39 フェアノーレでの戦闘
不定期投稿です。
宜しくお願いします。
その日ヴァーバル領には、皇太子であるリーヴァが非公式に訪れていた。
当初ナルージアの聞き取りは皇城で行う予定だったが、上級魔族ということもあり、その危険性から血の契約を行っているグレイスに預けられた。
聞き取りよりも先に、捕らえた魔族をどうするのかの議論が加熱し、リーヴァはその処理に追われた。
『誰に呼ばれたかは、あなたも分からないの?』
『そうだな。眠っている魔族がいる事を、そもそも人間は知らなかったんだよな?まあ、眠っている間に殺されたら堪らないから、基本強力な認識阻害の魔法と防御の魔法を施してから眠る。それで、覚醒の魔法はその対象に近い場所で行わなければならないから、起こした奴は、俺達の場所を特定出来たという事だろう?今の今まで、下級魔族さえ見つけられていなかった事を考えると·····何だ?起こしたのは、やっぱりその仕組みを知っていた魔族かな?』
『私達が解読している古文書には、魔族が地中で眠っている可能性について書かれたものはなかったわ。もし人間があなた達を起こしたのなら、その事が書いてある、私達の知らない古文書を読んで知ったことになるわね。』
『ルダリスタン帝国が保有している蔵書はかなりのものだ。古文書はその保管にも魔法を使う。どこかの魔力持ちの高貴な家で、代々魔法を施しながら保管していたとか?そもそも魔族の認識阻害の魔法を打ち破れる程の魔力の持ち主となると·····王族クラスか?』
『神殿が抱え込んでいるかもしれないわ。それに情報なら、古文書ではなくて、遺跡の可能性もあるわ。ナルージア心当たりはない?』
『遺跡?あー、そうだなー、魔王がいた城か、エルフの城か?』
『魔王城があった場所は分かるけれど、エルフの城?そう言えば知らないわ。あなたは場所を知っているの?』
『まあ、多分分かるが、そもそも人間がその地にたどり着くのは難しいだろうな。それこそ失われない魔法で隠されているだろうし。』
『失われない魔法?何だそれは。』
『大地の魔力を魔石に吸い上げ、そこに溜まった魔力で魔法を発動させるんだ。魔力の送り先の魔法陣が壊されれば姿を現すだろうが。そんな仕組みを人間が知っているとは思えないな。』
『確かに·····。ではやはり、偶然目覚めた魔族が仲間を呼び起こした、が正解か?』
『魔族ねぇ·····元々俺達は馴れ合わないからな。力を示して主従関係を築く。起こすだけ起こして放ったらかしっていうのがねぇ。まぁ、何処かで待ち伏せして、その魔族を起こしまくってる奴をとっとと捕まえたらいいんじゃないの?』
『ナルージアならどうやって眠っている魔族を見つける?』
『俺なら地に自分の魔力を流し、違和感を探すね。通した魔力が乱れた場所は怪しい。』
『なるほどな。魔導師を集めて·····土の中の感知となると、土魔法と水魔法か?隊を組ませ、探索と捕縛にあたらせるか。グレイスは土、水、両方大丈夫だよね。グレイスでどの位の範囲を感知出来そう?』
『そうね、ナルージアの言う違和感がどの程度かによるわ。一度検証してみないと。ナルージア、もう一回土の中で寝てくれる?』
『え?』
こうしてグレイス達は、フェアノーレ王国へ討伐遠征に向かう準備の合間、土の中で眠っている魔族を探す為の幾つかの検証を行った。
その後、いよいよフェアノーレ王国の魔族を倒しに向かうのだった。
◇◇◇
現れたのは漆黒の騎士服を身に纏った騎士100名と魔導師10名。それを指揮するのは数人の護衛を連れた銀の仮面の魔導師。
人数は少ないが、感じる圧力で彼等の実力が知れる。
フェアノーレの騎士達は思わず息を飲んだ。
銀の仮面の魔導師の傍には、同じ様にフードを深く被り、黒の仮面とローブを身に纏った、少し背の高い人物が1人。
赤い目を持った3人は、ヴァーバル領から連れて来た者達だ。
そしてルダリスタン帝国で騎士団長をしている男だった。
「ようこそお出で下さいました。私は第2騎士団で副団長をしております、ウォーレン·ロドリスと申します。宜しくお願いします。」
