。僕の名前はロシェル。グレイス様の婚約者です。』
『お前が婚約者?顔は整っているが、それだけだろう?』
『僕は聖属性の魔力を持っている。失われた古代の魔法でグレイス様を守ります。』
『ふーん·····。』
『ロシェル、古語を話すのが上手になったわね。この短期間で凄いわ。』
『まだ防御魔法だけなので。早く色々な魔法を使える様になりたいんです。それでもし今練習している治癒魔法が会得出来たら、フェアノーレ王国での魔族の討伐に連れていってもらえませんか?』
『フェアノーレに?』
『ええ。あの国にグレイス様を1人で行かせたくないから。』
『ロシェル?』
『イリナ皇女殿下が、グレイス様の過去を色々教えてくれました。グレイス様には誰にも手出しはさせない。』
『ロシェル·····。』
ああ、ロシェルは私とダリウスの話をしっているのね。
知っているからついてくるなんて ·····。
ロシェルの真っ直ぐな気持ちに嬉しくなるグレイスだった。
『ああ、やっぱり似てるよな、お前。本当に転生したんじゃないのか?』
『先ほどから何?ロシェルがどうしたの?』
何か探るように、グレイスとロシェルの会話を見つめていたナルージアが、そう問い掛ける。
『こいつ、1000年前のエルフの王にそっくりだぞ。』
『『はい?』』
ナルージアの突然の発言に、一瞬固まるグレイスとロシェルだった。
数ある作品の中から見つけて、読んで下さり有難うございます。
もし宜しければ、暇潰しに、現在連載中の「貴方のためにできること~ヒロインには負けません~
https://ncode.syosetu.com/n0868hi/
も読んで頂ければと思います。宜しくお願いします。