グレイス達を迎えてくれたのは、かつてダリウスが御前試合で戦った男だった。
その後、聖女との間で悩むグレイスを傍で見てきた内の1人でもある。
ダリウスと離婚後、グレイスがルダリスタン帝国へ向かう際、襲撃され行方不明になった時もずっと捜索を続けていたらしいと兄から聞いていた。
グレイスの捜索を打ち切った際、事情を伝え聞いているとは思うが、自身の生存を公にしていた訳ではなかったので、こうしてウォーレンに直接会えた事は、ある意味嬉しいことだった。
グレイスは仮面を取り、ウォーレンの前にその顔を晒す。
「ロドリス卿、ご無沙汰致しております。その節は私のために力を尽くして下さったと伺っております。本当に有難うございました。こうして再びお会い出来ましたこと、嬉しく思っております。」
「っっ····グレイス様·····。私もお元気なお姿を拝見出来、嬉しいです。」
ウォーレンはグレイスとの再会に思うところがあるようで、少し声を震わせていた。
「では魔族討伐にあたり、現状の説明をお願いします。」
「はい。現在フェアノーレ王国では主に2ヵ所に魔族が出現しています。1ヵ所は南部の村に下級魔族が。そちらには我が国の魔導師団と第3騎士団が討伐に向かっております。そして我が第2騎士団と魔導師10名はここから見えます砦に潜伏している魔族の監視を行っています。」
「潜伏しているのは上級魔族ですか?」
「感知魔法を使える者の話では、かなり大きな魔力が1つ。更にここ3週間で下級魔族が3体集まっています。4体を相手にするのは厳しいと考えますので、我々は南部の部隊が討伐後、こちらと合流するまで監視する役割を担っています。」
「攻めてきたら?」
「出来る限り足止めをとの命にございます。」
「殺ラナイノカ?俺モイルンダゾ。殺レルダロ?」
「黙れナルージア。」
つまらなさそうに話すナルージアをドイナーが制す。
「言葉通ジテナイ?」
「いえ、上手よ、ナルージア。」
「久シブリダカラサ。強イ奴ハ俺ガ殺ル。弱イ奴ヲアンタラガ殺ッタライイダロ?ワザワザ呼ビ出シトイテ見張ルダケナンテ、ソレハナイダロ?」
「こういう時は、その場の指揮に従うものよ。でも戦闘が始まった時の事を想定して連携の確認をしましょう。」
「報告します!魔族がまた1体砦に集まっています!」
「どの方向からきましたか?」
「東部です!」
「魔族の溜まり場になると厄介ですね。」
「早めに叩く方がいいのでは?」
ルダリスタン帝国で第3騎士団長をしているスルーガがそう進言する。
「オイ、アンタラノ国ノ魔導師ハ出来ガ悪イミタイダナ。認識阻害ノ魔法ガ乱レテル。彼方サン、コチラニ気付イタミタイダヨ。」
「·····そうね、来るわ。」
「来るぞ!戦闘体制を取れ!」
「ロドリス様、失礼を承知で伺います。今までの戦歴を教えて下さい。」
「下級を2体。宜しければ指揮を。」
「私に委ねて宜しいのですか?」
「グレイス様の元で戦えるなら、至上の喜び。」
「分かりました。ふふ····荒っぽいのはご容赦下さい。」
そう言ってグレイスは微笑み、仮面を着ける。
「ナルージア、先に来た敵の相手をしていて。」
『やったね。グレイスにいいとこ見せようかなぁ~。』
ナルージアは笑いながら宙に浮かび、嬉々としてこちらに飛んでくる魔族に向かって行った。
「グレイス様、あの者は?」
「私と血の契約を結んだ魔族です。共に戦います。」
「な?ルダリスタン帝国は魔族を捕らえたと聞いてはいましたが·····。」
「皆の者、ルダリスタンの黒い騎士服の魔族は我々の仲間です。手を出さない様に!それからこの場所に結界を張り、安全地帯を作ります。怪我人が出たらこの場所へ撤退しなさい!
ロシェル、あと治癒魔法の魔導師3人は結界の準備を!モランはロシェルの護衛を。」
「「承知しました!」」
「それから隊を4つに分けます!フェアノーレの騎士はルダリスタンの騎士をサポートする形で戦いなさい。下級魔族1体につき1部隊であたる様に!
スルーガ卿とロドリス卿は急ぎ部隊編成を。私とドイナーは先に出ます。」
「「承知しました!」」
討伐隊は動き出す。
こうしてグレイスにとって、ロシェルとナルージアを交えての初めての討伐が始まった。
◇
「南部での魔族討伐ご苦労だった。王都に帰還したばかりだが、東部ルノール王国との国境に近い砦に潜伏している魔族が数を増している様だ。2日後再び隊を編成し、応援に向かってくれ。ルダリスタン帝国からの援軍は既に現地に到着しているだろう。力を合わせて出来る限りの魔族を討伐して欲しい。よいな?」
「「承知しました。」」
フェアノーレの王城では、南部で討伐を行っていた第3騎士団と魔導師団、そして勇者ダリウスが帰還し、国王であるアーレンに報告を行っていた。
魔導師団長を務めるルドルフが戦いを先導することにより、下級魔族1体と大型魔獣数体をなんとか討伐出来ていたが、これが魔族が数体、更に上級が待ち構えているかもしれないと思うと、皆気が重くなっていた。
「私の身体が不調な為、討伐に参戦出来ない事、申し訳なく思う。」
アーレンは1年前から内臓の痛みを覚えており、それを聞き付けた神殿が、聖女フィーネの名誉回復の意図を持ってアーレンの治癒にあたったが魔法は効かず、更に体調を崩す結果となった。
アーレンは光と風属性の魔法の使い手だったが討伐に参戦出来ず、1日のほとんどを寝台で過ごす事が多くなっていた。
こうして謁見の間に顔を出すのも久しぶりだった。
「申し上げます!只今第2騎士団討伐隊より、報告が参っております。」
「何だと?」
その場にいる者達に緊張が走る。
このように早い段階での報告となると、嫌な予感しかしない。
皆が息を飲んで待っていると、報告の為到着した第2騎士団の騎士が謁見の間に入ってきた。
「国王陛下に急ぎ討伐のご報告を申し上げます。」
「ご苦労、申せ。」
「はっ。ルノール王国との国境にある砦に潜伏しておりました5体の魔族全てを討伐致しました。現在第2騎士団とルダリスタン帝国からの援軍は帰還の途についております。」
「何?討伐しただと?それも魔族5体?」
「はっ。5体全てにございます。戦闘後砦の中を確認致しましたが、残党はいない模様です。」
「こんなに早く······戦闘状況を詳しく説明せよ。」
「はっ。まず、ルダリスタン帝国より援軍が到着して間も無く、魔族との戦闘が始まりました。魔族は上級魔族が1体、中級が1体、下級が3体でした。上級魔族を、その·····ルダリスタン帝国が連れてきた魔族が倒し····。」
「何?ルダリスタンが魔族を連れてきた?」
「はい。先の戦いで血の契約により隷属しているそうで、銀の仮面の魔導師様の指示に従っておりました。おそらく上級魔族と思われます。」
「なんと·····。」
謁見の間に、皆の驚きの溜め息が漏れる。
「その他の中級を含める4体を銀の仮面の魔導師様が次々と拘束し、そこを騎士団が斬り込む形で討ち取っていきました。また、魔獣も多数現れ、怪我人も出ましたが、ルダリスタン帝国より来ておりました別の魔導師により、強固な結界魔法の障壁が現れ、そこで安全に治療魔法をかけられる事が出来たので、被害も最小限に済んでおります。その·····ルダリスタン帝国の援軍は圧倒的な強さでした。」
報告を行う騎士は、その時の光景を思い出してか興奮していた。
謁見の間は、暫し静寂に包まれた。
「くっ、ははははは。さすがグレイスだ。早く会いたい。ヴァーバル公爵はいつ頃王都に?」
静寂を破るアーレンの笑い声で、皆我に返る。
「陛下、討伐後ルダリスタンの騎士を我が領に滞在させた後、1部の護衛を伴い王都に入る予定です。」
アーレンの側に控えているルダン·タンドゥーラが
そう告げる。
「では王城に来次第、この度の討伐の祝勝会を開くことにしよう。」
このアーレンの宣言により、今まで敢えて明言しなかったグレイスの生存が公になると共に、それを受けて貴族達がざわつき始めたのは言うまでもない。
数ある作品の中から見つけて、読んで下さり有難うございます。
もし宜しければ、暇潰しに、現在連載中の「貴方のためにできること~ヒロインには負けません~
https://ncode.syosetu.com/n0868hi/
も読んで頂ければと思います。宜しくお願いします。




